異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬

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第42話 アズールの透明化修行

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朝の柔らかな日差しが牧場に降り注ぐ中、悠真は納屋の掃除を終えたところだった。汗を拭きながら空を見上げると、昨日の収穫祭の余韻がまだ心地よく残っている。

「よし、次は……」

悠真が呟いた瞬間、左手の甲にある紋章がぼんやりと青く光り始めた。彼は思わず手を上げ、光る紋章を見つめる。

「これは……シギュラさんか?」

悠真は時折、シギュラにアズールの牧場での様子を伝えたりはしていたのだが、シギュラの方からテレパシーを繋げて来るのは久しぶりのことだった。

『おはようございます。今日もアズールがお邪魔していると思いますが、ご迷惑をおかけしたりはしていませんか?』

ドラゴンの威厳を感じさせながらも、親としての優しさが混ざった声だった。

「おはようございます。そんなことはありませんよ。むしろ、アズールのおかげで牧場の皆も楽しそうで助かってます。久しぶりの連絡ですが、何かあったのですか?」

悠真は牧場の柵に腰掛けながら、心の中で返答した。シギュラとのテレパシーはいつも不思議な感覚だった。

『実は、そのアズールについてお願いしたいことがあるのです』

シギュラの声色が少し変わった。何か困ったことでもあるのだろうか。

「なるほど。俺にできることなら手伝いますよ」

『ありがとうございます。頼みたいのはアズールに透明化の練習なのです』

悠真は少し首を傾げた。

「透明化?あぁ、シギュラさんが前にしていた……」

『えぇ。ドラゴンにとって、身を隠す術は不要な争いを避けるために必須のもの。ですが、最近のアズールは、そちらの牧場の者たちと遊ぶのが楽しいらしく、練習をサボって出かけていくことが多くなってしまって……』

シギュラの声には困惑と愛情が混ざっている。悠真は、思わぬ話に何となく申し訳なくなった。

「それは……すみません」

『いえ、子育ては親である私の責任です。あなたが謝る必要はありません。分かってはいるのですが、アズールが楽しそうにしているのを見るとつい甘やかしてしまって……』

まるで人間の親のような悩みを持つシギュラに、悠真は親近感を覚えた。

『ですが、先ほども言った通り透明化の練習は大事なことなのです。そこで、いっそのこと懐いているあなたがたのもとで、人間流の方法で学ばせてみては頂けないかと』

悠真は驚きながらも、考える。ドラゴンに透明化を教えるなんて、前代未聞の試みだろう。しかし、自分達を信じてアズールを預けてくれているシギュラの頼みを無碍に断りたくはなかった。

「分かりました。上手くいくかはわからないけど、やってみましょう」

『助かります。それでは、練習方法をお教えします』

シギュラは丁寧に説明を始めた。まず、ドラゴンの透明化は単なる姿隠しではなく、周囲の景色と同化する能力なのだという。それには高い集中力と、環境への繊細な感覚が必要だった。

