48 / 76
第46話
しおりを挟む基地本部内は地獄の光景を見せていた。叫び声が轟き、人々が次々と姿を変えていく。獣人には魔法が効かないから、移動魔法でどこかへ飛ばしてやることもできない。
大砲や銃すらものともしないその怪物達は続々と増えていき、やがて基地を飛び出すのにそう時間は掛からなかった。
ルークは獣人に噛み付かれて理性が飛ぶ寸前に、やっと自業自得だと悟って笑った。生まれて間もない娘と愛する妻に、どうかこの牙や爪が届きませんように。そう願った彼が次に瞼を開けた時には、既にルークの人格はなくなっていた。
移動魔法でプテラス領以外の様子を探っていたアイナとギルは、王都がとんでもないことになっていることをすぐに知ることになった。王都を守護するはずの軍の基地本部は王都を脅かす獣人の拠点となり、その獣人たちはあれよあれよという間に増加していく。
もちろんアイナとギルはそれぞれ魔法陣を手に取り、獣人に襲われそうな人々を救う為に魔法を繰り出したが‥魔法は獣人には効かなかった。
「魔封種か‥。
剣で太刀打ちできたとしても俺1人じゃ微力すぎる。
今は一旦引くしかない」
「連れてっていいですよね?!あの人たち!」
アイナは、獣人から逃げ惑う人たちを指差してそう言った。
「あぁ」
この通りにいた人々は20人ほど。
だけどきっと獣人から逃げてる人々はもっとたくさんいるはず。
ここで救えるのはひと握りしかいない‥そう考えたアイナは、魔法陣にとんでもないお願いをした。
ーーいま、獣人たちに襲われそうな人達や、獣人から逃げてる人たち‥どこか安全なところに行きたいと願ってる人たちみんなをルーン村の南側にある開拓地に連れて行きたい!!!
一体何人いたのかこの時のアイナには分からなかったが、アンナはこの時初めて魔力の使い過ぎによる目眩と立ちくらみに襲われた。
怯えながら叫んでいた人々は、自分たちが飛ばされたことに気付き始めた。今度はそれ自体がパニックになり、また空気が荒れ始めたが、ギルが魔法で声量を大きくし、説明を始めた。
「‥落ち着いて聞いてくれ。ここはプテラス領だ。
獣人に襲われたり、獣人から逃げ惑う人々を移動魔法でここに転送させた。プラスト領は砦と高い壁により王都からは分断されている。一時避難場所として過ごせばいい。余計なお世話ってんなら出てってもらって構わない」
人々は周囲を見渡して獣人の姿がないことに心底安堵し、中には嗚咽をあげて涙を流す者もいた。
しかしもちろん、簡単にその話を受け止められる人が全てではない。
「ここに何百人が飛んできたと思ってるんだ!!
そんな魔法使えるやついるわけないだろ!!俺たちに何をしたんだ!!」
「そうだ!!信じられるわけないだろ!!」
その場にはどう見ても1000人程の人々がいた。
あり得ないと言われれば当然のこと。魔法庁長官ですら出来る筈がないのだから。
ギルは声色を変えないまま淡々と言葉を落とした。
「‥ここには女神がいる。
その女神こそがルーン村に雨を降らせてプテラス領を緑豊かにした。
天候をも左右させるほどの魔力を持つ女神だからこそ、今これだけの人々を救う為の莫大な魔力が使えたんだ。何よりもおまえら自身が移動したのが一番の証拠だろ」
人々は皆、この状況を飲み込むのが精一杯だった。
やっと少しずつ受け止め始めた人々は、やがて女神の存在を“救いの神”として涙を流しながら感謝をし始める事態となっていった。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる