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終世界より
単眼の巨人
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1時間半かけて中央コンソールの起動に成功する。ここまで辿り着くのに発電機までの往復2回、地上待機するヒナからの『ひーーまーー』という無線通信に対応すること3回。最終的に電源コードをぶった切りシオンのナイフにくっつける事で画面ひとつだけに明かりが灯った。
「まさか燃料が腐って動かないとは」
「私は最初からそう言ってたけど……」
起動したパソコンに記憶媒体を差し込みメルはデータのコピーを開始、その間ナイフにくっついている円筒は発光し続ける。魔力、と呼ばれるものをこの円筒は貯めていて、それをエネルギー源にしてパソコンを動かしている。魔力というのだから本来は人間から放出されるべきものであるが、残念なことに彼女らは1人としてそのような器用な真似はできず(というか練習をしていない)、貯めてあるのは出発前にお金で買った、電力を特殊な装置で変換した魔力である。天然モノ(?)と比べると基本特性で大きく見劣りするが、こういう使い方なら問題無い、元は電気だったものを電気に再変換しているのだから。
「ま、燃料さえあれば稼動可能なとこまで持ってったっていうのは報告するべきかな、ちょっとくらいはボーナス貰えるかも」
「そうしましょう。……フェルト? そのバネの飛び出たソファ寝心地いい?」
「昔はよかったんだろうねぇー……」
ゴーグルを外し、バネの飛び出た、というかもうほとんど骨組みとバネだけの元ソファに無理矢理乗ってぎっこぎっこして眉寄せてるフェルトにシオンが言い、諦めた彼女が立ち上がったのを見届けた後、回収しようとしているデータを改める。
人型の機械、の図面に見えた。この手のモノに良い印象を抱いている人間はそういなかろう、AIなんか搭載してたらなおさら。
頭のてっぺんから足の裏まで10m弱、人型とは言ったが横幅が広く、フォルムの大部分は直線で構成される。無数の小型カメラを長方形にこれでもかと並べた複眼を有する頭部が最大の特徴、固定武装は無く各所にハードポイントのみがある。胸部には大きな空洞があるようだ、人の乗る部分だろうか。
「人型機動兵器だ、うん百年前の設計の」
「うん?」
「元は戦車にあらゆる場面での汎用性を持たせようとした末の終着点だけど、今求められているのはAI兵器への明確な対抗手段だろうね。この地獄を終わらせるには、相手に対して互角ではなく、一方的に撃破できるほどの戦力を持たないといけないから」
「うん、うんうん……うん?」
「まぁーでも、このままじゃ使い物にはならないよ。遥か昔の兵器だよ?宇宙人が攻めてきて現行兵器じゃ歯が立たないから数世紀前に沈んだ戦艦を改造して宇宙船にしまーすって言ってるようなもんだ」
「うーん……」
「たぶんこれは単なる参考資料、実際に作ろうとしてるのはもっと別の何かなはず。私の見立てではこれをスケールダウンして……」
「うん。わからん! 一言で!」
「ガンダムの設計図」
「「すげーー!!」」
「時代遅れのね」
その図面に対してかなり細かい話をメルはしたが、最終的にそれだけで説明を終了、記憶媒体を抜き取って、ナイフからコードを取り外す。パソコンはすぐに沈黙してしまい、司令室内を照らしているのは1本のフラッシュライト(懐中電灯、本来は目潰し用)のみとなった。他に使えるものは無いかと室内を捜索、ジャンク屋に持ってけばはした金にはなるかって感じのガラクタしか無いのを確認して捜索終了、施設出口へ足を向けた。
と、いうところでヒナから通信が入る。
『敵と接触』
「うげ……ヘリは?」
「20分はない」
聞いた途端に銃のセイフティ再解除、フェルトはゴーグルを元に戻す。小走りで戻ろうとしていたのをマラソン程度に早め、「なんだよタイミング悪ぃな」などとぼやきつつ廊下を踏破、階段を駆け上がって、しかし地上へ近付くと僅かな地面の振動を感じ一時停止、シオンがメルへ爆薬の用意を指示した。
