2 / 87
第1話『溺愛』
しおりを挟む
レストール家の優秀な一人息子、ガブリエル郷。
23歳である彼の人望はとにかく厚く、その整った美貌と柔らかな人当たりの良さは、ダリア国全体に響き渡る程のものだ。
彼のファンは多く、日々世の女性たちからの彼への求愛は絶えない。
ダリア国でも指折りの大貴族でありながら、彼は白魔法まで扱うことができるという噂だ。
通常、この世界では魔法を扱えるものは極々わずか存在するものの、白魔法を扱える者は数えられる程しか存在しない。
それ故、ガブリエルはとにかく国の大スター的存在であり、彼の人気は絶大であった。
「おはよう、ソフィア」
色素の薄い、やたらと整った顔の少女は、ガブリエルの声に反応し、静かに瞼を開けた。
白に近い銀髪、雪のような肌、吸い込まれそうな瞳、果実のような小さな唇。
ソフィアはまるで、人間ではないような、そんな錯覚をもたらす程の美しい少女だ。
ガブリエルが指でソフィアの頬を撫でる。
ソフィアはくすぐったそうに、撫でられた頬の方の瞳を瞑ると、その様子をガブリエルは愛おしそうに見つめた。
「ソフィアは今日も美しいね。
僕の愛しのソフィア‥。僕の命を救ってくれたソフィア‥」
金色のサラサラの髪を靡かせ、ガブリエルは言う。
ソフィアは何の反応も見せずに、起き上がった。
いつもなら、ここでメイドが来るはずなのに来ない。
ソフィアは不思議そうに扉を見つめる。
「今日はメイドは来ないよ」
ソフィアの疑問を察し、ガブリエルがそう告げた。
反応のないソフィアのその白銀の髪を、ガブリエルはそっと撫でる。
「僕はね、あの時ーー
ソフィアの白魔法に救われて命拾いをした時‥父さんと母さんがソフィアに涙を流しながら感謝をしていたことを今でも鮮明に覚えているよ。
ソフィアと離れたくなかったから、父さんと母さんが身寄りのないソフィアをレストール家の娘として招き入れてくれたのも、当時は嬉しかった‥。
でもね、いま僕はとても悲しいんだ」
ガブリエルの青い瞳は、窓の外を遠く見つめていた。
「僕はソフィアと、永遠に一緒にいたい‥
片時も離れたくない‥
ソフィアが妹じゃなければ‥君と結婚できるのに‥」
そう言って、眉を顰めて辛そうな表情を浮かべるガブリエル。
ソフィアはただ静かに、ガブリエルの言葉を聞いていた。
「‥毎日のように、見合いの話が舞い込んでくる‥
僕ももういい歳だ。見合いを断り続けていても、いつかは誰かと結婚させられてしまうかもしれない‥
なんとかソフィアも一緒に生活し続けられるようにするつもりだけど、どうなるかなんてわからない‥
そう思うとね、少しでも君と一緒に過ごす時間が欲しいんだ‥
だから、今日からは出来る限りのソフィアの身の回りのこと、僕にやらせてもらうよ」
そうして、ガブリエルはソフィアの丈の長いオフホワイトの肌着に手をかけた。
ソフィアは、咄嗟に脱がされまいと抵抗するが、ガブリエルは滑らかな動きでそのソフィアの抵抗をするりと躱した。
ぐっと唇に力を入れ、それでも抵抗を続けるソフィアを見て、ガブリエルは愛おしそうに笑う。
「恥ずかしがらないで、ソフィア。
君の着替えを手伝ってあげるだけだよ?」
ソフィアは目をぎゅっと瞑り、ふるふると首を横に振った。
胸元のリボンを解かれると、もともと緩い作りのそのネグリジェは、軽く下に引っ張るだけで簡単にソフィアの白い両肩を露出させた。
「君は本当に、全てが美しいね‥
僕が結婚できないのは君のせいだよ?
ソフィアほど美しい人は他にいない‥」
ガブリエルが、妖艶な笑みを見せる。
ソフィアはただ、下を向いてこれ以上ネグリジェが落ちないよう胸元を抑えるので必死だった。
「妖精‥女神‥聖女‥
全ての言葉が似合うね。
ソフィア‥」
ソフィアの肩が突然ピクリと跳ねた。
ガブリエルが、ソフィアの肩にキスをしたのだ。
ガブリエルのサラサラの髪が、ソフィアの顔や首、肩にかかる。唇の熱を感じる肩を、どうにかガブリエルから解放させようと、ソフィアは懸命にガブリエルの体を押した。
ガブリエルは、胸元を抑えていたソフィアの手がガブリエルを押しのけることで精一杯になっていると気付くと、不適に微笑んでネグリジェを一気に下までずり下げた。
しまった、とソフィアが咄嗟にしゃがみ込むも時既に遅し。朝だというのに、ガブリエルのスイッチがはいってしまったようだった。
とは言っても、仮にも兄弟。今の今まで、ガブリエルに肌を露出したことも、こんな展開になってしまったこともない。
ソフィアは恐怖から、体を固く縮こませ、その身を守った。
「ああ‥ごめんね、ソフィア‥
怖がらせてしまったようだね‥」
ガブリエルがその端正な顔立ちを、悲しそうに歪める。
「君の近くにいたい‥誰よりも、君の側に‥
でも、近くにいるとこうして暴走してしまう‥
いま‥メイドを呼ぶね。下で待ってるよ、ソフィア」
ガブリエルが部屋を出て行く姿を見送ってから、ソフィアはやっと立ち上がって、ネグリジェをもう一度着直した。
そして、窓の外を見て、小さくため息をこぼしたのである。
