25 / 87
第24話『カード』
しおりを挟む頬にキスをしたのが、よほど予想外だったらしい。
レオ王子は耳を赤くして、困ったようにため息を吐いた。
「あああああ」
自分の髪をくしゃくしゃと掻いて、何かに悶えた様子を見せるレオ王子が可愛らしく感じた。
自然と柔らかな笑みが溢れ、そんな私の様子を見たレオ王子も、吊られたように小さく笑った。
「‥‥俺、誰彼構わずキスするわけじゃないからな」
目を逸らしながら、レオ王子がそう呟く。
どうやら、レオ王子は少しシャイなようだ。キスは平気でしてくる癖に、甘いセリフはなかなか面と向かって言えないらしい。
レオ王子が女遊びをしているという噂は聞かされてはいたけど、それはレオ王子を貶めるためのものだろう。
仮にその噂が本物だとしても、レオ王子が嘘をつく人だとも思えない。
私は、レオ王子の言葉に笑って頷いた。
「なんか‥ソフィア急にデレデレじゃない?
なんか変なもの食った?」
レオ王子が戸惑うのも無理はない。
私の中でアダムとレオ王子が結びついて、ストンと胸に落ちてしまったのだから。
声を再び失った悲しさも、レオ王子のおかげで癒された。むしろ、こうして触れ合ったことで幸せを感じている。
このひと時が、いつまでも続けばいいのに‥。
「‥ソフィア、寝たのか?」
レオ王子の腕の中は、とても落ち着いて心地がいい。しばらくその温もりを感じているうちに、私はいつの間にか眠りに落ちてしまったようだった。
「長旅だったし、疲れてるもんな」
朝、聞きなれた声で目を覚ました。
シンドラが心配そうに私の顔を覗き込んでいる。
「ソフィア様、おはようございます‥
上ではよく眠れませんでしたか?」
どうやら、私はあのままソファで眠っていたようだった。私の体には毛布がかけられている。きっと、レオ王子が掛けてくれたんだろう。
「レオ様と何してたんですかねぇ、ソフィア様」
ネロさんが、私にコーヒーを差し出しながら、クスクスと笑みを浮かべている。
ま、まさか、見られていたのかな‥?
「貴方は本当ゲスですね!」
「朝起きたら2人仲良くソファで寝ていたものですから」
よかった‥キスをしているところを見られていたわけではないんだ。
レオ王子も一緒になって眠っていたのかと思うと、それだけで心はきゅんっと弾んでしまった。
「なーなー、ソフィアさんよ」
両手いっぱいに山菜を持ったキノさんが、山小屋に入ってくるなり声をかけてきた。
キッチンに山菜を置くと、何やら紙を何枚も持って近付いてきた。
「俺これ作ってみたんだよね。あの団子はなかなか作れないから、せめて日常的に使えるものを‥と思って」
それは、それぞれの人たちの名前が書かれたカードだった。他にも『ありがとう』『ごめんね』『痛い』などの言葉が書かれている。
「わぁー、さすがキノ!
君こういうところすごく気が回るよね」
つまり、言葉の代わりに伝えたいことを代用できる品だ。
これなら、意思の疎通が取れやすくなるかもしれない。
昔アルファベット表などで、一文字ずつ伝えようとした時は、呪いのせいか手が思うように動かせなかった。
でもこれなら、カードを選ぶだけだ。呪いの影響は受けない。
私は嬉しくなり、早速カードでキノさんに『ありがとう』と伝えた。
「もっと種類増やしてみるからな」
「キノさん、私からも感謝申し上げます。是非お手伝いさせてください」
シンドラも目を輝かせ、喜んでくれている。
私は、レオ王子とユーリさんの名前が書かれたカードを指差して、首を傾げてみた。
「あ、お二人なら今外で剣術の稽古をしています」
シンドラが笑顔で答えてくれる。
こんな質問、今まではすることができなかった。
伝えられることの幅がグッと増えて、私はとても嬉しかった。
シンドラに、服の着替えをありがとうとカードで伝えていた時だった。
「あ、そうだ。このカードも必要だよな。なんか昨日すごいことになってたし。って‥あ、やべ」
キノさんがそう言って差し出してきたカードには、『好き』の文字が。
驚いてキノさんを見ると、気まずそうにぽりぽりと頬を掻いて、どこかへ消えてしまった。
「え、なになになに?!やっぱ何かヤラシイ事してたんですか?!」
ネロさんがこれでもかというほどに興奮している。
「ゲスな興奮はしないでください!」
「だってあのキノの口ぶりじゃあ絶対ヤラシイ事してますよね!ねぇソフィアさん!」
あー、どうしよう。
カードをペラペラとめくってちょうどいい言葉を探すけど、もちろん都合のいい言葉はなかった。
私は首をブンブンと横に振るのが精一杯だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
短編)どうぞ、勝手に滅んでください。
黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。
あらすじ)
大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。
政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。
けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。
やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。
ーーー
※カクヨム、なろうにも掲載しています
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした
暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。
役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。
だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。
倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。
やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。
一方、病の裏で糸を引いていたのは………。
“無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる