妖器伝

茶歩

文字の大きさ
7 / 13

第7話 行方不明の兄

しおりを挟む


ーー正午、北区。
ビル街の一角にある噴水広場で項垂れているのは千郷だ。


「俺は絶対認めないからな‥」


「何故?」


千郷の言葉に首を傾げるのはお面を付けた二千翔。


「俺の双子の兄は10年くらい前に突然行方不明になったんだ‥だから俺は唯一の跡取り。そんな俺がこんな島に隔離されるなんて、絶対無理!ああ、もう本当‥本土に帰してくれよ‥!」


色素の薄い、綺麗な髪をごしごしと掻く千郷。
二千翔は欠伸をしながらベンチの上で胡座をかいた。


「じゃあ本土に帰ったら?
その大切な家族を、妖に憑依された君が襲うかもしれないけどね」


「っ‥」


「ここには小春さんもいるじゃない」


「‥俺は、化け物を嫁にする気はないから。
普通の人間と結婚するんだ」


「自分も化け物なのに?」


「うるさい!俺は化け物なんかじゃない!」


頭を抱えて発狂する千郷に、二千翔は困ったなぁと苦笑いだ。
こんな調子じゃ、毎晩小春を抱いてくれとお願いすることは難しい。だけど、小春の為にも伝えないわけにはいかない。


「ねぇ、小春さんのこと嫌い?」


「嫌いとかそういうんじゃなく。
無理なんだよもう化け物っていう時点で」


「‥‥小春さんのこと抱いてくれない?」


「はぁ?!俺の話聞いてたのかよ!」


案の定な答えを聞いて、二千翔はやれやれとお面を外した。
二千翔の顔を見るなり、千郷の目は盛大に丸くなる。


「どうも、行方不明だった兄です」


「う‥そ、だろ?!」


「嘘じゃないよ。見ればわかるだろ?」


「今までずっとどこで何してたんだよ!父さんと母さんがどれだけお前のこと探してたか分かってんのかよ!」


「分かってるさそのくらい。
妖退治しながら見てたからね」


「妖‥退治?!」


「大きい器っていうのは遺伝されるケースが多くてね。千郷も僕と同様に大きな器だったから、千郷は知らず知らずのうちに妖に狙われることが多かったんだよ。だから、僕はその妖をよく退治しに行ってたってわけ」


海に入るたびに溺れたり、山に行くたびに遭難しかけたり、車が突っ込んできたり、気付いたら血だらけになってたり‥と不運すぎた半生を思い返した千郷。
兄がいなくなった今、跡取りは自分のみ。兄がいなくなった時の両親の悲しみ様を見れば、簡単に死ねるわけがない。
そう踏ん張って生きてきたけど‥まさか、それらの不運が妖の所為だったなんて。


そして、消えたはずの兄は、影ながら助けてくれていた。


「‥なにも姿を消す必要はなかっただろ?
普通に家で生活してても出来ただろ!」


「あのさぁ、生身の人間が妖に勝てるわけないだろ?
僕自身妖を憑依させてやってる身なわけ。命綱はこの数珠のみ」


そう言って、手首に光る黒い数珠を千郷に見せつける。


「この数珠が壊れでもしたら、僕の体は乗っ取られてただの化け物になるかもしれない。そんな状況で、実家には住めないよ」


この妖島で数珠が切れた場合は巫女によってすぐに直してもらえるかもしれないけど、本土ではそうもいかない。


「なんだよそれ‥」


「僕たち器は、ただ憑依されるだけじゃない。
敢えて憑依させて、その妖の力を得るんだ。そうして、世に蔓延る妖を退治しているってわけ。
ただの化け物じゃなく、ヒーローなんだよ」


ヒーローになる為にはあまりにも犠牲が多すぎる。
千郷は頭を抱え込んだまま、首をぶんぶんと横に振った。


「俺には無理‥!本当に無理!!!
憑依とか、本当まじで無理‥!」


いなくなった兄の分も生き抜かなくてはならないと決め込んだ時から、元々の素質であった潔癖を更に強固なものにし、不運に負けないよう気合いを入れて生きてきた。
そんな千郷には、どうしても簡単に受け入れることはできなかった。


「小春さんも憑依されたんだけど、それには条件があって。
小春さんが眠ってる間に、誰かが小春さんを抱かなくてはいけない」


「‥なんだよそれ」


「頼めるのは千郷だけなんだけど。
小春さんだってもちろん千郷をご所望だよ」


「眠ってる間って‥?」


「‥小春さんが眠っている間に、玉藻前っていう妖が小春の体を支配するんだ。玉藻前はその間に、男に抱かれたいんだって」


「‥‥」


千郷はしばらく黙り込んだあと、小さく頷いた。
二千翔の顔色がパァっと明るくなる‥が。


「無理!」


潔癖を拗らせた千郷にとって、小春でさえ受け付け難い。
小春の体を支配した妖怪を抱くなんて、考えられるわけもなかった。


「えぇ~?!
じゃあ他の誰かが小春さんを抱いてもいいわけ?!」


「もう婚約者でもないし、昨日別れたんだから。
俺は悪いけど本当無理。絶対勃たないし」


「‥はぁ」


交渉決裂である。
その後、交代の見張り役が来て中央区に戻った二千翔は、八重に渋々結果を報告した。


「なんというヘタレ!」


八重が落胆のあまりそんな言葉を発する。


「‥小春さんは千郷以外嫌でしょうけど」


「‥‥こうなったら仕方あるまい。
独り身の男を集めて、1人絞り出すしかないな」


「小春さんには何て伝えますか‥?」


「この島に来たショックとすらまだ向き合いきれてないからなぁ。時期を見て伝えることにしよう。今は千郷が相手だということにしておく」


八重の言葉に二千翔は頷いた。
その後、数名の男たちが神社へと集められた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...