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第2章 モフモフへの使命
18 摩訶不思議
しおりを挟む猩々の手がまたもや素早く動いた。
先程は全く反応できなかったけど、今度こそ‥!
サッと体を反らして猩々の手を避けようとすると、猩々は鋭い視線を更に鋭くさせた。
『危ナイダロ!』
猩々が何故か怒っている。
そのうえ背中がいつのまにか軽くなっていて、今の動きで双剣を猩々に取られたのだと、やっと気が付いた。
「っ‥」
猩々が握ると、私の双剣がやけに小さく見える。
向こうに戦う気が無さそうに見えたんだけど、しくった。
桁違いな身体能力の猩々に対して、武器無しで戦えるわけがない。
『ホラ、早ク刺セ』
「‥‥え?」
双剣を握った赤くてけむくじゃらの大きな手が、グイッと私に差し出されている。
『言ッタダロ、オマエ待ッテタ。
早ク刺セ』
とりあえず双剣は私のものなので、返してもらう。‥けど、刺せとは‥?
言葉通り「刺せ」と言わんばかりに胸元を見せつけてくる猩々。これは、もしかするとオッドさんに昔教えてもらった【マゾ】という人種?(人ではないけど)
『早クシロヨ!』
「え?本当に刺していいの?痛いと思うよ。ていうか死ぬかもよ?!」
『大丈夫ダ。死ニハシナイ』
そうなの‥?よくわからないけど、ご要望にお応えしよう‥。
せっかくなら喜んでもらいたい‥
私は渾身の力を込めて猩々の胸元に双剣を突き刺した。
『グアァッ』
‥うわ、痛そう‥。
口からも胸元からも盛大に血が吹き出て‥って、あれ?!
「体、なんか透けてってるよ?!
死ぬんじゃないのコレ?!」
『呼ベバ出テクル、玉大事‥』
玉?!
え、それはまさかあれですか。
男性の皆さんにぶら下がってるあれですか。
髪を切った効果を喜ぶべきか、悲しむべきか。人だけではなくお猿さんからも【男】に見られるなんて。
みるみるうちに消えていってしまった猩々。
その体が完全に消えると同時に、コロンっと綺麗なガラス玉のような赤い玉が落ちた。
なにこれ‥?
なんの玉‥?
その玉をそっと手に取り、胸元に寄せる。
‥まさか本当に死んでしまうなんて。どうせなら、もっと話してみたかったよ。
「猩々‥」
ぽつりとその名を呼んだ途端、目の前がブワッと白い霧のようなもので覆われた。
『‥‥オイ』
「え?!」
まさかのまさかだ。
マゾが祟って死んだはずの猩々が急に姿を現した。
『早スギダロ、フザケテルノカ』
とっても不機嫌そうな猩々。先程の傷口はまるで存在しなかったかのように、その体は綺麗だった。
「な、なに?どういうこと?
なんでまた出てきたの?」
『‥オマエガ呼ンダンダロ!!』
真っ赤な体毛に負けじと顔まで真っ赤にして怒り狂う猩々に、さすがの私もタジタジだ。‥だけど頭の中がハテナでいっぱいなんだから仕方ないよね。
「名前を呼ぶと出てくるの?この玉から?」
『‥ンア?スットボケテンナヨ。
他ニモ玉、持ッテルダロ?』
猩々が首を傾げた。信じられない、というような表情だ。
「持ってないよ。
だから本当に意味わからない。何これ?」
『‥‥』
「おーい、猩々?」
『‥‥フッ、フハハ‥。
儂ガ初メテナノカ。ソウカ‥
ソレハ、何ノ因果カ‥』
よくわからないけど、猩々は腹を抱えてやたらと笑い続けていた。
【初めて、因果、玉】‥結局ろくにわからなかったけど、どうやら猩々はもう怒ってない。
「とりあえず会いたくなったら呼べば来てくれるの?」
まるで便利屋さん‥
『‥安易ニ呼ブナヨ。
ドウシヨウモナイ時ニ呼べ、分カッタカ』
「どうしようもない時?」
『アァ。玉ハ大事ニ持ットケヨ、ジャアナ』
猩々はそう言って目を瞑った。
何?急に黙祷?どうしちゃったの猩々さん。
しばらく沈黙の間が流れる。
「‥」
『‥‥』
「‥‥え?」
『エ、ジャナイ。
早ヨ別レノ言葉ヲ唱エロ』
猩々ってば、表情豊かだわ。すっかり呆れた顔を浮かべてる。
「え、まだバイバイしたくないんだけど」
そう口にした途端、猩々の体がスッと消えた。
私が別れの言葉を唱えれば猩々が消えるってこと?‥バイバイに反応したの?
「もう一回呼んでみようかな‥」
何せ、聞きたいことは山ほどある。
なんで私を待ってたの?
なんで喋れるの?
一体何者なの?
だけど、猩々が顔を真っ赤にして怒る姿は容易に想像できた。
「‥やめとこ」
いつのまにか耳鳴りは消えていた。
ちらりと、巨木の間にある石碑のようなものに目をやる。
‥あの石碑の窪みに、この猩々の玉がぴったり入りそうだな‥。
でも玉大事に持っとけとか言ってたしなぁ。やめておくか‥。
きっと人がこの地に寄り付かなかったのは猩々が原因だろう。一応辺りも見渡してみたけど特に何かの気配はなかったし、猩々は明らかにキングヘビーモスと並ぶツワモノだ。
私は今日起こった不思議な出来事を何度も頭の中で反復させながら来た道を戻った。
バッグには赤い綺麗な玉が入っている。呼べば猩々に会える玉。‥摩訶不思議だなぁ。
バッグを失くしたらもう猩々にも会えなくなっちゃうんだよね、きっと。
うまく身に付ける方法はないのかなぁ。
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