『交戦開始』
「あ…今の爆発はそれっすか? てっきりサイクロプスが来たもんかと」
『クロなら最初からいるけど』
「言えや!!」
立て続けにまた振動、足を全速に切り替える。間も無く地上まで達し、ライフルを構えつつ順に外へ出ていく。
直後、頭上で衝撃波が舞った。敵の攻撃ではない、出入り口の上に陣取っていたのはヒナで、発射されたのは彼女の使う8.6mm弾だ。魔力貫通弾、または魔導貫通弾と称される実包を使っていて、銃自体は全くの普通のもの、弾丸の加速も火薬による。効果を発揮するのは銃身を抜け出た後、およそ5mの飛翔後に充填魔力へ点火、再加速を行う。銃口初速の時点でマッハ3弱あるそれが衝撃波と白い、いやよく見るとほんのり青い閃光と、ロケット弾に近い音を放出しもう一段加速、目標へ突き刺さる。
まるでレーザーのようだ、点火地点から抜け出た弾丸は細い残光を引いて一瞬のうちに飛翔を完了、命中先で寺の鐘をついたようなやや情け無い音を出し、対象の爆発を誘引、3度目の振動を起こす。暗視装置を持たないシオンとメルには何が爆発したかわからないのだが。
「12時方向200メートル!」
「メル子! C4を……!」
入れ替わりで反撃を受けた、暗闇の先でパチパチと放電した後、魔力貫通弾を超える速度で飛んできた。
「「ギャーーーーっ!!!!」」
弾道はまったく見えない、一際大きく光ったと思ったらコンクリ製の出入り口には直径56mmの穴が開いており、体感でかなり遅れてソニックブームが到来、建物が大きく傾き、ヒナが転がり落ち始めた頃にようやく発射音が耳に届く。
主力戦車ほどもサイズのある、脚の4本生えた三角錐だ。前後に細長く、明るい場所で見ればフラットダークアースカラー…つまり砂漠色をしている。前方の先端は面取りされていて、可視光カメラ、熱源感知装置、照準システムが一体化したセンサーポッドがあり、あまり広くないが上下左右に可動する、ここが生物の頭部に相当する。今撃ってきたのは奴最大の特徴、三角錐直下にむき出しで搭載されたレールガンである。機体全長の半分以上もある六角柱形状、上下に分割されていて、間に装填した直径56mmの飛翔体を電気の力で射出する。
ギリギリ視認できる位置まで近付くやぶっ放してきたそれがサイクロプス、現状撃破の目処が立たないAI制御の4脚対戦車兵器である。
対戦車兵器である。
もう一度言おう、対戦車兵器である。
「ド畜生が!! いつかそのレールガンはぎ取って持ち帰って玄関先に飾ってやるからなバーカ!! ブァーーカ!!」
「近所迷惑だからヤメテ!!」
とにかく3人が射撃(通常弾)を開始、ヒナが立ち上がるまでそれを継続する。戦車と戦う事を想定した相手だ、当然何の効果もなく、ただ装甲をカンカン鳴らしただけで終了、直ちにビルの隙間へと逃げ込んでいく。
奴の巨体が入ってこれない路地裏だが、実の所まったく安全ではない。両側に立つビルのうち背が高い方で壁に何かが突き刺さる音が連続して響き、それが屋上に達する前に体勢を整える。メルは取り出したC4(プラスチック爆薬、羊羹みたいな形状で梱包されているが粘土のように整形できる)を必要最低限にこね回して空気抜きを行い、無線信管を突き刺す。ヒナはスナイパーライフル上部に着く長距離照準用スコープの基部へ指を伸ばしてふたつのボタンを同時押し、スコープを照準線からスイングアウトさせて近距離用アイアンサイトを使えるように、弾倉も10発入りから20発入りの大型弾倉へ。
フェルトはそもそも武器を切り替えた、サブマシンガンを右太もものホルスターに突っ込んで固定、腰からぶら下げていた棒を引き出し、2本を接続、カバーを外せば30cmの刃と円筒が現れ、自身の身長とほぼ同じ長さの槍となる。
「よし行くぞ! ヘリが来る前に追い払…直上!」
シオンとフェルト、ヒナとメルに分かれて路地裏をそれぞれ反対方向へ疾走、真上からのレールガン射撃より逃れる。屋上近くの壁に脚を突き刺す事で体を固定していたサイクロプスはそれぞれへセンサーポッドを向けたものの、シオンからの一連射が前脚に装備したシールドを鳴らすとそちらの追跡へ移る。
