妖器伝

茶歩

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第12話 薄っぺらの理性

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「妖の技を操るってより、玉藻前がその間乗っ取ってるって感じだったな」


神社への帰り道、陽さんがそう言った。
陽さんの蛇?や、蛍さんのカマイタチ?は自分の意思で出したい時に出してるって感じだったもんね。


「やっぱり、私‥
憑依されてますよね。主導権は玉さん‥」


「‥まぁ、玉藻前が必要な時だけしっかり出てきて戦ってくれるなら問題はないだろ」


えぇ、でも今回みたいに気まぐれな戦い方は困っちゃうし、何よりも‥


「玉さん、無闇矢鱈に抱き着いたりするので、困ります‥。
私の意識はあるのに体が勝手に動くんです」


「‥‥あ、あー。それもそうだな」


私には、千郷っていう想い人がいるんだから。
簡単に他の男の人に抱き着くのは勘弁してほしい。抱き着くぐらいで済んでるけど、今後キスとかも平然としてしまいそうで不安だ。

結局、全ては玉さんの匙加減。
条件を元に普段は大人しくしてくれてるけど、玉さんが『やっぱりお前の体乗っ取るぞ』なぁんていつ言い出すかもわからない。

だから、玉さんを少しでも制御できる力を身につけなくちゃ。


神社に着くと、陽さんが八重様に経緯を説明してくれた。


「‥そうか。
本来であれば巫女の力を待ってして、その身に宿して制御ができるレベルの妖怪を憑依させるのだ。
小春の場合はそれをすっ飛ばして勝手に憑依されてしまったからなぁ」


八重様がうーんと首を捻る。
顎に皺を寄せて考え込んでいた八重様が、ハッと思い出したような顔をした。


「陽‥お前も似たようなデビューだったな」


「‥まぁ、はい」


なんと、それは驚きだ。
一体どこでどんなふうに憑依させたんだろう‥。


「あの時は確か‥‥幽世に行ったんだったな」


「‥はい」


「あ、あのー‥幽世って??」


みんなしてサラッと幽世とか言うけど、正直そもそも幽世の意味がわかってない。

私の質問に答えてくれたのは八重様だった。


「永久の神域、死後の世界とも言う」


「死後?!」


「そこで自身の霊力を上げることで、陽は制御できるようになったのだ。それまではもう大変だったぞ、なぁ陽」


「あー、まぁ、はい。ご迷惑をおかけしました」


ぽりぽりとこめかみを掻く陽さん。
なんだかバツが悪そうだ。よっぽどあの蛇が暴れてたのかな?


「‥私もそこへ行けば霊力は上がりますか?」


「上がるとは思うが、かなり酷だと思うぞ。
まぁまずはこっちで試せることを試して、霊力をあげていくべきだな」


なるほど、最終手段ってことか。
そりゃああの世だもん当たり前か。


「霊力を上げる特訓は明日から行うとしよう。
瞑想するのも効果的だから、今日はもう帰って休め、小春」


「あ、はい。わかりました。では、失礼します‥」  


ぺこりと頭を下げてその場を離れようとする。
私と同じように立ち上がって畳を踏みしめた陽さんを、八重様が止めた。


「陽、お前には話があるから残れ」


「‥はぁ」


何か大事な話でもあるのかな?
とりあえず、今日はもう長屋に戻ろうっと。


どうやら、妖退治をしていくと報酬を貰えるらしい。
私なんかはもちろんまだ無報酬だけど、政府の仕事として隔離された手前、手厚い優遇措置が取られてるそうで‥私はまだ仕事ができていないけど、長屋にはただで住めているし、質素ではあるけど三食ただで頂けている。

ちなみに、朝晩のご飯はおにぎりが長屋の前に風呂敷に包まれて置かれていて、お昼は神社で定食のような食事を頂いている。

八重様曰く、中央区には他にも神社がいくつかあって、私以外の器該当者もそれぞれの神社に分配されて、教育されているんだとか。

八重様がいる神社は神八神社。
神社に来るたびに辺りを見渡しているけど、タイミングが合わないのかまだ私と同じ時期に来た他の器該当者とは会えていない。

同じ境遇を分かち合いたいから、早く会えたらいいんだけど。







「先程樹から聞いたぞ。
何故早く報告しなかったんだ」


八重の言葉に、陽は小さく息を吐く。


「報告してどうするんですかそんなこと」


「はぁ‥。
よりによってお前相手とは、このことが知れ渡ったら小春は女たちに目の敵にされるぞ」


陽は今日の蛍の姿を思い出して、小さく頷く。


「‥周りには樹が相手なんだと思わせておけばいい。
樹だってそっちの方が好都合ですよね」


玉藻前にチェンジ!と言われたなんて、周りに知られたら笑い者にされるに決まっている。


「そうだが‥そう上手くいくとは思えぬ」


「まぁうまくいかなかったらその時はその時」


陽は立ち上がり、今度こそ八重の元を後にした。
神社を出て、細長く息を吐く。



今日一日、陽は小春を見るたびに何度も昨日の夜を思い出した。
陽に抱かれているとは知らずに、無垢な顔を見せる小春。

その着物の下を知っていると思えば頭の中はそれで占領され、その小さい口を重ね合わせたと思えば、もう一度触れたくなった。

相手はあくまでも、小春ではなく玉藻前なのに。


あの快感を知ってしまっては、他の人にこの役を譲りたくはない。第一、痣を消して貰うための取り引きもしている。

だけど、これから毎晩あんな夜が続いていったら‥
取り引きでも義務でもなく、小春の体を求めてしまいそうだ。

自分が自分じゃなくなるような焦燥感。
理性が吹き飛んでしまいそうな不安が、陽を包み込んでいた。




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