『……という感じです。面倒を掛けますがよろしくお願いします』

説明を終えたシギュラは、感謝の言葉とともにテレパシーを切った。

悠真は空を見上げ、深く息を吐いた。

「さて、どうしようか」

――――――

「透明化?」

朝食の席で悠真から話を聞いたリーフィアは、興味深そうに目を輝かせた。

「あぁ。シギュラさんから頼まれたんだ。アズールに透明化の練習をさせてほしいって」

リーフィアはお茶を一口飲み、しばらく考えた後、微笑んだ。

「それは素敵な機会ですね。アズールも成長しているんですね」

「ああ。でも正直、どうやって教えればいいのか……」

悠真が悩んでいると、そこへアズールが台所の窓から首を伸ばして覗き込んできた。

「キュイ?」

空色の鱗が朝日に輝いている。以前より少し大きくなった体で、好奇心いっぱいの目を二人に向けていた。

「おはよう、アズール」

悠真が声をかけると、アズールは嬉しそうに「キュイキュイ」と鳴いた。リーフィアも微笑みながら小さな手を伸ばす。

「おはよう。今日は特別な練習をするみたいですよ」

「キュ?」

アズールは首を傾げた。

「シギュラさんから聞いたよ。今日は透明化の練習をしようか」

悠真の言葉に、アズールは目を丸くした。しばらく固まった後、少し恥ずかしそうに首を下げた。

「心配しなくていいよ。みんなで一緒に楽しく練習しよう」

悠真が優しく声をかけると、アズールはほっとしたように頭を上下に振った。

「じゃあ、朝食後に始めようか」

――――――

朝食を終えた後、悠真とリーフィア、アズールは牧場の裏手にある小さな森の入り口に集まった。他の動物たちも興味津々で遠巻きに見守っている。

「まずは、シギュラから聞いた方法を試してみよう」

悠真は森の中へと進み、木々の間の開けた場所で足を止めた。地面には様々な色の石や落ち葉が散らばり、光と影が複雑な模様を作っている。

「アズール、ここに座って」

悠真が指さした場所にアズールが座ると、彼は説明を始めた。

「透明化は周りとの一体化だ。まずは深呼吸して、周囲の音や匂い、感触に意識を向けてみよう」

アズールは真剣な表情で目を閉じ、深く息を吸った。しばらくすると、体から淡い光が漏れ始めたが、すぐに消えてしまう。

「キュイ……」

落胆した声を上げるアズールに、悠真は励ますように頭を撫でた。

「最初からうまくいくことはないよ。ゆっくり練習していこう」

リーフィアがそっと近づき、アズールの前に座った。

「アズールさん、私と一緒にやってみましょうか。目を閉じて、呼吸を私に合わせてください」

リーフィアの穏やかな声に導かれ、アズールは再び目を閉じた。二人の呼吸が徐々に合わさっていく。

「そうです。今度は、自分の体が周りの風景と同じ色に染まっていくことをイメージしてみてください」

リーフィアの言葉が続く中、アズールの鱗がわずかに輝き始めた。しかし、集中が途切れると、また元に戻ってしまう。

「キュー……」

がっかりした様子のアズールを見て、悠真は別のアプローチを考えた。

「シギュラさんの言っていた通り、いきなり体全体を消すのは難しいかもしれない。まずは小さな部分から始めてみよう」

そう言って、悠真は地面から色とりどりの小石を拾い上げた。

「これを尻尾の先に置いてみるから、その部分だけ同じ色にしてみて」

赤い石をアズールの尻尾の先に置くと、アズールは眉間にしわを寄せて集中した。しばらくすると、尻尾の先がゆっくりと赤く変化していった。

「すごい!できてるよ、アズール!」

悠真が褒めると、アズールは驚いて尻尾を見た。確かに先端が石と同じ赤色に変わっている。嬉しさのあまり「キュイキュイ!」と鳴き、跳ね回った。

「落ち着いて、アズール。次は違う色も試してみよう」

青や緑、黄色の小石で次々と練習していくうちに、アズールは尻尾だけでなく、足先や翼の端も変化させられるようになった。

「すごい上達ですね」

リーフィアが感心した様子で言った。

「ああ。才能があるんだな」

練習に夢中になっていると、お昼の時間になっていた。悠真はアズールの頭を優しく撫でた。

「少し休憩しよう。お昼を食べてから続けるか」

アズールは満足げに頷いた。

――――――

それからしばらく、アズールが来た日には透明化の修行をするようになった。今日は牧場の池のほとりに来ていた。アクアとフレアも加わり、シャドウとミストも興味津々で見守っている。

「今日は少し難しいことをやってみよう」

悠真は池の水面を指さした。

「水面に映る自分の姿と同化してみるんだ」

アズールは首を傾げ、池に近づいて自分の姿を覗き込んだ。

「水の色や動きをよく観察して、それを自分の体で表現するんだ」

アズールは真剣な眼差しで水面を見つめ、ゆっくりと体を沈めていった。すると徐々に、体の一部が水の色と同じ透明な青に変わり始めた。

「キュイ!」

嬉しそうな声を上げたアズールだったが、動きが大きすぎて水面が波立ち、せっかくの集中が途切れてしまった。

「惜しかった!もう少しだよ」

悠真が励ますと、アズールは再び挑戦した。何度も繰り返すうちに、ついに上半身がかなり透明に見えるようになった。

「すごい!アズールさん、とても上手です!」

リーフィアが感嘆の声を上げた。水晶リスのアクアも「チチッ」と鳴いて喜び、尻尾で小さな水しぶきを上げた。

「よし、次はもっと動きのある状態でやってみよう」

悠真は森と牧場の境界線を指さした。そこには木々の影と日の光が交互に地面を覆っている。

「影から光へと移動しながら、同時に体の色を変えてみるんだ」

アズールは少し緊張した表情で頷いた。最初は上手くいかなかったが、シャドウが自ら見本を見せるように影に溶け込んで現れるのを繰り返した。それを見たアズールはコツを掴み始め、徐々に影から光、光から影へと自然に同化して移動できるようになった。

「キュイキュイ!」

嬉しそうに鳴きながら、アズールは木々の間を駆け回った。悠真とリーフィアは笑顔で見守っている。

「すっかり上達しましたね」

リーフィアが感心した声で言った。

「ああ。シギュラさんも安心するだろう」

悠真が満足げに頷いた時、突然アズールの姿が見えなくなった。

「え?アズール?」

悠真が周囲を見回すと、木の葉がカサカサと音を立てて動いていた。何かが走っているようだが、姿は見えない。

「まさか……完全に透明になったの?」

その瞬間、アズールが姿を現し、悠真の前で誇らしげに胸を張った。本当に透明になれたようだ。

「すごいじゃないか、アズール!」

悠真が喜びに満ちた声で言うと、アズールは嬉しそうに跳ね回った。その興奮で再び姿が見えるようになったが、それでも大きな進歩だった。

「これでシギュラさんも喜ばれるでしょうね」

リーフィアが微笑みながら言った。

「ああ。でも今日はもう十分練習したから、遊ぶ時間にしようか」

悠真の言葉に、アズールは輝く目で頷いた。

――――――

その日の夕方、悠真はシギュラにテレパシーで今日の成果を報告した。シギュラの声には感謝と誇らしさが滲んでいた。

『ありがとうございます。アズールが短期間にここまで成長するとは思いませんでした。やはり人間は教えるのが上手なのですね』

「いや、アズールの才能と努力のおかげだよ」

『感謝します。引き続きよろしくお願いしますね』

テレパシーが途切れた後、悠真は夕焼けに染まる牧場を見渡した。リーフィアがアズールと他の動物たちに囲まれて何か話している姿が見える。

「悠真さん、アズールさんがお礼を言いたいみたいですよ」

近づいてくるリーフィアの後ろで、アズールが恥ずかしそうに首を下げていた。

「キュイ……」

小さな声で鳴くアズールに、悠真は優しく笑いかけた。

「こちらこそありがとう。また一緒に練習しような」

アズールは嬉しそうに頷き、一度姿を消して現れるというちょっとした芸を見せた。

「おぉ、すごいな。でも、尻尾の先が隠れきれてないぞ?」

悠真がそう指摘すると、透明化しきれてないことに気づいたアズールは恥ずかしそうに「キュ…」と鳴いた。

「気にすることはありませんよ。アズールさん、これからも練習していきましょう」

リーフィアの励ましに、アズールは「キュイ!」と元気を取り戻して答えた。

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