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第7話 行方不明の兄
しおりを挟むーー正午、北区。
ビル街の一角にある噴水広場で項垂れているのは千郷だ。
「俺は絶対認めないからな‥」
「何故?」
千郷の言葉に首を傾げるのはお面を付けた二千翔。
「俺の双子の兄は10年くらい前に突然行方不明になったんだ‥だから俺は唯一の跡取り。そんな俺がこんな島に隔離されるなんて、絶対無理!ああ、もう本当‥本土に帰してくれよ‥!」
色素の薄い、綺麗な髪をごしごしと掻く千郷。
二千翔は欠伸をしながらベンチの上で胡座をかいた。
「じゃあ本土に帰ったら?
その大切な家族を、妖に憑依された君が襲うかもしれないけどね」
「っ‥」
「ここには小春さんもいるじゃない」
「‥俺は、化け物を嫁にする気はないから。
普通の人間と結婚するんだ」
「自分も化け物なのに?」
「うるさい!俺は化け物なんかじゃない!」
頭を抱えて発狂する千郷に、二千翔は困ったなぁと苦笑いだ。
こんな調子じゃ、毎晩小春を抱いてくれとお願いすることは難しい。だけど、小春の為にも伝えないわけにはいかない。
「ねぇ、小春さんのこと嫌い?」
「嫌いとかそういうんじゃなく。
無理なんだよもう化け物っていう時点で」
「‥‥小春さんのこと抱いてくれない?」
「はぁ?!俺の話聞いてたのかよ!」
案の定な答えを聞いて、二千翔はやれやれとお面を外した。
二千翔の顔を見るなり、千郷の目は盛大に丸くなる。
「どうも、行方不明だった兄です」
「う‥そ、だろ?!」
「嘘じゃないよ。見ればわかるだろ?」
「今までずっとどこで何してたんだよ!父さんと母さんがどれだけお前のこと探してたか分かってんのかよ!」
「分かってるさそのくらい。
妖退治しながら見てたからね」
「妖‥退治?!」
「大きい器っていうのは遺伝されるケースが多くてね。千郷も僕と同様に大きな器だったから、千郷は知らず知らずのうちに妖に狙われることが多かったんだよ。だから、僕はその妖をよく退治しに行ってたってわけ」
海に入るたびに溺れたり、山に行くたびに遭難しかけたり、車が突っ込んできたり、気付いたら血だらけになってたり‥と不運すぎた半生を思い返した千郷。
兄がいなくなった今、跡取りは自分のみ。兄がいなくなった時の両親の悲しみ様を見れば、簡単に死ねるわけがない。
そう踏ん張って生きてきたけど‥まさか、それらの不運が妖の所為だったなんて。
そして、消えたはずの兄は、影ながら助けてくれていた。
「‥なにも姿を消す必要はなかっただろ?
普通に家で生活してても出来ただろ!」
「あのさぁ、生身の人間が妖に勝てるわけないだろ?
僕自身妖を憑依させてやってる身なわけ。命綱はこの数珠のみ」
そう言って、手首に光る黒い数珠を千郷に見せつける。
「この数珠が壊れでもしたら、僕の体は乗っ取られてただの化け物になるかもしれない。そんな状況で、実家には住めないよ」
この妖島で数珠が切れた場合は巫女によってすぐに直してもらえるかもしれないけど、本土ではそうもいかない。
「なんだよそれ‥」
「僕たち器は、ただ憑依されるだけじゃない。
敢えて憑依させて、その妖の力を得るんだ。そうして、世に蔓延る妖を退治しているってわけ。
ただの化け物じゃなく、ヒーローなんだよ」
ヒーローになる為にはあまりにも犠牲が多すぎる。
千郷は頭を抱え込んだまま、首をぶんぶんと横に振った。
「俺には無理‥!本当に無理!!!
憑依とか、本当まじで無理‥!」
いなくなった兄の分も生き抜かなくてはならないと決め込んだ時から、元々の素質であった潔癖を更に強固なものにし、不運に負けないよう気合いを入れて生きてきた。
そんな千郷には、どうしても簡単に受け入れることはできなかった。
「小春さんも憑依されたんだけど、それには条件があって。
小春さんが眠ってる間に、誰かが小春さんを抱かなくてはいけない」
「‥なんだよそれ」
「頼めるのは千郷だけなんだけど。
小春さんだってもちろん千郷をご所望だよ」
「眠ってる間って‥?」
「‥小春さんが眠っている間に、玉藻前っていう妖が小春の体を支配するんだ。玉藻前はその間に、男に抱かれたいんだって」
「‥‥」
千郷はしばらく黙り込んだあと、小さく頷いた。
二千翔の顔色がパァっと明るくなる‥が。
「無理!」
潔癖を拗らせた千郷にとって、小春でさえ受け付け難い。
小春の体を支配した妖怪を抱くなんて、考えられるわけもなかった。
「えぇ~?!
じゃあ他の誰かが小春さんを抱いてもいいわけ?!」
「もう婚約者でもないし、昨日別れたんだから。
俺は悪いけど本当無理。絶対勃たないし」
「‥はぁ」
交渉決裂である。
その後、交代の見張り役が来て中央区に戻った二千翔は、八重に渋々結果を報告した。
「なんというヘタレ!」
八重が落胆のあまりそんな言葉を発する。
「‥小春さんは千郷以外嫌でしょうけど」
「‥‥こうなったら仕方あるまい。
独り身の男を集めて、1人絞り出すしかないな」
「小春さんには何て伝えますか‥?」
「この島に来たショックとすらまだ向き合いきれてないからなぁ。時期を見て伝えることにしよう。今は千郷が相手だということにしておく」
八重の言葉に二千翔は頷いた。
その後、数名の男たちが神社へと集められた。
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