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第9話 翼を持つ仔馬と不思議な夢の導き
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朝焼けに染まる空が、牧場全体を温かな光で包み込んでいた。白石悠真は早朝から牧舎の掃除に精を出していた。柔らかな藁をフォークで集めながら、時折ウィンドの様子を見やる。
「おはよう、ウィンド。今日も元気そうだな」
小さな翼を持つ白い仔馬は、悠真の声に反応して嬉しそうに鼻を鳴らした。牧場に来てからもう一週間が経つが、すっかり馴染んでいる様子だ。
「起きるの早いですね、悠真さん!」
振り返ると、ミリアムが両手に水の入ったバケツを持って立っていた。朝日に照らされた彼女の亜麻色の髪が、まるで金色の冠のように輝いている。
「ミリアムこそ、もう起きてたのか」
「はい!朝日が昇る瞬間、薬草の採取に最適なんです。露の落ちる前に集めると、効果が高まるって」
彼女は誇らしげに、腰に下げた小さな布袋を見せた。中には様々な色の葉や花が見える。
「それと、これ、持ってきました!」
ミリアムが差し出したのは、木の皿に載せた焼きたてのパンとチーズ、そしてリンゴ。シンプルだが、香ばしい匂いが悠真の空腹を刺激する。
「ありがとう、助かる」
朝食を受け取り、二人は牧舎の入り口付近に置かれた木製のベンチに腰を下ろした。美味しそうにパンをかじりながら、悠真は牧場の動物たちを眺める。
「そういえば、あの時の魔石はどうしたんだ?」
「大切に保管してありますよ。必要な時のために…あ、これを見てください!」
ミリアムはウィンドを指さした。白い仔馬は牧場を駆け回り、背中の小さな翼がバタバタと動いている。まだ飛べるほどの大きさではないが、確かに地面から少し浮いているように見える瞬間がある。
「成長するにつれて、本当に飛べるようになるのかな」
悠真が呟くと、ミリアムは目を輝かせた。
「きっとそうなりますよ!この辺りの伝承によると、翼を持つ馬は古くから存在していて、特別な絆を結んだ人とだけ飛ぶんだそうです」
「特別な絆、か…」
悠真はウィンドを見つめながら考え込んだ。森の泉で出会った水の精霊も、この牧場に現れた翼を持つ仔馬も、どこか繋がりがあるように思える。
――――――
その夜、悠真は不思議な夢を見た。
広大な草原を駆けるウィンドの姿。成長した彼は立派な翼を広げ、空高く舞い上がっていく。その背には悠真自身が乗っていた。下界が小さく見える高さにのぼると、ウィンドは遠くの山脈へと向かっていく。
山々の間に広がる渓谷には、青白い光に満ちた湖が見える。その湖は、森で見つけた泉と同じような神秘的な輝きを放っていた。湖の岸辺には、様々な種類の動物たちが集まっていた。翼を持つものも、角を生やしたものも、普通の姿のものも。
そして湖の中央には、水面から身を乗り出した大きな存在がいた。全身が光に包まれ、はっきりとした姿は見えないが、水の精霊の姿に似ている。
「来たれ…」
低く響く声が悠真の心に直接語りかけてきた。
――――――
「うわっ!」
悠真は汗ばんだ体で目を覚ました。窓の外はまだ暗く、明け方前だと分かる。夢の内容が鮮明に脳裏に残っている。
「なんだったんだ、あれは…」
服を着替え、部屋を出ると、驚いたことに玄関先にウィンドが立っていた。明かりもない中、なぜそこにいるのか。仔馬は悠真を見ると、鼻を鳴らして前脚でゆっくりと地面を掘る仕草をした。
「お前も、何か感じてるのか?」
悠真がゆっくりと近づくと、ウィンドは首を伸ばして悠真の肩に鼻先を押し付けてきた。暖かい吐息が首筋に感じられる。
「よし、ちょっと散歩に行こうか」
悠真はウィンドの首筋を優しく撫でながら、牧場の外に出た。満月に照らされた風景は、日中とは違う神秘的な美しさを湛えている。
小道を歩いていると、ふと視界の端に青白い光が見えた。振り向くと、一瞬、森の方向に何かが光ったように思えた。
