夢店屋

内海 裕心

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夢店屋 case3

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「すみません、遅れました~」

ガララと扉が開き、ぞろぞろと数名の生徒が入ってきた。

授業開始からもう15分くらい経っているのにも関わらず、彼らの態度には切迫感というものがなかった。

「ここ、答えられる人いる?」

手は上がらない。誰でも解けるレベルの内容だ。

「じゃあ、下野くん、これ分かる?」

「チッ」

舌打ちとクスクスという笑い声が聞こえた。

私は見ての通り、生徒に慕われないどころか、裏でバカにされているほどの情けない教師だった。

このクラスは私の副担任のクラスにも関わらず、このような状態であり、他クラスでも、私の授業は毎回、彼らの自由に扱われ、私の話をまともに聞く者はいなかった。

私は、毎日授業をどう面白く出来るか研究し、生徒たちの趣味趣向を調べたが、どうしても平坦な授業になってしまった。

やはり一度着いたレッテルを剥がすのは難しいものだった。

ある時、私は移動教室でたまたま彼の授業を通りがかりに見た。

私と彼の担任クラスだった。

彼とは、私のクラスの主担任をしている先生で、私が30代後半であり、主担任の彼は、私よりも10つほど歳下の若い先生だった。

「えーっと、この問題わかる人いる?」

彼がそう言った途端、私授業では一度も遭遇したことの無い光景を見た。
彼らは笑顔で、3分の1位の生徒が手を挙げていたのだ。

教師の言葉を聞き、笑い、そしてついて行くようなそんな一体感のある授業が展開されていた。

私の授業とは大違いだった。

私は彼にこのことについて聞こうと思った。

タバコの匂いが溢れる、喫煙室の中、主担任と副担任で話し合いが出来る時間が、毎週どこかの時間であった。その時に私は切り出した。

「なぜ、あんなにも生徒を扱うのが上手いというか、ああいう授業ができるんです?」

「あれ、先生観てたんですか?僕の授業」

「ええ、たまたま通りがかりに」

「そうですねぇ、慣れもありますけど、感覚というか、ノリ?ですかね」

「ノリですか、、」

「今の若い子のノリに合わせるんですよ。そうしたら笑いとれますよ」

「私も、一人一人どんなことが好きか日誌に書いた内容をまとめて分析して、そういう風な話を振ろうとしてるんですが、、なかなか」

「先生、、、お堅い。お堅いっすよ、、それは。もっと軽いノリでいいんですよ、ね?」

「なるほど、、、例えば?」

「今流行のあれ知ってる?的な感じでやればいいと思いますよ?」

「分かりました。試してみます...」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「で?試したと」

フードを被った少年は、少しニヤつきながら私に聞いた。

「はい」

私は、あの出来事の後、夢店屋を知り、ここに来た。そして、このフードの少年に何故、夢を叶えたいのかという経緯を今ここで話している最中だった。

「それで、上手くいかなかったんですね?」

「はい。生徒からの反応は冷たいもので」

結局、主担任の言ったことは、私には合わず、中途半端になり上手くいかなかったのだ。

「あちゃーそれは残念なことで、、、主担任に騙されてたんですよ」

「やはりそうだったんですか、、、」

「あなたはその事実に気づいても、彼のような教師になりたいと?」

「はい。今の私の性格では到底なることは出来ない。でも、夢なんです。ああいう先生になることが」

「夢なら、とやかくは言いません。でも、お代はきっちりいただきますし、やり直しは聞きません。それだけは承知の上でお願いします」

お代、、というのはなんでも、私の一番大事なものを奪ってしまうというものらしい。

「はい...分かっています。私に夢を見させてください」

「わかりました。それでは夢の世界へレッツゴーということで、おやすみなさい」

「あっ、その前に」

「え?」

「ちょっと簡単な、心理テストさせてください」

「は、はあ」

「なーにすぐ終わります。あなたの大切なものを知るためのテストです。正直に答えてくださいよ」

「正直に答え無かったらどうなりますか」

「あなたは一生嘘をつけなくなって、本音が垂れ流しになります」

「わかりました。正直に答えます」

「あなたは結婚してますか?もしくはする相手がいますか?」

「いえ、、、」

「では、親友や信頼出来る人は周りにいますか?」

「今はいないですね」

「あなたに趣味はありますか?」

「特にこれといったものは」

「分かりました」

「では、これで心理テストは終わりです。このベットに寝てください」

「はい」

私は奥の部屋の黒いベッドに寝かされてアイマスクのようなものと、脳の実験のようなヘッドセットを被らされ、眠さられた。

アロマの匂いと、独特な空気感。そして、クラシック音楽のような音が聞こえてくる内に、私は深い眠りについた。

リリリリとデジタル時計が鳴った。

俺は朝見ていた夢の事を思い出していた。

確かに教師って言うところは合ってるけど、俺が変なやつになってたな。あんなの俺じゃない。
俺は、もっと堂々としていて、自信があるからだ。生徒の前で怯えるような人間じゃない。

