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34 消えた残像

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「他でもない私がもうこれで良いと言っているのです、これ以上の追求は不必要ですわ」

冷たい瞳でルシアンさんを見るハイドに私は語気を強めて言った。
元より攫われた、行方不明になったとされる時間はあまりに短く、そう評すよりも呼び出されて席を外していたという方が合っている。
確かにあのまま彼らに見つけられなかった場合、私はどうなっていたか想像もつかないが無事なのだから彼は悪くない。
それに彼の本意での行動ではないのだから、そんな事で罪にされてはたまったものではないだろう。

「お騒がせしましたわ、戻りましょう?」

それに元凶の彼はまだこの行動を辞めるつもりはないのだ、またこういう事態が引き起こされないとも限らない。
その度に罰していったら多くの人間が身に覚えのない罪で不幸になる。
そんな事、決してあってはならない。

「しかし……!」

「ハイドさん、私達は何も見てませんよぉ……ね?」

「は、はいっ……わたくしも見ておりませんわ……!!」

アルベリックさんがそうミルトニアに同意を求めると慌てて同意する。
その様に微笑ましくなった私はクスリと笑うとグラジオを見やる。
視線に気付いたグラジオはその意図を汲んだと言うように頷く。

「ボクも何も見ていないよ。なにせボクは姉さんに忘れ物を渡しに来ただけだからね」

「あら、ありがとう」

そう言って手帳を渡されたのだがこんな手帳持っていただろうか。
ふと疑問に思ったが今はそれどころでもないので特に気にとめず受け取った。

「っ……今後同じことをしないとは……」

「……大丈夫よ、もう彼は。」

そう、もう彼は本当の彼として居られるし意識ももう乗っ取られることは無い。

そういう約束はしたんだから。

ただし、ほかの人間が被害に遭うことは止められなかった。
元凶の本来の姿さえ捉えられない私には根本から根絶は不可能だった。

「さぁ、私はもう大丈夫ですハイド様。戻って練習しなければ劇の完成が遅くなってしまいますわ」

押し出すように彼の背中を押して部屋から外に出すとミルトニアを振り返った。
私と目が合うとしっかりと頷いたのでルシアンさんを任せて大丈夫だろう。
ウィリアム王子はハイドが部屋から出るのを見るとそのまま私達についてきた。
グラジオはミルトニアに付き添うようで、ついてくることは無くアルベリックさんが一番最後に出てきた。

「それにしても……アルベリック様は何故いらっしゃるのです……?」

ハイドや王子が来るのは途中まで探していたメンツというわけで分かるのだけど彼はいつの間にやってきたのだろう……?
いつも唐突に現れるからもう本当に忍びなんじゃないかと最近思い始めている。

「いえ……ミルトニア嬢が別件でいらっしゃるというので会いに行っていましたらばったりと……」

ええもう偶然ですよと彼は言うが全く信憑性はないなと思う。
そうこう話しながら教室へ戻ると、エレン先生やディモル、ムーランまでもが私の顔を見るなり瞠目して固まるし、リナリアは安堵した顔を見せたかと思うとものすごい勢いでそっぽを向いてしまった。

え、待ってください……私彼女に何かしましたか……??


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