「あの方向は…前に泉を見つけた場所だ」
悠真は立ち止まり、ウィンドを見た。仔馬は目を輝かせ、森の方へ首を伸ばしている。決心した悠真は、ウィンドと共に森へ向かった。
――――――
月明かりに照らされた森の小道を進んでいくと、前回と同じ小川に出た。水面が月光を反射して銀色に輝いている。
「確かこの上流に…」
小川沿いに歩いていくと、見覚えのある小さな滝が現れた。前回訪れた時と変わらぬ姿だが、今夜は特別だった。滝壺全体が青白い光に包まれ、周囲の花々も幻想的に輝いている。
滝壺の前に立つと、水面がゆっくりと波打ち始めた。そして、水しぶきを上げながら、あの水の精霊が姿を現した。
「おまえは…」
精霊は悠真を見つめ、ゆっくりと頷いた。そして、滝壺の中央に浮かび上がり、頭上に何かを掲げた。それは小さな水晶のような物体だった。
「なにか伝えたいのか?」
精霊はもう一度頷き、水晶を悠真に差し出した。恐る恐る手を伸ばすと、水晶は光を放ち、悠真の手のひらに吸い込まれるように消えた。
「え?これは…」
その瞬間、頭の中に映像が流れ込んできた。遠い山々の間にある湖、その湖が枯れかけている様子、そしてその近くで苦しむ水の精霊たち。夢で見た場所と同じだ。
「水が…足りないのか?」
精霊は悠真の言葉に反応して激しく首を振った。違うらしい。そして、湖の水面に何かが落ちる映像が浮かんだ。黒い影のようなもの。それが水に触れると、湖全体が徐々に濁り始める。
「湖が汚されてる…?」
精霊は頷いた。そして最後に、翼を持つ馬が空を飛ぶ映像が浮かび、その背に乗った人間が湖に何かを投げ入れる姿が見えた。湖は再び輝きを取り戻す。
「俺とウィンドに…何かしてほしいってことか?」
精霊は嬉しそうに水面で跳ねた。どうやらそういうことらしい。
「でも、ウィンドはまだ小さいし、飛べないよ」
悠真がウィンドを見ると、仔馬は滝壺に近づき、水面に鼻先を浸した。すると、全身が淡い光に包まれ、背中の小さな翼がわずかに大きくなった気がする。
「これは…」
精霊は水面に沈み、再び浮上すると、別の小さな水晶を口にくわえていた。それをウィンドの前に落とすと、仔馬は迷わずそれを食べた。
「お、おい、大丈夫なのか?」
心配する悠真をよそに、ウィンドは元気に鼻を鳴らした。精霊は満足そうに頷き、最後に悠真を見つめると、滝壺の奥深くへと消えていった。
「何が起きたんだ…」
頭に浮かんだ映像と、ウィンドの変化。すべてが不思議で理解しがたいが、一つだけ確かなことがある。遠くの山々にある湖が危機に瀕しており、悠真たちに助けを求めているということだ。
――――――
牧場に戻ると、朝日がちょうど地平線から顔を出し始めていた。悠真がウィンドを牧舎に連れて行こうとしたとき、ミリアムが慌てた様子で近づいてきた。
「悠真さん!どこに行ってたんですか?心配しました!」
「ごめん、ちょっと森に行ってたんだ」
悠真は簡単に森での出来事を説明した。水の精霊との再会、湖の危機、そしてウィンドの変化について。
「それって…きっと『聖なる泉』のことですね!」
ミリアムは目を輝かせた。
「聖なる泉?」
「はい!この地方の古い言い伝えで、山々の奥にある神秘の湖のことです。水の精霊たちが守っていて、その水には様々な生き物を癒す力があるって」
ミリアムは興奮した様子で説明を続けた。
「でもだいぶ前から、その湖の話も聞かなくなったようです。魔物が増えて危険になったり、道が変わったりしたからかもしれません」
「そうか…精霊たちは、俺たちにその湖を助けてほしいんだな」
悠真はウィンドを見た。仔馬は朝日に照らされ、背中の翼が以前より少し大きくなっているように見える。
「でも、なぜ俺たちなんだろう?」
「きっと、悠真さんとウィンドちゃんには特別な力があるんですよ!」
ミリアムは確信に満ちた顔で言った。
「水の精霊が選んだんです。それに…」
彼女は少し声を落として続けた。
「翼を持つ馬は、伝説では『風の使い』と呼ばれているんです。空の道を知り、最も遠くまで行ける存在だって」
悠真は考え込んだ。夢の中で見た成長したウィンドの姿、そして空を飛ぶ感覚が鮮明に蘇る。
「でも、ウィンドはまだ仔馬だし…」
「大丈夫です!水晶を食べたってことは、きっと成長が早まるんですよ!」
ミリアムの言葉に、ウィンドが元気よく鼻を鳴らして同意するかのように首を振った。
「そうか…じゃあ、しばらくはウィンドの成長を見守りながら準備をするか」
悠真は空を見上げた。どこかの山々の向こうで、湖が彼らの助けを待っている。新たな冒険の予感に、胸が高鳴るのを感じた。
「よし、今日から特別な訓練を始めよう!ウィンド、よろしく頼むぞ」
悠真が手を差し出すと、ウィンドは嬉しそうに鼻先でその手に触れた。そこには確かな絆が生まれていた。
「おはよう、ウィンド。今日も元気そうだな」
小さな翼を持つ白い仔馬は、悠真の声に反応して嬉しそうに鼻を鳴らした。牧場に来てからもう一週間が経つが、すっかり馴染んでいる様子だ。
「起きるの早いですね、悠真さん!」
振り返ると、ミリアムが両手に水の入ったバケツを持って立っていた。朝日に照らされた彼女の亜麻色の髪が、まるで金色の冠のように輝いている。
「ミリアムこそ、もう起きてたのか」
「はい!朝日が昇る瞬間、薬草の採取に最適なんです。露の落ちる前に集めると、効果が高まるって」
彼女は誇らしげに、腰に下げた小さな布袋を見せた。中には様々な色の葉や花が見える。
「それと、これ、持ってきました!」
ミリアムが差し出したのは、木の皿に載せた焼きたてのパンとチーズ、そしてリンゴ。シンプルだが、香ばしい匂いが悠真の空腹を刺激する。
「ありがとう、助かる」
朝食を受け取り、二人は牧舎の入り口付近に置かれた木製のベンチに腰を下ろした。美味しそうにパンをかじりながら、悠真は牧場の動物たちを眺める。
「そういえば、あの時の魔石はどうしたんだ?」
「大切に保管してありますよ。必要な時のために…あ、これを見てください!」
ミリアムはウィンドを指さした。白い仔馬は牧場を駆け回り、背中の小さな翼がバタバタと動いている。まだ飛べるほどの大きさではないが、確かに地面から少し浮いているように見える瞬間がある。
「成長するにつれて、本当に飛べるようになるのかな」
悠真が呟くと、ミリアムは目を輝かせた。
「きっとそうなりますよ!この辺りの伝承によると、翼を持つ馬は古くから存在していて、特別な絆を結んだ人とだけ飛ぶんだそうです」
「特別な絆、か…」
悠真はウィンドを見つめながら考え込んだ。森の泉で出会った水の精霊も、この牧場に現れた翼を持つ仔馬も、どこか繋がりがあるように思える。
――――――
その夜、悠真は不思議な夢を見た。
広大な草原を駆けるウィンドの姿。成長した彼は立派な翼を広げ、空高く舞い上がっていく。その背には悠真自身が乗っていた。下界が小さく見える高さにのぼると、ウィンドは遠くの山脈へと向かっていく。
山々の間に広がる渓谷には、青白い光に満ちた湖が見える。その湖は、森で見つけた泉と同じような神秘的な輝きを放っていた。湖の岸辺には、様々な種類の動物たちが集まっていた。翼を持つものも、角を生やしたものも、普通の姿のものも。
そして湖の中央には、水面から身を乗り出した大きな存在がいた。全身が光に包まれ、はっきりとした姿は見えないが、水の精霊の姿に似ている。
「来たれ…」
低く響く声が悠真の心に直接語りかけてきた。
――――――
「うわっ!」
悠真は汗ばんだ体で目を覚ました。窓の外はまだ暗く、明け方前だと分かる。夢の内容が鮮明に脳裏に残っている。
「なんだったんだ、あれは…」
服を着替え、部屋を出ると、驚いたことに玄関先にウィンドが立っていた。明かりもない中、なぜそこにいるのか。仔馬は悠真を見ると、鼻を鳴らして前脚でゆっくりと地面を掘る仕草をした。
「お前も、何か感じてるのか?」
悠真がゆっくりと近づくと、ウィンドは首を伸ばして悠真の肩に鼻先を押し付けてきた。暖かい吐息が首筋に感じられる。
