公爵家のだんまり令嬢(聖女)は溺愛されておりまして

茶歩

文字の大きさ
34 / 87

第33話『崖と洞窟』

しおりを挟む


氷漬けのネロさん。左脇腹は、氷越しでも痛々しく負傷していることがわかる。

この場で、白魔法を唱えられるのは私しかいないのに‥
それが叶わないもどかしさが辛い。

屋敷に籠ることになる前までは、ハロルド公爵に連れられて、ガブリエルと共に負傷した市民を癒すことはあった。
屋敷に籠るようになってからは、人を救える機会なんてなかった。

今こうして、ネロさんと対面して、自分がやっと人の役に立てるという場面だというのに‥



「‥すみません。
私の詰めが甘かったです」


悔しそうな表情を浮かべるシンドラは、とても小柄で、金髪がよく似合う可愛らしい姿だった。
左半身の痣を隠す為に、変身魔法を使っていたのかな。その変身魔法を解がなくてはいけないほどの出来事。
ネロさんがここまでの負傷をして、やっと追われるということはどういうことなのか実感が湧いた。



荷物をまとめ終えた頃、キノさんとユーリさんが山小屋に帰ってきた。
恐らくユーリさんから事情を聞いていたキノさんは、シンドラと氷漬けのネロさんを見て驚いたものの、すぐに状況を飲み込んだ。


「団子の原料の花の種はここより山奥に行かないとないんだ。だけど、そこまでネロをどうやって運ぶかが問題だな。
むしろ、山奥まで行ったのにも関わらず、花の種がない可能性もあるんだよ」


キノさんが苦しそうな表情でそう呟いた。


「でも方法がそれしかないなら仕方ないだろ。
行けるとこまで行って、どこかベースの場所を見つけよう」


レオ王子の言葉に、みんなが頷いた。


各々必要最低限の物資を詰め込んだリュックを背負い、元々山小屋の外に置いてあった木製のリヤカーに氷漬けのネロさんを縄で固定して乗せた。
ちなみに、リヤカーの床はユーリさんが即席で更に長い木の板を打ち付けて、ネロさんのサイズでも乗るようにされてある。


幸い数日間雨が降っておらず、地面はぬかるんでいないものの凹凸が目立つ。人1人乗せたリヤカーを引くには酷な地面だった。

シンドラは追っ手を警戒してか、変装を解いたままの姿だった。シンドラの話によると、追っ手はただの人間だけではなく魔法使いも含まれる。
急ぎ足で山道を進むも、背後からの追っ手を気にせずにはいられなかった。


「この氷はだいたい3日で解けます。
もう一度魔法で凍らせるには、ネロさんの体への負担が多きすぎます」


シンドラが、言いにくそうにそう告げた。
つまり、3日以内に白魔法でネロさんを回復させなければならないということだ。


「‥これ以外に方法はなかったの?」


材料を見つける難しさを知るキノさんが、少し責めるような口調でシンドラに思いをぶつけた。


「この他に、仮死状態としてその症状を止められる魔法は、石化のみです。石化は、氷漬けと違いタイムリミットはありませんが‥ネロさんそのものを石にしてしまいます。何か衝撃を受けて石が欠けた際、ネロさん本人も欠けてしまうんです。ヒビが入ってもそれは同じ‥」


こんな険しい山道を進まなくてはならない中、ネロさんの体は案の定ガタガタと揺れ動いている。追っ手もいつ現れるかわからない。
石化されたネロさんを完璧な状態で元に戻す保証はないと判断したうえで、氷漬けにするしかなかったのだろう。


シンドラの説明に、キノさんは押し黙った。
ただただ悔しそうに、ぎゅっと拳を握り締める。



どうか、材料が見つかりますように。
そう強く願うばかりだ。


数時間歩き続けると、人1人通れるかどうかの細い道が続く崖が姿を現した。



「すげーな‥」


好奇心旺盛なレオ王子すら、度肝を抜くような切り立った険しい崖。ヒュオーーー、と嫌に冷たく勢いのある風が私たちを試すかのように吹き荒む。


「ここからはこの崖の道を行くしかない。近くに拠点を見つけて、別れて行動しないと」


キノさんの言葉に、みんなが頷いた。


「‥少し戻ったところに洞窟があったぞ」


静かにリヤカーを引いていたユーリさんの言葉に、レオ王子は晴れた表情を見せた。


「じゃあそこに向かおう!」


10分ほど歩いて戻ると、木々の合間を縫って深く抉れた洞窟が顔を見せた。とは言っても、あると思って探し見たから見つかっただけであり、普通に見渡すだけではなかなか発見は難しい。
ユーリさんの観察力の凄さを思い知らされた。


洞窟内部は薄暗くジメジメしていたが、奥行きはそこまであるわけではなく、何か動物が潜んでいる気配もなかった。
ロウソクに火を灯し、リヤカーごと洞窟内部に隠し入れる。


「シンドラとユーリは、この洞窟内でソフィアとネロを守っていてくれ。俺とキノで材料を探し出すから」


そんな‥私も‥と言いたいところだが、屋敷内でしか歩いていなかった私の足は、ここまでの道のりでズタボロになっており、靴を履いた状態でも足の皮がずるりと剥けていることが分かっていた。

無理矢理付いていった所で、守らなくてはならない対象がその場にいれば、材料探しに集中することもできない。

自分の非力さを改めて思い知らされたが、ここは静かにこの洞窟内にいることが賢明なのだと飲み込んだ。



「‥俺も行く」


ユーリさんが、辛そうな表情でレオ王子にそう告げると、レオ王子はユーリさんの背中をポンっと力強く叩いた。


「追っ手は崖の先まで来るとはなかなか思えない。でも、この洞窟までなら来れる可能性がある。
ユーリは、何が何でもここで3人を守り通してくれ。
‥そもそも図体のデカイお前があの崖を無事に通れるとは思えない」


レオ王子は、そう言ってニシシ、といたずらっ子のような表情で笑った。

ユーリさんは、しばらくの沈黙の後、納得したように静かに頷いた。


「シンドラは崖を通れるかもしれないけど、ユーリと同じ理由だ。追っ手に魔法使いがいるなら尚のこと、お前はここでみんなを守っててくれ」


「はい。この命に代えても」


シンドラの瞳は、真っ直ぐにレオ王子を捉えていた。
その瞳と、その口調から、相当な覚悟を感じ取れる。

ネロさんを守りきれなかった悔しさが、より一層シンドラを追い立てているのだろう。


「ソフィアは、絶対に捕まらないこと。
絶対だぞ。ソフィアがいなくちゃ全て無駄になるんだから」


レオ王子は、そう言って私の頭の上に手を乗せた。



全力で守られろよ、
以前言われたその言葉が思い出される。


私が力強く頷くと、レオ王子は優しく微笑んで、キノさんとともに洞窟を後にした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

処理中です...