異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬

文字の大きさ
102 / 113

第102話 キャンプの夜に咲く想いの火花

暖かな夕暮れ時、悠真は牧場の小高い丘で腕を組んで空を見上げていた。春の訪れと共に牧場全体が少しずつ活気づき、昼間は作業に追われていたが、やっと一日の終わりを迎えることができた。

「最近は穏やかな日々が続いているな」

悠真はぽつりとつぶやくと、丘を下りて家に向かった。リビングに入ると、リーフィアとリオンが何やら楽しそうに話し込んでいた。

「あ、悠真さん、おかえりなさい」

リーフィアが優しい笑顔で迎えてくれる。リオンも手を振って挨拶した。

「ただいま。二人とも何を話してたんだ?」

「実は、明日エイドさんたちが観測に来るって連絡があったんです。それでリオンが面白いアイデアを思いついたところでした」

リオンが少し照れくさそうに頷いた。

「僕、前に村でやっていたキャンプファイヤーのことを姉さんに話してたんです。牧場でもやってみたらどうかって」

「キャンプファイヤー?」

悠真は思わず興味を示した。異世界でも似たような文化があるのかと少し驚いている。

「そうなんです。夜に大きな焚き火を囲んで、食事をしたり歌ったりする集まりです。夜空の下、みんなで過ごす時間はとても特別なんですよ」

リーフィアが目を細めながら説明する。その表情には懐かしさが浮かんでいた。

「ふむ、たまには良いかもな。エイドさんたちも来るし、いいタイミングかもしれない」

悠真が笑顔で答えると、リオンの顔が明るくなった。

「本当ですか!じゃあ明日の夕方に準備しましょう!」

――――――

翌日の午後、エイドとミルフィがやってきた。二人とも観測用の道具を持っているが、いつもより大きな荷物を抱えている。

「こんにちは、白石さん。今日もよろしくお願いします」

「エイドさん、ミルフィさん、いらっしゃい。今日は何を調査する予定なんですか?」

「今日はな、牧場の夜間活動をする動物たちの観察がメインなんじゃ。特にストーンの活動記録を取りたいと思っておる」

ミルフィが意気込んだ様子で話す。エイドも頷きながら荷物を下ろした。そこで悠真は、ふと最近は確認していなかった他の勇者たちのことを思い出した。

「そうだ、エイドさん。少しお聞きしたいんですが、最近の勇者たちの動向について何か聞いていませんか?牧場で働いていると、あまり外の情報に触れる機会がなくて……」

それを聞いたエイドは、眼鏡を直しながら少し考え込む仕草をした。

「あぁ、そうですよね……。私も噂で聞いた程度ですが、魔王軍も本気を出したのか最近は、拮抗しているらしいです。以前ほど勇者側が優勢という状況ではないようでした」

「そうなんですか……」

悠真は少し心配そうな表情を浮かべた。自分は牧場で平和に暮らしているが、世界のどこかでは激しい戦いが繰り広げられているのだ。

「まぁ、この話はこの辺にしておきましょう!今日はリオンくんからキャンプファイヤーの提案があったと聞きました。楽しみにしていますね」

エイドの明るい言葉に、悠真も気持ちを切り替えた。

「そうだな。それじゃ観測の準備をしながら、キャンプファイヤーの準備も進めようか」

――――――

夕方になり、牧場の中央には小さな丘が作られ、その上に組まれた薪が積まれていた。牧場経営スキルの地形カスタマイズ機能を使って、キャンプファイヤーに適した環境を整えたのだ。

「やっぱり白石さんのスキルはすごいですね。こんなに短時間で、キャンプにピッタリな場所ができるなんて」

エイドが感心したように周りを見回している。確かに、小さな丘の周りには石が円形に並べられ、草地が広がっている。少し離れたところには水場もあり、安全面も考慮されていた。

