公爵家のだんまり令嬢(聖女)は溺愛されておりまして

茶歩

文字の大きさ
36 / 87

第35話『復活』

しおりを挟む


レオ王子は、ひたすらに何かに耐えていた。
白魔法のおかげで傷が綺麗さっぱり治った私は、そんなレオ王子の様子を心配げに見つめていた。


何故だかこちらを全く見ようとしないレオ王子。
ネロさんのことだけを見て、荒くなりそうな呼吸を無理矢理細く長く堪えているような様子だった。



「シンドラ‥氷を解いてくれ。
白魔法唱えるから‥」


レオ王子は辛そうに、額に手を当てながらそう漏らした。
私の血を飲むことは、それほどまでに体に負担のかかることだったんだろうか。

レオ王子の姿に、漠然と不安ばかりが押し寄せる。



「‥ユーリ!!」


レオ王子が、大きな声を上げた。


「ど、どうした」


いつも冷静沈着なユーリさんも、そんなレオ王子の様子に戸惑いを隠せずに、少し言い澱みながら返事をした。



「縄!縄あるか?!
頼むから俺を縛ってくれ!頼む!!」



ーーーえ?!
縛るーーー?!?!



事情を察してそうなシンドラだけが、少し青ざめた様子で静かにレオ王子を見守っており、私やキノさんやユーリさんは、ただただ事態を把握することもできずに狼狽えていた。



「‥縛り終えてからにしますか?
氷を解くのは‥」


シンドラが、レオ王子の様子を確認しながら尋ねると、レオ王子はブンブンと首を縦に振った。



ユーリさんがガチガチにレオ王子を縛り付ける。
手足を縛るだけじゃ駄目だったのかなと思ったりもするけれど、レオ王子の心からの頼みに、ユーリさんは全力で答えたらしい。
ユーリさんは手足だけでなく、胴体をも芸術作品といっても過言ではないほどに見事に縛り上げていた。



「‥‥よし、シンドラ‥
氷を解いてくれ‥‥」


レオ王子がそう伝えると、シンドラは静かに頷いて、氷漬けのネロさんに手のひらを当てた。



シュゥゥゥ、と音を立てながら、みるみるうちに氷は溶け落ちていく。



氷が溶け終え、ネロさんの脇腹からまた血が溢れ出した頃、レオ王子は白魔法を唱えた。



ジュワッと音を立てながら、ネロさんの傷口がまるで逆再生をしていくかのように癒えていく。
レオ王子がしばらく呪文を唱え続けると、ネロさんは薄っすらと目を開けた。



「はぁー‥」



そう、ポツリと言葉を落とす。



「ネロさん!」


「ネロ!」


「大丈夫か?!」



みんな口々にネロさんに声を掛けた。
ネロさんはぼーっとしながら辺りを見渡した後、脇腹の傷が癒えているのを手で確認して、ゆっくり起き上がった。



「‥なんだかご迷惑をおかけしてしまったようで」


そう言っていつも通り、軽い感じで周囲に笑いかける。
ホッとしてため息を吐くと、みんな同じ様な反応だった。



「‥あれ?シンドラさん‥」


ネロさんが、目をこすりながらシンドラを見つめる。


「‥なんですか?」


「どうしてその姿みんなに見せてるんですか?!
俺だけが知る姿だったのに!!!」


ネロさんが少し大きな声を上げている。
本気で言っているのか、それとも冗談で言っているのかの判断がつかないところがネロさんの凄いところだ。



「貴方だけが知っている、っていうのが嫌だったので、皆さんに公開することにしました」



そう言って、シンドラは柔らかく笑った。
側から見ても分かるほどのシンドラのネロさんに対する苦手意識は、どうやら今日の2人きりの行動の中で緩和された様だった。
シンドラがネロさんに対してこんなに柔らかく微笑む日が来るなんて、想像も出来なかったのに。



「そりゃないよー、シンドラさん」


ネロさんも、怪我が消えて元気になったおかげか、クスクスと笑い声を上げている。


キノさんもユーリさんも、ネロさんが回復したことに心から安堵の表情を浮かべていた。



一方で、レオ王子は全身を縛られて尚、何かを必死に耐えている様だった。



「レオ様、どうしたんですか?
大丈夫?」


キョトン顔のネロさんが、レオ王子に声を掛ける。



レオ王子は、ふるふると首を横に振って、荒い呼吸を繰り返していた。



「‥ガブリエルが‥どうして‥ああなったか分かった‥」


苦しそうに、ポツリポツリと言葉を落とす。
事情を唯一知ってそうなシンドラは、レオ王子の様子を見て困惑気味に言葉を落とした。


「‥一種の副作用ですよ。
ソフィア様の血を体内に入れたことで、レオ王子の体内に入ったソフィア様の血液が、ソフィア様の元に帰りたいと暴れているのです。
まぁ要約すると、レオ王子はいま、狂ってしまうほどにソフィア様が欲しくて欲しくて堪らないのです」




えええ?!



そんな作用があるなんて‥!
縄で縛り付けないといけないほどの衝動に襲われているんだろうか。知らなかったし、方法がこれしかないと思ったからとはいえ‥レオ王子は今どれだけ苦しんでいるんだろうか‥。



「え、なになに?!
発情期てことですかレオ様!」


ネロさんが、面白そうに大興奮でレオ王子に問いかける。
ちなみに、私とキノさん、ユーリさんの反応は同じ。


口をぽかーんと開けて、青ざめていた。



「だから‥どうして貴方はそんなにゲスいんですか」


「いやいや、だって面白いでしょう」


ネロさんは、ケタケタと腹を抱えて笑っている。
ついさっきまで瀕死で氷漬けにされていたとは到底思えない。



「‥‥一気に飲んだ血の量が、あまりにも多すぎたんですよ。ガブリエル様が摂取していたのは、今回の比べ物にならない程に少なかったはずです」



レオ王子は、頑なに私を見ずに、頬を赤く染めながら悶えている。
一刻の王子が、全身芸術的に縛られながら(亀甲縛り)悶えているのだ。その苦しみは計り知れない。
縛られないと、今すぐに私を襲ってしまいかねない、ということだろうか。


検診が月に一度であったことを考えると、ガブリエルの摂取量ですらこういった症状は1カ月単位で続いていた可能性がある。


じゃあ、レオ王子は一体どれくらいの期間‥?
数ヶ月‥?半年‥?1年‥?!


半強制的に血を飲ませたのは私の方なのに、それまでの間ずっとこちらを見てもらえなかったらどうしよう‥という漠然とした不安に襲われた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした

暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。 役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。 だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。 倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。 やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。 一方、病の裏で糸を引いていたのは………。 “無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

処理中です...