交戦は初めてではない、対戦車兵器が歩兵部隊にまとわりつくなって話だが、仮にこちらが戦車に乗っていたら逃げる間もなくやられていよう。こちらが歩兵で、あちらが対戦車装備しか持っていないから粘れるのだ。対人向けの機関銃が無いし、すべての装備が前方にしか撃てないので、ヒナのスーパーウルトラCがセンサーポッドに突き刺さった事もあるが、背後に回り込んでのめった撃ちが常套手段である。
まぁ、いい加減やっこさんも学習してしまっているのだが。
「クッソ!」
あ奴が壁面を垂直移動する音を背後に聞きながら路地裏を脱出、すると人型のロボットが10体ばかし群がってきていたのでやむなくシオンは一時停止、左をフェルトに任せ、右へ自身のライフルを照準する。
これは軍用ではない、元は各家庭に1機はあった雑用人形、炊事洗濯までこなすようになったお掃除ロボットの進化系である、AIの反乱以降はソフトウェアを書き換えられて戦闘人形にジョブチェンジしているが。見た目で威圧感を与えないよう人間に似せられた外観を持ち、非装甲、動きは鈍重、2、3発撃ち込めばすぐ動かなくなる。
「邪魔すんなザコが! 燃えてろ!」
左から右へ銃口を振って、射線に重なった瞬間だけトリガーに力を加えれば4体が一斉に転倒、電気系統をショートさせて発火した。
言い終わる頃には左もカタがついている、シオンよりも早く6体をバラしたフェルトはほんのり緑に光る槍の穂先を回して下へ向ければ行動終了、シオンへ目を向けた。黒い多目的ゴーグルを着けた彼女の表情は読めないものの、どうせ外してても同じなのでいい。というか戦闘中の彼女の眼に直視されればトラウマ不可避である、アレを与えたのは正解だった。
『爆薬設置終わったよ』
間髪入れずに逃走再開、砕け散るアスファルトを尻目に道路をぐるりと回って元の位置へ戻ろうとする。背後ではあ奴が壁から飛び降りた地響き、停止せず緩旋回で追従する走行音と続くが、移動しながらの射撃はしょうもない命中精度しか出せないのがわかっているので動じない、かなり急に角を曲がるだけで計4発目の射撃はあさっての場所で突き刺さって、ビルを1周、ヒナメルと合流した。
「どこ!?」
「そこ!」
交差点の真ん中である、クリーム色の粘土がトライされていた。こちらを追ってきたサイクロプスに向け弾倉に残っていた通常弾をばら撒き、腰から次の弾倉を取り出す。走りながら両者を入れ替え、爆薬から30mで停止、ボルトリリースボタンをぶん殴りつつ曲がり角からのサイクロプスの登場を待つ。ヒナメルはその場で片膝をついて、フェルトも槍を手放し、SMGをホルスターから引っ張り出す。
「撃ちまくれぇ!!」
4つの銃からありったけの弾丸が放たれた。そのすべてが魔力貫通弾、閃光がセンサーポッド付近へ殺到する。ヘッドギアが無ければ確実に耳を痛めるだろう火薬の爆発音、魔力の破裂音。いかにライフル弾とてこの勢いで、カメラに当たれば破壊確実なこの弾を撃ち続ければ脚を停止させられ、ほとんどは前脚のシールドで防がれたが、ごく一部がセンサーに命中、防御角度を変えようとサイクロプスが横移動し、そこでメルが起爆スイッチを押した。
「伏せ!」
爆発の瞬間は見なかった、路面に倒れこんで衝撃波や飛んでくる瓦礫から逃れ、収まってから顔を上げる。
大量の煙に遮られあ奴の姿は見えない、しかし何らかの損傷は与えられただろう、4人から全速で遠ざかっていく足音は聞こえていた。
「はぁ……こちらサーティエイト、回収地点で待機中。フェイ?」
『もう着く、待ってて』
どうせ次会う時には修復されているだろうが、ともかく今生きている事実を喜ぼう、それぞれ片手でハイタッチ、槍を回収したりした後、ヘリコプターを呼び込むための赤外線ビーコンを放り、道の端で座り込む。
「何発撃ちました?」
「76」
「28」
「14」
「私が48、オーケー、晩飯抜きは避けられた」
「いつからこんな貧乏だったっけ私達」
「最初からでしょ」
「そっか。……そっか?」
まぁいい、かなりタイミングよくヘリも来た。
とにかく帰ろう、すべてはそれからだ。
「まさか燃料が腐って動かないとは」
「私は最初からそう言ってたけど……」
起動したパソコンに記憶媒体を差し込みメルはデータのコピーを開始、その間ナイフにくっついている円筒は発光し続ける。魔力、と呼ばれるものをこの円筒は貯めていて、それをエネルギー源にしてパソコンを動かしている。魔力というのだから本来は人間から放出されるべきものであるが、残念なことに彼女らは1人としてそのような器用な真似はできず(というか練習をしていない)、貯めてあるのは出発前にお金で買った、電力を特殊な装置で変換した魔力である。天然モノ(?)と比べると基本特性で大きく見劣りするが、こういう使い方なら問題無い、元は電気だったものを電気に再変換しているのだから。
「ま、燃料さえあれば稼動可能なとこまで持ってったっていうのは報告するべきかな、ちょっとくらいはボーナス貰えるかも」
「そうしましょう。……フェルト? そのバネの飛び出たソファ寝心地いい?」
「昔はよかったんだろうねぇー……」
ゴーグルを外し、バネの飛び出た、というかもうほとんど骨組みとバネだけの元ソファに無理矢理乗ってぎっこぎっこして眉寄せてるフェルトにシオンが言い、諦めた彼女が立ち上がったのを見届けた後、回収しようとしているデータを改める。
人型の機械、の図面に見えた。この手のモノに良い印象を抱いている人間はそういなかろう、AIなんか搭載してたらなおさら。
頭のてっぺんから足の裏まで10m弱、人型とは言ったが横幅が広く、フォルムの大部分は直線で構成される。無数の小型カメラを長方形にこれでもかと並べた複眼を有する頭部が最大の特徴、固定武装は無く各所にハードポイントのみがある。胸部には大きな空洞があるようだ、人の乗る部分だろうか。
「人型機動兵器だ、うん百年前の設計の」
「うん?」
「元は戦車にあらゆる場面での汎用性を持たせようとした末の終着点だけど、今求められているのはAI兵器への明確な対抗手段だろうね。この地獄を終わらせるには、相手に対して互角ではなく、一方的に撃破できるほどの戦力を持たないといけないから」
「うん、うんうん……うん?」
「まぁーでも、このままじゃ使い物にはならないよ。遥か昔の兵器だよ?宇宙人が攻めてきて現行兵器じゃ歯が立たないから数世紀前に沈んだ戦艦を改造して宇宙船にしまーすって言ってるようなもんだ」
「うーん……」
「たぶんこれは単なる参考資料、実際に作ろうとしてるのはもっと別の何かなはず。私の見立てではこれをスケールダウンして……」
「うん。わからん! 一言で!」
「ガンダムの設計図」
「「すげーー!!」」
「時代遅れのね」
その図面に対してかなり細かい話をメルはしたが、最終的にそれだけで説明を終了、記憶媒体を抜き取って、ナイフからコードを取り外す。パソコンはすぐに沈黙してしまい、司令室内を照らしているのは1本のフラッシュライト(懐中電灯、本来は目潰し用)のみとなった。他に使えるものは無いかと室内を捜索、ジャンク屋に持ってけばはした金にはなるかって感じのガラクタしか無いのを確認して捜索終了、施設出口へ足を向けた。
と、いうところでヒナから通信が入る。
『敵と接触』
「うげ……ヘリは?」
「20分はない」
聞いた途端に銃のセイフティ再解除、フェルトはゴーグルを元に戻す。小走りで戻ろうとしていたのをマラソン程度に早め、「なんだよタイミング悪ぃな」などとぼやきつつ廊下を踏破、階段を駆け上がって、しかし地上へ近付くと僅かな地面の振動を感じ一時停止、シオンがメルへ爆薬の用意を指示した。
『交戦開始』
「あ…今の爆発はそれっすか? てっきりサイクロプスが来たもんかと」
『クロなら最初からいるけど』
「言えや!!」
立て続けにまた振動、足を全速に切り替える。間も無く地上まで達し、ライフルを構えつつ順に外へ出ていく。
