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ロック
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「あ~ロックー、ロックー、私のロックは、いりませんか~?今ならタダで私のロックを与えられますよぉ!」
駅の中にあるスーパーの前の、何も無い空間で、その声はいつも響いている。このスペースは私たちの場所。私たちの拠点だ。
私は、そこへ迎う寄り道で、何となく河川敷の高架下に行き、思いつきの歌詞を即興で歌っている。
「あぁーロッキンバン、私は生まれたてからロッキバーン!地面から生まれたダイヤの原石、ロッカーバーン!孤独に生まれ、孤独に死にゆく、ロックバンガー!これが私の生きる道」
大声で歌いながら歩いていると、いつの間にか高架下に着いていることがわかった。
私が、いつものように即座に拠点に行かず、少しの寄り道をして、こうして大きな声で歌を歌っているのは、あの嫌なことを少しでも掻き消したいからなのかもしれない。あともう少しの辛抱で無くなるのだと考えると気が楽になった。
歌を散々歌い尽くした後、私は本来の目的地である駅内にあるスーパー前の広場に行くことにした。
道の途中に、夏の日差しを全面に受けた校舎があった。今頃、学校ではこの暑さの中、授業が繰り広げられている。同じ教室で、同じ教科、同じ教師、同じ生徒。何もかも同じ日常。私は、そんな退屈な囚われた日常が嫌いだった。いつも休んで街をふらつく。それこそロックだろう。でも全く、よくこんな暑い日にあの暑い校舎の暑い教室で、むさ苦しい空間の中、授業なんて受けれるなと思った。まあ、私もこの暑さの中外に出て、黒いレザーパンツを履き、長袖のロゴTを着ているから、彼らからしたら私の方が異常なのかもしれないけど。はっきり言って、最高な私に、この最低な街は相応しくないと思った。この街は何かも型にはまっていて、街全体が雁字搦めになっている雰囲気がある。最高にロックじゃないこの街が、最高にロックな存在の私は嫌いなのだ。ここの空気を吸ってたら、私のロックが穢される。そして、いつの間にか埋もれ、消されていく。粉々になった鉄くずや黒ずんだ埃の混ざった空気がこの街には流れている。私にはそう感じた。例え、その町の誰かが私のことを鉄くずや埃扱いしたとしても私はそれを気にもとめないだろう。私はダイヤの原石なのだ。この街にもきっと私と同じダイヤの原石はいるはずなのに、鉄くずの中に埋もれてしまって見えないか、埃をかぶって黒ずんで、ただの石のように見えているだけだ。
「おー、ロックちゃん!」
駅の中にあるスーパーの空きスペース、寂れた何も無いコンクリートの空間に私たちの拠点はある。 そこに、一人、私に手を振るおじさんがいた。
「アレ、もう終わっちゃった?」
「今ちょうど終わって戻って来たところだよ」
そう笑顔で、おじさんは答えた。アレというのは、私たちの拠点で行っているロックンロール活動だ。活動目的は、ロックの仲間を集め、私たちのロックを教授させること。活動内容としては、自由に遊び、話し、そして歌う。その姿を見せて、参加者を集うのだ。
「そっかァ、参加できなくてごめんっ!」
「いやぁいいよお。ロックちゃんは自由なのが一番だし」
「へへ、おじさんありがと」
このおじさんは、私のロックな仲間、一号だ。名前は知らないが、一応あだ名はある。あだ名は、テグさん。手癖の悪いテグさんと覚えれば簡単に覚えられた。結局、私はおじさんと呼んでしまうことが多いけど。
「それより、ロックちゃん、このお弁当食べる?」
「うわ!美味そう!これ高いやつじゃん!」
「うん。近所のスーパーでね仕入れてきたんだ」
「おじさん、仕入れると言うより、くすねるでしょ」
「あはは、ロックちゃん、それはしーっだよ」
「まあ、いつもの事だしねー。今問題になってる食品ロスへの貢献だね」
テグさんのロックなことは、こんなところだ。毎日毎日、自分のために、私のために、人を欺いて、色んなものに手を出して、消費して、それで満足する。世間一般的な表現で言ったら、テグさんは、盗みを働いている。私はおじさんの手は喜んでいると思う。誰かの為に盗みを働くおじさんの手はとても幸せなのだ。なんで彼はこんなにも素敵なのに奥さんと娘に捨てられたのかが不思議でならない。捨てられるべきは彼の他にもっとあったはずで、彼を含め、捨てられるべきものでないはずの物が捨てられてしまうのがこの街なのだ。
「あ、テグさんに、ロックちゃん」
「やっくんじゃん!」
「おう、ヤクさん、どうだいヤクさんも食べるかい?」
「お、今日もテグさん弁当出店してるね。店長ひとつ頂くよ」
そう言われ、テグさんは、しゃがみこんで服に皺をつくり、パンパンになったビニール袋に手を入れる。そこからまた盗んだであろう弁当を取りだした。
今はもうお昼すぎで、私は貰った弁当を夕食に当てることにしたがやっくんは、貰った途端に性急に食べ始めた。その食べ方は、獰猛な獣が死んだ獲物を貪り食う様子に似ていた。
私がやっくんと呼ぶこの男は、身長が高く痩せていて、顔が青白く痩せこけている20代後半の少し猫背なお兄さんだ。テグさんはヤクさんと呼ぶ。彼は、見た目通りに、気力のない感じでいつも気だるそうにしている。でも話してみたら、とても気さくでいい人であり、大抵の冗談を理解して話を合わせる頭の回転の良さも持ち合わせている。
「ロックちゃん、一本どう?」
「私、タバコ吸わないんだよね」
「そっか、残念」
「じゃあこれは?」
そう言って彼は小さな袋を私に差し出してきた。その袋の中には白い粉が入っている。
「やっくん、面白い冗談だね」
「うーん、もうちょっとウケると思ったんだけどね」
「やっくんそれは、ネタになる人が言うとウケるんだよ」
「アハハ、そっか~」
彼は、薬物乱用者だ。覚せい剤、大麻、MDMAなど名の知れたものを沢山使う。だから体もボロボロで廃人のような見た目をしているのだ。たまに幻覚とか幻聴を見たり聞いたりもするらしい。でも彼は決して他人に害を与える人間では無いことを私は数ヶ月間、関わって知っている。むしろ、彼は見た目以上にユーモアのある人間であり、自虐ネタで人を楽しませる。そんな彼が私は好きだった。もちろんLOVEではなくLIKEの方だが。好きな理由はもちろん彼がロックだからである。
ロックな私とロックな彼ら二人が駅近くのスーパー裏で、新たなロックな人材を見つける、そんなような毎日を私は続けていて、そして、満たされていた。私の居場所はここだと思った。
私は毎日学校を休んで、このロックな活動を2人と続けていた。なかなか、ロックな人材は簡単には見つからない。それでも、この活動はしているだけで楽しく、いい気晴らしになった。それだけで意味があったと思う。本来なら、ロックな人材集めも気晴らし程度に、軽くやればいい。でも最近の私はどこかこん詰めているところがあった。それは私らしくなかった。きっとそうなってしまう理由は、私がやらなければならないある事のせいだ。それをやるために、ロックな人材発見活動は休むようになっていった。
「あれ、今日もロックちゃん来ないね」
「そうだねぇ...最近のロックちゃん。ちょっとおかしいよねぇ...」
「なにかあったのかねぇ」
最近は、ほとんど顔を出せていないから彼らがそう言う会話をしているかもしれないとふと思い浮かんだ。今日も、私は、彼ら二人の元へ行かず、やるべき事をするために、廃工場へ向かった。
廃工場の錆びれた重々しい雰囲気と、独特な匂いに包まれた空間に足を踏み入れると、私がやらなければならない事に関する最重要人物達がいた。
「はぁ、おい、てめえ。こんなことをして、ただで済むと思うなよ」
「響歌、こんなこといつまで続けるつもりだ」
私がやるべき事をやる相手は3人いて、口枷を剥すと、2人は威勢よく叫んだ。1人は黙ったままだった。
「私の気が済むまでは続けるつもりだよ」
「お前はまたあんな目にあいたいようね」
と、3人目が口を開いた。威勢が良くないが故に、重く威圧するかのような声だった。
「あんな目にか、それは君たちの方じゃないかな」
「はぁ?誰がてめぇなんぞに」
「まずは、威勢のいい君から行くね」「君にはそうだな... グラムロックが似合いそうだ」
そう言って私は、威勢のいい一人のクラスメイトの女を拘束台へと連れていき、拘束具と目隠しとタオルを用意した。
「右腕、左腕、右足、左足。それぞれ別の拷問をする。その拷問で一番痛いと感じる所を叫んでね。叫ばないと一生その拷問は終わらないから」
これは、奴らがそうしたようなものだ。それをそっくりそのまま返しているだけ。奴らもそのようにどれが相手にとっていちばん苦痛なのかを試し、様々な方法でいたぶり、その反応を楽しんでいた。そして、一番ウケが良かったものを、反応が大きかったものを続けようとした。
「右足!右足いいぃぃぃい!!!」
「右足ね、じゃあ右足の拷問を全ての胴体にしよう」
「それが終わったら、次は一番痛い指で試そうか?でも今度は嘘をつくかもしれないから痛くない指とかでも楽しそうだよね」
人間の身体的苦痛は、精神的苦痛にもなる。でも私の拷問は精神的苦痛から身体的苦痛へとなり、身体的苦痛から精神的苦痛へと循環するようになっている。つまり、抜け出せない地獄の循環であり、最高にロックな精神的苦痛の与え方だ。
「じゃあ次は君だ」
「私?ねえ響歌。もうやめてよこんなこと」
「やめないよ。言ったでしょ。私の気が済むまでやめないって」
「このクソ女、私が下手に出たからって調子に乗るなよ」
「本性を出すのが早いよ。これだから裏切り者は」
裏切り者は裏切られた者の気持ちを理解することが到底できない。でも、私はそんな身勝手なやつのことを許せなかった。だから彼女の友人を呼んだ。いやもっと端的に言えば、彼女が友人だと思い込んでいた人達だ。
「なによ、あんた達」
「ごめんね。静香。私達、、本当は、アンタのことなんて友達と思ったこともないし、無理に付き合ってただけで、本当はクソほど面倒くさくて、死ぬほど嫌いだったんだよ」
彼女にとっては、友情物語が崩れ、友人から罵詈雑言をあびせられ、そして今まで裏切られていたことに気づく。その言葉一つ一つの鋭いトゲが、彼女の心に刺さっていく。悪い言葉は吐けば吐くほどどんどん出てきて、それがひとつの旋律のようになる。その旋律は速く、激しく、そして鋭く尖っていて、とてもロックなものだった。この言葉の群れこそ、プログレッシブロックの音源そのものかもしれない。裏切り者が最後に裏切られ、自分の過ちに気づくという展開の歌詞も最高にロックだろう。
「プログレッシブロックの音源は流さなくてもいっか。次行こう」
「最後は取っておきの君だ。君には身体的苦痛も精神的苦痛もあまり効かないだろうから。とっておきの方法をとらせてもらうよ」
「何をする気?」
「君には、新しいロック、オルタナティヴロックを奏でてもらう」
「はぁ、なによ、それ」
「簡単に言えば、君は、私に従うだけ。それだけでいい」
かつて、貴方が私を思いどおりに操ったように、私も貴方を思い通りに操り、貴方は私無しでは生きていけなくなる。いじめは、こうでないと。いじめは、相手の嫌なことをするだけじゃない。相手と切っても離れない主従関係を結び、自分の思うがままに操り、一生目の前に光が見えない地獄を見させ、それを楽しむことなのだ。相手への嫉妬を引き起こす原因は、プライドの高さ。そして相手を見下す傲慢さ。私を下に見ていたということ。そんな私のおかげで生かされている状況は、プライドの高いものにとって相当な屈辱だろう。
やるべき事が終わり、私はロックロールに参加できるようになった。 私は、やるべきことを終えると、ふと私と彼ら2人の違いに気づいた。彼ら2人は私と同じようにロックな人材ではある。テグさんは、手癖が悪く、常習的に盗みを働いているし、やっくんは、薬物中毒者だ。だが、それまで。私ほどロックでは無い。私はロックの信念の元、やるべき事をやり、彼らと違って他人を傷つけた。私と彼らは違うのだと、そう思った。しかしそれは違うと思い知らされる出来事が今後、起こることになる。
いつもの活動中、テグさんが席を外した。何やら急の電話のようだった。私もその後トイレに行こうとして席を外し、ちょうどそのトイレ近くでテグさんは電話をしていた。元奥さんだろうかと思っていたが、そうではなさそうな雰囲気の内容だった。電話相手の声は聞こえないので、テグさんのワードで判断するしかなかったが、テグさんは計画、実行、罰など何やら意味深な言葉を口にしていた。テグさんも私と同じロックを持っているのかもしれないと思い始めていると、今度はやっくんがその片鱗を見せた。やっくんは、見ての通り薬物中毒者で、薬物を扱っている悪い奴らとつるんでいた。そいつらがたまに、ここへ来てやっくんに変な絡みをしていた。やっくんに薬を押し付けるのではなく、なにやら話し込んでいるようだった。まるで悪巧みでもするように会話が意気投合していて、やっくんがまるで加害者のようだった。
私は2人のプライドベートを一切知らない。それは2人にとってもそうで、私のプライベートなことは一切言っていない。関与する気もなかったが、ロックのことであれば違う。
私は2人の後をつけて見ようと思ったこともあったが、後をつけたところで、そのような活動をしているところに遭遇できるかは分からないし、むしろその可能性は低く、この活動がない日にしていると思ったので、問い質すことにした。
「テグさん、やっくん。二人に話がある」
これは、賭けでもあった。まだ確信をもてたわけじゃなかったからだ。
私は自分のことから話し、相手へ打ち明けさせる展開へと持って行こうと思った。
「私、実は二人に言っていないロックな活動を一人でしているの。それを打つ明けようと思う」
私がそう言ってこれまで行ってきたロックを淡々と話し始めた。二人は最初どうしたのという面食らった感じだったが、私の真剣な話のトーンにどんどんとひたっていき、静かに頷きながら聞くようになっていた。
「ロックちゃんは、それを話して、私たちに何をして欲しいんだい?」
私が話終えると、テグさんがそう言ってくれた。テグさんは本当に話の理解が早くて良い。
「つまるところ、2人にも私に言っていないロックな秘密を打ち明けて欲しいんだ」
「それは、どうして?悩みの共有かい?」
「悩みの共有とは、また違うんだよ。ただ私は興味があって、知りたいだけなんだ。私のロックとどう違うのか。二人のロックを否定するつもりもないし、干渉するつもりもない」
「そうか、なら話すよ」
「やっくん、いいのかい?」
「テグさん、大丈夫だよ。それにロックちゃんのあんな決意見せられたら黙っていられない」
「分かった。じゃあ、私から話すよ」
「私は、妻と離婚したと言っていたよね。あの原因は妻の家庭内暴力だったんだ。私にはもちろん、娘にも、暴力を振るうことがあって、それで私は妻と離婚した。でも、妻はそれを隠蔽し、離婚は全て私の身勝手な行動を原因にしたんだ。それが私は許せなかった。でも何も出来なかった。私には力が無かったから」
「でも、力を得たんだよね。そうじゃないと、今の状態には至れてない」
「そうなんだ。古くからの知り合いで児童相談所の職員をやっている友人がいてね。無理やりの頼みで、そのような家庭内暴力を受けている可能性のある子の住所を教えて貰っている。そして、保護しようと活動しているんだ」
「でも、それは個人情報的にまずいんじゃ?」
「ああそうだよ。私は、犯罪者だ。黙っていて済まないね。でもそれだけじゃないんだ。私は、その無責任な親たちを連れて、説教をした後、それでも改心しなければ、同じような目に遭わせていたんだ」
「テグさんは、なんでそんなことしたの?」
「最初は正義気取りだったかもしれない。でも、段々と変わって言って、今では娯楽としてそういうことをしているんだ。きっとあの時できなかったことを、妻にしてやりたかったことを、散々他の人で出来るその楽しさにハマっていった。正義気取りなんてもってのほかだ。私はただの悪人で罪人で、愉快犯なんだ」
「それがテグさんのロックだったんだね」
テグさんのロックを例えるときっと、ポップロックだろう。愉快犯のテグさんには愉快なリズムがピッタリだ。
私は震え涙を零しながら話すテグさんに手を差し伸べた。ロックを持つものだからこそできる行動だと私は、そう自分で思った。心の底から勇気を出して話してくれたテグさんに寄り添った。
少し経ち、テグさんも落ち着いてくると、気まずそうにやっくんが話しだした。
「次は僕か。テグさんの後だとしょぼすぎて拍子抜けしちゃうかもしんないけど、簡潔に言うと、僕は、精神疾患を持った若者たちに、薬物を勧めてた。いやもっと分かりやすく言うと、所謂、メンヘラみたいな連中に薬物を飲ませて、幻想を見させてあげたり、時にはオーバードーズさせたんだ」
「オーバードーズって、死ぬんじゃないの?」
「死ぬ時もあるし、だいたい後遺症が残るだろうね。でも、オーバードーズさせる子は
死を望んだ子だけだよ」
「なんで、そんなことをしようと思ったの?」
「僕の親は、僕の存在をいなかったことにした。つまりはネグレクトと言うやつでね。一日中空腹で死ぬそうな時もあった。そして精神も病んだ。そんな時には、何もやる気が起きず、死を渇望することか、何かに依存して空腹を忘れることしか出来なかった。そんな想いをしている人たちを僕は救いたいし、させている人たちを地獄に落としたい。どちらも実現できるのが薬物だと思ってやっていた」
「やっくんは、薬物のことをどう考えてるの?」
「薬物は、とても都合のいい夢だと考えてる。辛い現実から逃げて、幸せな幻想を見させてくれるものさ」
「それがやっくんのロックなんだ」
やっくんのロックを例えると、サイケデリックロックだろう、幻想的な音楽が薬物中毒者が幻想を追いかけるということにピッタリだ。
「でも、二人は同じ仲間がいたんだよね?どう集めたの?」
「最近はネットが流行ってるからそこでかな」
ネットか。それもいいなと思った。私たちのロックな仲間を集めるサイトを創るのも楽しそうだ。そこでやる活動をまとめる。サイトがめんどくさかったらSNSでもいい。いつかじゃなくて、今やろうと思った。私はこの日から活動の最中に写真を撮り、それを説明文と共にロックンロール専用SNSを立ち上げて投稿した。反応もあり、まだ出会ったことの無い私たちの仲間たちは確かにいるという感覚があった。
互いのロックを知り、よりロックンロール活動へ、団結が深まったような気がした。その矢先、ついに初めてのロックな新しい仲間が見つかった。それは商店街を練り歩きながら、食べ歩きをしたり、買い物をしたりした後、宣伝歌を歌った後だった。
「あの、私もやりたいです」
と、私と歳が同じくらいの風貌の女の子が唐突にそう言った。
彼女は真面目そうな見た目をしていて、とても私たちに似合わさなさそうだと思った。でも、ここに来たからには、何かしらロックな事情があるだろうし、ないとしてもロックな自身に変わりたいと思っているはずだ。
「よーし、じゃあ君も今日から私たちのロックな仲間だ!私はロック。よろしくね」
私はそう言って受け入れた。彼女はあのSNSを見て、私たちの活動を知ったらしい。あのSNSはやはり効果があったのだ。わざわざ創った甲斐があった。
「僕はみんなからやっくんって呼ばれてる。由来については、お察しの通りだよ。よろしくね」
「私はテグっていうあだ名があるよ。手癖が悪いからテグって由来なんだけど、ロックちゃんにはおじさんって呼ばれてるからおじさんでもいいからね」
私に連なって、やっくんやテグさんが彼女に自己紹介をした。ちょうどいい機会だと思った。
「こんな感じで活動のメンバーにはみんなあだ名がついてるんだけど、君にはなんのあだ名がいいかなあ。なんかよばれてるあだなとかある?出来れば、中々ない特徴的なあだ名で」
「特に、ないですけど、、」
彼女は気まずそうに黒縁のメガネを触りながらそう言った。
「じゃあ特徴で決めるか、なんか他の人には無いものある?」
「特徴なら、私は眼鏡をしているのでそれかと」
眼鏡か、たしかに彼女はオシャレな黒縁メガネをしている。素人目だがとても高そうに見えた。眼鏡っ子だから略してメガちゃん。私の脳ではこれが精一杯の思いつきだった。
「じゃあ、まだ仮だけどメガちゃんでいい?」
「メガちゃん。可愛くていいんじゃない?」
「うん。私も彼女によく似合っていると思うよ」
彼女よりも、彼ら2人が早く反応した。彼らがいいと言っても当人がダメと言うならダメだろう。しかし、彼女はその2人に押し流されるかのようにこのあだ名を受け入れた。
「じゃあ、それで、、お願いします」
後にメガちゃんから聞いた話だと、外見のメガネが特徴というのは、とてもメガネに拘るっているかららしい。なんでも、お気に入りのメガネを何十個も持っていて、集めるのが趣味だという。気分によってメガネを変えるのだ。これはメガネコレクターといえる。結構ロックな一面が見えて嬉しい気持ちになった。
メガちゃんが入ってから数日が経ち、今日は初めてメガちゃんが、ロックンロール活動に参加する日だった。私とは数回SNSでやり取りをしたから慣れてきているとは思うが、まだやっくんとテグさんとはあの日に自己紹介を交わしただけだ。緊張もあるだろう。メガちゃんは、初めての私たちとの活動に緊張していたが、それは直ぐに解かれていった。なぜなら、今日のロックンロール活動の舞台はゲームセンターだからだ。
「あ、ここよく来たことある」
メガちゃんがそう小さく呟いた。このゲームセンターは錆びれた商店街内にある小さな古めかしいゲームセンターだ。とはいえ、人はよくいるものだ。住宅街が近いからというのもそうだがここでしか出来ないレトロゲームが多くマニアからも人気なのである。
「そうなの?家から近いの?」
「うん。飯嶋中学校からも近いし、帰りに寄る生徒も結構いる。私はしてないけど」
「メガちゃん飯嶋中なんだ。私は粟原中 」
「あーあの...」
「そう、あの」
「ていうかさあ、歳同じ?中ガッコ3年?」
「はい」
「それならさぁ、敬語なんて捨ててタメ語でこれからは行こうよ」
「はい。ああ、うん」
ぎこちない返事だったが、少し嬉しそうな顔をしたメガちゃんを見れて、私は満足した。
「テグさんとやっくんは年上の男だから同年代の女の子が来てくれて嬉しいよ」
「あーうん。それは良かった」
彼女と会話した後、テグさんとやっくんが先にやっていたメダルゲームに参加した。メガちゃんの演奏担当は何がいいかを話し合いながら。私は、古めかしい、ボールを落として穴を埋めていく埋まれば埋まるほど良いメダルゲームをやった。この埋め込まれたネジなどが内蔵された磁石によって影響され、ボールの落ちる位置が操作されるという仕掛けの噂のせいで前より純粋に楽しめなくなったが。それでも同じ所にボールが2つ溜まるとボールが全部落ちてしまう儚さとその時に感じる残念さは変わらなかった。メガちゃんの元に同年代の制服姿の女の子3人組が寄ってきた。
「近藤、こんなとこで何してんの?」
私に一瞥もせず、ただメガちゃんだけを睨み眼で、見下ろして、見下していた。
「そこの一緒にいるダサい女は誰?アンタなんかに友達いたんだ?」
私を指さし、顔を小さく上下させて、嘲笑した。
「すみません、連れさん。私たちと近藤さんはこれから予定があるので、借りていきます」
「その予定に私も付き合っていい?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私はその時初めて思った。この人は、普通の人じゃない。怖い人なんだって。それまでは、とても優しくそして信頼出来て、私に新しい世界を見せてくれる革命家のような存在だと思っていた。彼女の存在が今までの人生の中で一番光輝いて見えたのだ。
私の人生は暗闇ばかりだった。小学校の頃から虐められ、それが中学でも続いた。親に相談したり、いじめっ子に刃向かったりしようと決意した日もあったけど、私には無理だった。なぜなら、私は弱い。そして、心の痛みの分かる真人間だったからだ。
私が思う真人間は、世間一般的で、大抵の人と同じように人の痛みが分かり、大抵の人と同じように少し自分勝手なところがある。そういう人間だ。真人間じゃない人は、人の痛みが分からなかったり、エゴイストで自分勝手すぎる人間だったりすると勝手に思っていた。私をいじめていた3人はこれに当てはまっていた。真人間の大衆達は、いじめに加担せず見て見ぬふりをするか、自分がいじめの対象にならないよういじめに同調するかだ。真人間でない人間じゃない限り、わざわざいじめの第一人者、主犯格になろうとしない。いじめられる側の対応も、そのように真人間かそうじゃないかで別れると思う。私は真人間だから、歯向か得ず、ただ従うままだった。何度も、歯向かおうと決意したことはあった。でも、結局実行には、移せなかった。私はその後の展開に恐怖したのだ。やり返されるかもしれない。まず、上手く歯向かう自身もなかった。ただ悩みもがき、苦しみながら、針が敷かれたレールの上を血だらけになりながら進むしか無かったのだ。
彼女、ロックちゃんは、そんなレールから脱線していた。彼女の目は、私の目とは違った。真っ直ぐな瞳なのに、その瞳は目の前の事実を捉えていない。そんな不思議な目。彼女は、レールから脱線した道無き道を、我が道を作っていた。そんな生き方は到底、常識人にできる事じゃない。彼女が、私のいじめっ子たちに歯向かった時、彼女はそちら側だと悟った。彼女は、私をいじめたいじめっ子と同じ真人間ではないのだと。そう思った瞬間に、彼女への憧れは恐れと変わっていた。彼女自身を恐怖するのではなく、彼女が何かやらかすのでは無いかという恐れだ。私がいじめっ子達に従わざるおえなかったのは、いじめっ子達の異常さが私を動けなくしたから。私がロックちゃんとロックちゃんの活動に憧れたのは、ロックちゃんの異常性に私が惚れたからだ。私たちは彼女達の思考が理解できなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
結局女3人組はメガちゃんと少し話したあと直ぐに去っていった。私はただそれを見つめるだけだったが、相手はかなりそれを意識していた。彼女たちが去った後、私はメガちゃんに、聞いた。
「あの子たち、メガちゃんをいじめてるんでしょ?いいのあのままで」
「うん、、、私がどうすることも出来ないし」
そう言って俯く彼女のために、なんとかしてあげたかった。彼女は私の仲間だからだ。メガちゃんには前を向いて欲しかった。
「私なら、どうにかしてあげられるよ」
そう私は口に出ていた。しかし、そういった直後、メガちゃんは、顔を恐怖に歪ませた。
「やめて!!!」
それは明らかな拒絶の声だった。
「どうしたの?」
悲鳴を上げた彼女に驚き、私は恐る恐るそう言った。
「怖いの、、、」
「何が?復讐することが?」
「いいえ、それもそうだけど。あなたも怖い」
彼女は淡々と震えた声でそう言う。私が怖いとはどういうことだろう。
「私は、メガちゃんの味方だし、君救うために行動したいの」
「あなたが、いい人だってことは分かってる」
「でも、復讐をしようとしているから。まだ出会って間もない私のためにそんな行動が出来るなんて理解できないの」
「なら、今から私に着いてきて欲しい。私のことを理解して貰いたいから」
「どこへ連れていく気なの?」
「大丈夫、見て欲しいものがあるだけ、メガちゃんは何もしなくていいから」
そう言って、彼女は私を廃工場へ連れていった。あの、私が断罪したいじめっ子達がいる場所だ。彼女はさらに私のことを怖がるかもしれない。それでも、理解して貰うにはこの方法しかなかった。
「なによ、これ」
「これが私の復讐だよ」
「酷い。酷いよ。復讐しても何も起こらないただ悲しくなるだけだよ」
「メガちゃん。それは違う」
「これを見ても、なにも私は、理解できない。ロックちゃん、あなたは何を考えてるの?」
「私は、ただ自分の道を真っ直ぐと進みたいだけ。その方法が、彼女達に復讐することだった」
「そんなのおかしい!復讐することで前に進む?進めるわけがない」
「進めるよ。復讐しなかったら、一生嫌な思い出を引きずったまま、その過去に怯える道を進まなきゃいけない。そしていつか足を止めてしまう」
メガちゃんは少し黙ってから、まだなお、否定した。
「復讐する道の方が茨道だよ」
「茨道でもいいんだよ。綺麗な道を苦しみながら進むよりは」
「復讐は何も生まない。残るのは後悔だけ。その一般論を覆す。それが私の復讐。それが私のロックなの」
「復讐した子達への罪の意識は無いの?」
「私は、彼女達がしてきたことをそっくりそのまま返すだけ。同じ痛みを味わってもらう。これでリセット。だから私が罪を感じる必要もないし、相手が罪を感じる必要も無いの」
「ロックちゃんは強い人だね」
メガちゃんは声を絞り出すようにそう言った。その声はとても掠れていた。
「メガちゃんも強くなるために、君を虐めた彼女たちに復讐しよう」
「私には、、出来ないよ」
「大丈夫。私が見本を見せるから」
私は励ますように、そして諭すようにそう言った。メガちゃんの目は、まだ濁っているように見える。いつか、私はこの目を透き通った目にしたいと思った。私と同じような目に。
今日は、私は新曲を歌いながら、メガちゃんのいじめっ子に復讐を果たしに来た。
「路上の下に埋められた沢山の砂粒はー、無数の足に踏まれ続け、息を止めてしまう。本来の居場所を求め、防波堤の向こうへ、連れて行き、そして還る。その時には、結晶さ。縛られた籠の中、道の途中投げ出され、そのまま忘れ去られる。された方は忘れない。した方は覚えてもいない。人の悪はとても穢れている。そんな心を持った人々へと、私のロックを響かせたい。貴方の眠れるロックを見つけたい。きっとそれが実現した街は秀麗だ」
これからも私の 復讐は続いていく。
「ロックちゃん今日はどこへ活動しに行く?」
