37 / 87
第36話『行き先』
しおりを挟む悶え続けるレオ王子はさておき、一行は明日以降の作戦会議へと話題を変えた。
もちろん、みんなレオ王子を心配していないわけではないが、レオ王子を救う方法がないため、致し方なく‥といったところだ。
「レオ王子、計画通り次の目的地は水の都ポスラでよろしいですか?」
シンドラがそう問いかけると、レオ王子は額に大粒の汗を浮かばせながら、首を縦に振った。
ああ、レオ王子‥なんて辛そうなんだろうか‥。
その肩を抱いて、せめて支えてあげたい。
そんな私の様子を察してか、シンドラは私を手で制した。
「いまレオ王子に近付いては危険です。本来ならば隔離したいくらいなんです。この洞窟内で全員で息を潜めて夜を明かさなくてはなりません‥レオ王子の為にも、せめて今晩はできる限りお離れください」
シンドラの言葉に、私は力なく頷いた。
良かれと思ってやったことだったけど‥その代償はあまりにも大きすぎたようだ。
レオ王子に申し訳なくて仕方がない。
「ソフィアさんよ、あんま気にすんなよ?」
キノさんが自身のふくらはぎを手でマッサージしながらそう呟いた。
「俺は賢明な判断だったと思ってるぜ」
キノさんがそう言うと、続けてユーリさんも頷いた。
「‥‥痛かったろうに、ネロの為にありがとう」
‥よかった。
勢いよく斬りつけすぎて、血が勢いよく溢れ出てしまったけど‥反省するべきはそこだったのかもしれない。
レオ王子に与える血の量がもう少し少なくて済めば‥レオ王子はここまで苦しまずに済んだのだろうから。
「‥ソフィア様、私も感謝しています。
ですが‥出来ればもう二度とその方法は選ばないで頂きたいです。
‥いや、違いますね。ソフィア様がその手段を取らなくて済むように、もっと頑張りますので」
シンドラは、私の手をぎゅっと握ってくれた。
私としては、レオ王子がここまで苦しんでしまうのは嫌だけど、やっと少しでもみんなの役に立てたのなら嬉しい。
でも、自身を傷付けて血を与えるというその行為は、私を守ろうとしてくれてる人にとっては複雑なことなんだろう。
こんなことをしなくても済むように、早く声が戻ってくれれば‥それほどまでに幸せなことはないんだけど。
「ちなみに、私の知識が正しければ、血液を摂取して数時間が一番の山場です。摂取量が多いので、定説通り数時間でこの症状が和らぐかはわかりませんが、明日になればだいぶ落ち着いては来るでしょう」
シンドラの言葉に、ホッと胸を撫で下ろした。
今宵はレオ王子にとってつらい時間になるかもしれないけど、明日になれば症状が和らいで、いつも通りになってくれるかもしれない‥。
「しかし、ガブリエル様を見て分かる通り、この症状の山を越えてもソフィア様を求める衝動はしばらく続きます。くれぐれもご用心ください」
「あははは、
レオ様可哀想~」
ネロさんが、目に涙を浮かべながら、お腹を抱えて笑っている。
レオ王子は、キノさんに布切れを目隠し代わりにして巻いてもらっていた。
「‥ネロ、おまえの為だってこと忘れんなよ。
明日ぶっ殺してやるからな」
はぁ、はぁ、と息を荒げながら、レオ王子は言う。
「亀甲縛りに目隠し‥
おまけに息も絶え絶えで汗まみれかぁ」
ネロさんは、クスクスと笑い転げたままだ。
「ネロさん‥
また氷漬けにしてもいいんですよ」
ネロさんを成敗できないレオ王子に代わり、シンドラがネロさんを睨み付けた。
「俺、シンドラさんになら何されたっていいよ」
「は?!」
シンドラは一気に言葉を詰まらせて、耳を赤く染めていた。
どうやら、やはりネロさんはツワモノらしい。
「まぁ冗談はさておき‥
シンドラさん、機転利かせて助けてくれてありがとう。
ユーリ、ここまで運んでくれてありがとう。
キノ、材料探しに行ってくれてありがとう。
ソフィア様、危険なことさせてしまってすみません。でもおかげで助かりました。ありがとうございます。
レオ様、正直すごく愉快なことになってますけど、ありがとうございます」
作戦会議の途中、ここまでの経緯を聞いていたネロさんは、姿勢を正してみんなに感謝の思いを伝えた。
こうした一面があったりするから、ネロさんはただふざけているだけじゃなく、その隠された本性はきっと真面目なんだろうな、と思ったりする。
キノさんとユーリさんは、きっとそんなネロさんを理解している。キノさんはへへっと照れ臭そうに笑い、ユーリさんも小さく笑みを浮かべていた。
シンドラも、目線は逸らしているものの、しっかりその想いを聞き入れ、受け止めたようだ。
私ももちろん、言葉で伝えられない代わりに、ネロさんに対して微笑んだ。
「ユーリさん、せっかく入り口の扉を作ってくださったのに申し訳ありませんが‥食料や水のことを考えても、明日の朝にはここを離れたいと思います」
シンドラが、ユーリさんに申し訳なさそうにそう告げる。
「‥ああ。気にしないでくれ。俺のは趣味の延長みたいなもんだ」
「ありがとうございます。
足がつかないようにする為にも、リヤカーはこの洞窟内に隠していきたいと思います。恐らく、ユーリさんが作った扉もあるので、うまくいけば洞窟内の痕跡には気付かれないとも思いますので」
シンドラの言葉に、みんなが頷いた。
「ポスラって遠いのか?」
キノさんが難しそうな表情で地図をみながら呟く。
「ポスラは遠いよ~。
俺がいた隣国カーネルとの国境付近だ」
ネロさんがそう言うと、キノさんは少し驚いたように地図を凝視した。
「あー、ここか」
ポスラの場所を発見したらしい。指で距離を図ろうと試みている。
「順調に進めても1週間はかかるかもしれません。
途中船にも乗らなくてはいけないので、どうにかしてお金を稼ぐ方法も見つけ‥‥はっ」
シンドラが思い出したかのように、両手を口元に当て、目を見開いた。
ネロさんは、そんなシンドラの様子を見てクスクスと笑っている。
「シンドラさんよ、どうしたんだい?」
首を傾げるキノさんに、シンドラは深々と頭を下げた。
「ご、ごめんなさい。今日港町で‥私の不注意でゴロツキ達に絡まれてしまって、薬草の売り上げを取られてしまったんです」
そんなことがあったんだ‥。
世の中は、思っている以上に治安が悪いんだなぁ‥
「俺も責任があるよ、ごめんね。キノ」
ネロさんは両手を合わせて首を傾げ、何とも可愛らしく微笑んでいた。
「あー、いいよ全然。あれくらいすぐ作れるし」
キノさんは、にししっと微笑んで快く2人を許していた。
そもそもキノさん‥私よりも歳下に見えるのに、薬草を作れるなんて本当に凄いなぁ‥。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる