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20 我が国の王子は奔放のようです

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翌日、半ば果たし状のような招待状を持ち私は王城へ向かっていた。
結局呼ばれた理由は未だ知れず、学園であの白い忍者のような人(アルベ……なんとかさん)にも会うことは無く放課後に至った。
今日もウィリアム王子は無言の視線を私に向けてくるし、攻略キャラ達は何故か私の周りに集まってくるのは変わっていない。
なんだかなーと馬車の中で物思いに耽ける私をナズナは様子を伺うように眺めていたがやがて口を開く。

「お嬢様……たとえどんな方に嫁がれてもナズナをお連れ下さいまし……」

うっうっ……と涙ながら(?)語るように見えるナズナに面食らう。

「いやいや待って、なんでそんな話が突然出てきたのよ…!?」

「信じたくはありませんが……私にはこのご招待がもうそういう話にしか思えなくて……」

よよよと言わんばかりのナズナはハンカチを取り出した。
ハンカチを取り出すために顔から手を外したが涙で濡れていることは無かった。

おいおい、泣き真似かい…

ちょっと心配していたのを返していただきたい……。

そうであったとしても唐突すぎるし、私には第一王子とは面識がない。
一気に事が進むことは無いと私にはどこか確信めいたものがあった。

「確かにそう思えてしまうでしょうけど、第一王子だってそんなに性急な真似はしないわよきっと」

「で、ですがぁ……私の大切なお嬢様が見も知らないどこぞの男に嫁ぐなど…っ」

その口ぶりはまるで娘を嫁に出したくないお父さんよろしくな感じだった。
……見た目は可愛い普通のメイドだけど。
通りかかった下町ではなにやら賑やかな声が馬車の中まで聞こえてくる。
雰囲気を変えるために私はこれに突っ込んでみるとしよう。

「ねぇ、ずいぶん賑やかだけど何かしら?これ」

「……え、ええと……恐らく収穫祭のようなものでしょう……その場所によって時期は異なるらしいので私も詳しくは知りませんが……」

「へぇ……賑やかでみんな楽しそうな顔しているわ」

行儀が悪いけれど窓に張り付いてその様子を眺めていると眩しいものを見たように微笑んだナズナにほっと胸を撫で下ろした。
誤魔化すような真似をしたけれど、私も叶う事ならナズナにはずっと居て欲しいと思っている。
だけど彼女も年頃の女性だ、ずっととは言えない。
そんな話をしながら賑やかな町並みを眺めていれば、段々と豪奢な装飾の街並みに変わって行き、城へと近付いていた。
見るものもなくなったので窓からは離れるとナズナも少しずつ硬い顔へ変わる。

うう……つられて私まで緊張してきた…。

そうは言ったって馬車は止まる訳もなく城へと私達を運んでいく。
橋に入ったのか少し道が悪く、揺れる馬車に緊張が更に増す。
程なくして馬車はゆっくりとスピードを落として止まった。

「お待ちしておりました、イリス様」

そう言って馬車の扉を開けて現れたのは学園で私に招待状を渡してきた白い人だった。
王家に仕える者とは言っていたけれど、馬車にまで出迎えられると流石に驚く。
普通ならば使用人のやる事だろうに。
というか彼も学園に居たはずなのに先に居るなんてどんなカラクリなのやら。
制服から白い髪に良く似合う服にまで着替えてさえいる余裕ぶりだ。

「ブランシュ王子はもうお待ちです」

学園でのオドオドとした態度はすっかりなりを潜め、凛とした佇まいに困惑さえ覚える。
そんな彼のエスコートに連れられながら広い城の廊下を歩いて行くと、ある部屋の前で足を止めた。
私も一歩引くとそれを合図に彼は部屋の扉を三度ノックした。