「えぇ、牧場経営スキルの便利なところです」

悠真は謙遜しながらも、少し自慢げに答えた。

「悠真さん、薪に火をつけるのはヘラクレスにお願いしましょうか?」

リーフィアの提案に、悠真は頷いた。

「そうだな。ヘラクレス、お願いできるか?」

「ムォー!」

誇らしげな返事と共に、ヘラクレスが角から小さな炎を放ち、薪に火を点けた。クリスタルと融合してから、ヘラクレスの炎はより繊細なコントロールが可能になっている。

火が燃え上がると、牧場の動物たちも徐々に集まり始めた。ベルは小さな鈴の音を鳴らしながら、サクラと共にやってくる。アクアもチチチと鳴きながら、尻尾で水を操り小さな水の玉を浮かべていた。

「きれいな火ですね……」

静かな声が背後から聞こえた。振り返ると、薄暗い中に立つユエの姿があった。日が沈み、彼女が活動する時間になったのだ。

「ユエ、おはよう。起きたのか」

「おはようございます。夜の集まりなら私も参加できるので……」

ユエはそう言うと穏やかに微笑んだ。

「ワン!ワン!」

元気な声と共に、フロストが機械仕掛けの体を揺らしながらやってきた。その後ろからはラクルも翼をパタパタさせながら飛んできた。

「クルル!」

「今夜は賑やかになりそうだな」

悠真が微笑むと、周りから笑い声が上がった。

――――――

火が安定して燃え始めると、リオンが準備していたものを取り出した。ソーセージやチーズ、そして白い丸いものが入った袋だ。

「これ、モフモアっていうんです。焼くと膨らんで甘くなるんですよ」

「モフモア?初めて見るな」

悠真は興味津々でモフモアを手に取った。ふわふわした触感でマシュマロみたいだと感じた。

「月影村の特産品なんです。月の満ち欠けに合わせて作られる特別なお菓子なんですよ」

「プゥプゥ!」

リーフィアが柔らかい声で説明していると、その足元に二匹の長い耳を持つ兎が飛び出してきた。

「あ、ステラとルミだ」

リオンが声を上げる。ルミはリオンの持っているモフモアに興味を示し、鼻をひくひくさせた。

「ダメよ、ルミ。これはあなたの食べ物じゃないわ」

リーフィアが優しく諭すと、ルミは少し残念そうにしたが、おとなしく引き下がった。

モフモアを細い枝に刺して火にかざすと、徐々に膨らみ始め、表面が焦げ始めた。

「これくらいがちょうどいいんですよ」

リオンが教えてくれた通りに焼き上げると、外はカリッと中はふわふわになったモフモアが完成した。

「うわ、これは美味しいな!」

悠真の素直な感想に、みんなが笑顔になる。

「キュイ!」

青い鱗が月明かりに照らされて輝きながら、アズールが飛んできた。小さな翼をバタバタさせながら、悠真の周りを回る。

「アズール、おまえもモフモアが欲しいの?」

悠真がモフモアを一つ取り分けると、アズールは喜んで受け取った。

夜が更に深まると、岩だと思っていたものがゆっくりと動き始めた。

「クー……」

「おはよう、ストーン。おまえも起きたか」

悠真が言うと、エイドはノートを取り出して熱心にメモを取り始めた。

「夜行性の大岩亀が活動を始める瞬間を観察できるなんて、貴重な機会です!」

ミルフィも同様に観測機器を手に取り、ストーンの動きを記録し始めた。

――――――

キャンプファイヤーが最も賑わっている時、悠真はふと空を見上げた。

「そうだ、こんな日は花火があればもっと素敵だろうな」

「確かに。月影村から上がった花火は綺麗でしたね」

リーフィアが復興の祝いの晩に見た花火を思い出してそう言った。

「こんな時の為に買っておくのもいいかもしれませんね!」

リオンも同じようで、少しうずうずした様子でそう提案した。

「コン!」

すると、フレアが前に出てきて炎を空に向かって放った。炎は空高く舞い上がり、赤い光の花を咲かせた。

「キュー!」

今度はアズールがそれに合わせるように氷の息を吐くと、炎は空で結晶化して青い光に変わった。

「ピュイー!」

さらにレインが空を泳ぎながら、体から虹色の光を放ってその光景に彩りを加えた。

「素晴らしい……これは、花火にも劣らない華やかさです……」

エイドは観測機器を置き、ただ純粋に美しい光景を楽しんでいた。ミルフィも小さな手を上げ、感動した様子で見上げている。

