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09 強硬手段のゲーム

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ムーランも加わったことで、ローズ祭でのパートナーの座をかけた勝負は更に激しさを増していた。
本当にこれは収集が着くのだろうか…ますます私の声は見事にスルーされ、誰一人として止まらない。
既に全ての授業を終え、時刻は放課後に入っていた。

───流石に私も疲れてきましたよ…

ウィリアム王子も何故かずっと一言も喋らないし、状況は混沌カオスを極めていた。
ナズナは申し訳なさそうに眉を下げたまま私を見ているけれど身分上、何も出来ない。
私はふと思いついたこのゲームで決着をつけようと机を叩き、声を上げた。

「一向に決着がつきませんので私の言うゲームの勝者をお相手として決めさせて頂きますわ」

机の音と私の勢いに妙な迫力が出てしまったのか三人はピタリと固まった。
ナズナはそんな私を見てあわあわと動揺し始める。

「そ、その勝負とはなんでしょうお嬢様……?」

「レッドライト・グリーンライトというゲームよ」

「レッドライト…」

「グリーンライト……??」

「ってのは何だ?」

レッドライト・グリーンライトというゲームは前世でいう子供の遊び『だるまさんがころんだ』の類似の遊びで、ルールはほとんど同じ。
参加者は鬼から離れたところからスタートし、最初に鬼に触った人が勝ちとなる。
ただし動くことができるのは鬼が後ろを向いて「グリーンライト」と言ったときだけで、鬼はいつでも突然振り返って「レッドライト」と叫ぶことができ、このときただちに静止しないと、その参加者は失格になる。
ちなみに今回は勝者一人を挙げるので最後まで残って鬼である私をタッチ出来た者がパートナーの資格を得るということになる。

「ルールと勝利条件の把握はよろしくって?皆様方。一発勝負、厳しくいきますわよ!」

「体を動かすゲームなら負けませんよ!」

「体力馬鹿は戦略が無くて勝ちやすそうだね」

「要は勝てばいいんだ、簡単だろ?」

わかりやすくゲームのルールと勝ち方を話したつもりだけれど上手く伝わっているだろうか…?
下手をすれば全員脱落する可能性もあるけれどそこはもう根性で乗り切っていただきたい。

「鬼役は私ですのであそこまで離れますわね」

中庭の端まで行くと日差し避けのために植えられている植木の幹に手をつけた。
見えるように逆の端に居るみんなに手を振ると声を張り上げた。

「いきますわよ!グリーンライト!」

その掛け声と共に私は背を向けて幹に顔を伏せた。
するとバタバタと走りながら押し合うような音が聞こえてくるのでちょっと私も焦ってしまいそうだ。
数秒待って再び振り向きながら掛け声を掛ける。

「レッドライト!!」

普通のだるまさんがころんだ程度ならもう少し後ろにいるものだけれど走っていたのもあってか結構距離を縮めていたようだ。
一番前に出て来ていたのは運動神経が一番良いディモル、それに続き押し合うようなポージングのまま固まっているハイドとムーランがいる。
王子とナズナは三人の後に見学としてついてきているのか比較的近くに居るようだ。
きちんとルール通りに動かないで固まる三人をじっと見つめるけどまだ動いてしまう人は居ないらしい。

「グリーンライト!」

そう言ってまた勢いよく幹に向き直るとその途端にまた走り出す音と押し合うような声と音。

よし、今度はさっきよりも早く振り向こう。

「レッドライト!…………ぶっ…」

距離はまた多く詰められてはいるが配置は同じ感じ、未だハイドとムーランがディモルを追い越せないでいるようだ。
多分、ハイドとムーランが押しあっているせいであろう。
押しあってバランスを崩した瞬間に私が振り向いたものだからそれはそれは面白い体制をしている。

大袈裟なダンスの決めポーズみたいだわ。

手を離さない辺りは仲がいいのか自分も動いた判定になるのが嫌だからなのかは不明だけどめちゃくちゃ頑張っていた。

「グリーンライト!」

もう一度幹に向き直ると先程変なポーズだった二人が倒れたのか倒れる音が先に聞こえた。

その割には誰も走っていないような……?

「足掴むなんてずるい!」

「お前も道連れだディム!」

「そっちが転んだんじゃんかぁ!」

どうやら全員転倒していたらしい。
しかも足引っ張られて転ぶなんて痛そう……

だけど私は振り向きます。

「レッドライト!」

「っあ……!」

振り向いたその時、立ち損ねてよろめいたのはムーランだった。
これは一人脱落ですね!!

「ムーラン様よろめきましたわ!」

「くっ……」

「自信満々なこと言ってた奴が一番最初の脱落ご愁傷さま~」

器用にも微動だにせず煽るハイドを悔しげに睨むとムーランは横にズレて範囲から外れて行った。


これで残るは初めから争っていたハイドとディモルの二人となった。


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