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第21話『ツワモノ』
しおりを挟むレオ王子の整った顔には、無邪気さはなかった。
普段見せないような、鋭い瞳。
「ソフィア様‥大丈夫ですか?」
シンドラが辛そうな表情で、私の背中を撫で続けている。私を覗き込むシンドラに、静かに頷いた。
「ごめんなさい‥
私、何も知らなくて‥。ハロルド公爵がそこまでのことを考えていたなんて‥」
レオ王子は、あくまでも可能性としてハロルド公爵が故意に私を閉じ込めているかもしれないから、と言っていたけれど‥。
この話を聞いてしまえば、それが『可能性』ではなく『断定』としての話なんだと理解できる。
レオ王子は、私がショックを受けない為に‥そこを断定事項として伝えなかったのかもしれない。
「ソフィア‥でも俺、お前の声を取り戻したいし、お前を純粋に自由にさせてやりたい。
俺自身のためにこんなことしてるんじゃない」
「まぁそもそも、ソフィア様を想う気持ちから、ハロルド公爵への疑いが深まっていきましたもんね」
ネロさんがまた口を開いた。
物腰は驚くほど柔らかいのに、レオ王子の静かな怒りにまるで屈しない彼は、相当なツワモノかもしれない。
「貴方‥それ以上レオ王子を侮辱するなら、許しませんよ」
シンドラが怒りの声をあげた。
ネロさんは、おっと、と両手を上げて敵意がないことをアピールしている。
シンドラをよく見ると、瞳の色が金色に変色していた。よくわからないけど、攻撃魔法をするときの兆候なのかもしれない。
「レオ様もシンドラさんも甘いんですよ。俺らが敵に回したのはそれほどの力を持った、それほどの悪いやつ。一緒に争う仲間として、ソフィア様にもしっかり伝えてあげないと。できるだけソフィア様を傷付けずに守り通したいだなんて、そんなの無理ですから。
ソフィア様も、置いてけぼりで漠然と不安な状態より、多少なりとも腹割って共通の敵を見据えられた方がいいでしょう」
ネロさんの言葉は、スッと胸に入った。
ただただ何も分からずに守られているよりも、そっちの方が何倍も良かったからーーー気付けば自然とネロさんの言葉に頷いていた。
「レオ王子、シンドラ‥
私は微力だと思いますが、私にできることは何でもします。ただ何も分からないまま守られているのは嫌です‥。
一緒に、戦わせてください」
「ソフィア様‥」
「‥‥‥‥わかった。
でも、ソフィア。お前が向こうの手に渡ることは、絶対に避けなくちゃいけない」
「はい‥」
「だから、お前を全力で守ることには変わりないけど、そこは全力で守られろよ」
「は、はい!」
レオ王子がようやく笑った。
シンドラも、ホッとしたように笑みをこぼしている。
「さてさて、俺はご飯でも作りますよー。綺麗な瞳のシンドラさん。手伝って貰えますか?」
「え、私ですか‥?」
シンドラはなんとなくネロさんが嫌そうだ。
渋い表情を浮かべている。
「シンドラさんが駄目なら‥ソフィア様!手伝ってください!」
「え?!ちょ、わかりました!私がやるから」
私が返事をするまでもなく、シンドラが物凄く不機嫌な表情でキッチンへと向かっていった。
レオ王子とシンドラの掛け合いを見ていた時は、シンドラがレオ王子を茶化す様子も見れていたけど‥
そんなシンドラをうまく良いように扱うネロさんって一体何者なんだろうか‥。
隣国の没落貴族‥恐ろしい。
キノさんは「見張ってくる」と言って外に出て、ユーリさんは静かに木を削っていた。
ユーリさんが削る木は、ネロさんが使う弓矢になるんだとか。
私とレオ王子は、ソファに座って向き合っていた。
お風呂に入ったりしたかったけど、この声がその間に消えてしまうのは嫌だったから、ソファに座った。
「‥レオ王子」
「ん?」
「私を嫁にしたいと言っていたと聞きました」
「‥‥」
レオ王子の耳は、みるみる赤く染まっていった。
「‥え、えっと、それは、私をレストール家から引き離すためですか?」
なんてことを口走ってしまったんだろうと気付いた私は、急いでその質問の趣旨を変えた。
「‥‥‥そうに決まってるだろ!」
ズキッ。
自分から逃げた質問をしておいて、案の定ショックを受けている。
まさか『好きだから』なんて答えは、ハロルド公爵の話を聞いたあとだし、期待してはいけないと分かっていだけれど‥。
「‥‥あ、あの‥」
「‥なんだよ!」
「‥‥アダムさんと随分とキャラが違いますよね」
「あぁ、まぁな」
「なんでですか?」
レオ王子の中には、本来一切アダムはいないんだろうか‥‥。
「信用させて、連れ出すって言う時に俺のまんまじゃそうもいかないだろ」
「‥‥そうですよね」
「おま‥‥少しは否定しろよ!」
「すみません‥」
あぁ。
私の初恋は‥
偽りの人物像に対してのものだったのか‥。
「文句言いたげな顔だなぁ」
「い、いえ」
アダムに恋をしていました、とは言えない。
ただ、当然のことながら同一人物。レオ王子を見てもアダムを想ってドキドキしてしまう。
なんて複雑な恋心なんだろう‥。
アダムへの恋心を、忘れるしかないのかな。
「念のため聞いておくけど‥」
「はい?」
「ガブリエルのことは男として好きか?」
「いえ」
「ふぅん。
‥ていうかソフィア、俺に敬語使うなよ」
「え‥‥そんな、使いますよ」
「よそよそしいだろ」
「え‥」
「レオたんって呼んでたんだぞ?!」
それは‥覚えているけど‥。
声を失って10年間も屋敷に閉じこもっていた私にとって、突然その頃に戻れと言われたって無理がありすぎる話だ。
何も分からない子どもの頃とは違う。
「命令だからな」
「そんなぁ」
「破ったらレオたんって呼ばせる」
「わ、わかった!わかったから!」
こうして、私はこの瞬間から、レオへの敬語を辞めたのである。
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