生まれた時からこの仕事に就きたかったと思える程の天職、教師という職業に、俺は就くことができた。昔から教師になるための勉強は欠かさなかった。
教師になれたら絶対いい人生を送れるという自信もあった。それほど元から教師向きの性格だったのだろう。

そのおかげか俺は、中学校の教師として、一定の人気を掴んでいる。

「森木先生がいいよねー」

「うん。森木先生面白いしね」

「確かに、森木の授業は退屈しないな」

なんて生徒たちの会話が自然に耳に入ってくるのだ。

俺はこれ以上ない優越感に浸った。

やりがいをとても感じて、生き生きと毎日を過ごした。

生徒たちのためなら、なんでも出来ると思った。そのために色々なこと着くし、楽しませることに徹底した。
そこで、生徒たちとの思い出を色々いっぱい作った。
そんな日々の1ページ1ページにカタルシスを感じた。

毎年毎年、生徒は卒業していく。自分の手元から離れていく。楽しいこと、悲しいこと、辛いこと色んなことを共有して、過ごして、感情が溢れていて、そんなことを体験出来る教師という仕事は素晴らしかった。

定年になり、私は教師という職業を辞めた。

あとは老いていくだけの人生、そんな時に生徒たちが私に会いに来てくれた。

色々な生徒たちが私に感謝をしに来てくれたのだ。

結婚して、幸せな家庭を手に入れた生徒、地元のラーメン屋の店主として働く生徒、野球を続け、社会人野球で活躍している生徒、人事部として活躍している元委員長などが居た。

みな、一様に、幸せそうで、私も幸せだった。

彼らをちゃんと良い人生へ導けたことが何よりも私の人生において良い人生と思える事象だった。

私は亡くなる瞬間。思いもよらずに、死んだ。
病院で入院中を、何者かに襲われ、殺された。
犯人は、私の担任したクラスの元生徒だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「おはようございまーす」

「んん、、おはようございます」

「どうでした、夢の方は」

「最後の結末以外はとてもいいものでしたよ」

「まぁそうですよね。でも、これはあなたが望んだ夢なんですよ結末も含めね」

「私にはそうは思えません」

「今の、あなたにはそう感じられないかもしれませんね」

「貴方は夢を見る前までの貴方と違います。大事なものを頂きましたから」

「なんなんですか、それって」

「あなたの、人へ対する想いです」

「それってどういうことですか」

「つまりですね、生徒のことを考えられなくなったんです」

「そんな」

「貴方は誰よりも生徒想いの先生だった。それは生徒には伝わらなかったけど私かに裏では誰よりも生徒のことを考えて、色々なことをしていましたよね。でももう今のあなたはそうじゃない。むしろ真逆だ。少しも生徒のことを考えられない」

「私は教師失格じゃないか」

「それは、分かりませんよ。だって、貴方の後輩は、貴方程生徒想いでは無いのに自然と生徒と仲良くなっていたじゃないですか」

「それはそうだけど、、、」

「必ずしも、努力が報われるってことは無いんです。なので、応援してますよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

彼と話している中でわかった。

彼の夢、理想、野望。

そして彼の大事なものを。

確認が終わったら、その彼の夢を実現化させるように、ドリームマシンに必要事項を書き込む。

あとは、実行すれば、勝手に脳波から情報が送られ、全ては完了する。

ドリームマシンには、莫大なエネルギーが必要となる。そのために、その人間のいちばん重要なものを差し与えなくてはいけなかった。

「自分勝手な夢っていうのは、リスクもあるって事か」

夢は、利己的なものがほとんどだ。そうじゃないものもあるかもしれないが、自己犠牲の夢など、夢とは言えないと僕は思う。その夢を叶えるために、人は色々なものも失うリスクがあるのだ。

ある一生では、絶対叶えられない夢もある。人は生まれながらにして才能や環境は決められているからだ。
だからこそ、1番大事なものひとつ失っても、見たい夢があるのだ。

「夢を抱かない人間なんて居ないからね」

僕はそう呟いて、ドリームマシンを起動させた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

キンコンカンとチャイムがなり、教壇に立つ。

いつも通りの光景に私はイライラした。

私が喋る中、ヒソヒソと私語を言う生徒、手紙でやり取りする生徒や、本を読んでいる生徒、内職している生徒。
様々が生徒がいて、私の授業をまともにきいてないやつがほとんどだ。

