75 / 76
第73話
しおりを挟む私が気持ちを認めて向き合ったことで、あれよあれよと事は進んだ。私に公爵が授与され、私は正式にギルさんの婚約者扱いをされることになった。婚約者といっても、手続きを待つ時間のみの話。結婚秒読み状態だ。
想い合う状態には変わりないんだし、そんなに結婚を急がなくていいじゃないかとも思うんだけど、周囲は「急げ急げ!」と慌ただしい。
本当にいいのだろうか‥とふとした時に悩んでしまうものの、世間にも知られてしまったし今更白紙撤回する術もない。
「まだそんな顔してんのかよ」
ギルさんの部屋を訪れたヴィンスが私を見てそう言う。不安な気持ちが顔に出てしまっていたらしい。
「大丈夫だ、ヴィンス。
今は見せてやれないけど、アイナにはいい薬がある」
ギルさんがティーカップに口を付けながら愉快そうにそんな事を言った。
薬ってまさか‥
「へぇ?純朴そうに見えて案外あれなんだな」
ヴィンスがニヤリと笑うので、私は思いっきり眉を顰めてしまった。
あれ‥?!あれって、なにが?え?
「キ、キスしかしてない!!」
私は顔を真っ赤にしてそう訴えた‥のだが。
「誰も内容まで聞いてねーよ」
ヴィンスまで私に釣られて少し照れ臭そうな顔をするから、私はもっと恥ずかしくなった。
片やギルさんは、どことなく優しい笑みを浮かべたまま書類に目を通している。
公爵となった私の側近であるクレアさんは、そんなギルさんの様子を見て私に耳打ちした。
「‥‥アイナさんはギル様を想って頑なだったんでしょうけど、ギル様は今が一番幸せそうですね」
「‥‥そうなのかもしれないですね」
ギルさんの幸せを考えて一線を置いてたけど、ギルさんの幸せはこれだったのかな。
そう思うとなんとも言えない気持ちになって、心は一瞬で暖かくなった。
*
私は今日も、愛する人の為に魔法を使う。
愛する人が望む世界になるよう、精霊に願う。
どうしようもない極悪人も、たまに現れるけど‥
そういう人たちはみんなサーカスの見世物小屋のチャーリーさんの石像の隣に並ぶの。
蔑まれ、罵られた私は‥
亡くなった母を安心させられるほど、いま幸せに暮らしてる。
母が恐れられた原因の異常な魔力は、この国を救う為に使われてる。
たまに思う。突然召喚されて、訳もわからないまま元の世界と引き裂かれた母の壮絶さを。
きっと信じられない程に悲しかっただろう。寂しかっただろう。その苦しみを、お腹にいた私を想うことで耐え抜いていたんじゃないかと。
今こうして‥
愛する人の子をお腹に宿してみれば、当時の母の気持ちは容易に想像できるの。
敵だらけのこの世界で産んでしまったと、今でもきっと私を案じているでしょう。
だからこそ、母を想う。
私は今幸せだよ。産んでくれてありがとう‥と。
ーーーfin
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる