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第36話『行き先』
しおりを挟む悶え続けるレオ王子はさておき、一行は明日以降の作戦会議へと話題を変えた。
もちろん、みんなレオ王子を心配していないわけではないが、レオ王子を救う方法がないため、致し方なく‥といったところだ。
「レオ王子、計画通り次の目的地は水の都ポスラでよろしいですか?」
シンドラがそう問いかけると、レオ王子は額に大粒の汗を浮かばせながら、首を縦に振った。
ああ、レオ王子‥なんて辛そうなんだろうか‥。
その肩を抱いて、せめて支えてあげたい。
そんな私の様子を察してか、シンドラは私を手で制した。
「いまレオ王子に近付いては危険です。本来ならば隔離したいくらいなんです。この洞窟内で全員で息を潜めて夜を明かさなくてはなりません‥レオ王子の為にも、せめて今晩はできる限りお離れください」
シンドラの言葉に、私は力なく頷いた。
良かれと思ってやったことだったけど‥その代償はあまりにも大きすぎたようだ。
レオ王子に申し訳なくて仕方がない。
「ソフィアさんよ、あんま気にすんなよ?」
キノさんが自身のふくらはぎを手でマッサージしながらそう呟いた。
「俺は賢明な判断だったと思ってるぜ」
キノさんがそう言うと、続けてユーリさんも頷いた。
「‥‥痛かったろうに、ネロの為にありがとう」
‥よかった。
勢いよく斬りつけすぎて、血が勢いよく溢れ出てしまったけど‥反省するべきはそこだったのかもしれない。
レオ王子に与える血の量がもう少し少なくて済めば‥レオ王子はここまで苦しまずに済んだのだろうから。
「‥ソフィア様、私も感謝しています。
ですが‥出来ればもう二度とその方法は選ばないで頂きたいです。
‥いや、違いますね。ソフィア様がその手段を取らなくて済むように、もっと頑張りますので」
シンドラは、私の手をぎゅっと握ってくれた。
私としては、レオ王子がここまで苦しんでしまうのは嫌だけど、やっと少しでもみんなの役に立てたのなら嬉しい。
でも、自身を傷付けて血を与えるというその行為は、私を守ろうとしてくれてる人にとっては複雑なことなんだろう。
こんなことをしなくても済むように、早く声が戻ってくれれば‥それほどまでに幸せなことはないんだけど。
「ちなみに、私の知識が正しければ、血液を摂取して数時間が一番の山場です。摂取量が多いので、定説通り数時間でこの症状が和らぐかはわかりませんが、明日になればだいぶ落ち着いては来るでしょう」
シンドラの言葉に、ホッと胸を撫で下ろした。
今宵はレオ王子にとってつらい時間になるかもしれないけど、明日になれば症状が和らいで、いつも通りになってくれるかもしれない‥。
「しかし、ガブリエル様を見て分かる通り、この症状の山を越えてもソフィア様を求める衝動はしばらく続きます。くれぐれもご用心ください」
「あははは、
レオ様可哀想~」
ネロさんが、目に涙を浮かべながら、お腹を抱えて笑っている。
レオ王子は、キノさんに布切れを目隠し代わりにして巻いてもらっていた。
「‥ネロ、おまえの為だってこと忘れんなよ。
明日ぶっ殺してやるからな」
はぁ、はぁ、と息を荒げながら、レオ王子は言う。
「亀甲縛りに目隠し‥
おまけに息も絶え絶えで汗まみれかぁ」
ネロさんは、クスクスと笑い転げたままだ。
「ネロさん‥
また氷漬けにしてもいいんですよ」
ネロさんを成敗できないレオ王子に代わり、シンドラがネロさんを睨み付けた。
「俺、シンドラさんになら何されたっていいよ」
「は?!」
シンドラは一気に言葉を詰まらせて、耳を赤く染めていた。
どうやら、やはりネロさんはツワモノらしい。
「まぁ冗談はさておき‥
シンドラさん、機転利かせて助けてくれてありがとう。
ユーリ、ここまで運んでくれてありがとう。
キノ、材料探しに行ってくれてありがとう。
ソフィア様、危険なことさせてしまってすみません。でもおかげで助かりました。ありがとうございます。
レオ様、正直すごく愉快なことになってますけど、ありがとうございます」
作戦会議の途中、ここまでの経緯を聞いていたネロさんは、姿勢を正してみんなに感謝の思いを伝えた。
こうした一面があったりするから、ネロさんはただふざけているだけじゃなく、その隠された本性はきっと真面目なんだろうな、と思ったりする。
キノさんとユーリさんは、きっとそんなネロさんを理解している。キノさんはへへっと照れ臭そうに笑い、ユーリさんも小さく笑みを浮かべていた。
シンドラも、目線は逸らしているものの、しっかりその想いを聞き入れ、受け止めたようだ。
私ももちろん、言葉で伝えられない代わりに、ネロさんに対して微笑んだ。
「ユーリさん、せっかく入り口の扉を作ってくださったのに申し訳ありませんが‥食料や水のことを考えても、明日の朝にはここを離れたいと思います」
シンドラが、ユーリさんに申し訳なさそうにそう告げる。
「‥ああ。気にしないでくれ。俺のは趣味の延長みたいなもんだ」
「ありがとうございます。
足がつかないようにする為にも、リヤカーはこの洞窟内に隠していきたいと思います。恐らく、ユーリさんが作った扉もあるので、うまくいけば洞窟内の痕跡には気付かれないとも思いますので」
シンドラの言葉に、みんなが頷いた。
「ポスラって遠いのか?」
キノさんが難しそうな表情で地図をみながら呟く。
「ポスラは遠いよ~。
俺がいた隣国カーネルとの国境付近だ」
ネロさんがそう言うと、キノさんは少し驚いたように地図を凝視した。
「あー、ここか」
ポスラの場所を発見したらしい。指で距離を図ろうと試みている。
「順調に進めても1週間はかかるかもしれません。
途中船にも乗らなくてはいけないので、どうにかしてお金を稼ぐ方法も見つけ‥‥はっ」
シンドラが思い出したかのように、両手を口元に当て、目を見開いた。
ネロさんは、そんなシンドラの様子を見てクスクスと笑っている。
「シンドラさんよ、どうしたんだい?」
首を傾げるキノさんに、シンドラは深々と頭を下げた。
「ご、ごめんなさい。今日港町で‥私の不注意でゴロツキ達に絡まれてしまって、薬草の売り上げを取られてしまったんです」
そんなことがあったんだ‥。
世の中は、思っている以上に治安が悪いんだなぁ‥
「俺も責任があるよ、ごめんね。キノ」
ネロさんは両手を合わせて首を傾げ、何とも可愛らしく微笑んでいた。
「あー、いいよ全然。あれくらいすぐ作れるし」
キノさんは、にししっと微笑んで快く2人を許していた。
そもそもキノさん‥私よりも歳下に見えるのに、薬草を作れるなんて本当に凄いなぁ‥。
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