「おい田浦、この問題答えてみろ」
唐突に、一番目に着いた話しているやつを当ててやった。

「わかりませーん」

田浦はお決まりの言葉を口にした。

毎回毎回、分かりませんか適当に答える。こんな簡単なレベルを。

もう、今の私はそれが許せなかった

「ちゃんと考えればこれくらいわかるだろう」

「うるさいなあ、、分からないって言ってるでしょ」

「じゃあ、廊下立ってろ」

「は?なんで」

「いいから、廊下に立ってろ!!!!!」

「ちっ、、、はぁなんて俺だけ」

私はこのように、気を晴らすためだけに生徒を執拗に叱ることが増えた。それは理不尽なものだった。

私の生徒への理不尽な行動は日に日に増してエスカレートしていき、生徒からは嫌われ、保護者からはクレームを受け、学校内で問題となり、私は仕事をクビになった。

それでも、私のやり方は間違ってはいないと思った。悪いのは、真面目にやらない生徒たちで、怒るのは正しい。私はただ正しいことをした迄なのだと。

そんな私は当然社会から見放されていった。
私は教師を辞めた後、教師をやっていた経歴だけを買われ、図書館で働くこととなった。図書館で働く毎日は、静かで落ち着いたハリのないものだった。
あの頃とは真逆であった。
でも、この仕事は向いているかもしれないと思った。
本の整理や受付の仕事は仕事と言うよりも作業に近かったからだ。
というよりも、私は教師の仕事が向いて無さすぎたのだろう。
人を想える心を失った以上、続ける意味も無くなったから辞めて正解だったかもしれない。
でも心のどこかで寂しさを感じた。あの生活は悪くないものだと思った。

「森木さーん、今日から絵本の読み聞かせ講演会を別室で開くので手伝ってください」

「あ、はい」

夏休みらしく、多くの子供が図書館へ来ることから、子供を集め、絵本を読み聞かせるというイベントがあるらしい。
そのイベント自体は知っていたが、私が関わるのは初めてだった。普段から私は、仕事をこなすだけでこういう厄介事には関わらないようにしていたからだ。

「今日、担当の方が休みでね、あそこで絵本を子供たちに読んでもらえない?」

職員のおばさんに唐突に頼まれた。私は思いもよらぬ頼みに驚いて、やる気も起きなかったが、私は断れる性分でもないので引き受けた。

体操座りや胡座をかく多くの子供たちの前に立つ。そして、絵本を開き、子供たちに見せる。

私は、懐かしい感覚を覚えた。そうだ、私はこの感覚が好きだった。いつから嫌になってしまっていたんだろう。きっと、求めすぎるようになってからだろうと思った。

私は絵本を彼らに上手く読み聞かせることが出来なかった。言葉はたとたどしく、あの頃のようにはいかない。あの頃も上手く出来ていたかどうかも分からないが、今よりはマシだと思った。子供たちのために聞きやすいようにゆっくり話すことも、出来ない精神状態だった。

それでも、この感覚は、あの壇上に立って話す感覚と似ていて、悪い感覚は不思議としなかった。むしろ、とても心地よい感覚であった。この感覚は、2つの取り戻せない大事なものを失った私を、立ち直させる希望の光かもしれない。

まだその光は灯されてはいない。マッチを擦り、火を付けなければならない。風が吹きその火は消えるかもしれないが、諦めずに、何度も何度もマッチを擦り続けなければ、その光は一向に灯されないだろう。

私は今火をつけようとしていた。風に吹かれて火が消された訳ではなく、火をつけることも出来なかったが。それでも私は諦めない。希望の光が少しでも見えた以上、私はその光を追い求め、マッチを擦り続ける道を選ばざるおえなかった。

やはり、私は、人間は、欲望には勝てない。現状に満足出来ず、求めすぎてしまう生き物なのだと思った。
それが必ずしも良い方向へ向かうとは限らなくても。

私は、教師という立場を失った。欲望のままに行動し、理想となる教師になるために、色々なものを求めた。そして、私の出来る以上のことを求めすぎて、失敗してしまった。
今度も、求めすぎてしまうかもしれない。それでも、、失敗は成長であり、自分の道を信じて進もうと思った。

私は、失ったものも、違う形で得られる可能性があることを知ったからである。
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