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第35話『復活』
しおりを挟むレオ王子は、ひたすらに何かに耐えていた。
白魔法のおかげで傷が綺麗さっぱり治った私は、そんなレオ王子の様子を心配げに見つめていた。
何故だかこちらを全く見ようとしないレオ王子。
ネロさんのことだけを見て、荒くなりそうな呼吸を無理矢理細く長く堪えているような様子だった。
「シンドラ‥氷を解いてくれ。
白魔法唱えるから‥」
レオ王子は辛そうに、額に手を当てながらそう漏らした。
私の血を飲むことは、それほどまでに体に負担のかかることだったんだろうか。
レオ王子の姿に、漠然と不安ばかりが押し寄せる。
「‥ユーリ!!」
レオ王子が、大きな声を上げた。
「ど、どうした」
いつも冷静沈着なユーリさんも、そんなレオ王子の様子に戸惑いを隠せずに、少し言い澱みながら返事をした。
「縄!縄あるか?!
頼むから俺を縛ってくれ!頼む!!」
ーーーえ?!
縛るーーー?!?!
事情を察してそうなシンドラだけが、少し青ざめた様子で静かにレオ王子を見守っており、私やキノさんやユーリさんは、ただただ事態を把握することもできずに狼狽えていた。
「‥縛り終えてからにしますか?
氷を解くのは‥」
シンドラが、レオ王子の様子を確認しながら尋ねると、レオ王子はブンブンと首を縦に振った。
ユーリさんがガチガチにレオ王子を縛り付ける。
手足を縛るだけじゃ駄目だったのかなと思ったりもするけれど、レオ王子の心からの頼みに、ユーリさんは全力で答えたらしい。
ユーリさんは手足だけでなく、胴体をも芸術作品といっても過言ではないほどに見事に縛り上げていた。
「‥‥よし、シンドラ‥
氷を解いてくれ‥‥」
レオ王子がそう伝えると、シンドラは静かに頷いて、氷漬けのネロさんに手のひらを当てた。
シュゥゥゥ、と音を立てながら、みるみるうちに氷は溶け落ちていく。
氷が溶け終え、ネロさんの脇腹からまた血が溢れ出した頃、レオ王子は白魔法を唱えた。
ジュワッと音を立てながら、ネロさんの傷口がまるで逆再生をしていくかのように癒えていく。
レオ王子がしばらく呪文を唱え続けると、ネロさんは薄っすらと目を開けた。
「はぁー‥」
そう、ポツリと言葉を落とす。
「ネロさん!」
「ネロ!」
「大丈夫か?!」
みんな口々にネロさんに声を掛けた。
ネロさんはぼーっとしながら辺りを見渡した後、脇腹の傷が癒えているのを手で確認して、ゆっくり起き上がった。
「‥なんだかご迷惑をおかけしてしまったようで」
そう言っていつも通り、軽い感じで周囲に笑いかける。
ホッとしてため息を吐くと、みんな同じ様な反応だった。
「‥あれ?シンドラさん‥」
ネロさんが、目をこすりながらシンドラを見つめる。
「‥なんですか?」
「どうしてその姿みんなに見せてるんですか?!
俺だけが知る姿だったのに!!!」
ネロさんが少し大きな声を上げている。
本気で言っているのか、それとも冗談で言っているのかの判断がつかないところがネロさんの凄いところだ。
「貴方だけが知っている、っていうのが嫌だったので、皆さんに公開することにしました」
そう言って、シンドラは柔らかく笑った。
側から見ても分かるほどのシンドラのネロさんに対する苦手意識は、どうやら今日の2人きりの行動の中で緩和された様だった。
シンドラがネロさんに対してこんなに柔らかく微笑む日が来るなんて、想像も出来なかったのに。
「そりゃないよー、シンドラさん」
ネロさんも、怪我が消えて元気になったおかげか、クスクスと笑い声を上げている。
キノさんもユーリさんも、ネロさんが回復したことに心から安堵の表情を浮かべていた。
一方で、レオ王子は全身を縛られて尚、何かを必死に耐えている様だった。
「レオ様、どうしたんですか?
大丈夫?」
キョトン顔のネロさんが、レオ王子に声を掛ける。
レオ王子は、ふるふると首を横に振って、荒い呼吸を繰り返していた。
「‥ガブリエルが‥どうして‥ああなったか分かった‥」
苦しそうに、ポツリポツリと言葉を落とす。
事情を唯一知ってそうなシンドラは、レオ王子の様子を見て困惑気味に言葉を落とした。
「‥一種の副作用ですよ。
ソフィア様の血を体内に入れたことで、レオ王子の体内に入ったソフィア様の血液が、ソフィア様の元に帰りたいと暴れているのです。
まぁ要約すると、レオ王子はいま、狂ってしまうほどにソフィア様が欲しくて欲しくて堪らないのです」
えええ?!
そんな作用があるなんて‥!
縄で縛り付けないといけないほどの衝動に襲われているんだろうか。知らなかったし、方法がこれしかないと思ったからとはいえ‥レオ王子は今どれだけ苦しんでいるんだろうか‥。
「え、なになに?!
発情期てことですかレオ様!」
ネロさんが、面白そうに大興奮でレオ王子に問いかける。
ちなみに、私とキノさん、ユーリさんの反応は同じ。
口をぽかーんと開けて、青ざめていた。
「だから‥どうして貴方はそんなにゲスいんですか」
「いやいや、だって面白いでしょう」
ネロさんは、ケタケタと腹を抱えて笑っている。
ついさっきまで瀕死で氷漬けにされていたとは到底思えない。
「‥‥一気に飲んだ血の量が、あまりにも多すぎたんですよ。ガブリエル様が摂取していたのは、今回の比べ物にならない程に少なかったはずです」
レオ王子は、頑なに私を見ずに、頬を赤く染めながら悶えている。
一刻の王子が、全身芸術的に縛られながら(亀甲縛り)悶えているのだ。その苦しみは計り知れない。
縛られないと、今すぐに私を襲ってしまいかねない、ということだろうか。
検診が月に一度であったことを考えると、ガブリエルの摂取量ですらこういった症状は1カ月単位で続いていた可能性がある。
じゃあ、レオ王子は一体どれくらいの期間‥?
数ヶ月‥?半年‥?1年‥?!
半強制的に血を飲ませたのは私の方なのに、それまでの間ずっとこちらを見てもらえなかったらどうしよう‥という漠然とした不安に襲われた。
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