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とある弟の話 3
しおりを挟む「やっぱり居なかったね……ルシアンさん……」
目を伏せるミルトとボクは落ち込んだ。
もしかしたら、まさか、なんて考えていたボク達を裏切るように彼は練習している生徒達の場所にはことごとく居なかった。
「しかし困りましたねぇ……目撃証言もないとなるとどこを探しましょう……」
いや~困った、とどこか白々しいアルベリックさんはウィリアム王子を見遣る。
王子はそんな視線も気にせず考えているのか顎に手を当ててどこかを見ていた。
「一度彼女を見失った辺りの部屋から探すべきなんじゃない?人目を忍んでいる以上、そう遠くには運べない筈だ」
学園祭準備で人が多く行き交う校内で女生徒一人を攫って運ぶには人目が多い、確かに遠くには行けないだろう。
ふとミルトを見れば彼女は窓の外を眺めて固まっていた。
その目は信じられないものを見たようで、段々と見開かれていく。
「お兄……様……?」
「え……」
その様子に気付いたウィリアム王子は窓に寄り、ミルトが見詰める方向を見た。
ボクも一緒になってそちらを見れば見たことの無い表情のルシアンさんがそこに立っていた。
「ルシアンさん……なの……?」
「あの部屋はどこです?」
ウィリアム王子はアルベリックさんに向き直るとそう言って鋭い視線を向ける。
その瞳は犯人を逃すまいと言いたげで、ボクは何も言えなかった。
「あの位置は確か……教員達の準備棟でしたかねぇ…普段行くこともないので朧気ですが……」
「案内をお願いします」
「…………。容赦ありませんねぇ……コチラですよ」
段々と顔色の悪くなっていくミルトにちらりと視線をやってからやれやれとため息をついたアルベリックさんは先導して歩き始める。
先程から感じている妙な雰囲気は一体何なのだろう、いやに居心地が悪くて仕方がない。
人気のない準備棟と呼ばれたそこに入ると賑やかだった学園の雰囲気はガラリと変わり、物寂しい廊下が広がった。
うっすらと聞こえてきた女声を聞いたボク達は皆足早に音の方へと向かった。
「……に…………たところで…………りませんわ」
言葉が断片的に聞こえてくるようになるとその声が姉さんのものであるという確信に変わる。
「あははっ、じゃあお望み通りそうしてあげるよ。精々頑張ってよ、義姉さん?」
酷い違和感と義姉さんという言葉に吐き気さえ覚える。
様子を伺っていたようだったが、ボクはたまらず部屋の扉を強引に開いた。
「姉さんっ!!!」
「っ!?グ、グラジオ……!?」
部屋に入ったその瞬間、ルシアンさんは繰り糸が切れた人形のように地面へ倒れ込んだ。
「ルシアン様……っ!」
「お兄様……!」
そのことで姉さんも倒れたルシアンさんに驚き、ミルトは慌てて駆け寄る。
手は軽く拘束されていたらしく後ろ手に縛られる姉さんの紐を解こうとボクも姉さんへ駆け寄る。
「ハイド様にウィリアム殿下……アルベリック様まで……一体……?それにグラジオとミルト様はどうして学園に?」
「ボクは姉さんの忘れ物を届けに来たんだ。そしたら、姉さんが居なくなったって騒ぎになってたんだよ」
「わたくしはこの愚兄の様子がおかしいと聞いていたので見に馳せ参じていましたの……それがこんなことになっているなんて……身内が大変なご無礼を」
「あ、ああ……頭を上げてくださいませ。ご本人からも謝罪は頂いてますし怒っておりませんわ、それにこれは彼の本意ではありません」
訳の分からないボク達は姉さんの言葉の続きを待つしかなかった。
本意ではない?ルシアンさんが既に謝罪?一体なんなんだろうか。
「なんと……申し上げれば良いか…彼はおそらく、催眠術のようなものにかけられて意識を度々乗っ取られていたらしいのです。私も目の前で意識が乗っ取られる瞬間を目撃しましたし、乗っ取った方の彼もそのような事を言っていましたわ」
乗っ取られるだなんてそんな奇怪な事が起こり得るのだろうか。
そもそも催眠術だなんてものはまやかしに過ぎない、実際の人間の意識を乗っ取るだなんて見たことも無い。
「しかし君を攫ったことには変わりがない、これは立派な罪だ」
ハイドのルシアンを見る視線は凍りつくように冷たく、ミルトは兄を隠すように眉を下げた。
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