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第10話 カマイタチ
しおりを挟む朝起きた時から股に違和感を感じた。
寝ている間に抱かれているって本当なんだ‥と変な実感が湧く。
八重様曰く千郷の抵抗は激しいらしくて、今日もまた北区にいるんだとか。
そんなに暴れているのに、夜の間だけここまで来てもらって、抱いてもらってる。それは玉さんの条件を満たす為であり、要は私の為。
早く直接会って感謝したいよ、千郷‥。
玉さんが私の体に悪さをしていないかチェックして貰うために、八重様の元を訪れていた私。
どうやら私の体には何の異変もなく、玉さんは本当に大人しくこの身に入ってくれているらしい。
「小春。実践に備えて、今日は特訓してもらうぞ」
「あ、はい!」
もちろんまだ状況を全て飲み込めているわけじゃない。
妖退治なんて嫌だし、当たり前に島から出たいと思ってる。
だけど、どうにもならない現状。
受け止めること以外に解決策はない。
早く両親に連絡をしたいけど‥いま電話をしてしまえば、やっと落ち着いてきた気持ちが荒ぶってしまうに決まってる。
もう少しここでの生活に慣れてからじゃないと‥と、スマートフォンは長屋の押入れの奥に仕舞い込んだ。
指導してくれるのは蛍さんという女性。
案内されるがまま神社の裏手にある訓練場に辿り着いた。
近くには何かあった時の為として陽さんもいるらしいけど、姿は見えない。
訓練場はだだっ広い広場で、木の幹が何本か並んでいた。
「いやー、玉藻前を宿しちゃうなんて凄いね」
可愛らしい垂れ目の蛍さんが興奮気味にそう言う。
蛍さん、一体いつからこの島にいるんだろう‥恐らく年下かな。まだ成人してないかもしれない。
「蛍さんは何を憑依させているんですか?」
私がそう尋ねると、蛍さんは「秘密」と言って笑った。
「でもさぁ、大変だね。毎晩毎晩‥」
それは、寝ている間に抱かれることに関してかな。
「あー‥でも、幸い婚約者が相手なので。
元婚約者って言った方がいいのか分からないけど‥」
そう、形としては別れたまま。
千郷も該当者だったんだし、この島にいるなら‥その別れはなかったことになるんじゃないかって思ってるんだけど。‥昨日の晩も抱いてくれたわけだし。
ただ、まだ千郷と直接会って話ができているわけではないから、何とも言えないけど‥。
「ふふ、婚約者‥ねぇ。
茶髪の短髪の人?」
蛍さんがほんの少し目を細めて笑った。
「え?
千郷は短髪ではないですけど」
「あれ?勘違いしちゃった。
樹は数年前からこの島にいるから、樹が婚約者なわけないかっ」
樹??
誰のことを言ってるんだろう。
「‥‥あの、」
何だろう。
なんか、蛍さんの言い方に含みがあるようで引っかかる。
態度も何となく馬鹿にしてきているような、そんな気がする。
「まぁ、私ももしそんな条件出されたら‥相手は好きな人がいいなぁ」
蛍さんがそう言って、少し照れたようにはにかむ。
「好きな人、いるんですか?」
「うん!私はずっと陽のことが好きなの。
小春ちゃんが憑依させてるのは大妖怪だから、必然的に陽が小春ちゃんの近くにいることが多いでしょ。だから心配なんだよね」
‥心配??なんの?!
「私は千郷以外、何とも思ってないので‥」
「眠っているうちは分からないじゃん?そんな条件突き付けてくる時点で、玉藻前は男を求めまくってるからさ。
陽にまで手出さないでね?」
まるで私の中に眠る玉さんに忠告しているかのように、蛍さんは私の肩をツンっと突いた。
『‥気安く触るな。随分と小煩い娘だ。
儂は面倒な女は嫌いじゃ』
自然と口から飛び出た台詞に、自分自身が驚いて口に手を当てた。
ーー?!なにいまの。玉さん?!
「え‥?」
蛍さんも眉を顰めて、私を凝視している。
「ごっ、ごめんなさい。
なんか玉さんが出てきたみたいで‥!」
敵を作るようなことしないでよ~!
と心の中で玉さんに念じてみる。届いているのかはわからないけど。
「ふんっ、分かったわ。それが小春ちゃんの本性ね?!
人当たりよさそうに見えて、本当は毒を持った女‥!」
「いやいや!玉さんですって!
私は《儂》とか言わないですし!」
「憑依させてる妖がそんなに自然体で出てくるわけがない!普通はなんか妖気が吹き出したりするはずだもん!」
えええ、知らないよそんなの!
「ほ、本当に私じゃなくて‥!」
「妖の扱い方も分からない人が、そんなに自然と大妖怪と共存できるわけがないって言ってんの!それなら私の指導なんて要らないはずだもの!」
蛍さんがなんだかとてもムキになって怒っている。
そんなに怒られても、仕方ないじゃんか‥!本当に自然に出てきたんだから‥!
「指導してもらえないと困ります‥」
むぅぅ、と頬を膨らませた蛍さんは、落ち着きたいのか深く深呼吸をした。
「小春ちゃん。言ったことには責任を持ってもらうからね。
私は今から小春ちゃんに攻撃をするから。自然と玉藻前が出てくるなら、その攻撃を避けられるはず。
小春ちゃんが嘘をついて本性を隠そうとしているだけだったら、その攻撃はそのままその身に受ける羽目になる。自業自得よ!」
え、ええ?!
なんか攻撃とか言ってるんですけど?!
蛍さんの体からぶわっと煙のようなものが吹き出した。
これが妖気ってやつ‥?!
「覚悟ぉ!!」
シュルシュルッと、蛍さんの周りに沢山の旋風が巻き起こる。
その旋風は一斉に私に向かって動き始めた。
えええ?!助けて玉さーん!!
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