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第48話『ゼン』
しおりを挟む子供の姿に扮したシンドラは、早速街を練り歩いていた。
客である旅人や商人達に『見せない・聞かせない』地元民ならではの情報が、手に入りやすいからだ。
かといって、子供の姿では酒場には入れない。
どこから情報を得ようかときょろきょろしていると、店が連なる通りから脇道に入ったところで、子どもたちが戦いごっこをしている様子が目に入った。
近くには井戸もあり、どうやらこの街の住民である女達が井戸端会議をしている。
ーーーしめた。
シンドラはタッタッタッ、と無邪気に駆け寄った。
ここまで広い街ならば、見たことのない子どもがいてもそう不審には取られないだろう。
「あらあんたどこの子だい」
ふくよかな女性に尋ねられ、シンドラは無邪気に微笑んだ。
「おじいちゃんに会いにきたの。
街の北側から来たのよ」
そう言うと、ふくよかな女性は「そうかい」と返事をして再び井戸端会議を始めたが、思い出したかのようにまたシンドラに声をかけた。
「あんたのおじいちゃんは大丈夫なのかい?」
シンドラは、この一言で「何か」が起こっているのだと勘付いた。
「うん‥今のところ」
まるでこの街の現状を知っているかのような口ぶりで俯くと、ふくよかな女性は言葉を続けた。
「そうかい、それなら良かったねぇ。
お医者さんでも原因が分からないらしいからねぇ。困ったもんだよ、お客が寄り付かなくなっちまう」
ふくよかな女性の井戸端会議仲間である女性も、困ったように頷いた。
「マチルダも患ったみたいね」
「そりゃあセールさんも心配だわねぇ」
ーーー患った、ということは何かの病が蔓延しているんだろうか。客の目を気にしているうえ、この街全体がまだその病で騒ぎたっていない様子から、あくまでもまだ小規模の範囲なんだろう。
シンドラは、ふいに戦いごっこをしている子どもたちに目をやった。
この子たちは元気そうだ。
7歳~10歳くらいの男の子3人が、木の枝をパシパシとぶつけ合っている。
その中の、一番背が高く、何やら気の強そうな男の子がシンドラに歩み寄ってきた。
「おまえ本当にこの街の子かよ!」
「‥そうだけど」
「じゃあ俺の事知ってんのかよ?!」
ーーー思わぬ強敵の出現だ。
この街のガキ大将かなんかだろうか。
ややツリ目の、猫のような大きな双眼が、シンドラの瞳を離すことなく捉え続ける。
「え、えっと‥」
素直に知らない、と言っても大人たちは気にしないだろうが、子どもには子どもの侮ってはならないネットワークが存在したりする。
まぁここでこの子どもたちとの駆け引きに失敗したところで、また姿を変えればいいだけだし、別に痛くも痒くも‥‥
「おい、ゼン‥
その子北側から来たって言ってたじゃん‥」
少し丸みを帯びた、優しそうな男の子がその気の強そうな男の子に声を掛けた。
ーーーゼン、って言うのか。
「‥‥‥この街でいちばん強くてかっこよくて‥
みんなのリーダーのゼンでしょ‥?」
こうなりゃ賭けである。
少し自信なさげに、ペラペラとゼンが喜びそうなワードを並べてみた。
「なっ!」
ゼンの目がさらに見開き、じわじわと口元が緩み、頬が紅潮していく。
「北側でも聞いたことあるよ、ゼンの名前」
ゼンはもう完全な笑顔を見せた。
シンドラの肩を嬉しそうに抱き、「お前の名前は?!」と聞いてくる。どうやら子どものネットワークに侵入することに成功したようだ。
「私の名前?
私は‥メリーよ」
壁に貼られた、古い広告に“メリー”の文字があったのだ。何を隠そう、以前どこかの街で子どもの姿を装った時には、『マチルダ』と名乗っていたのである。
それが今回、マチルダはもう登場しているのだ。
「メリー、お前マチルダも知ってるか?」
そう言って、ゼンが遠くの建物に目線をやっている。
少し心配そうに、口を尖らせているゼンの様子から、シンドラの女の勘が働いた。
「‥街で一番かわいいマチルダでしょ?」
これも賭けである。
だけど、ゼンがマチルダを可愛いと思っていれば、『街で一番』じゃなかったとしても通用するのだ。
「おー、知ってるんじゃん!」
ゼンが嬉しそうだ。
やっぱり‥恐らくゼンはマチルダを好きなのかもしれない。なんとなく、そんな気がするのだ。
もうだいぶ昔、レオ王子がソフィア様とまだ遊べていた頃‥レオ王子はこんな表情をしていたのだ。
そのマチルダも、病を患ったと言っていた。
なんの病なんだろうか?
感染症‥であればもっと騒いでいそうだけれど。
「メリーも心配か?」
「うん‥。街で一番かわいいマチルダに会ってみたかったから‥」
ゼンが閃いたように、目を輝かせた。
井戸端会議の女性たちに聞かれぬよう、シンドラの耳元に口を近づけ、小さな声で囁いた。
「マチルダのとこ行くか?」
ゼンの言葉に、シンドラはすぐに頷いた。
どんな病で、なにが原因なのか。
少しでも情報を掴まなくては、一国の王子をはじめとした仲間たちに、危険が迫ってしまう。
「母ちゃん俺たち便所ー」
ゼンがそう言うと、女性達は特にこちらを見ることもなく、「はいはい行っといでー」と口にした。
女性達に嘘をついてマチルダの元へ向かうということは、一応接近を止められているのかもしれない。
ゼンや、そのほかの子どもたちが「付いて来いよ!」と走り出す。シンドラは、子どもたちの後を追いかけて走った。
レンガ造りの古い建物が並ぶ。
密集された住居の窓からは、色鮮やかな洗濯物が風に靡き、こんな裏通りでも人通りが多く、活気のある街であることが伝わってくる。
「ここだぜ!」
ゼンがとある住居の前で立ち止まった。
どうやら玄関から入るわけではないらしく、路地に面した窓から中を覗き込んだ。
可愛らしい小柄な女の子が、ベットに横になっている。
マスクを付け、額には大粒の汗が浮かんでいた。
「よし、入るぞ」
ゼンはそう言うと、窓を開けて中へと侵入した。
ゼンやシンドラたちが侵入した物音により、マチルダが薄っすらと目を開けた。
「‥‥ゼン‥」
マチルダが力なく呟く。
なんて弱々しい声なんだろう。
シンドラは、マチルダのマスクをズラした。
そして、マチルダの紫に染まった唇を見て、眉を顰めた。
「マチルダ、メリーっていうんだ、こいつ。
その‥お前に会ってみたいって言うから」
ゼンが少したどたどしく話す。
予想以上に弱ったマチルダの姿に動揺しているのかもしれない。
「お前昨日よりすごく具合悪そうだな」
ゼンが心配そうにそう言うと、マチルダは静かに頷いた。
喋るのも辛そうだ。
まぁ、それも無理はないだろう。
これは病気ではない。
シンドラは、マチルダの顔に手をかざし、解毒魔法を唱えた。
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