80 / 87
第78話『繋がった今』
しおりを挟む私は、湖に浮かんだまま‥
しばらく嗚咽が止まらなかった。
ネロさんの気持ちを考えたら、涙はもう止め処なく溢れてしまう。
最初から私を知っていた。
むしろ、私を求めていた。
でも、それと同様にユーリさんの死も近付いていく。
私はそんなネロさんの心を知ることもなく、突き放す言葉ばかり投げかけていた。
あの時‥初めて素顔を見せた時。
どうして私を見て綺麗だと言ったのか。
天使だと言ったのか。
「うぅっ‥ごめんなさい‥ネロさん‥」
ネロさんは、レオ王子を守ると‥
とっくに覚悟を決めていた。
だから、ユーリさんの死の後も‥変わらず私たちといてくれている。
それは私との過去があったからなのに‥
私はしばらく泣き通した後、意を決して家に戻った。
心細くレオ王子の側に居続けるソフィア様は、どうやら疲れて眠ってしまったらしい。
ベッドの脇のソファに横になるソフィア様の体には、毛布が掛けられていた。掛けたのはきっとネロさん。
そんな些細な優しさも、時折見せる寂しそうな表情も、私から敢えて距離を置こうとする姿も。
ああ、ユーリさん‥貴方の言うとおりでした。
ネロさんは、繊細で、寂しがり屋‥
その『繊細』と『寂しがり屋』は、私が引き金になってしまったのかもしれないけれど。
早く‥ネロさんに伝えたい。
やっと、貴方の過去に会えましたと。
やっと貴方に追いつけましたと‥。
奥の方から物音がして、ネロさんが顔を出した。
相変わらず目の下のクマは健在で、いつもの飄々さは見られない。
辛い未来の真っ只中、そんな感じだ。
「‥こんな時間に出て行ったと思ったら‥なんで泣いてるんですか」
そう言いながら、ネロさんはコップに水を汲んだ。
コップに口を付けるネロさんに、私はひと言告げた。
大切なひと言を。
「‥‥喰われてきました」
「は?」
ネロさんはぽかんと口を開いたまま。
喰われたの意味がわからないらしい。自分で言っていた言葉のはずなのに。
まぁネロさんからすればあれからかなりの年月が経っているはずだから、無理もないかもしれないけど。
「‥‥随分と待たせてしまってごめんなさい。
会ってきたんです、今。子供の頃の貴方に」
「‥‥」
「待っていてくれて‥ありがとうございました」
約束通り、レオ王子の側にいてくれた。
そして、ユーリさんが居なくなってしまったあとも、こうして側にいてくれている。
それは、ネロさんが約束を守り通してくれていたからでしょ?
「‥‥っ、~~~」
ネロさんは瞳を揺らし、その端正な顔立ちを片手で覆い隠した。
やはり面影がありすぎる。
継母からどうやって逃れたのかはわからない。
1つ言えるのは、今日この日まで‥ネロさんは沢山傷付いてきたということ。
「‥‥どうやって?」
それは、突然私が過去に飛んだことに対する疑問だろう。
「この懐中時計です」
「‥‥」
「ネロさんの過去に飛んだ時、『いつ』に飛ぶか設定されていなかったこの時計に、私が魔法をかけたんです。『ネロさんの過去』に飛べるように」
ネロさんは何とか状況を理解しようとしているのか、やたらと瞬きをしている。
「‥シンドラさんが急に覚醒したってことだけでも頭が追い付いてないんですけど‥」
「覚醒って」
何なんだその表現は。
「ちょっと今これ以上考えられないけど‥
とりあえず‥」
どうやらネロさんは考えるのを辞めたようだ。
小さくフゥと息を吐いて、私の右手をおもむろに握る。
突然のことに驚いて私は右手を引っこ抜こうとしたけど、ネロさんは私の手を離してくれない。
ついさっき私の初めてを奪ったネロさんと、力の強さも手の大きさもまるで違う。
「ちょ、なんですか急に」
ジリジリと後退りをすると、ネロさんもジリジリと距離を詰めてくる。
トンッと背中が壁につき、逃げ場がなくなった私はネロさんを見上げた。
あー、本当‥眠れてないんだなぁ。
クマが酷いし、何よりも疲れている表情‥
‥それなのになんなんだ、この状況は。
「‥やっと眠れそう‥‥」
ネロさんがそう言って、私の背後にある壁におでこを付けた。
おかげで私の顔面はネロさんの胸元に押し付けられている状況だ。
細長い印象だけど、案外胸板がある。
って、今はそんなことを思う状況じゃない!
「こ、ここで眠らないでくださいね」
「当たり前でしょ。隣で寝てよ」
「ちょっ!貴方はなんで急にそんなっ!」
ネロさんの過去と今の私が繋がったとしても、それにしても事態が早急すぎるし、なんたって私の股はヒリヒリしているし、お互いにそんな愛欲染みたテンションになんかなれるわけないっていうのに!
「手、繋いで寝てください」
「へ?」
頭上から降ってきた言葉は思いのほか可愛らしいもので、私はネロさんの胸に埋まった頭をもぞもぞと動かして、彼を見上げた。
少しだけ見えたネロさんの耳は、ほんのり赤く染まっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー♦︎
ーーーーーお知らせです!
まだトータル4~5万字程ですが、書き溜めていた小説を公開し始めました。
『サイハテの召喚士』というお話です。
一応王道ファンタジー風です。
書き溜めていたものなのでしばらくは毎日更新です。よかったら見てください!
こちらのお話も、不定期更新ですが変わらず細々と書いていきます。ゆっくり長ーく続いていきますので、今後ともよろしくお願いします。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
短編)どうぞ、勝手に滅んでください。
黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。
あらすじ)
大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。
政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。
けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。
やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。
ーーー
※カクヨム、なろうにも掲載しています
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる