68 / 113
10-白い山の不殺の死神
補給
しおりを挟む
トンネルを抜けると雪国だった、なんて洒落た演出は一切無く、丸1日かけて核の荒野を抜けた後、徐々に視界が白くなり出した。目的地近くまで着いてみればこの有様だ、前後左右どっちを向いても雪まみれ。
どうやらかなり標高の高い場所にいるらしい、ヒナが着ているのはサーマル対策として強力な断熱効果のある迷彩コートだが、その程度で跳ね返せる寒さではなく、そのコートを周囲に合わせて白く変色させつつ、バッテリーに繋げた電熱器と鍋を広げ、その前にしゃがみ込んで、放り込んだ雪が溶けるのを震えて待つ。飲料水の確保である、このまま沸騰させて10分、冷ました後に清潔な布を通す。安全に飲めればそれでいいのだ、後はフェルトがどうにかしてくれる。
「骨も使うのか?」
「うん、スープにするよぉ」
そのフェルトはヒナの少し前方、雪まみれの斜面のやや盛り上がったあたりで毛むくじゃらのウシみたいな動物を解体していた。そのヤクとかいうらしい動物は通常でも1tの体重を持つのだと聞いたが、倒した個体は明らかに3t以上ある、8.6mm弾を数発撃ち込んでも怒らせるだけだったし。
ただ、25mm榴弾にはさすがに屈した。フェルトの横で解体の様子を眺めるアトラが携える武器は全長120cm、重量15kgに及ぶ、予備弾と周辺装備も含めて考えると人間が使うにはだいぶアレなスナイパーライフルである、アサルトライフルでも扱うような構えで3発も撃てばヤクの頭部は消し飛んだ。
「では次は私達のエネルギー補給だ、原子力発電所に向かう」
「バッテリーは?」
「その程度じゃ足しにもならんわ、レールガンナメるなよ」
「取れてんじゃん……」
持ち運びできる最大量の入手を確認したのち、アトラがヒナの方を向いた。続けて4脚の特徴的な移動音が聞こえてきて、斜面の下から三角錐が現れる。
リペアサイクロプスの攻撃力は擱座時のままである、強いて言えば対戦車ミサイル2発が残っている。レールガンは脱落したまま、滅茶苦茶になった本体装甲は鉄板とアクリル板でキャノピーっぽく仕立ててあり、内部が居住部となる。レールガンの運搬土台みたいな構造だったため、そのレールガンが無い今、中身はスッカスカなのだ。ぺたりとお座りしてキャノピーを開け、大量の肉を機内に招き入れていく。フェルトは肉と一緒に雪もパック詰めしたので、消費し切れない分は持って帰れる、むしろ持って帰る気しかない。
「帰る頃には酷い事になってるだろうしねぇ」
などと作業しながら彼女は言った。残してきたあの2人がマトモな食生活を送る訳がない、という意味と思われる。
「もう酷いんじゃない?」
「あはははははは、少しは痛い目見ればいい」
あと、今日のフェルトはなんか黒い。
満面の笑みでそんな事をおっしゃる彼女が積み込みをする中、ヒナは沸騰し始めた鍋から一時離れる。サイクロプスのそばまで行って、広げられた地図へ目を向けた。
「発電所はここからは下にある、目的の反乱AI群がいる、と思われるのもそのあたりだ。山を降りた時点で壊れかけの発電所に起因する電波干渉が始まるから、無線通信にはあまり頼るな」
「放射線もね」
「その通り、だから充電には私達だけで行く。お前達はその間、発電所の奥にある谷を調べてこい。情報によると、人間の集落もあるようだ」
丘陵地帯と渓谷地帯の境界線である、ひとつの川が横断するその地図は丘陵地帯には原子力発電所と、他に町の廃墟が示されている。谷には何も無い、当然である、これはAI側が持っていた地図だ、人の集落が書いてある訳が無いし、もしあったら即刻消しにかかる筈。たぶん、情報というのはバンカーのサーバーから引っ張ってきたものだろう。
という事はメル、やはりあのバックドア騒動の時に自分のバックドアを。
「かなり近いわね」
「反乱兵器が本当に存在するなら何かしら影響を被っているに違いない、そうでなくとも地理には詳しいだろう。知っている事を話させるんだ、対価に使えるものを用意しておけ」
「対価?」
「ただお願いするより土産付きの方が話が早く進むだろうよ」
その地図の渓谷地帯を指差しつつアトラは話を続ける。
基本的にこの時代の人間は飢えているのだ、そしてそれは腹だけではない。無償で他人を助けたがる奴は、まぁバンカーには割といるが、世界的には絶滅危惧種だ。極少数派を探す時間があったらまた弾を数発消費して動物でも引きずってった方がいい、という話。
「そういう事ならアレがある」
「ヤクの肉か」
「いや」
と、積み込み作業を続けるフェルトを指差しながらヒナは言う。すぐに彼女はめっちゃ嫌そうな顔をしたが、今入手した肉を使おうというのは否定する。
ヒナが指差したのはフェルト自身だ。
「ゆるふわ幼女の笑顔」
どうやらかなり標高の高い場所にいるらしい、ヒナが着ているのはサーマル対策として強力な断熱効果のある迷彩コートだが、その程度で跳ね返せる寒さではなく、そのコートを周囲に合わせて白く変色させつつ、バッテリーに繋げた電熱器と鍋を広げ、その前にしゃがみ込んで、放り込んだ雪が溶けるのを震えて待つ。飲料水の確保である、このまま沸騰させて10分、冷ました後に清潔な布を通す。安全に飲めればそれでいいのだ、後はフェルトがどうにかしてくれる。
「骨も使うのか?」
「うん、スープにするよぉ」
そのフェルトはヒナの少し前方、雪まみれの斜面のやや盛り上がったあたりで毛むくじゃらのウシみたいな動物を解体していた。そのヤクとかいうらしい動物は通常でも1tの体重を持つのだと聞いたが、倒した個体は明らかに3t以上ある、8.6mm弾を数発撃ち込んでも怒らせるだけだったし。
ただ、25mm榴弾にはさすがに屈した。フェルトの横で解体の様子を眺めるアトラが携える武器は全長120cm、重量15kgに及ぶ、予備弾と周辺装備も含めて考えると人間が使うにはだいぶアレなスナイパーライフルである、アサルトライフルでも扱うような構えで3発も撃てばヤクの頭部は消し飛んだ。
「では次は私達のエネルギー補給だ、原子力発電所に向かう」
「バッテリーは?」
「その程度じゃ足しにもならんわ、レールガンナメるなよ」
「取れてんじゃん……」
持ち運びできる最大量の入手を確認したのち、アトラがヒナの方を向いた。続けて4脚の特徴的な移動音が聞こえてきて、斜面の下から三角錐が現れる。
リペアサイクロプスの攻撃力は擱座時のままである、強いて言えば対戦車ミサイル2発が残っている。レールガンは脱落したまま、滅茶苦茶になった本体装甲は鉄板とアクリル板でキャノピーっぽく仕立ててあり、内部が居住部となる。レールガンの運搬土台みたいな構造だったため、そのレールガンが無い今、中身はスッカスカなのだ。ぺたりとお座りしてキャノピーを開け、大量の肉を機内に招き入れていく。フェルトは肉と一緒に雪もパック詰めしたので、消費し切れない分は持って帰れる、むしろ持って帰る気しかない。
「帰る頃には酷い事になってるだろうしねぇ」
などと作業しながら彼女は言った。残してきたあの2人がマトモな食生活を送る訳がない、という意味と思われる。
「もう酷いんじゃない?」
「あはははははは、少しは痛い目見ればいい」
あと、今日のフェルトはなんか黒い。
満面の笑みでそんな事をおっしゃる彼女が積み込みをする中、ヒナは沸騰し始めた鍋から一時離れる。サイクロプスのそばまで行って、広げられた地図へ目を向けた。
「発電所はここからは下にある、目的の反乱AI群がいる、と思われるのもそのあたりだ。山を降りた時点で壊れかけの発電所に起因する電波干渉が始まるから、無線通信にはあまり頼るな」
「放射線もね」
「その通り、だから充電には私達だけで行く。お前達はその間、発電所の奥にある谷を調べてこい。情報によると、人間の集落もあるようだ」
丘陵地帯と渓谷地帯の境界線である、ひとつの川が横断するその地図は丘陵地帯には原子力発電所と、他に町の廃墟が示されている。谷には何も無い、当然である、これはAI側が持っていた地図だ、人の集落が書いてある訳が無いし、もしあったら即刻消しにかかる筈。たぶん、情報というのはバンカーのサーバーから引っ張ってきたものだろう。
という事はメル、やはりあのバックドア騒動の時に自分のバックドアを。
「かなり近いわね」
「反乱兵器が本当に存在するなら何かしら影響を被っているに違いない、そうでなくとも地理には詳しいだろう。知っている事を話させるんだ、対価に使えるものを用意しておけ」
「対価?」
「ただお願いするより土産付きの方が話が早く進むだろうよ」
その地図の渓谷地帯を指差しつつアトラは話を続ける。
基本的にこの時代の人間は飢えているのだ、そしてそれは腹だけではない。無償で他人を助けたがる奴は、まぁバンカーには割といるが、世界的には絶滅危惧種だ。極少数派を探す時間があったらまた弾を数発消費して動物でも引きずってった方がいい、という話。
「そういう事ならアレがある」
「ヤクの肉か」
「いや」
と、積み込み作業を続けるフェルトを指差しながらヒナは言う。すぐに彼女はめっちゃ嫌そうな顔をしたが、今入手した肉を使おうというのは否定する。
ヒナが指差したのはフェルト自身だ。
「ゆるふわ幼女の笑顔」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
独身おじさんの異世界おひとりさまライフ〜金や評価は要りません。コーヒーとタバコ、そして本があれば最高です〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ブラック企業で身も心もすり減らした相馬蓮司(42歳)。
過労死の果てに辿り着いたのは、剣と魔法の異世界だった。
神様から「万能スキル」を押し付けられたものの、蓮司が選んだのは──戦いでも冒険でもない。
静かな辺境の村外れで、珈琲と煙草の店を開く。
作り出す珈琲は、病も呪いも吹き飛ばし、煙草は吸っただけで魔力上限を突破。
伝説級アイテム扱いされ、貴族も英雄も列をなすが──本人は、そんな騒ぎに興味なし。
「……うまい珈琲と煙草があれば、それでいい」
誰かと群れる気も、誰かに媚びる気もない。
ただ、自分のためだけに、今日も一杯と一服を楽しむ。
誰にも縛られず、誰にも迎合しない孤高のおっさんによる、異世界マイペースライフ、ここに開店!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる