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第22話『お酒』

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ネロさんとシンドラが用意してくれた夕飯は、山菜のパスタや鶏肉のグリル、川魚料理など数種類に及び、人里で購入したという様々なお酒もテーブルの上に並んだ。
正直この山小屋でここまでの食事にありつけるとは思っておらず、私は目を輝かせて喜んだ。

ネロさん曰く、今日は団結力を深めるための贅沢メニューらしく、明日以降はもう少し質素になるらしい。



そもそも、こうして沢山の人と食卓を囲み、会話をしながら食事を楽しめる日が来るなんて想像もしていなかった。

私の言葉に、みんなが返事をしたり、笑ったりしてくれる。


こんなに幸せなことがあっていいのだろうか。


数時間後、また声を失ってしまうのが、想像を絶する程に恐ろしくも感じてしまう。




「ソフィア、お前は本来お喋りな奴なんだな」


レオ王子が興奮気味の私を、面白そうに茶化す。


「私自身もびっくりしてる‥
でもせっかくだから喋っておかないと」


正直、レオ王子にタメ語を使うのは気が引けて仕方がない。
だけど、レオたんと言わされるのはどうしても避けたいので、毎回ヒヤヒヤしながらも堪えて話し続けていた。



「ソフィア様、それはお酒ではないですか?!」


しばらくして、シンドラが突然驚いたように声を荒げた。
どうやら、私は知らぬ間にお酒を飲んでいたようだった。確かに、頬は火照り、ドクドクと脈を打っている。


「まぁいいじゃない。この国では18歳から飲んでいいんだし、せっかく会話を楽しめるんだから、お酒の力借りてもっと楽しんだって」


ネロさんがそう言って、私のグラスに更にお酒を足していく。


「ふふふ、初めて飲みました‥美味しいれすね」


舌がうまく回らない。
でも、幸せな気持ちが更に高まっていることには変わりなくて、私は喜んでお酒を飲み進めた。


「ソフィア様、大丈夫ですか?お水持ってきます」


焦ったように立ち上がったシンドラの腕をぎゅっと掴んだ。


「シンドラ、行かないで」


そう言って、ニッコリと微笑む。
ああ、なんて楽しいんだろう。



「ソ、ソフィア様‥」


「わぁ、羨ましいですね、シンドラさん。
ねぇレオ様?」


レオ王子も、だいぶ飲んでいたようだった。
頬を少し赤く染めながら、楽しそうにこちらを見ている。

そういえば、なんとなくレオ王子の視線を感じることが多い。お酒が入っているからかもしれないけど、終始見られていると言っても過言ではないかもしれない。


「あー、面白い。ね、ユーリ、キノ」


そんな様子を見て、ネロさんがクスクスとお腹を抱えて笑っている。
みんな楽しそうで何よりだ。


「ああ、そうだソフィア様」


「なんですか?ネロさん」


「ガブリエル様とどこまでやったんですか?」


ーーーーーはい?!
この人、突然いったい何を‥


「ソフィア様、腕をお離し下さい。
私は一旦あのゲス野郎をぶち殺して参ります」


「シンドラさん目がマジだよ~」



ネロさんは、怖ーいと言いながらもお酒をごくごくと飲み干してにんまりと笑っている。
私はと言えば、シンドラが本気でネロさんをやっつけてしまいそうで、その腕を離さぬようぎゅっとしがみついたままだった。


ガブリエルと私の関係が気になるのかな‥
でも確かに、ガブリエルをも敵に回して行動しているんだから、知っておきたいのかもしれない。


なんだか意識が朦朧としてきて、ふわふわと心地が良くて、視界はぐるぐると蠢いている。
これが正しい判断なのかも分からずに、私は素直に言葉を並べた。


「何度もキスされましたよ。
啄む感じで何度もぉ‥」



そう、拒否権がないのだと受け入れたあの日。
触れるだけのキスを何度もされた。



なんとなくその場の空気が変わったと察する事も出来ないまま、私はそのまま意識を失った。



「レ、レオ王子‥!
ソフィア様は仕方なく受け入れていただけですよ!」


シンドラはオロオロとレオ王子へのフォローを入れている。
レオ王子は、小さく溜息を吐いて立ち上がり、ソフィアの元へと足を運んだ。


「ソフィアを寝室に連れていく。シンドラ、付いてきてくれ。ソフィアの着替えを頼む」


「は、はい」


レオ王子は、ソフィアを軽々と抱き抱えた。お姫様抱っこをされているソフィアは、無表情のレオ王子とは打って変わって幸せそうな寝顔を浮かべている。


「冷静ですねぇ、レオ様」


そう言ってヘラヘラと笑うネロに対し、レオ王子はニッコリと微笑んだ。


「俺が嫉妬する姿見たかったんだろ?
残念だったな、冷静で」


「‥覚悟しておいて下さいね、ネロさん」


ネロをキッと睨みつけるシンドラ。
真面目で忠誠心の強いシンドラにとって、ネロは到底理解できない人種のようだ。


「やめとけ、シンドラ。
取り乱すとコイツ喜ぶだけだから」


「芯からゲスいんですね」


ネロはクスクスと笑って、寝室に向かう3人に手を振り見送った。


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