妖器伝

茶歩

文字の大きさ
10 / 13

第10話 カマイタチ

しおりを挟む


朝起きた時から股に違和感を感じた。
寝ている間に抱かれているって本当なんだ‥と変な実感が湧く。

八重様曰く千郷の抵抗は激しいらしくて、今日もまた北区にいるんだとか。
そんなに暴れているのに、夜の間だけここまで来てもらって、抱いてもらってる。それは玉さんの条件を満たす為であり、要は私の為。
早く直接会って感謝したいよ、千郷‥。


玉さんが私の体に悪さをしていないかチェックして貰うために、八重様の元を訪れていた私。
どうやら私の体には何の異変もなく、玉さんは本当に大人しくこの身に入ってくれているらしい。


「小春。実践に備えて、今日は特訓してもらうぞ」


「あ、はい!」


もちろんまだ状況を全て飲み込めているわけじゃない。
妖退治なんて嫌だし、当たり前に島から出たいと思ってる。

だけど、どうにもならない現状。
受け止めること以外に解決策はない。

早く両親に連絡をしたいけど‥いま電話をしてしまえば、やっと落ち着いてきた気持ちが荒ぶってしまうに決まってる。
もう少しここでの生活に慣れてからじゃないと‥と、スマートフォンは長屋の押入れの奥に仕舞い込んだ。


指導してくれるのはほたるさんという女性。
案内されるがまま神社の裏手にある訓練場に辿り着いた。
近くには何かあった時の為として陽さんもいるらしいけど、姿は見えない。

訓練場はだだっ広い広場で、木の幹が何本か並んでいた。


「いやー、玉藻前を宿しちゃうなんて凄いね」


可愛らしい垂れ目の蛍さんが興奮気味にそう言う。
蛍さん、一体いつからこの島にいるんだろう‥恐らく年下かな。まだ成人してないかもしれない。


「蛍さんは何を憑依させているんですか?」


私がそう尋ねると、蛍さんは「秘密」と言って笑った。


「でもさぁ、大変だね。毎晩毎晩‥」


それは、寝ている間に抱かれることに関してかな。


「あー‥でも、幸い婚約者が相手なので。
元婚約者って言った方がいいのか分からないけど‥」


そう、形としては別れたまま。
千郷も該当者だったんだし、この島にいるなら‥その別れはなかったことになるんじゃないかって思ってるんだけど。‥昨日の晩も抱いてくれたわけだし。
ただ、まだ千郷と直接会って話ができているわけではないから、何とも言えないけど‥。


「ふふ、婚約者‥ねぇ。
茶髪の短髪の人?」


蛍さんがほんの少し目を細めて笑った。


「え?
千郷は短髪ではないですけど」


「あれ?勘違いしちゃった。
樹は数年前からこの島にいるから、樹が婚約者なわけないかっ」


樹??
誰のことを言ってるんだろう。


「‥‥あの、」


何だろう。
なんか、蛍さんの言い方に含みがあるようで引っかかる。
態度も何となく馬鹿にしてきているような、そんな気がする。


「まぁ、私ももしそんな条件出されたら‥相手は好きな人がいいなぁ」


蛍さんがそう言って、少し照れたようにはにかむ。


「好きな人、いるんですか?」


「うん!私はずっと陽のことが好きなの。
小春ちゃんが憑依させてるのは大妖怪だから、必然的に陽が小春ちゃんの近くにいることが多いでしょ。だから心配なんだよね」


‥心配??なんの?!


「私は千郷以外、何とも思ってないので‥」


「眠っているうちは分からないじゃん?そんな条件突き付けてくる時点で、玉藻前は男を求めまくってるからさ。
陽にまで手出さないでね?」


まるで私の中に眠る玉さんに忠告しているかのように、蛍さんは私の肩をツンっと突いた。


『‥気安く触るな。随分と小煩い娘だ。
儂は面倒な女は嫌いじゃ』


自然と口から飛び出た台詞に、自分自身が驚いて口に手を当てた。

ーー?!なにいまの。玉さん?!


「え‥?」


蛍さんも眉を顰めて、私を凝視している。


「ごっ、ごめんなさい。
なんか玉さんが出てきたみたいで‥!」


敵を作るようなことしないでよ~!
と心の中で玉さんに念じてみる。届いているのかはわからないけど。


「ふんっ、分かったわ。それが小春ちゃんの本性ね?!
人当たりよさそうに見えて、本当は毒を持った女‥!」


「いやいや!玉さんですって!
私は《儂》とか言わないですし!」


「憑依させてる妖がそんなに自然体で出てくるわけがない!普通はなんか妖気が吹き出したりするはずだもん!」


えええ、知らないよそんなの!


「ほ、本当に私じゃなくて‥!」


「妖の扱い方も分からない人が、そんなに自然と大妖怪と共存できるわけがないって言ってんの!それなら私の指導なんて要らないはずだもの!」


蛍さんがなんだかとてもムキになって怒っている。
そんなに怒られても、仕方ないじゃんか‥!本当に自然に出てきたんだから‥!


「指導してもらえないと困ります‥」


むぅぅ、と頬を膨らませた蛍さんは、落ち着きたいのか深く深呼吸をした。


「小春ちゃん。言ったことには責任を持ってもらうからね。
私は今から小春ちゃんに攻撃をするから。自然と玉藻前が出てくるなら、その攻撃を避けられるはず。
小春ちゃんが嘘をついて本性を隠そうとしているだけだったら、その攻撃はそのままその身に受ける羽目になる。自業自得よ!」


え、ええ?!
なんか攻撃とか言ってるんですけど?!


蛍さんの体からぶわっと煙のようなものが吹き出した。
これが妖気ってやつ‥?!


「覚悟ぉ!!」


シュルシュルッと、蛍さんの周りに沢山の旋風が巻き起こる。
その旋風は一斉に私に向かって動き始めた。

えええ?!助けて玉さーん!!



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...