直後、頭上で衝撃波が舞った。敵の攻撃ではない、出入り口の上に陣取っていたのはヒナで、発射されたのは彼女の使う8.6mm弾だ。魔力貫通弾、または魔導貫通弾と称される実包を使っていて、銃自体は全くの普通のもの、弾丸の加速も火薬による。効果を発揮するのは銃身を抜け出た後、およそ5mの飛翔後に充填魔力へ点火、再加速を行う。銃口初速の時点でマッハ3弱あるそれが衝撃波と白い、いやよく見るとほんのり青い閃光と、ロケット弾に近い音を放出しもう一段加速、目標へ突き刺さる。
まるでレーザーのようだ、点火地点から抜け出た弾丸は細い残光を引いて一瞬のうちに飛翔を完了、命中先で寺の鐘をついたようなやや情け無い音を出し、対象の爆発を誘引、3度目の振動を起こす。暗視装置を持たないシオンとメルには何が爆発したかわからないのだが。
「12時方向200メートル!」
「メル子! C4を……!」
入れ替わりで反撃を受けた、暗闇の先でパチパチと放電した後、魔力貫通弾を超える速度で飛んできた。
「「ギャーーーーっ!!!!」」
弾道はまったく見えない、一際大きく光ったと思ったらコンクリ製の出入り口には直径56mmの穴が開いており、体感でかなり遅れてソニックブームが到来、建物が大きく傾き、ヒナが転がり落ち始めた頃にようやく発射音が耳に届く。
主力戦車ほどもサイズのある、脚の4本生えた三角錐だ。前後に細長く、明るい場所で見ればフラットダークアースカラー…つまり砂漠色をしている。前方の先端は面取りされていて、可視光カメラ、熱源感知装置、照準システムが一体化したセンサーポッドがあり、あまり広くないが上下左右に可動する、ここが生物の頭部に相当する。今撃ってきたのは奴最大の特徴、三角錐直下にむき出しで搭載されたレールガンである。機体全長の半分以上もある六角柱形状、上下に分割されていて、間に装填した直径56mmの飛翔体を電気の力で射出する。
ギリギリ視認できる位置まで近付くやぶっ放してきたそれがサイクロプス、現状撃破の目処が立たないAI制御の4脚対戦車兵器である。
対戦車兵器である。
もう一度言おう、対戦車兵器である。
「ド畜生が!! いつかそのレールガンはぎ取って持ち帰って玄関先に飾ってやるからなバーカ!! ブァーーカ!!」
「近所迷惑だからヤメテ!!」
とにかく3人が射撃(通常弾)を開始、ヒナが立ち上がるまでそれを継続する。戦車と戦う事を想定した相手だ、当然何の効果もなく、ただ装甲をカンカン鳴らしただけで終了、直ちにビルの隙間へと逃げ込んでいく。
奴の巨体が入ってこれない路地裏だが、実の所まったく安全ではない。両側に立つビルのうち背が高い方で壁に何かが突き刺さる音が連続して響き、それが屋上に達する前に体勢を整える。メルは取り出したC4(プラスチック爆薬、羊羹みたいな形状で梱包されているが粘土のように整形できる)を必要最低限にこね回して空気抜きを行い、無線信管を突き刺す。ヒナはスナイパーライフル上部に着く長距離照準用スコープの基部へ指を伸ばしてふたつのボタンを同時押し、スコープを照準線からスイングアウトさせて近距離用アイアンサイトを使えるように、弾倉も10発入りから20発入りの大型弾倉へ。
フェルトはそもそも武器を切り替えた、サブマシンガンを右太もものホルスターに突っ込んで固定、腰からぶら下げていた棒を引き出し、2本を接続、カバーを外せば30cmの刃と円筒が現れ、自身の身長とほぼ同じ長さの槍となる。
「よし行くぞ! ヘリが来る前に追い払…直上!」
シオンとフェルト、ヒナとメルに分かれて路地裏をそれぞれ反対方向へ疾走、真上からのレールガン射撃より逃れる。屋上近くの壁に脚を突き刺す事で体を固定していたサイクロプスはそれぞれへセンサーポッドを向けたものの、シオンからの一連射が前脚に装備したシールドを鳴らすとそちらの追跡へ移る。
交戦は初めてではない、対戦車兵器が歩兵部隊にまとわりつくなって話だが、仮にこちらが戦車に乗っていたら逃げる間もなくやられていよう。こちらが歩兵で、あちらが対戦車装備しか持っていないから粘れるのだ。対人向けの機関銃が無いし、すべての装備が前方にしか撃てないので、ヒナのスーパーウルトラCがセンサーポッドに突き刺さった事もあるが、背後に回り込んでのめった撃ちが常套手段である。