テグさんがそう聞き、私は笑顔で答えた。
「うーん、人はもう結構集まったし、街を壊しに!」
駅の中にあるスーパーの前の、何も無い空間で、その声はいつも響いている。このスペースは私たちの場所。私たちの拠点だ。
私は、そこへ迎う寄り道で、何となく河川敷の高架下に行き、思いつきの歌詞を即興で歌っている。
「あぁーロッキンバン、私は生まれたてからロッキバーン!地面から生まれたダイヤの原石、ロッカーバーン!孤独に生まれ、孤独に死にゆく、ロックバンガー!これが私の生きる道」
大声で歌いながら歩いていると、いつの間にか高架下に着いていることがわかった。
私が、いつものように即座に拠点に行かず、少しの寄り道をして、こうして大きな声で歌を歌っているのは、あの嫌なことを少しでも掻き消したいからなのかもしれない。あともう少しの辛抱で無くなるのだと考えると気が楽になった。
歌を散々歌い尽くした後、私は本来の目的地である駅内にあるスーパー前の広場に行くことにした。
道の途中に、夏の日差しを全面に受けた校舎があった。今頃、学校ではこの暑さの中、授業が繰り広げられている。同じ教室で、同じ教科、同じ教師、同じ生徒。何もかも同じ日常。私は、そんな退屈な囚われた日常が嫌いだった。いつも休んで街をふらつく。それこそロックだろう。でも全く、よくこんな暑い日にあの暑い校舎の暑い教室で、むさ苦しい空間の中、授業なんて受けれるなと思った。まあ、私もこの暑さの中外に出て、黒いレザーパンツを履き、長袖のロゴTを着ているから、彼らからしたら私の方が異常なのかもしれないけど。はっきり言って、最高な私に、この最低な街は相応しくないと思った。この街は何かも型にはまっていて、街全体が雁字搦めになっている雰囲気がある。最高にロックじゃないこの街が、最高にロックな存在の私は嫌いなのだ。ここの空気を吸ってたら、私のロックが穢される。そして、いつの間にか埋もれ、消されていく。粉々になった鉄くずや黒ずんだ埃の混ざった空気がこの街には流れている。私にはそう感じた。例え、その町の誰かが私のことを鉄くずや埃扱いしたとしても私はそれを気にもとめないだろう。私はダイヤの原石なのだ。この街にもきっと私と同じダイヤの原石はいるはずなのに、鉄くずの中に埋もれてしまって見えないか、埃をかぶって黒ずんで、ただの石のように見えているだけだ。
「おー、ロックちゃん!」
駅の中にあるスーパーの空きスペース、寂れた何も無いコンクリートの空間に私たちの拠点はある。 そこに、一人、私に手を振るおじさんがいた。
「アレ、もう終わっちゃった?」
「今ちょうど終わって戻って来たところだよ」
そう笑顔で、おじさんは答えた。アレというのは、私たちの拠点で行っているロックンロール活動だ。活動目的は、ロックの仲間を集め、私たちのロックを教授させること。活動内容としては、自由に遊び、話し、そして歌う。その姿を見せて、参加者を集うのだ。
「そっかァ、参加できなくてごめんっ!」
「いやぁいいよお。ロックちゃんは自由なのが一番だし」
「へへ、おじさんありがと」
このおじさんは、私のロックな仲間、一号だ。名前は知らないが、一応あだ名はある。あだ名は、テグさん。手癖の悪いテグさんと覚えれば簡単に覚えられた。結局、私はおじさんと呼んでしまうことが多いけど。
「それより、ロックちゃん、このお弁当食べる?」
「うわ!美味そう!これ高いやつじゃん!」
「うん。近所のスーパーでね仕入れてきたんだ」
「おじさん、仕入れると言うより、くすねるでしょ」
「あはは、ロックちゃん、それはしーっだよ」
「まあ、いつもの事だしねー。今問題になってる食品ロスへの貢献だね」
テグさんのロックなことは、こんなところだ。毎日毎日、自分のために、私のために、人を欺いて、色んなものに手を出して、消費して、それで満足する。世間一般的な表現で言ったら、テグさんは、盗みを働いている。私はおじさんの手は喜んでいると思う。誰かの為に盗みを働くおじさんの手はとても幸せなのだ。なんで彼はこんなにも素敵なのに奥さんと娘に捨てられたのかが不思議でならない。捨てられるべきは彼の他にもっとあったはずで、彼を含め、捨てられるべきものでないはずの物が捨てられてしまうのがこの街なのだ。
「あ、テグさんに、ロックちゃん」
「やっくんじゃん!」
「おう、ヤクさん、どうだいヤクさんも食べるかい?」
「お、今日もテグさん弁当出店してるね。店長ひとつ頂くよ」
そう言われ、テグさんは、しゃがみこんで服に皺をつくり、パンパンになったビニール袋に手を入れる。そこからまた盗んだであろう弁当を取りだした。
今はもうお昼すぎで、私は貰った弁当を夕食に当てることにしたがやっくんは、貰った途端に性急に食べ始めた。その食べ方は、獰猛な獣が死んだ獲物を貪り食う様子に似ていた。
私がやっくんと呼ぶこの男は、身長が高く痩せていて、顔が青白く痩せこけている20代後半の少し猫背なお兄さんだ。テグさんはヤクさんと呼ぶ。彼は、見た目通りに、気力のない感じでいつも気だるそうにしている。でも話してみたら、とても気さくでいい人であり、大抵の冗談を理解して話を合わせる頭の回転の良さも持ち合わせている。
「ロックちゃん、一本どう?」
「私、タバコ吸わないんだよね」
「そっか、残念」
「じゃあこれは?」
そう言って彼は小さな袋を私に差し出してきた。その袋の中には白い粉が入っている。
「やっくん、面白い冗談だね」
「うーん、もうちょっとウケると思ったんだけどね」
「やっくんそれは、ネタになる人が言うとウケるんだよ」
「アハハ、そっか~」
彼は、薬物乱用者だ。覚せい剤、大麻、MDMAなど名の知れたものを沢山使う。だから体もボロボロで廃人のような見た目をしているのだ。たまに幻覚とか幻聴を見たり聞いたりもするらしい。でも彼は決して他人に害を与える人間では無いことを私は数ヶ月間、関わって知っている。むしろ、彼は見た目以上にユーモアのある人間であり、自虐ネタで人を楽しませる。そんな彼が私は好きだった。もちろんLOVEではなくLIKEの方だが。好きな理由はもちろん彼がロックだからである。
ロックな私とロックな彼ら二人が駅近くのスーパー裏で、新たなロックな人材を見つける、そんなような毎日を私は続けていて、そして、満たされていた。私の居場所はここだと思った。
私は毎日学校を休んで、このロックな活動を2人と続けていた。なかなか、ロックな人材は簡単には見つからない。それでも、この活動はしているだけで楽しく、いい気晴らしになった。それだけで意味があったと思う。本来なら、ロックな人材集めも気晴らし程度に、軽くやればいい。でも最近の私はどこかこん詰めているところがあった。それは私らしくなかった。きっとそうなってしまう理由は、私がやらなければならないある事のせいだ。それをやるために、ロックな人材発見活動は休むようになっていった。
「あれ、今日もロックちゃん来ないね」
「そうだねぇ...最近のロックちゃん。ちょっとおかしいよねぇ...」
「なにかあったのかねぇ」
最近は、ほとんど顔を出せていないから彼らがそう言う会話をしているかもしれないとふと思い浮かんだ。今日も、私は、彼ら二人の元へ行かず、やるべき事をするために、廃工場へ向かった。
廃工場の錆びれた重々しい雰囲気と、独特な匂いに包まれた空間に足を踏み入れると、私がやらなければならない事に関する最重要人物達がいた。
「はぁ、おい、てめえ。こんなことをして、ただで済むと思うなよ」
