公爵家のだんまり令嬢(聖女)は溺愛されておりまして

茶歩

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第34話『役に立ちたい』

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シンドラは洞窟の外で、私たちが来た道の方向に意識を集中させている。この地形からして、ここまでたどり着くには私たちが歩んできた獣道しかないと踏んでのことだろう。


ユーリさんはシンドラと同じく、周囲に警戒しながらも細い枝を切り集めており、どうやら少しの間過ごす洞窟内を少しでも快適なものにしようと試みているようだった。


私はと言えば、夜みんなが少しでも眠りにつけるよう、クッション代わりの落ち葉を集めていた。


私がレストール家の手に及べば、ここまでのみんなの苦労が水の泡になってしまう。それどころか、レオ王子を始めとした、みんなの命が保証されない。


だけど、私だけがお荷物だ。
何の役にも立てない無力さが、この胸を虚しく占拠する。



あっという間に日が落ちてきた。
地面が固かったおかげで、リヤカーの轍はあまり目立たなかったが、リヤカーを引くユーリさん以外のみんなで、落ち葉などで轍を消しながら歩いたおかげか、追っ手はまだ現れなかった。

山道はけして一本道ではない。
それも、追っ手がまだ現れない要因かもしれない。



ユーリさんに辺りの警戒を任せ、シンドラが洞窟内に入った。半刻ほど前から、2人に洞窟内にいるように言われていた私は、素直にその要望を受け入れ、ネロさんの隣に腰掛けていた。


シンドラは、リュックの中から一冊の分厚い本を取り出し、ロウソクの灯りを元に、その目に焼き付けるようにしてその本に目を通していた。


どうやら、魔法書の一種のようだ。
レストール家には魔法書は一切置かれておらず、私はその書物に興味を持った。
シンドラの隣に腰を下ろし、シンドラの邪魔にならないようにしながら中身を覗き見た。



「ふふ、ご興味がお有りですか」


シンドラの言葉に頷いた。
やはり、白魔法の使い手が少ないことからか、中身は黒魔法に関しての記載がメインだったようだ。


「白魔法に関しても書かれているんですよ」


シンドラが、優しく微笑む。
今日初めて見たシンドラの真の姿。


小柄なのに、その瞳に宿す力は強くて、私はシンドラの本当の姿を見ることができたことが堪らく嬉しかった。
ヴェールに包まれた芯の部分に触れることができたような、不思議な気持ちだ。


シンドラが、ペラペラとページをめくり、折り込みがつけられたとあるページが顔を出した。


もしかしたらレオ王子と、ガブリエルの白魔法に関しての検討を行う為に注視されていたページなのかもしれない。

白魔法の唱え方、種類など、薄く広く記されたそのページに、私は釘付けになった。



そもそも、私は言葉を発することができていた頃‥歌を歌うことで白魔法を唱えていた。

この魔法書によれば、唱え方は自由であり、決められたフレーズさえ入っていれば、歌でも言葉でも、詠唱されるのだと記されていた。
振り返ってみると、ガブリエルは歌ではなく詠唱だった。




そして、その詠唱に必要な呪文のフレーズが、この魔法書に記されている。






私は、まるで頭の中で一本の線が繋がったかのように、ハッととある考えを思いついた。



そして、日が暮れた頃、全員が洞窟内に集結した。




「いやぁ‥ほんと、厳しいわ」


レオ王子が頭を抱えてそう呟く。
苦しそうな表情を浮かべるのは、キノさんも同じだった。


「‥むしろ、キノさんがあの団子を作れたことが本当に偶然と言ってもいいくらいのことだったんですね」



山小屋から持ち出した果物を口にしながら、みんなでロウソクを囲み、作戦会議をする。


下に敷かれた落ち葉のクッションのお陰で、意外と座り心地は悪くない。
ユーリさんが切っていた細かい枝は、釘や麻の紐で枝の集合体を作り、そこに葉がついた木を幾重にも重ねて差し込んで、洞窟の入り口の扉と化していた。

洞窟の周りは木々が生い茂っているため、この扉は良いカモフラージュになっている。

ロウソクの光が漏れる心配もなく、追っ手の目をくらませるには最適だった。





私は、ドクンドクンと煩い心臓を無理矢理落ち着かせ、みんなにどうしたら私の提案が伝わるのか悩みに悩み抜いていた。


シンドラの魔法書を借りて手に取り、白魔法のページを開く。





かなりの強硬手段になるけど、これしか方法はない。
3日しか猶予がないのに、花の種が見つかる気配もない。それに、材料は花の種だけじゃない。
珍獣ランブルの尻尾も必要なのだ。

それに、追っ手が迫っている中、3日しか猶予がないのに、その3日間すら保証はされない。




私は、シンドラのリュックに魔法書と共に入っていた短剣を手に取った。



「ソフィア様?」


「どうした?ソフィア」


キョトンとするレオ王子とシンドラを横目に、私は自分の左腕を思いっきり斬りつけた。



「は?!おい!!どうしたんだよソフィア!!」


レオ王子の大きな声が響く。


シンドラやキノさん、ユーリさんは私の奇行に声を上げることすらできなかった。



ツーン、ヒリヒリ。
そんな言葉だけでは言い表せないほどの深い傷。
ドクドクと血が溢れ出し、熱く燃えたぎるように傷口が痛んだ。


溢れ出す血を右手ですくい取りながら、左手をシンドラにグッと差し出す。


白魔法の呪文が書かれた魔法書のページ。
これで察してくれるでしょう。



「‥血を飲んで‥‥代わりに白魔法を?」


さすがは魔法使いであるシンドラ。
私の考えを理解してくれたらしい。


コクリと頷いて、更にグッと腕を差し出す。



「‥‥黒魔法の使い手は、呪文がわかっていたとしても白魔法を唱えられません。私以外の誰かでないと」


ぼたぼたと、受け皿がわりの右手から血が溢れ出す。
シンドラが駄目なら、誰か‥早く。



「何馬鹿やってんだよ!」


レオ王子が、怒った表情で私の右手首を掴み、半ば強引にその口元に持っていった。そして、手のひらに溢れかえる血をごくごくと飲み込んでいく。右手のひらの血を飲み干すと、左腕からとめどなく溢れる血も、傷口に直接口を付けて、むしろ吸い取るかのように吸収していった。


血を吸い取りながらも、レオ王子は横目で白魔法を確認し、私の傷口から唇を離した時、回復魔法で私の傷口を綺麗さっぱり消しさった。



「‥あー‥やばい‥」


何か燻っているような、そんな様子を見せるレオ王子。
己の体を己で抱き締めるように腕を体の前で交差させている。


何かを耐え抜くようにして、一呼吸置いた。



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