まぁ、いい加減やっこさんも学習してしまっているのだが。
「クッソ!」
あ奴が壁面を垂直移動する音を背後に聞きながら路地裏を脱出、すると人型のロボットが10体ばかし群がってきていたのでやむなくシオンは一時停止、左をフェルトに任せ、右へ自身のライフルを照準する。
これは軍用ではない、元は各家庭に1機はあった雑用人形、炊事洗濯までこなすようになったお掃除ロボットの進化系である、AIの反乱以降はソフトウェアを書き換えられて戦闘人形にジョブチェンジしているが。見た目で威圧感を与えないよう人間に似せられた外観を持ち、非装甲、動きは鈍重、2、3発撃ち込めばすぐ動かなくなる。
「邪魔すんなザコが! 燃えてろ!」
左から右へ銃口を振って、射線に重なった瞬間だけトリガーに力を加えれば4体が一斉に転倒、電気系統をショートさせて発火した。
言い終わる頃には左もカタがついている、シオンよりも早く6体をバラしたフェルトはほんのり緑に光る槍の穂先を回して下へ向ければ行動終了、シオンへ目を向けた。黒い多目的ゴーグルを着けた彼女の表情は読めないものの、どうせ外してても同じなのでいい。というか戦闘中の彼女の眼に直視されればトラウマ不可避である、アレを与えたのは正解だった。
『爆薬設置終わったよ』
間髪入れずに逃走再開、砕け散るアスファルトを尻目に道路をぐるりと回って元の位置へ戻ろうとする。背後ではあ奴が壁から飛び降りた地響き、停止せず緩旋回で追従する走行音と続くが、移動しながらの射撃はしょうもない命中精度しか出せないのがわかっているので動じない、かなり急に角を曲がるだけで計4発目の射撃はあさっての場所で突き刺さって、ビルを1周、ヒナメルと合流した。
「どこ!?」
「そこ!」
交差点の真ん中である、クリーム色の粘土がトライされていた。こちらを追ってきたサイクロプスに向け弾倉に残っていた通常弾をばら撒き、腰から次の弾倉を取り出す。走りながら両者を入れ替え、爆薬から30mで停止、ボルトリリースボタンをぶん殴りつつ曲がり角からのサイクロプスの登場を待つ。ヒナメルはその場で片膝をついて、フェルトも槍を手放し、SMGをホルスターから引っ張り出す。
「撃ちまくれぇ!!」
4つの銃からありったけの弾丸が放たれた。そのすべてが魔力貫通弾、閃光がセンサーポッド付近へ殺到する。ヘッドギアが無ければ確実に耳を痛めるだろう火薬の爆発音、魔力の破裂音。いかにライフル弾とてこの勢いで、カメラに当たれば破壊確実なこの弾を撃ち続ければ脚を停止させられ、ほとんどは前脚のシールドで防がれたが、ごく一部がセンサーに命中、防御角度を変えようとサイクロプスが横移動し、そこでメルが起爆スイッチを押した。
「伏せ!」
爆発の瞬間は見なかった、路面に倒れこんで衝撃波や飛んでくる瓦礫から逃れ、収まってから顔を上げる。
大量の煙に遮られあ奴の姿は見えない、しかし何らかの損傷は与えられただろう、4人から全速で遠ざかっていく足音は聞こえていた。
「はぁ……こちらサーティエイト、回収地点で待機中。フェイ?」
『もう着く、待ってて』
どうせ次会う時には修復されているだろうが、ともかく今生きている事実を喜ぼう、それぞれ片手でハイタッチ、槍を回収したりした後、ヘリコプターを呼び込むための赤外線ビーコンを放り、道の端で座り込む。
「何発撃ちました?」
「76」
「28」
「14」
「私が48、オーケー、晩飯抜きは避けられた」
「いつからこんな貧乏だったっけ私達」
「最初からでしょ」
「そっか。……そっか?」
まぁいい、かなりタイミングよくヘリも来た。
とにかく帰ろう、すべてはそれからだ。
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かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
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