姫はなりたいものが多すぎる

茶歩

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第2話『ミンクシード』

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   カレン様は最近何やら忙しそうだ。やたらと俺(リゼ)に決闘を挑んできたり、初級魔法を勉強していたり。

その目的は分かってはいるけれど‥


「‥跡取りは貴方だけなのですよ、カレン様」


これでもかと汗を撒き散らしながらシャドーボクシングに励むカレン様に声をかける。
先程まで相手役を強いられていたが、流石に3時間も経てば集中力も切れる。俺は、椅子に座ってカレン様の様子を見ていた。



「そんなのわかってるわよ!
負ける気なんてないもの。大魔王なんて私のパンチでイチコロよ」


「‥カレン様、パンチで倒せるくらいなら、もうとっくに世界平和は達成されていますよ」


カレン様の超楽観的主義は、もうどうしようもなく困ったものだ。この世界の諸悪の根源である大魔王。何百人の勇者が立ち向かったのにも関わらず、大魔王には誰も勝てていない。数々の村や町も滅ぼされたのに‥それなのに‥どうしてこんなに自信満々なんだ‥。


「この世界に万能な人などおりません
どうにもならないこともあるんですよ」


「まぁ確かにね。私がいくら魔法を勉強したって本物の魔法使いには負けるわ」


「魔法使いだけではありません。
貴方の専門は姫です!格闘技では格闘家に及びませんし、白魔法だって初級のものしか扱えないでしょう?本物の白魔法士は瀕死の人間ですら瞬時に回復させる力を持つんですよ!身の程を知ってください!姫!」


「‥世界中どこを探しても、姫に身の程を知れと言うのはリゼくらいよ」


カレン様が可笑しそうにクスクスと笑っている。
でも仕方ないじゃないか!身の程を知らなければ、自ら死にに行くようなもの。ましてややはり千年に一度と言われるほどの美貌を持つカレン様は、下手すりゃ大魔王の妃にされるかもしれない。
どうしたら、この人を止めれるのだろうか‥。


「もう諦めましょうよ、カレン様‥」


「もう?!
まだ始まってもいないのに?」


「まず、始めるべきではありませんからね」


カレン様は、汗を拭って鏡の前に立った。
俺の目も気にせずそそくさとトレーニング用のシャツと短パンを脱ぎ捨てる。俺は、咄嗟に視線を窓の外に向けた。
この人は、この城で唯一俺が男だと知っているくせに、どうしてこうも躊躇いもなく服を脱げるんだ‥。
その神経を、少し疑う。まぁいまに始まったことじゃないけれど。

どうやら下着も替えている様子だ。
ただ、沈黙の時間が流れる。カレン様に呆れながらも、こうした点に関してはどうにも言葉が出てこない。
ただただ、カレン様の着替えが終るのをまだかまだかと待っていた。



「ほら、早く縛ってちょうだいな」


ドレス用の補正下着を身に付け、ドレスを胸元まで持ち上げたカレン様が、俺を促す。

俺は無言のまま、ドレスの紐を腰あたりからぎゅっと締め上げていった。


「はい、どうもー」


そうしてカレン様は、満足げに扉へと向かう。
毎日当たり前に行われている行為。カレン様は、まったくもって何も意識してないけど‥。
毎日毎日、生肌を見せられて、自分の手でドレスの紐を縛り上げていく行為は、年頃の男子には少々刺激的だ。
まぁそんなこと思ったところで、どうしようもない。だから、俺は毎日無心でドレスを縛り上げている。


「カレン様、どこへ行かれるおつもりですか」


「お父様のところよ。貴方も早く付いてきてちょうだい」



何故だろう。なんだか嫌な予感がする。
そもそも、ただ国王の元へお伺いするだけなら、もっと手軽なドレスは山程あるはずだ。
国王のお気に入りであり、亡くなったお妃様の形見である大変貴重なドレスをわざわざ着る理由ーーー



「ま、待ってください!」


「なによ」


「カレン様、まさかとは思いますが‥
その、国王様に何かお願いごとでも?」


「そうよ。ほら、早く行くわよ」



慌ててカレン様の後を追う。
まさか、国王の前で勇者になるとか高らかに宣言したりしないよな?


「勇者になることを許して欲しいと、お願いしたりしないでしょうね」


カツンカツン、とヒールを鳴らすカレン様に後ろから小声で尋ねる。


「まさか!そんなのお父様がお許しになると思って?」


カレン様の返答は、俺を心から安心させるものだった。
よかった‥。


カレン様が突如振り返る。なんとも無邪気な笑顔を浮かべていた。まるで近所の悪ガキだ。


「バカンスに行きたいとお願いするのよ♪」


「‥え?」


その後、俺がどれだけ質問しても、カレン様がもう俺に何かを話すことはなかった。
るんるんなご様子で、王の寝室に着く。


「お父様!」


「どうしたんだカレン‥るんるんだな‥
そのドレスを着ていると母さんそっくりだ」


「腰の状態はどう?」


「ああ、おかげで随分いいよ」


「それはよかったわ」


「‥‥」


「‥‥」


「何のお願いだい?カレン」



さすが国王様!
カレン様が何かを企んでいることに気付いている!


「お父様‥
お父様が腰を痛めてる時にこんなこと‥
いけないことなのはわかってるわ‥でも‥‥」


「な、なんだ」


「私、どうしても南国へバカンスに行きたいの!!」


「バ、バカンス?!」


「そうよ!
お父様もよく知るイハワ島にお忍びで!
リゼも一緒に!ダメ??」


「いや‥ダメってことはないけど何でまた急に‥」


「だって、大魔王がいるせいでモンスターが溢れかえっていて、気が休まらないじゃない?大魔王が倒されたら、今度は嫁入りでしょ?」


カレン様が悲しそうに眉を下げている。
カレン様がこんな表情を浮かべるなんて、とてつもなくレアだ。
だけど俺は分かっている‥!!これは、演技だ!!!

国王様にだって、お見通しなはずだ。




「‥そうだよな。カレン‥。
行ってこい!!たーんと楽しんでこい!!!」



ええええええええええええ!!!


なんで!!国王様!!!
チョロい!!チョロすぎるよ!!!


「ありがとう、お父様」


ウルッとした瞳を浮かべて、まるで子犬のようにキューンッと甘えた様子だ。その表情だけ見れば、俺だって普通に可愛いと思ってしまう。
でもとんでもない‥ほら、やっぱり。
こっちを振り返るカレン様の顔‥


シメシメ、と凄まじく憎たらしい顔をしてる。
さっきまでの子犬のような顔はどうした!



「お付きはいらないわ
リゼと二人旅よ」


「いや、そうはいかないだろう!
何かあったらどうするんだ!」


「大丈夫よ~!大袈裟だわ!お父様」


「ダメだ!絶対にダメだ!!」


「‥じゃあ、護衛を探してくるわ」


「城の兵士でいいだろう!」


「いやよ!私は息抜きに行きたいの!
城の野暮ったい兵士なんか連れていけないわ!」


カレン様っ!!
兵士が可哀想だよっ!!


「‥じゃあ、ミンクシードはどうだ?」


ミンクシードとは、キザでナルシストな三十路だが、腕っ節だけは間違いない、国の兵士の中でもトップクラスの男だ。


「ミンクシードねぇ‥ 
まぁ他の兵士よりはいいかもしれないわ」


そうして、カレン様と俺とミンクシードとのバカンスが決まってしまったのである。
ていうか絶対カレン様バカンスするつもりないでしょ!


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