公爵家のだんまり令嬢(聖女)は溺愛されておりまして

茶歩

文字の大きさ
86 / 87

第84話『大樹の中』

しおりを挟む

大樹の麓には何層もの葉が折り重なり、まるでゲートのように来るものを阻んでいる。
しかしどうやら私たちを認識しているようで、私たちの進む速度に合わせて葉は両脇へと舞い上がるようにして私たちの進路を作ってくれた。


大樹があまりにも大きく太い為、入り口がどこなのか分からずに彷徨う。

「こっちじゃないか?」

舞い上がった葉を分析するかのように目を細めていたレオが、そう言って首を傾げた。
よくよく見れば、レオが指をさした先にある数枚の葉は先端がほんの少しだけ大樹の中心を向いているように見えなくもなかった。
と言っても何も意識せずに見ていたら気付くはずもないくらいのレベルだけれど。

「あー‥よく見つけましたね、怖‥」

ネロさんが少し引いたようにして笑うと、レオは煩わしそうな視線をネロさんに送った。

レオの予想は見事に当たっていた。
葉に覆われて外側からはわからなかったけど、大樹は幹に人一人が通れるくらいの道が舗装されていて、幹を回るようにして上へ上がっていく仕組みのようだった。

暫くすると、私たちは大樹の中腹に辿り着いた。
眼下に広がる屋根たちは細々と小さく、空気が先ほどよりも少し澄んでいる気がする。

目を凝らせば大樹の葉の隙間から彼方此方に人型の葉っぱが潜んでいて、こちらを探るように見つめている。きっと、侵入者がいた際にはこの葉っぱがシーグリッドさんに知らせを送るんだろう。


遠くの山のてっぺんに見える教会が視界に入ったのは何度目のことだったか。
私たちはやっと、大樹の内部へ入る為の入り口の前へと辿り着いた。


人型の葉っぱが1枚、私たちの前を悪戯に舞うようにクルクルと飛び、鍵穴へと吸い込まれるようにして入っていく。ガチャリと重めの音がして、扉は開かれた。


「‥すげーな」

「凝ってますねぇ」

「先生が好きそうな造りです」


シンドラの魔法を見過ぎで魔法に慣れてしまっていだけど、魔法はやっぱり神秘的で感動してしまう。

大樹の中は全て木製のアンティークな家具で揃えられていた。だだっ広く、洒落た室内だが分厚い本や書類の束が至る所に積み重なっている。

辺りを見渡しながら室内に入る私たちの目の前を、何枚もの紙が舞う。
なんだかとてつもなく忙しない。


「おい、シンドラ。なんだこれは」

瞬きを繰り返すレオに対し、シンドラは引きつった笑みを見せた。


「先生は非常に仕事熱心なんです。
日に何千件もの仕事をこなすこともあります」

「何千‥?!」

レオが言葉を失うと、ネロさんが恐る恐る確かめるように言葉を紡いだ。

「え、シンドラさん。
もしかしてこの飛び回ってる紙達って‥」

「仕事の案件でしょうね‥」

「‥‥そんなに忙しい人が、俺たちに時間を割いてくれるんですかね」

「‥‥交渉次第でしょうね」


ーー魔女とはとても欲深い生き物。
シンドラ以外の“味方”になり得る魔女と初めて対面することになるけど、果たしてどんな人なんだろう。

味方に対しても何かしらの欲を見せるのかな。


キィと音がして、部屋の奥にあった扉が開いた。
そこから姿を現したのは、銀髪のマッシュルームヘアーのスラっとした女性。銀色の洒落た片眼鏡に、緑に塗られた唇。刺繍とレースが施された、体のラインが分かる黒いドレス。


「久しいね、シンドラ」


その綺麗な顔立ちから溢れた声は、予想よりも低かった。
凛とした佇まいだけど、どこかミステリアス。そんなシーグリッドさんの周りでは、絶えず紙と判子が宙を飛び、ポンッと印が押され続けている。私たちと対峙しながらも常に仕事をしているらしい。なんて器用な人なんだ‥。


「お久しぶりです、先生」

「まずは詳しい案件を教えてもらおうか。
状況が動いたから来たんだろう?対価はそれを聞いてからだな」


シーグリッドさんはそう言って笑った。
“対価”‥魔女とのやり取りっぽい‥!シンドラが当たり前に味方してくれてるからこんなやり取りしたことなかったけど‥そうか、本来はこうやって取り引きするのかな。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

処理中です...