公爵家のだんまり令嬢(聖女)は溺愛されておりまして

茶歩

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第14話『変装』

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幼い日の思い出が蘇るーーー。


幼すぎる頃の記憶は、もうなかなか思い出せないけど、屋敷の中に籠る前まではレオ王子に何度か会う機会があった。

ガブリエルが何故か嫉妬していて、会える機会は少なかったけど‥


物心ついた頃には、既にレオ王子と気さくに話す間柄だったことを覚えている。





ガブリエルの話では、レオ王子は私を妻にしたいとずっと言っていたと聞いた。


そんなレオ王子が、アダムに扮して救い出しにきてくれたのだ。





シンドラが、背中を優しくさすってくれている。
レオ王子はソフィアとシンドラの向かいで、その様子を優しく見守ってくれていた。



「…信用してくれたかい?」



レオ王子の言葉に、涙を拭いながら頷く。




でも‥レオ王子とガブリエルが仲良かったことを思い返すと、やはり心は痛む。

ガブリエルは取り乱していたから、あの場では庭師に扮するレオ王子に気付いていなかったようだけど‥。



レオ王子は、ガブリエルを傷付けることになるのも覚悟の上でこの逃亡劇をしているんだ。


そう思うと、私もしっかりと覚悟を決めなければ、と決意を新たにしたのだった。









馬車を降りる際、シンドラは深く帽子をかぶり、スカーフで顔半分を隠していた。
屋敷前から出てきた私たちが、こんな闇街で降りるなんて‥と不思議そうな顔をしていたけど、どうやら私たちが王子とレストール家ご令嬢だとは気付かなかったようだ。


「ここは闇街。
文字通り、この国の闇が詰まってるよ」


レオ王子が、少し目を細めながら呟いた。
廃墟が多いかと思えば、まだ日が昇っているというのに、通りの地下からは爆音の音楽が流れていたり、変に色っぽい看板を掲げたお店がやたらと並んでいたり、ほぼ裸のようなお姉さん達が路上で男の人たちに絡んでいる。


そこは、屋敷から出たばかりのソフィアには、少々刺激が強すぎる街並みだった。


レオ王子とシンドラに挟まれながら歩いたおかげで、不思議とそこまで怖いとは感じなかったけど。



誘導されるがまま、狭い路地を歩く。
少しして、看板も何もない扉の前で立ち止まると、レオ王子が扉を叩いた。


「開けろ、俺だ」


しばらくしてから扉が開くと、タバコを加え、無精髭を生やした線の細い男性が出てきた。黒い髪は長く、後ろで一本に結ばれている。



「なんでい、久しぶりじゃねえか」



男はそう言うと、ソフィアを見て目を細め、小さく笑った。


「何となく察したぜい。入りな」


「悪いな。徹底的に頼む」


「任せな。あんたはどうすんだい」


「俺も頼む」



何が何だかわからないまま、レオ王子とシンドラに促され、中に入る。


ソファが1つだけ置かれた、質素すぎる部屋を通り過ぎ、奥の部屋に案内される。



扉が開くと、ソフィアは呼吸をすることを忘れるほどに驚いた。









ーーー真っピンク‥





目がチカチカするほどに眩しい。
壁も床も、濃すぎるピンクだ。ショッキングピンクというのだろうか‥。


そして驚いたのはそれだけじゃない。
夥しい量の服やカツラ、帽子などがズラリと並んでいる。
それは、テカテカしたドレスから、軍服のような服まで幅広く網羅していた。



「ここは衣装部屋なんだよ」


呆然とする私に、レオ王子が言う。


「ほら、お嬢ちゃん。この服あげるから奥の部屋で着替えてきな。あんたはここでいいね、レオ」


「ああ」


渡された衣装を持って、思わずシンドラを見た。
私が今着ているドレスは、後ろで編み上げられているタイプだ。いつもシンシアにやってもらっていたし、こんな難しいドレスを1人で脱げるとは思えない。


シンドラは、心底嬉しそうに微笑んだ。



「ソフィア様、お手伝いさせてくださいませ」


シンドラの柔らかい笑顔にホッとして、私は勢いよく首を縦に振った。












「あら、いいじゃないの」


無精髭の男の人が言う。
レオ王子は、私を見て何故か笑っていた。



ヨモギ色のゆとりあるワンピース。
ところどころに赤い刺繍が施されている。

ワンピースの下にはクリーム色のズボン。白銀の髪を隠すように、頭からすっぽりと巻かれたクリーム色の毛織物。


初めて着る服装に、胸が踊って仕方がない。
体を縛られず、こんなに楽チンな服装がこの世にあったのか‥。そこまでの衝撃だった。



レオ王子も、落ち着いた茶色のゆったりとしたガウンに、白いズボンだ。深く帽子を被っていて、一般市民に馴染めるような格好だった。



「よし、早速だがもう出るぞ」


「もう行くのかい」


「ああ。すぐ足がつくからな」








また新たに馬車に乗り、そこで先ほどの男性について説明を受けた。
名前はジェイクさん。レオ王子がお忍びで行動する時に、頼りになる人なんだそうだ。



「これから何度も馬車を乗り換えて‥だいぶ離れたところまで行かなくちゃいけない。途中仲間も引き連れながらな。だいぶ長旅になるけど‥ソフィア、耐えられるか?」


レオ王子が、まるで子供の頃のような、やんちゃな表情で問いかけてくる。



ーーーレオ王子も、シンドラも‥
私の声を取り戻すためにここまでしてくれてるんだから‥私が耐えなくてどうするんだ。



私は、できる限りの笑顔で頷いた。




ありがとうの気持ちも伝わってくれますように、と願いを込めて。




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