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第2話『正反対』
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長年ソフィアに仕える年配のメイド・シンシアは、やや高揚した様子でソフィアの元に現れた。
そして、いつもの様子でソフィアに声を掛けながらソフィアの身支度を済ませていく。
「今日は朝から、ガブリエル様がソフィア様の身の回りのことは僕がする!と仰いまして‥」
それが、危うく貞操の危機に繋がる事態だったとシンシアは知らない。それ故、ただただソフィアに羨ましそうな視線を送る。
「あんなにも素敵で、あんなにも位の高い方が尽くしたいと仰るのですから‥ソフィア様も罪なお方ですわ」
うふふ、と頬を赤らめてシンシアはうっとりと言葉を続ける。
「素敵な兄弟愛ですわね。
シンシアは、心まで綺麗なお二人のお側でお仕えできて、本当に幸せです」
そう言い終わる頃には、ソフィアの着替えは終わっていた。
長い髪も、いつものようにまとめてもらう。
長い前髪をセンターから左右に分けてくるくるとねじり、後ろで纏めあげる。これがソフィアの基本のスタイルだ。
ソフィアは、言葉で伝えられない代わりに今日もシンシアに小さくお辞儀をし、感謝の気持ちを伝えた。
国民的大スターであるガブリエル。
一方、ソフィアの存在は謎に包まれていた。
国から認定された『聖女』という肩書きを持つ、唯一の女性‥という噂や、まるで女神のように美しく、全ての男性を魅了してしまうため屋敷から出ない、など様々な噂が飛び交う。
15年前、身寄りがなく修道院で過ごしていたソフィアは、3歳の時に川で溺れたガブリエルを救った。
それを機に、レストール家の娘として迎え入れられ幸せに暮らしていた‥が、ソフィアは8歳の時に一度誘拐され、監禁された過去がある。
そのショックから、ソフィアは声を出せなくなってしまった。
ソフィアを実の娘として愛していたレストール家当主、ハロルド公爵は事態を非常に重く受け止めた。
幼い頃からソフィアの美貌は際立っており、おまけにガブリエルを救った際に国王から『聖女』の認定を受けた白魔法の使い手。
声が戻るまで、ソフィアの口から白魔法が唱えられることはないが、それでも美貌を持つ聖女という肩書きは、それだけで彼女の身を脅かすものになる。
その日以降、ソフィアの身を案じたハロルド公爵は、ソフィアを屋敷の敷地の外に出すことを禁じたのである。
それから10年が経つ。
ソフィアの声は戻らぬまま、ソフィアはレストール家の広い敷地内で、ただ静かにそっと生きてきたのだ。
「あら、ガブリエル様、もうお出かけですか?」
ソフィアの側を歩くシンシアが、ガブリエルに声を掛ける。
その昔、声を出せないソフィアの代わりに、シンシアがソフィアのその「声」になると買って出た。それ以降、シンシアは積極的にソフィアの「声」になってくれていた。
「ああ‥。国王からのお呼び出しでね。
父さんと、城に行ってくるよ。まぁただの話し合いだ」
ガブリエルは、ソフィアと2人きりの時にだけ見せるあの異常なまでの溺愛っぷりを封印し、淡々とそう述べた。
ソフィアとシンシアに微笑みかけた後、颯爽とその場を去って行くガブリエル。
このシーンだけ見れば、ただの爽やかなイケメン紳士である。
「さすがハロルド様と、ガブリエル様‥
国王様もきっとお二人にはお心を開いてらっしゃるのですね」
シンシアが微笑みながらそう言う。
レストール家は貴族の中でも、トップクラスの立ち位置であり、昔から国王との親交が熱い。それ故に、同い年であるレオ王子とガブリエルは幼馴染のような関係を築いていた。ーー15年前のガブリエルが川に流された一件からは、両者の間に少し溝が出来てしまったようだが。
しかし、それは国王やハロルド、そしてその周囲の人々さえ気付かないような、些細なものであった。
「あ、そうだわ、ソフィア様‥
レオ王子の話、お聞きになりましたか?」
シンシアが閃いたようにソフィアに問う。
シンシアの表情はキラキラと輝いていて、シンシアが噂好きだということを再認識させられる。
ソフィアは噂好きというわけではないが、屋敷から一歩も出ないソフィアにとって、シンシアの話は外の世界を知る貴重な情報源であり、ソフィアの想像上の外の世界を作り上げるための必要な材料であった。
ソフィアが首を振ると、シンシアが嬉しそうに口角を上げ、ぺらぺらと話を始めた。
「レオ王子は、国王様のお叱りを受けた直後だというのに、城を抜け出しては冒険と称して遊び歩いているそうですよ。毎晩お相手の女性も変えているそうで‥。近隣の国々からも笑われているそうです。見た目が端正でも、中身は暴れん坊だとか‥シンシアの耳に入ってくる王子のお噂はどれも酷いものです。ガブリエル様とは正反対のお人柄ですわね」
誰かに聞かれていれば、シンシアの身が危ういほどの王子の悪口。
口の聞けないソフィアを相手にしているからこそ、シンシアは警戒することもなくぺらぺらと王子の悪い噂話を面白おかしく話し続けた。
シンシアの話が好きなソフィアも、まさか王子の悪口がこんなにも続くと思っておらず、多少たじろぎながらもその話を時折頷きながら聞き続けた。
そして、いつもの様子でソフィアに声を掛けながらソフィアの身支度を済ませていく。
「今日は朝から、ガブリエル様がソフィア様の身の回りのことは僕がする!と仰いまして‥」
それが、危うく貞操の危機に繋がる事態だったとシンシアは知らない。それ故、ただただソフィアに羨ましそうな視線を送る。
「あんなにも素敵で、あんなにも位の高い方が尽くしたいと仰るのですから‥ソフィア様も罪なお方ですわ」
うふふ、と頬を赤らめてシンシアはうっとりと言葉を続ける。
「素敵な兄弟愛ですわね。
シンシアは、心まで綺麗なお二人のお側でお仕えできて、本当に幸せです」
そう言い終わる頃には、ソフィアの着替えは終わっていた。
長い髪も、いつものようにまとめてもらう。
長い前髪をセンターから左右に分けてくるくるとねじり、後ろで纏めあげる。これがソフィアの基本のスタイルだ。
ソフィアは、言葉で伝えられない代わりに今日もシンシアに小さくお辞儀をし、感謝の気持ちを伝えた。
国民的大スターであるガブリエル。
一方、ソフィアの存在は謎に包まれていた。
国から認定された『聖女』という肩書きを持つ、唯一の女性‥という噂や、まるで女神のように美しく、全ての男性を魅了してしまうため屋敷から出ない、など様々な噂が飛び交う。
15年前、身寄りがなく修道院で過ごしていたソフィアは、3歳の時に川で溺れたガブリエルを救った。
それを機に、レストール家の娘として迎え入れられ幸せに暮らしていた‥が、ソフィアは8歳の時に一度誘拐され、監禁された過去がある。
そのショックから、ソフィアは声を出せなくなってしまった。
ソフィアを実の娘として愛していたレストール家当主、ハロルド公爵は事態を非常に重く受け止めた。
幼い頃からソフィアの美貌は際立っており、おまけにガブリエルを救った際に国王から『聖女』の認定を受けた白魔法の使い手。
声が戻るまで、ソフィアの口から白魔法が唱えられることはないが、それでも美貌を持つ聖女という肩書きは、それだけで彼女の身を脅かすものになる。
その日以降、ソフィアの身を案じたハロルド公爵は、ソフィアを屋敷の敷地の外に出すことを禁じたのである。
それから10年が経つ。
ソフィアの声は戻らぬまま、ソフィアはレストール家の広い敷地内で、ただ静かにそっと生きてきたのだ。
「あら、ガブリエル様、もうお出かけですか?」
ソフィアの側を歩くシンシアが、ガブリエルに声を掛ける。
その昔、声を出せないソフィアの代わりに、シンシアがソフィアのその「声」になると買って出た。それ以降、シンシアは積極的にソフィアの「声」になってくれていた。
「ああ‥。国王からのお呼び出しでね。
父さんと、城に行ってくるよ。まぁただの話し合いだ」
ガブリエルは、ソフィアと2人きりの時にだけ見せるあの異常なまでの溺愛っぷりを封印し、淡々とそう述べた。
ソフィアとシンシアに微笑みかけた後、颯爽とその場を去って行くガブリエル。
このシーンだけ見れば、ただの爽やかなイケメン紳士である。
「さすがハロルド様と、ガブリエル様‥
国王様もきっとお二人にはお心を開いてらっしゃるのですね」
シンシアが微笑みながらそう言う。
レストール家は貴族の中でも、トップクラスの立ち位置であり、昔から国王との親交が熱い。それ故に、同い年であるレオ王子とガブリエルは幼馴染のような関係を築いていた。ーー15年前のガブリエルが川に流された一件からは、両者の間に少し溝が出来てしまったようだが。
しかし、それは国王やハロルド、そしてその周囲の人々さえ気付かないような、些細なものであった。
「あ、そうだわ、ソフィア様‥
レオ王子の話、お聞きになりましたか?」
シンシアが閃いたようにソフィアに問う。
シンシアの表情はキラキラと輝いていて、シンシアが噂好きだということを再認識させられる。
ソフィアは噂好きというわけではないが、屋敷から一歩も出ないソフィアにとって、シンシアの話は外の世界を知る貴重な情報源であり、ソフィアの想像上の外の世界を作り上げるための必要な材料であった。
ソフィアが首を振ると、シンシアが嬉しそうに口角を上げ、ぺらぺらと話を始めた。
「レオ王子は、国王様のお叱りを受けた直後だというのに、城を抜け出しては冒険と称して遊び歩いているそうですよ。毎晩お相手の女性も変えているそうで‥。近隣の国々からも笑われているそうです。見た目が端正でも、中身は暴れん坊だとか‥シンシアの耳に入ってくる王子のお噂はどれも酷いものです。ガブリエル様とは正反対のお人柄ですわね」
誰かに聞かれていれば、シンシアの身が危ういほどの王子の悪口。
口の聞けないソフィアを相手にしているからこそ、シンシアは警戒することもなくぺらぺらと王子の悪い噂話を面白おかしく話し続けた。
シンシアの話が好きなソフィアも、まさか王子の悪口がこんなにも続くと思っておらず、多少たじろぎながらもその話を時折頷きながら聞き続けた。
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