「ブラン、イリス様が到着した」

「ああ、アルか。入ってくれ」

懇意というのは確からしく愛称で呼びあっているようだ。
扉を開くと私を通すために扉を開けて待っているのでいそいそと中へ入る。
私が入るのを見ると白い人は静かに扉を閉める。
中には豪奢なソファに腰掛けた第一王子と思しき青年が紅茶を啜っていた。
端正に整った綺麗な顔、薔薇を思わせる薄紅色の瞳。
その瞳がよく映えるキャンバスのような白い髪の毛先はほんのりと瞳と同じ色に染まっている。
やっぱり王子という生き物は綺麗に生まれるように出来ているのだろうか。
固まっているわけにもいかないので裾を軽く持ち上げて礼をすると、控えめに微笑んでから口を開いた。

「お招き頂きありがとうございます、イリス・アルクアン・シエルでございますわ」

「突然呼び立ててすまなかったな。俺がオルドローズ王国第一王子、ブランシュ・フルール・オルドローズだ。もう知っているとは思うが君の後ろにいるのがアルベリック・バルビエ、俺の友人だ」

ああ、そうだったそんな名前でしたね。
なんというかイマイチ覚えられないから白い人だったけど…この状況で白い人は二人に増えたからそうもいかないわね。

「学園でお会いした時と少し雰囲気が違うので驚きましたわ…」

「あいつはどうも内弁慶のようでな、外じゃあ気の小さい小心者だが城ではこうだ、気にしないでやってくれ」

立ち話もなんだから座るといいと座ることを促されたので礼を言いつつ座ると香りの良い紅茶が使用人によって運ばれてきた。
流石は王家の飲み物という感じの高級感あるカップに茶葉だわ…。

「あまりイリス嬢に変なことを吹き込まないで貰いたい、ブラン」

「本当の事だろ?城以外じゃ人見知り激しくてまともに誰かと話せやしないんだからなぁ。お前も座れよアル」

仲のいい二人の会話を早々に見せつけられている私はどう返したものかと二人を見ていたが、ブランシュ王子がアルベリックさんにも座るのを促せば何故か彼は私の横に腰掛けた。
いや確かに礼儀としては上座にはブランシュ王子だしそういう順番なんだけどそんなに近くに座りますか……?

「お?人見知りの割にはイリス嬢にはあまり壁がないな、珍しい」

「気の所為だ、変なことを言うな」

「全く…素直じゃないな、昔から」

によによと面白いものを見つけたように笑うブランシュ王子に、アルベリックさんはじとりと睨むように顔を顰めた。

大変仲がよろしいようでなによりです…

ナズナも会話に加わることは出来ないので部屋の隅で控えているけれど、その顔はとっても何か言いたげだ。
密かに応援してくれているナズナの為にもここは頑張れ自分……!!

「あ、あの……それでその……」

「ああ、ここに呼び出した理由だな。まあ大したことではないんだが学園の聖女とは何者かとな。貴族連中が集まる学園で聖女なんて呼ばれるなんざ普通はありえん」

「それで興味を持ったらしい。聖女と慕われるイリス嬢とはどんな人物なのかと」

「そういう訳だ、今日はたっぷり付き合ってもらおう」

「こいつの探究心は王子らしからぬところが多い、諦めてくれ」

呆れ気味のアルベリックさんは私の肩をポンと叩く。
おおう……これはまた凄い体験になりそうだわ……

「ここで話すのもいいんだろうが、出掛けるぞ。お忍びで」

「…………はい?」

「具体的にはどこへ行く?それによっては見過ごせないぞ。仮にもお前は王子だということを忘れるな」

「なぁに、下町の収穫祭さ。誰も俺らを知りはしない、変装すれば誰も気付きやしないさ」

それってさっきのですか!?ってかお忍びって言いましたよこの人!
そういう問題でもないと思うのは私だけなんだろうか…。

「まあ……その程度なら今に始まった事ではないな…」

「流石はアルだな、そうと決まればまずは着替えだ」



なんだか知りませんが第一王子とその友人(王族の血を引く公爵)と下町のお祭りに連れて行かれるらしいです……!?


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