異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬

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第43話 アリシア王女の秘密の決意

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朝日が白石牧場の木々の間から漏れ、動物たちの居場所を柔らかな光で包み込んでいた。悠真は納屋の掃除を終え、額の汗を拭いながら深呼吸をした。

「今日はエイドさんが来る日だったな」

彼は空を見上げ、雲一つない晴天に満足げに頷いた。昨日、エイドからの伝言で、アリシア王女も同行するとの知らせを受けていた。前回の訪問から二か月程が経っていたが、王女がこんなに早く再び牧場を訪れるのは意外だった。

「おはようございます、白石さん!」

エイドの元気な声が響き、彼の隣には緑色のシンプルなドレスを着たアリシア王女の姿があった。前回よりもさらに活動的な装いで、髪は一つに結び上げられていた。

「おはようございます、白石さん、リーフィアさん。再びお邪魔させていただきます」

アリシアが優雅にお辞儀をすると、悠真とリーフィアもそれに応える。

「ようこそ、アリシア様。お越しいただきありがとうございます」

リーフィアが丁寧に迎え入れる。

「いつでも歓迎です。どうぞごゆっくり」

悠真が穏やかに笑いかけると、エイドは早速観察道具を取り出し始めた。

「今日はアズールの成長記録を取りたいと思っています。それと、前回お会いできなかったルナーホップの調査も」

エイドの目が輝き、アリシアも頷いた。

「私も研究を手伝わせていただけると嬉しいです。特に、ルナーホップについては古文書でしか見たことがなくて」

悠真は二人を案内しながら、牧場の様子を説明していく。アクアとフレアが池の周りで戯れ、テラが畑を耕しているのが見えた。アズールは空中を飛び回り、透明化の練習をしているのか、時折姿が消えては現れる。