23歳である彼の人望はとにかく厚く、その整った美貌と柔らかな人当たりの良さは、ダリア国全体に響き渡る程のものだ。
彼のファンは多く、日々世の女性たちからの彼への求愛は絶えない。
ダリア国でも指折りの大貴族でありながら、彼は白魔法まで扱うことができるという噂だ。
通常、この世界では魔法を扱えるものは極々わずか存在するものの、白魔法を扱える者は数えられる程しか存在しない。
それ故、ガブリエルはとにかく国の大スター的存在であり、彼の人気は絶大であった。
「おはよう、ソフィア」
色素の薄い、やたらと整った顔の少女は、ガブリエルの声に反応し、静かに瞼を開けた。
白に近い銀髪、雪のような肌、吸い込まれそうな瞳、果実のような小さな唇。
ソフィアはまるで、人間ではないような、そんな錯覚をもたらす程の美しい少女だ。
ガブリエルが指でソフィアの頬を撫でる。
ソフィアはくすぐったそうに、撫でられた頬の方の瞳を瞑ると、その様子をガブリエルは愛おしそうに見つめた。
「ソフィアは今日も美しいね。
僕の愛しのソフィア‥。僕の命を救ってくれたソフィア‥」
金色のサラサラの髪を靡かせ、ガブリエルは言う。
ソフィアは何の反応も見せずに、起き上がった。
いつもなら、ここでメイドが来るはずなのに来ない。
ソフィアは不思議そうに扉を見つめる。
「今日はメイドは来ないよ」
ソフィアの疑問を察し、ガブリエルがそう告げた。
反応のないソフィアのその白銀の髪を、ガブリエルはそっと撫でる。
「僕はね、あの時ーー
ソフィアの白魔法に救われて命拾いをした時‥父さんと母さんがソフィアに涙を流しながら感謝をしていたことを今でも鮮明に覚えているよ。
ソフィアと離れたくなかったから、父さんと母さんが身寄りのないソフィアをレストール家の娘として招き入れてくれたのも、当時は嬉しかった‥。
でもね、いま僕はとても悲しいんだ」
ガブリエルの青い瞳は、窓の外を遠く見つめていた。
「僕はソフィアと、永遠に一緒にいたい‥
片時も離れたくない‥
ソフィアが妹じゃなければ‥君と結婚できるのに‥」
そう言って、眉を顰めて辛そうな表情を浮かべるガブリエル。
ソフィアはただ静かに、ガブリエルの言葉を聞いていた。
「‥毎日のように、見合いの話が舞い込んでくる‥
僕ももういい歳だ。見合いを断り続けていても、いつかは誰かと結婚させられてしまうかもしれない‥
なんとかソフィアも一緒に生活し続けられるようにするつもりだけど、どうなるかなんてわからない‥
そう思うとね、少しでも君と一緒に過ごす時間が欲しいんだ‥
だから、今日からは出来る限りのソフィアの身の回りのこと、僕にやらせてもらうよ」
そうして、ガブリエルはソフィアの丈の長いオフホワイトの肌着に手をかけた。
ソフィアは、咄嗟に脱がされまいと抵抗するが、ガブリエルは滑らかな動きでそのソフィアの抵抗をするりと躱した。
ぐっと唇に力を入れ、それでも抵抗を続けるソフィアを見て、ガブリエルは愛おしそうに笑う。
「恥ずかしがらないで、ソフィア。
君の着替えを手伝ってあげるだけだよ?」
ソフィアは目をぎゅっと瞑り、ふるふると首を横に振った。
胸元のリボンを解かれると、もともと緩い作りのそのネグリジェは、軽く下に引っ張るだけで簡単にソフィアの白い両肩を露出させた。
「君は本当に、全てが美しいね‥
僕が結婚できないのは君のせいだよ?
ソフィアほど美しい人は他にいない‥」
ガブリエルが、妖艶な笑みを見せる。
ソフィアはただ、下を向いてこれ以上ネグリジェが落ちないよう胸元を抑えるので必死だった。
「妖精‥女神‥聖女‥
全ての言葉が似合うね。
ソフィア‥」
ソフィアの肩が突然ピクリと跳ねた。
ガブリエルが、ソフィアの肩にキスをしたのだ。
ガブリエルのサラサラの髪が、ソフィアの顔や首、肩にかかる。唇の熱を感じる肩を、どうにかガブリエルから解放させようと、ソフィアは懸命にガブリエルの体を押した。
ガブリエルは、胸元を抑えていたソフィアの手がガブリエルを押しのけることで精一杯になっていると気付くと、不適に微笑んでネグリジェを一気に下までずり下げた。
しまった、とソフィアが咄嗟にしゃがみ込むも時既に遅し。朝だというのに、ガブリエルのスイッチがはいってしまったようだった。
とは言っても、仮にも兄弟。今の今まで、ガブリエルに肌を露出したことも、こんな展開になってしまったこともない。
ソフィアは恐怖から、体を固く縮こませ、その身を守った。
「ああ‥ごめんね、ソフィア‥
怖がらせてしまったようだね‥」
ガブリエルがその端正な顔立ちを、悲しそうに歪める。
「君の近くにいたい‥誰よりも、君の側に‥
でも、近くにいるとこうして暴走してしまう‥
いま‥メイドを呼ぶね。下で待ってるよ、ソフィア」
ガブリエルが部屋を出て行く姿を見送ってから、ソフィアはやっと立ち上がって、ネグリジェをもう一度着直した。
そして、窓の外を見て、小さくため息をこぼしたのである。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる