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第23話『キス』
しおりを挟む夜中に目が覚めた。
頭痛と喉の渇きを感じ、自分が酒に酔って寝てしまったのだと気付いた。
どうやらここは昨日案内された二階の寝室のようだ。廊下からぼんやりと灯りが漏れている。
慣れない環境で目を覚まし、唐突に不安に襲われたけど、数人の寝息が聞こえてきて、少し安堵した。
周囲の人たちを起こさないように、そっと起き上がり、ゆっくりと廊下へ向かう。
階段を降りてリビングに向かうと、テーブルにはネロさんが残してくれていた置き手紙があった。
飲み水の場所や歯ブラシの場所が書かれていて、ネロさんは親切な一面も持ち合わせているんだなぁとしみじみ感じた。
水分補給をして、洗面台に向かう。
鏡に映る自分を見て、いつのまにか着替えていることに驚いた。きっとシンドラが着替えさせてくれたんだろう。朝になったらお礼をしなくては。
洗顔や歯磨きを済ませ、再びリビングのソファに腰を掛けた。
虫の鳴き声だけが響いている。
なんて静かなんだろう。数時間前まで、あんなにも賑やかだったのに‥。
ーーーーそこで、ようやく気付いた。
恐る恐る喉に手を当てて、声を出そうと試みる。
声は、全く出なかった。
ああ。
そっか‥効果が切れてしまったんだ。
数時間前までの幸せな時間を思い返し、胸が張り裂けそうに痛む。会話ができないのが普通だったのに、あんなに楽しい時間を過ごしてしまうと、声を失うことがとてつもなく絶望的に感じた。
ぽろぽろと涙が溢れ落ちる。
シンドラにお礼を言おうと思っていたのに‥言えないや。身振り手振りでちゃんと伝えられるだろうか。
みんなとも打ち解けられそうだったのに、もう会話で親交を深められない。
キノさんが作ってくれた団子は、とても稀少なものだと言っていたし、次にまたいつ声が出せるかは分からない。
声が、恋しい‥。
ギシッと床が軋む音がした。
人の気配に振り向くと、そこにいたのはレオ王子だった。
起こしちゃってごめんね、
そう思っても声は出ない。
ぽろぽろと溢れ続ける涙をなんとか抑えようとするけど、涙は止まってはくれなかった。
レオ王子は、私の気持ちを察してくれているかのように、どことなく辛そうな表情を浮かべていた。
私の隣に腰を下ろし、私をそっと抱き寄せた。
突然の行動に驚いたけど、ぎゅっと抱きしめてくれる安心感に包まれて、私は素直に身を預けた。
「俺が、絶対にお前の声取り戻すから」
そう言って、私の髪を撫でてくれる。
温かな体温、厚い胸板、優しい声。何よりも、やはりレオ王子は私の理解者なのだと改めて感じた。
アダムではないと悲しんでいたけれど、違った。
アダムは紛れもなく、レオ王子の一部だ。
だってこの優しい温もりも、声も、どうしようもなく愛おしい。
「1人で泣くなよ」
そう言って、ずっと私を抱き締め続けてくれる。
声を再び失った悲しさを理解してくれる人がいる、それだけで苦しかった心は随分と癒された。
涙もいつのまにか止まり、私はそっと顔を上げた。
なんて近距離なんだろう。
ああ、どうしよう。心臓が煩い。
それなのに、目を逸らすことができない。
しばらく見つめ合ったあと、レオ王子は私の頬を撫でた。頬にレオ王子の指先が触れるだけで、全神経が頬に集中してしまう。
「嫌なら逃げてくれ」
レオ王子はゆっくりと私に顔を近づけた。
キスをされるんだと気付いたけれど、ガブリエルとのキスとは違い、心臓が馬鹿みたいに暴れていた。
唇と唇が、優しく重なる。
触れるだけのキスだというのに、まるで電気が走ったかのように全身が痺れた。
やがて唇が離れると、レオ王子は頬を少し赤く染めて、切なそうな表情を浮かべていた。
レオ王子に愛されているんじゃないかと錯覚してしまいそうなキスだった。
もっとしたい、
そんな甘い欲に掻き立てられる。
今度は私が、レオ王子の髪に触れた。
柔らかなその髪質を指で楽しむ。ああ、どうしよう。愛しくて仕方ない。
私の頭の中で、アダムとレオ王子がリンクされた途端に気持ちは溢れんばかりに湧き上がってしまった。
レオ王子の鎖骨に頬をペッタリとつけて、その肌の温もりを感じながら、レオ王子の髪を味わっていた指先を、レオ王子の頬に滑らせた。
滑らかな肌触りに、心がまたもや弾んでしまう。
自分がどれほど大胆なことをしているかなんて、この時はそんなこと考えられる理性がなかった。
ただ、レオ王子に触れていたい、それだけだ。
「‥そんなんされると勘違いしそうになる」
レオ王子が、困ったように呟く。
その瞳は揺れていて、なんだか熱っぽかった。
勘違いって、どういう意味なんだろう。
私は、レオ王子に触れる指を休ませないまま、首を傾げた。
「無意識でやってんの?計算?なんなの?
もう知らねぇからな」
レオ王子はそう言うと、すぐに私の唇にキスをした。
今度はただ触れるだけではなかった。私の唇を、レオ王子が舐めている。生温かい舌の感触に、再び全身に電気が走ったような感覚に陥って、私はその官能的な刺激に酔いしれた。
私の上唇と下唇の隙間に、レオ王子の舌が侵入してくる。どうしていいのかわからずに固まっていると、レオ王子の舌は私の歯茎をなぞり、私の舌を見つけると離すまいと言わんばかりに深く絡めた。
呼吸もままならない。このまま私の全てを搾り取られてしまうのではないか、そう錯覚するほどの、情熱的で激しいキスだった。
ようやく唇が離れると、レオ王子は愛おしそうに私の髪を撫でた。
「これ以上すると我慢できない。
ソフィア顔真っ赤」
そう言って笑って、私のおでこにキスを落とす。
『レストール家と引き離すため』と言っていたけど、こうして触れ合うとレオ王子に愛されているような錯覚に陥る。
その感覚がとても心地よくて、幸せで仕方がない。
レオ王子が私を好いてくれているのかは分からないけれど、せめて私の気持ちは伝わってほしい。
そう、願いを込めて‥私もレオ王子の頬にキスをした。
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