「響歌、こんなこといつまで続けるつもりだ」
私がやるべき事をやる相手は3人いて、口枷を剥すと、2人は威勢よく叫んだ。1人は黙ったままだった。
「私の気が済むまでは続けるつもりだよ」
「お前はまたあんな目にあいたいようね」
と、3人目が口を開いた。威勢が良くないが故に、重く威圧するかのような声だった。
「あんな目にか、それは君たちの方じゃないかな」
「はぁ?誰がてめぇなんぞに」
「まずは、威勢のいい君から行くね」「君にはそうだな... グラムロックが似合いそうだ」
そう言って私は、威勢のいい一人のクラスメイトの女を拘束台へと連れていき、拘束具と目隠しとタオルを用意した。
「右腕、左腕、右足、左足。それぞれ別の拷問をする。その拷問で一番痛いと感じる所を叫んでね。叫ばないと一生その拷問は終わらないから」
これは、奴らがそうしたようなものだ。それをそっくりそのまま返しているだけ。奴らもそのようにどれが相手にとっていちばん苦痛なのかを試し、様々な方法でいたぶり、その反応を楽しんでいた。そして、一番ウケが良かったものを、反応が大きかったものを続けようとした。
「右足!右足いいぃぃぃい!!!」
「右足ね、じゃあ右足の拷問を全ての胴体にしよう」
「それが終わったら、次は一番痛い指で試そうか?でも今度は嘘をつくかもしれないから痛くない指とかでも楽しそうだよね」
人間の身体的苦痛は、精神的苦痛にもなる。でも私の拷問は精神的苦痛から身体的苦痛へとなり、身体的苦痛から精神的苦痛へと循環するようになっている。つまり、抜け出せない地獄の循環であり、最高にロックな精神的苦痛の与え方だ。
「じゃあ次は君だ」
「私?ねえ響歌。もうやめてよこんなこと」
「やめないよ。言ったでしょ。私の気が済むまでやめないって」
「このクソ女、私が下手に出たからって調子に乗るなよ」
「本性を出すのが早いよ。これだから裏切り者は」
裏切り者は裏切られた者の気持ちを理解することが到底できない。でも、私はそんな身勝手なやつのことを許せなかった。だから彼女の友人を呼んだ。いやもっと端的に言えば、彼女が友人だと思い込んでいた人達だ。
「なによ、あんた達」
「ごめんね。静香。私達、、本当は、アンタのことなんて友達と思ったこともないし、無理に付き合ってただけで、本当はクソほど面倒くさくて、死ぬほど嫌いだったんだよ」
彼女にとっては、友情物語が崩れ、友人から罵詈雑言をあびせられ、そして今まで裏切られていたことに気づく。その言葉一つ一つの鋭いトゲが、彼女の心に刺さっていく。悪い言葉は吐けば吐くほどどんどん出てきて、それがひとつの旋律のようになる。その旋律は速く、激しく、そして鋭く尖っていて、とてもロックなものだった。この言葉の群れこそ、プログレッシブロックの音源そのものかもしれない。裏切り者が最後に裏切られ、自分の過ちに気づくという展開の歌詞も最高にロックだろう。
「プログレッシブロックの音源は流さなくてもいっか。次行こう」
「最後は取っておきの君だ。君には身体的苦痛も精神的苦痛もあまり効かないだろうから。とっておきの方法をとらせてもらうよ」
「何をする気?」
「君には、新しいロック、オルタナティヴロックを奏でてもらう」
「はぁ、なによ、それ」
「簡単に言えば、君は、私に従うだけ。それだけでいい」
かつて、貴方が私を思いどおりに操ったように、私も貴方を思い通りに操り、貴方は私無しでは生きていけなくなる。いじめは、こうでないと。いじめは、相手の嫌なことをするだけじゃない。相手と切っても離れない主従関係を結び、自分の思うがままに操り、一生目の前に光が見えない地獄を見させ、それを楽しむことなのだ。相手への嫉妬を引き起こす原因は、プライドの高さ。そして相手を見下す傲慢さ。私を下に見ていたということ。そんな私のおかげで生かされている状況は、プライドの高いものにとって相当な屈辱だろう。
やるべき事が終わり、私はロックロールに参加できるようになった。 私は、やるべきことを終えると、ふと私と彼ら2人の違いに気づいた。彼ら2人は私と同じようにロックな人材ではある。テグさんは、手癖が悪く、常習的に盗みを働いているし、やっくんは、薬物中毒者だ。だが、それまで。私ほどロックでは無い。私はロックの信念の元、やるべき事をやり、彼らと違って他人を傷つけた。私と彼らは違うのだと、そう思った。しかしそれは違うと思い知らされる出来事が今後、起こることになる。
いつもの活動中、テグさんが席を外した。何やら急の電話のようだった。私もその後トイレに行こうとして席を外し、ちょうどそのトイレ近くでテグさんは電話をしていた。元奥さんだろうかと思っていたが、そうではなさそうな雰囲気の内容だった。電話相手の声は聞こえないので、テグさんのワードで判断するしかなかったが、テグさんは計画、実行、罰など何やら意味深な言葉を口にしていた。テグさんも私と同じロックを持っているのかもしれないと思い始めていると、今度はやっくんがその片鱗を見せた。やっくんは、見ての通り薬物中毒者で、薬物を扱っている悪い奴らとつるんでいた。そいつらがたまに、ここへ来てやっくんに変な絡みをしていた。やっくんに薬を押し付けるのではなく、なにやら話し込んでいるようだった。まるで悪巧みでもするように会話が意気投合していて、やっくんがまるで加害者のようだった。
私は2人のプライドベートを一切知らない。それは2人にとってもそうで、私のプライベートなことは一切言っていない。関与する気もなかったが、ロックのことであれば違う。
私は2人の後をつけて見ようと思ったこともあったが、後をつけたところで、そのような活動をしているところに遭遇できるかは分からないし、むしろその可能性は低く、この活動がない日にしていると思ったので、問い質すことにした。
「テグさん、やっくん。二人に話がある」
これは、賭けでもあった。まだ確信をもてたわけじゃなかったからだ。
私は自分のことから話し、相手へ打ち明けさせる展開へと持って行こうと思った。
「私、実は二人に言っていないロックな活動を一人でしているの。それを打つ明けようと思う」
私がそう言ってこれまで行ってきたロックを淡々と話し始めた。二人は最初どうしたのという面食らった感じだったが、私の真剣な話のトーンにどんどんとひたっていき、静かに頷きながら聞くようになっていた。
「ロックちゃんは、それを話して、私たちに何をして欲しいんだい?」
私が話終えると、テグさんがそう言ってくれた。テグさんは本当に話の理解が早くて良い。
「つまるところ、2人にも私に言っていないロックな秘密を打ち明けて欲しいんだ」
「それは、どうして?悩みの共有かい?」
「悩みの共有とは、また違うんだよ。ただ私は興味があって、知りたいだけなんだ。私のロックとどう違うのか。二人のロックを否定するつもりもないし、干渉するつもりもない」
「そうか、なら話すよ」
「やっくん、いいのかい?」
「テグさん、大丈夫だよ。それにロックちゃんのあんな決意見せられたら黙っていられない」
「分かった。じゃあ、私から話すよ」
「私は、妻と離婚したと言っていたよね。あの原因は妻の家庭内暴力だったんだ。私にはもちろん、娘にも、暴力を振るうことがあって、それで私は妻と離婚した。でも、妻はそれを隠蔽し、離婚は全て私の身勝手な行動を原因にしたんだ。それが私は許せなかった。でも何も出来なかった。私には力が無かったから」
「でも、力を得たんだよね。そうじゃないと、今の状態には至れてない」
「そうなんだ。古くからの知り合いで児童相談所の職員をやっている友人がいてね。無理やりの頼みで、そのような家庭内暴力を受けている可能性のある子の住所を教えて貰っている。そして、保護しようと活動しているんだ」
「でも、それは個人情報的にまずいんじゃ?」
「ああそうだよ。私は、犯罪者だ。黙っていて済まないね。でもそれだけじゃないんだ。私は、その無責任な親たちを連れて、説教をした後、それでも改心しなければ、同じような目に遭わせていたんだ」
「テグさんは、なんでそんなことしたの?」
「最初は正義気取りだったかもしれない。でも、段々と変わって言って、今では娯楽としてそういうことをしているんだ。きっとあの時できなかったことを、妻にしてやりたかったことを、散々他の人で出来るその楽しさにハマっていった。正義気取りなんてもってのほかだ。私はただの悪人で罪人で、愉快犯なんだ」
「それがテグさんのロックだったんだね」
テグさんのロックを例えるときっと、ポップロックだろう。愉快犯のテグさんには愉快なリズムがピッタリだ。
私は震え涙を零しながら話すテグさんに手を差し伸べた。ロックを持つものだからこそできる行動だと私は、そう自分で思った。心の底から勇気を出して話してくれたテグさんに寄り添った。
少し経ち、テグさんも落ち着いてくると、気まずそうにやっくんが話しだした。
「次は僕か。テグさんの後だとしょぼすぎて拍子抜けしちゃうかもしんないけど、簡潔に言うと、僕は、精神疾患を持った若者たちに、薬物を勧めてた。いやもっと分かりやすく言うと、所謂、メンヘラみたいな連中に薬物を飲ませて、幻想を見させてあげたり、時にはオーバードーズさせたんだ」
「オーバードーズって、死ぬんじゃないの?」
「死ぬ時もあるし、だいたい後遺症が残るだろうね。でも、オーバードーズさせる子は
死を望んだ子だけだよ」
「なんで、そんなことをしようと思ったの?」
「僕の親は、僕の存在をいなかったことにした。つまりはネグレクトと言うやつでね。一日中空腹で死ぬそうな時もあった。そして精神も病んだ。そんな時には、何もやる気が起きず、死を渇望することか、何かに依存して空腹を忘れることしか出来なかった。そんな想いをしている人たちを僕は救いたいし、させている人たちを地獄に落としたい。どちらも実現できるのが薬物だと思ってやっていた」
「やっくんは、薬物のことをどう考えてるの?」
「薬物は、とても都合のいい夢だと考えてる。辛い現実から逃げて、幸せな幻想を見させてくれるものさ」
「それがやっくんのロックなんだ」
やっくんのロックを例えると、サイケデリックロックだろう、幻想的な音楽が薬物中毒者が幻想を追いかけるということにピッタリだ。
「でも、二人は同じ仲間がいたんだよね?どう集めたの?」
「最近はネットが流行ってるからそこでかな」
ネットか。それもいいなと思った。私たちのロックな仲間を集めるサイトを創るのも楽しそうだ。そこでやる活動をまとめる。サイトがめんどくさかったらSNSでもいい。いつかじゃなくて、今やろうと思った。私はこの日から活動の最中に写真を撮り、それを説明文と共にロックンロール専用SNSを立ち上げて投稿した。反応もあり、まだ出会ったことの無い私たちの仲間たちは確かにいるという感覚があった。
互いのロックを知り、よりロックンロール活動へ、団結が深まったような気がした。その矢先、ついに初めてのロックな新しい仲間が見つかった。それは商店街を練り歩きながら、食べ歩きをしたり、買い物をしたりした後、宣伝歌を歌った後だった。
「あの、私もやりたいです」
と、私と歳が同じくらいの風貌の女の子が唐突にそう言った。
彼女は真面目そうな見た目をしていて、とても私たちに似合わさなさそうだと思った。でも、ここに来たからには、何かしらロックな事情があるだろうし、ないとしてもロックな自身に変わりたいと思っているはずだ。
「よーし、じゃあ君も今日から私たちのロックな仲間だ!私はロック。よろしくね」
私はそう言って受け入れた。彼女はあのSNSを見て、私たちの活動を知ったらしい。あのSNSはやはり効果があったのだ。わざわざ創った甲斐があった。
「僕はみんなからやっくんって呼ばれてる。由来については、お察しの通りだよ。よろしくね」
「私はテグっていうあだ名があるよ。手癖が悪いからテグって由来なんだけど、ロックちゃんにはおじさんって呼ばれてるからおじさんでもいいからね」
私に連なって、やっくんやテグさんが彼女に自己紹介をした。ちょうどいい機会だと思った。
「こんな感じで活動のメンバーにはみんなあだ名がついてるんだけど、君にはなんのあだ名がいいかなあ。なんかよばれてるあだなとかある?出来れば、中々ない特徴的なあだ名で」
「特に、ないですけど、、」
彼女は気まずそうに黒縁のメガネを触りながらそう言った。
「じゃあ特徴で決めるか、なんか他の人には無いものある?」
「特徴なら、私は眼鏡をしているのでそれかと」
眼鏡か、たしかに彼女はオシャレな黒縁メガネをしている。素人目だがとても高そうに見えた。眼鏡っ子だから略してメガちゃん。私の脳ではこれが精一杯の思いつきだった。
「じゃあ、まだ仮だけどメガちゃんでいい?」
「メガちゃん。可愛くていいんじゃない?」
「うん。私も彼女によく似合っていると思うよ」
彼女よりも、彼ら2人が早く反応した。彼らがいいと言っても当人がダメと言うならダメだろう。しかし、彼女はその2人に押し流されるかのようにこのあだ名を受け入れた。
「じゃあ、それで、、お願いします」
後にメガちゃんから聞いた話だと、外見のメガネが特徴というのは、とてもメガネに拘るっているかららしい。なんでも、お気に入りのメガネを何十個も持っていて、集めるのが趣味だという。気分によってメガネを変えるのだ。これはメガネコレクターといえる。結構ロックな一面が見えて嬉しい気持ちになった。
メガちゃんが入ってから数日が経ち、今日は初めてメガちゃんが、ロックンロール活動に参加する日だった。私とは数回SNSでやり取りをしたから慣れてきているとは思うが、まだやっくんとテグさんとはあの日に自己紹介を交わしただけだ。緊張もあるだろう。メガちゃんは、初めての私たちとの活動に緊張していたが、それは直ぐに解かれていった。なぜなら、今日のロックンロール活動の舞台はゲームセンターだからだ。
「あ、ここよく来たことある」
メガちゃんがそう小さく呟いた。このゲームセンターは錆びれた商店街内にある小さな古めかしいゲームセンターだ。とはいえ、人はよくいるものだ。住宅街が近いからというのもそうだがここでしか出来ないレトロゲームが多くマニアからも人気なのである。
「そうなの?家から近いの?」
「うん。飯嶋中学校からも近いし、帰りに寄る生徒も結構いる。私はしてないけど」
「メガちゃん飯嶋中なんだ。私は粟原中 」
「あーあの...」
「そう、あの」
「ていうかさあ、歳同じ?中ガッコ3年?」
「はい」
「それならさぁ、敬語なんて捨ててタメ語でこれからは行こうよ」
「はい。ああ、うん」
ぎこちない返事だったが、少し嬉しそうな顔をしたメガちゃんを見れて、私は満足した。
「テグさんとやっくんは年上の男だから同年代の女の子が来てくれて嬉しいよ」
「あーうん。それは良かった」
彼女と会話した後、テグさんとやっくんが先にやっていたメダルゲームに参加した。メガちゃんの演奏担当は何がいいかを話し合いながら。私は、古めかしい、ボールを落として穴を埋めていく埋まれば埋まるほど良いメダルゲームをやった。この埋め込まれたネジなどが内蔵された磁石によって影響され、ボールの落ちる位置が操作されるという仕掛けの噂のせいで前より純粋に楽しめなくなったが。それでも同じ所にボールが2つ溜まるとボールが全部落ちてしまう儚さとその時に感じる残念さは変わらなかった。メガちゃんの元に同年代の制服姿の女の子3人組が寄ってきた。
