公爵家のだんまり令嬢(聖女)は溺愛されておりまして

茶歩

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第78話『繋がった今』

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私は、湖に浮かんだまま‥
しばらく嗚咽が止まらなかった。

ネロさんの気持ちを考えたら、涙はもう止め処なく溢れてしまう。

最初から私を知っていた。
むしろ、私を求めていた。


でも、それと同様にユーリさんの死も近付いていく。


私はそんなネロさんの心を知ることもなく、突き放す言葉ばかり投げかけていた。


あの時‥初めて素顔を見せた時。
どうして私を見て綺麗だと言ったのか。

天使だと言ったのか。




「うぅっ‥ごめんなさい‥ネロさん‥」



ネロさんは、レオ王子を守ると‥
とっくに覚悟を決めていた。

だから、ユーリさんの死の後も‥変わらず私たちといてくれている。
それは私との過去があったからなのに‥



私はしばらく泣き通した後、意を決して家に戻った。



心細くレオ王子の側に居続けるソフィア様は、どうやら疲れて眠ってしまったらしい。
ベッドの脇のソファに横になるソフィア様の体には、毛布が掛けられていた。掛けたのはきっとネロさん。


そんな些細な優しさも、時折見せる寂しそうな表情も、私から敢えて距離を置こうとする姿も。


ああ、ユーリさん‥貴方の言うとおりでした。
ネロさんは、繊細で、寂しがり屋‥

その『繊細』と『寂しがり屋』は、私が引き金になってしまったのかもしれないけれど。



早く‥ネロさんに伝えたい。
やっと、貴方の過去に会えましたと。

やっと貴方に追いつけましたと‥。



奥の方から物音がして、ネロさんが顔を出した。
相変わらず目の下のクマは健在で、いつもの飄々さは見られない。

辛い未来の真っ只中、そんな感じだ。



「‥こんな時間に出て行ったと思ったら‥なんで泣いてるんですか」


そう言いながら、ネロさんはコップに水を汲んだ。
コップに口を付けるネロさんに、私はひと言告げた。

大切なひと言を。



「‥‥喰われてきました」


「は?」



ネロさんはぽかんと口を開いたまま。
喰われたの意味がわからないらしい。自分で言っていた言葉のはずなのに。

まぁネロさんからすればあれからかなりの年月が経っているはずだから、無理もないかもしれないけど。


「‥‥随分と待たせてしまってごめんなさい。
会ってきたんです、今。子供の頃の貴方に」


「‥‥」


「待っていてくれて‥ありがとうございました」


約束通り、レオ王子の側にいてくれた。
そして、ユーリさんが居なくなってしまったあとも、こうして側にいてくれている。
それは、ネロさんが約束を守り通してくれていたからでしょ?


「‥‥っ、~~~」


ネロさんは瞳を揺らし、その端正な顔立ちを片手で覆い隠した。

やはり面影がありすぎる。


継母からどうやって逃れたのかはわからない。
1つ言えるのは、今日この日まで‥ネロさんは沢山傷付いてきたということ。


「‥‥どうやって?」


それは、突然私が過去に飛んだことに対する疑問だろう。


「この懐中時計です」


「‥‥」


「ネロさんの過去に飛んだ時、『いつ』に飛ぶか設定されていなかったこの時計に、私が魔法をかけたんです。『ネロさんの過去』に飛べるように」


ネロさんは何とか状況を理解しようとしているのか、やたらと瞬きをしている。


「‥シンドラさんが急に覚醒したってことだけでも頭が追い付いてないんですけど‥」


「覚醒って」


何なんだその表現は。


「ちょっと今これ以上考えられないけど‥
とりあえず‥」


どうやらネロさんは考えるのを辞めたようだ。
小さくフゥと息を吐いて、私の右手をおもむろに握る。

突然のことに驚いて私は右手を引っこ抜こうとしたけど、ネロさんは私の手を離してくれない。


ついさっき私の初めてを奪ったネロさんと、力の強さも手の大きさもまるで違う。


「ちょ、なんですか急に」


ジリジリと後退りをすると、ネロさんもジリジリと距離を詰めてくる。


トンッと背中が壁につき、逃げ場がなくなった私はネロさんを見上げた。

あー、本当‥眠れてないんだなぁ。
クマが酷いし、何よりも疲れている表情‥

‥それなのになんなんだ、この状況は。



「‥やっと眠れそう‥‥」


ネロさんがそう言って、私の背後にある壁におでこを付けた。
おかげで私の顔面はネロさんの胸元に押し付けられている状況だ。

細長い印象だけど、案外胸板がある。
って、今はそんなことを思う状況じゃない!


「こ、ここで眠らないでくださいね」


「当たり前でしょ。隣で寝てよ」


「ちょっ!貴方はなんで急にそんなっ!」


ネロさんの過去と今の私が繋がったとしても、それにしても事態が早急すぎるし、なんたって私の股はヒリヒリしているし、お互いにそんな愛欲染みたテンションになんかなれるわけないっていうのに!


「手、繋いで寝てください」


「へ?」


頭上から降ってきた言葉は思いのほか可愛らしいもので、私はネロさんの胸に埋まった頭をもぞもぞと動かして、彼を見上げた。

少しだけ見えたネロさんの耳は、ほんのり赤く染まっていた。



 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー♦︎
ーーーーーお知らせです!


まだトータル4~5万字程ですが、書き溜めていた小説を公開し始めました。
『サイハテの召喚士』というお話です。
一応王道ファンタジー風です。
書き溜めていたものなのでしばらくは毎日更新です。よかったら見てください!

こちらのお話も、不定期更新ですが変わらず細々と書いていきます。ゆっくり長ーく続いていきますので、今後ともよろしくお願いします。


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