「あれは……アズールが透明に?」

エイドが驚いた声を上げ、メモを取り始める。

「ええ、最近練習しているんです。シギュラさんに頼まれて教えているんですよ」

悠真が説明すると、アリシアは感心した様子で空を見上げた。

「親のドラゴンも協力的なのですね。素晴らしい関係です」

一行が進んでいくと、牧場の奥にある小さな木立の中から、二匹の兎が飛び出してきた。長い耳と白銀の毛並みを持つ大きな兎と、その半分ほどの大きさの子兎だった。

「あ、ステラとルミです」

リーフィアが微笑みながら言った。

アリシアの目が一瞬で輝き、その場に立ち尽くした。

「これが……ルナーホップ……」

彼女の声には畏敬の念が満ちていた。ステラとルミは警戒することなく、むしろ好奇心からか、ゆっくりとアリシアに近づいてきた。

「まあ……」

アリシアがそっと膝をつき、手を差し出すと、ルミが興味深そうに近づいてきた。小さな鼻がピクピクと動き、アリシアの手の匂いを嗅ぎ始める。

「こんなに愛らしい……」

アリシアの表情が柔らかくなり、目を細めた。ルミが彼女の指先に触れると、アリシアの顔から笑みが溢れた。

「連れて帰りたいくらいです……」

彼女が呟いた瞬間、自分の言葉に気づいて慌てた。

「あ、いえ、そんなつもりは全くありません!ただ、あまりにも愛らしくて……」

リーフィアが優しく微笑む。

「ルミも懐いたようですね」

アリシアはルミを優しく撫でながら、複雑な表情を浮かべていた。

「でも、本当にここに住めたら……いえ、それでは王国の務めが……」

彼女はまるで独り言のように呟き、エイドと悠真は困惑した表情を交換した。

「アリシア様?」

悠真が声をかけると、アリシアはハッとして我に返った。

「あ、申し訳ありません。少し考え事をしておりました」

彼女は立ち上がり、威厳を取り戻そうとしたが、ルミが彼女の足元でぴょんぴょん跳ねて離れようとしない。

「どうやらルミもアリシア様のことが気に入ったようですね」

リーフィアがクスリと笑う。ステラも警戒することなく、アリシアの周りをホッピングしていた。

「本当にここは不思議な場所ですね」

アリシアが感嘆の声を上げる。

「動物たちがこんなにも心を開くなんて……」

「えぇ、本当に。様々な要因が重なってできた本当に特別な場所ですよ」

エイドはメモを取りながら頷いた。悠真は照れくさそうに頭をかく。

「そんな、大袈裟ですよ。でも、この牧場に集まってくれた皆には感謝しています」

――――――

昼食時、一行は牧場の中央にあるピクニックスペースで食事をすることになった。リーフィアが準備した手作りのサンドイッチと、牧場で取れた野菜のスープが並ぶ。

「いただきます」

全員が口を揃えて言うと、アリシアは一口スープを飲み、目を輝かせた。

「おいしい!このハーブは?」

「月光草の若葉です。薬効もあるんですよ」

リーフィアが答えると、アリシアは感心した様子でさらに一口飲む。

「素晴らしい。宮廷の料理人にも教えてあげたいくらいです」

食事の最中、ルミはずっとアリシアの近くにいて、時々彼女の指から野菜をもらっていた。そんな様子を見て、エイドが声をかけた。

「アリシア様、王宮でも動物を飼われているのですか?」

アリシアは少し悲しげな笑みを浮かべた。

「いいえ。王宮は格式ばった場所ですから、自由に動物と触れ合うことはなかなか……」

彼女の言葉に、悠真は何か思うところがあるようだった。

「でしたら、いつでもここに来てください。動物たちも喜びますよ」

アリシアの表情が明るくなる。

「本当ですか?ぜひそうさせていただきたいです」

食事の後、エイドはアズールの観察を続けるため池の方へ移動した。リーフィアも彼に同行し、観察を手伝う。

悠真とアリシアは二人きりになり、牧場の風景を眺めていた。

「白石さん、本当に素晴らしい場所を作られましたね」

アリシアがしみじみと言う。

「ありがとうございます。でも、これは動物たちのおかげでもあります」

悠真が答えると、アリシアは少し迷うような表情を見せた。

「少し、お聞きしてもよろしいでしょうか」

「はい、なんでしょう?」

「白石さんは……今のこの生活が、幸せですか?」

突然の質問に、悠真は少し驚いたが、すぐに穏やかな笑顔を見せた。

「はい。思いがけない異世界での生活ですが、動物たちやリーフィアと過ごす日々は、かけがえのないものです」

彼の言葉に、アリシアの表情が柔らかくなった。

「そうですか……素敵ですね」

彼女はルミを膝に乗せながら、遠くを見つめるような目をしていた。

「実は私…王女としての責務と、自分の望む生き方の間で、時々迷うことがあるのです」

思わぬ話に驚く悠真だったが、アリシアの表情を見て黙って続きを聞いた。

「私の立場では、自由に研究をしたり、動物たちと触れ合ったりする時間は限られています。でも、そういう瞬間が私にとっては何よりも……」

アリシアは言葉を詰まらせた。悠真はそっと彼女の肩に手を置こうとしたが、王女相手に失礼かもしれないと思い直した。そして自分なりに頭を絞り、彼女の為になりそうな言葉を探す。

「アリシア様、責務と自分の望みの間で揺れるのは、誰にでもあることだと思います。でも、両方を両立させる道もあるんじゃないでしょうか」

アリシアは悠真の言葉に耳を傾けた。

「王女としての立場があるからこそ、できることもあるはずです。この牧場にはいつでも来ていただいて構いませんし、もしかしたら研究の成果を王国の政策に活かすこともできるかもしれません」

悠真の言葉に、アリシアの目が輝きを取り戻した。

「……その通りですね。私は逃げるのではなく、両立させる道を探すべきなのです」

彼女はルミを優しく撫でながら立ち上がった。

「ありがとうございます、白石さん。少し心が軽くなりました」

――――――

午後、エイドの観察が一段落したところで、悠真はアリシアに魔像結晶を見せた。

「これは……写真を撮る道具ですか?」

アリシアが興味深そうに魔像結晶を覗き込む。

「はい。前回の訪問の後、ステラたちも撮っておきました。よかったらお持ちください」

悠真が画像が保存された魔法結晶を渡すと、アリシアは目を見開いた。月光の下で神秘的に光るステラと、好奇心いっぱいの表情のルミの姿が写っている。

「これは素晴らしい!ありがとうございます、白石さん」

アリシアは大切そうに写真を受け取った。

「研究の役に立てばと思いまして」

悠真がそう言うと、アリシアは真剣な表情で頷いた。

「必ず役立てます。そして……」

彼女は一度深呼吸をして、決意を固めたように続けた。

「いつか、この牧場のような場所を王国内にも作りたいと思います。魔法生物と人間が共存できる場所を」

彼女の言葉に、悠真は心から感心した。

「それは素晴らしい目標ですね」

「はい。その時はぜひアドバイスをいただきたいです」

二人の会話を聞いていたエイドが、興奮した様子で近づいてきた。

「それはすばらしいアイデアです!私も全力でお手伝いさせてください!」

アリシアは笑顔で頷き、リーフィアも優しく微笑んだ。

「アリシア様なら、きっと実現できますよ」

帰り際、ルミはまだアリシアの周りをホッピングして離れようとしない。アリシアは少し寂しそうに、優しくルミの頭を撫でた。

「また来るね」

その言葉に応えるように、ルミは彼女の手に鼻先で触れた。

アリシアは悠真とリーフィアに向き直り、感謝の言葉を述べた。

「今日はありがとうございました。必ずまた訪れさせていただきます」

彼女は写真を大切そうに胸に抱き、エイドとともに牧場を後にした。

悠真とリーフィアは二人を見送りながら、静かに立っていた。

「アリシア様、何か決意されたようですね」

リーフィアがそっと言うと、悠真は頷いた。

「うん。彼女なら、きっと自分の道を見つけられるだろうね」

夕暮れの光が牧場全体を柔らかく包み込み、平和な一日が終わろうとしていた。
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