「近藤、こんなとこで何してんの?」
私に一瞥もせず、ただメガちゃんだけを睨み眼で、見下ろして、見下していた。
「そこの一緒にいるダサい女は誰?アンタなんかに友達いたんだ?」
私を指さし、顔を小さく上下させて、嘲笑した。
「すみません、連れさん。私たちと近藤さんはこれから予定があるので、借りていきます」
「その予定に私も付き合っていい?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私はその時初めて思った。この人は、普通の人じゃない。怖い人なんだって。それまでは、とても優しくそして信頼出来て、私に新しい世界を見せてくれる革命家のような存在だと思っていた。彼女の存在が今までの人生の中で一番光輝いて見えたのだ。
私の人生は暗闇ばかりだった。小学校の頃から虐められ、それが中学でも続いた。親に相談したり、いじめっ子に刃向かったりしようと決意した日もあったけど、私には無理だった。なぜなら、私は弱い。そして、心の痛みの分かる真人間だったからだ。
私が思う真人間は、世間一般的で、大抵の人と同じように人の痛みが分かり、大抵の人と同じように少し自分勝手なところがある。そういう人間だ。真人間じゃない人は、人の痛みが分からなかったり、エゴイストで自分勝手すぎる人間だったりすると勝手に思っていた。私をいじめていた3人はこれに当てはまっていた。真人間の大衆達は、いじめに加担せず見て見ぬふりをするか、自分がいじめの対象にならないよういじめに同調するかだ。真人間でない人間じゃない限り、わざわざいじめの第一人者、主犯格になろうとしない。いじめられる側の対応も、そのように真人間かそうじゃないかで別れると思う。私は真人間だから、歯向か得ず、ただ従うままだった。何度も、歯向かおうと決意したことはあった。でも、結局実行には、移せなかった。私はその後の展開に恐怖したのだ。やり返されるかもしれない。まず、上手く歯向かう自身もなかった。ただ悩みもがき、苦しみながら、針が敷かれたレールの上を血だらけになりながら進むしか無かったのだ。
彼女、ロックちゃんは、そんなレールから脱線していた。彼女の目は、私の目とは違った。真っ直ぐな瞳なのに、その瞳は目の前の事実を捉えていない。そんな不思議な目。彼女は、レールから脱線した道無き道を、我が道を作っていた。そんな生き方は到底、常識人にできる事じゃない。彼女が、私のいじめっ子たちに歯向かった時、彼女はそちら側だと悟った。彼女は、私をいじめたいじめっ子と同じ真人間ではないのだと。そう思った瞬間に、彼女への憧れは恐れと変わっていた。彼女自身を恐怖するのではなく、彼女が何かやらかすのでは無いかという恐れだ。私がいじめっ子達に従わざるおえなかったのは、いじめっ子達の異常さが私を動けなくしたから。私がロックちゃんとロックちゃんの活動に憧れたのは、ロックちゃんの異常性に私が惚れたからだ。私たちは彼女達の思考が理解できなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
結局女3人組はメガちゃんと少し話したあと直ぐに去っていった。私はただそれを見つめるだけだったが、相手はかなりそれを意識していた。彼女たちが去った後、私はメガちゃんに、聞いた。
「あの子たち、メガちゃんをいじめてるんでしょ?いいのあのままで」
「うん、、、私がどうすることも出来ないし」
そう言って俯く彼女のために、なんとかしてあげたかった。彼女は私の仲間だからだ。メガちゃんには前を向いて欲しかった。
「私なら、どうにかしてあげられるよ」
そう私は口に出ていた。しかし、そういった直後、メガちゃんは、顔を恐怖に歪ませた。
「やめて!!!」
それは明らかな拒絶の声だった。
「どうしたの?」
悲鳴を上げた彼女に驚き、私は恐る恐るそう言った。
「怖いの、、、」
「何が?復讐することが?」
「いいえ、それもそうだけど。あなたも怖い」
彼女は淡々と震えた声でそう言う。私が怖いとはどういうことだろう。
「私は、メガちゃんの味方だし、君救うために行動したいの」
「あなたが、いい人だってことは分かってる」
「でも、復讐をしようとしているから。まだ出会って間もない私のためにそんな行動が出来るなんて理解できないの」
「なら、今から私に着いてきて欲しい。私のことを理解して貰いたいから」
「どこへ連れていく気なの?」
「大丈夫、見て欲しいものがあるだけ、メガちゃんは何もしなくていいから」
そう言って、彼女は私を廃工場へ連れていった。あの、私が断罪したいじめっ子達がいる場所だ。彼女はさらに私のことを怖がるかもしれない。それでも、理解して貰うにはこの方法しかなかった。
「なによ、これ」
「これが私の復讐だよ」
「酷い。酷いよ。復讐しても何も起こらないただ悲しくなるだけだよ」
「メガちゃん。それは違う」
「これを見ても、なにも私は、理解できない。ロックちゃん、あなたは何を考えてるの?」
「私は、ただ自分の道を真っ直ぐと進みたいだけ。その方法が、彼女達に復讐することだった」
「そんなのおかしい!復讐することで前に進む?進めるわけがない」
「進めるよ。復讐しなかったら、一生嫌な思い出を引きずったまま、その過去に怯える道を進まなきゃいけない。そしていつか足を止めてしまう」
メガちゃんは少し黙ってから、まだなお、否定した。
「復讐する道の方が茨道だよ」
「茨道でもいいんだよ。綺麗な道を苦しみながら進むよりは」
「復讐は何も生まない。残るのは後悔だけ。その一般論を覆す。それが私の復讐。それが私のロックなの」
「復讐した子達への罪の意識は無いの?」
「私は、彼女達がしてきたことをそっくりそのまま返すだけ。同じ痛みを味わってもらう。これでリセット。だから私が罪を感じる必要もないし、相手が罪を感じる必要も無いの」
「ロックちゃんは強い人だね」
メガちゃんは声を絞り出すようにそう言った。その声はとても掠れていた。
「メガちゃんも強くなるために、君を虐めた彼女たちに復讐しよう」
「私には、、出来ないよ」
「大丈夫。私が見本を見せるから」
私は励ますように、そして諭すようにそう言った。メガちゃんの目は、まだ濁っているように見える。いつか、私はこの目を透き通った目にしたいと思った。私と同じような目に。
今日は、私は新曲を歌いながら、メガちゃんのいじめっ子に復讐を果たしに来た。
「路上の下に埋められた沢山の砂粒はー、無数の足に踏まれ続け、息を止めてしまう。本来の居場所を求め、防波堤の向こうへ、連れて行き、そして還る。その時には、結晶さ。縛られた籠の中、道の途中投げ出され、そのまま忘れ去られる。された方は忘れない。した方は覚えてもいない。人の悪はとても穢れている。そんな心を持った人々へと、私のロックを響かせたい。貴方の眠れるロックを見つけたい。きっとそれが実現した街は秀麗だ」
これからも私の 復讐は続いていく。
「ロックちゃん今日はどこへ活動しに行く?」
テグさんがそう聞き、私は笑顔で答えた。
「うーん、人はもう結構集まったし、街を壊しに!」
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