「本当に……素敵ですね……」

ユエも普段の控えめな様子とは違い、目を輝かせて空を見上げていた。

悠真はこの光景を心に焼き付けながら、ふと思った。自分が召喚された本来の目的は魔王との戦いだったはずなのに、今はこうして牧場で平和に暮らしている。

「いつか、この平和が世界中に広がりますように」

悠真の小さなつぶやきに、リーフィアが優しく微笑んだ。

「きっとそうなりますよ。そのために勇者の皆さんも私達も頑張っているんですから」

悠真はリーフィアの言葉に「そうだな」と答え、静かに頷いた。

そうしてキャンプファイヤーの火と、フレアたちの彩る火花に照らされながら、春の夜は穏やかに更けていった。

あなたにおすすめの小説

ダンジョン銭湯 ~鎧は脱いでお入りください~

こまちゃも
ファンタジー
祖父さんから受け継いだ銭湯ごと、ダンジョンに転移してしまった俺。 だがそこは、なぜか”完全安全地帯”だった。 風呂に入れば傷は癒え、疲れも吹き飛ぶ。 噂を聞きつけた冒険者たちが集まり、宿やギルドまでできていく。 俺には最強の武器もスキルもないがーー最強のヒーラーや個性豊かな常連たちに囲まれながら、俺は今日も湯を沸かす。 銭湯を中心に、ダンジョンの中に小さな拠点が広がっていく。 ――ダンジョン銭湯、本日も営業中。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

無能な悪役に転生した俺、10年間で集めたハズレスキル4000個を合成したら最強になっていた

向原 行人
ファンタジー
十八歳になると神様からスキルを授かる世界を舞台にした、アポカリプス・クエスト……通称アポクエというゲームの悪役に転生してしまった。 俺が転生した悪役アデルは、この世界では珍しいスキル無し……神様から加護を授けられなかった。 そのため無能呼ばわりされた挙句、辺境に追放されてゲーム序盤に死んでしまう。 幸い、ゲーム開始の十年前……八歳のアデルなので、そんな運命を変えるべく、剣や魔法の腕を磨く。 更に、無能呼ばわりされない為に、ゲーム知識で隠しアイテムを手に入れてスキルを授かるのだが……授かったのは「ハズレスキルガチャ」というスキル。 一日一回ガチャでハズレスキルが貰えるらしい。 いや、幾らハズレスキルがあっても意味がないと思うのだが、もしかしたらレアスキルが当たるかも……と、十年間ガチャを回す。 そして約四千ものハズレスキルが貯まったが、一つもレアなスキルは出なかった。 だが、二つ目の隠しアイテムで、「スキル合成」というスキルを授かり、四千個のハズレスキルを組み合わせ、新たなスキルを作れるようになった。 十年間の努力とスキル合成……この二つを使って、末永く暮らすんだっ!

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

家族に忘れられていた第五王子は愛され生活を送る

りーさん
ファンタジー
 アズール王国の王宮には、多くの王子や王女が住んでいる蒼星宮という宮がある。  その宮にはとある噂が広まっていた。併設されている図書館に子どもの幽霊が現れると。  そんなある日、図書館に出入りしていた第一王子は子どものような人影を見かける。  その時、父である国王にすら忘れられ、存在を知られていなかった第五王子の才覚が露になっていく。

外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜 誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。 スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。 そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。 「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。 スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。 また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。