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19 何が起きているんですか

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「第一王子から王城へのご招待……?」

金の瞳の青年は柔らかそうな白い髪を揺らしながらこくりと頷いた。
小綺麗に整っている見た目に反して、態度は気が小さいのかどこかオドオドと落ち着きがない。

「はい……どういった事でお呼びしているのか私も知らないもので……」

本当にすみません……とヘコヘコ平謝りな彼から招待状と思しき封筒を受け取った。
では…私はこれで……と足音すら聞こえない静かさで、目の前の白い人は立ち去った。

一体なんだったんだろうあの人……。

私の周りに誰もいないその瞬間に現れたというのがまた驚きだ。
ナズナも所用でほんの少し席を外していたほんのつかの間の時間だった。
まるで忍者のような忍びぶりだとさえ思う。

「ただ今戻りました、イリス様」

「あらおかえり、ナズナ」

「……?お嬢様、そちらの封筒は…?」

「ああ、これ?なんだか誰もいない隙に唐突に現れた白い髪に金色の瞳の男の人から王城への招待状だって渡されたのよ」

封筒の封印部分の蝋印を見せるとナズナは思案するように頬に手を当てた。
蝋印の紋章は確かに王家のものなので危険なものではないだろうけれど、なんの脈絡も無く招待だなんて奇妙でしかない。

「白い髪に金色の瞳……そして学園にいたところを鑑みますとその方は恐らく、アルベリック・バルビエ様でしょう。王家の血を引き、国の重要職を務める人間の多くを輩出された所謂、王家の分家と呼ばれるバルビエ公爵家の次男で第一王子とはご懇意なのだとか…」

「なおさら訳が分からないわ…この状況…」

そんな凄い人に更にその上を行く人の招待状を渡されるのが謎すぎる。
何かしでかしてしまっているのなら『招待状』ではなく『召喚状』な訳だし。

「確か…バルビエ公爵家は代々、女性が生まれると次期王妃として第一王子と婚約するらしいのですが今代ではお生まれにならなかったのだとか…」

「もしかしてそういう話じゃないわよね…?」

「それはなんとも……」

そう決めつけるのは自惚れがすぎるけど、流石に次期王妃候補として挙げられるのは困る。
王妃という性格でもない私には王城の生活も馴染めないし、ましてや誰もに認められるような性分でもない。

「と、とりあえず!中身を確認されてはいかがですか?」

「そ、そうよね……!」

困った顔のナズナは空気を変えるように手を叩くと明るくそう言った。
……まあ確かに内容の確認は大切だよね。


【拝啓 イリス・アルクアン・シエル様


  明日の放課後、我が王城へ来られたし。


  応接室にて謁見を待つ。


  ブランシュ・フルール・オルドローズ】



「って果たし状か!!!」



「お、お嬢様……!?」



訳の分からなさのキャパシティを超えた私ははしたなくも叫びましたよもう!
いやいや、第一王子私をフルボッコにされるおつもりで!?
そして最後の一文に第一王子の名前と思しきものがあるので彼の直筆ということなんだろう。
恐らくこれを城門前で警備兵に見せろという意味合いもあるのだろうけど文よ、文!!


そんな訳で第一王子様の果たし状を頂きました。


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