「よし、ちょっと散歩に行こうか」
悠真はウィンドの首筋を優しく撫でながら、牧場の外に出た。満月に照らされた風景は、日中とは違う神秘的な美しさを湛えている。
小道を歩いていると、ふと視界の端に青白い光が見えた。振り向くと、一瞬、森の方向に何かが光ったように思えた。
「あの方向は…前に泉を見つけた場所だ」
悠真は立ち止まり、ウィンドを見た。仔馬は目を輝かせ、森の方へ首を伸ばしている。決心した悠真は、ウィンドと共に森へ向かった。
――――――
月明かりに照らされた森の小道を進んでいくと、前回と同じ小川に出た。水面が月光を反射して銀色に輝いている。
「確かこの上流に…」
小川沿いに歩いていくと、見覚えのある小さな滝が現れた。前回訪れた時と変わらぬ姿だが、今夜は特別だった。滝壺全体が青白い光に包まれ、周囲の花々も幻想的に輝いている。
滝壺の前に立つと、水面がゆっくりと波打ち始めた。そして、水しぶきを上げながら、あの水の精霊が姿を現した。
「おまえは…」
精霊は悠真を見つめ、ゆっくりと頷いた。そして、滝壺の中央に浮かび上がり、頭上に何かを掲げた。それは小さな水晶のような物体だった。
「なにか伝えたいのか?」
精霊はもう一度頷き、水晶を悠真に差し出した。恐る恐る手を伸ばすと、水晶は光を放ち、悠真の手のひらに吸い込まれるように消えた。
「え?これは…」
その瞬間、頭の中に映像が流れ込んできた。遠い山々の間にある湖、その湖が枯れかけている様子、そしてその近くで苦しむ水の精霊たち。夢で見た場所と同じだ。
「水が…足りないのか?」
精霊は悠真の言葉に反応して激しく首を振った。違うらしい。そして、湖の水面に何かが落ちる映像が浮かんだ。黒い影のようなもの。それが水に触れると、湖全体が徐々に濁り始める。
「湖が汚されてる…?」
精霊は頷いた。そして最後に、翼を持つ馬が空を飛ぶ映像が浮かび、その背に乗った人間が湖に何かを投げ入れる姿が見えた。湖は再び輝きを取り戻す。
「俺とウィンドに…何かしてほしいってことか?」
精霊は嬉しそうに水面で跳ねた。どうやらそういうことらしい。
「でも、ウィンドはまだ小さいし、飛べないよ」
悠真がウィンドを見ると、仔馬は滝壺に近づき、水面に鼻先を浸した。すると、全身が淡い光に包まれ、背中の小さな翼がわずかに大きくなった気がする。
「これは…」
精霊は水面に沈み、再び浮上すると、別の小さな水晶を口にくわえていた。それをウィンドの前に落とすと、仔馬は迷わずそれを食べた。
「お、おい、大丈夫なのか?」
心配する悠真をよそに、ウィンドは元気に鼻を鳴らした。精霊は満足そうに頷き、最後に悠真を見つめると、滝壺の奥深くへと消えていった。
「何が起きたんだ…」
頭に浮かんだ映像と、ウィンドの変化。すべてが不思議で理解しがたいが、一つだけ確かなことがある。遠くの山々にある湖が危機に瀕しており、悠真たちに助けを求めているということだ。
――――――
牧場に戻ると、朝日がちょうど地平線から顔を出し始めていた。悠真がウィンドを牧舎に連れて行こうとしたとき、ミリアムが慌てた様子で近づいてきた。
「悠真さん!どこに行ってたんですか?心配しました!」
「ごめん、ちょっと森に行ってたんだ」
悠真は簡単に森での出来事を説明した。水の精霊との再会、湖の危機、そしてウィンドの変化について。
「それって…きっと『聖なる泉』のことですね!」
ミリアムは目を輝かせた。
「聖なる泉?」
「はい!この地方の古い言い伝えで、山々の奥にある神秘の湖のことです。水の精霊たちが守っていて、その水には様々な生き物を癒す力があるって」
ミリアムは興奮した様子で説明を続けた。
「でもだいぶ前から、その湖の話も聞かなくなったようです。魔物が増えて危険になったり、道が変わったりしたからかもしれません」
「そうか…精霊たちは、俺たちにその湖を助けてほしいんだな」
悠真はウィンドを見た。仔馬は朝日に照らされ、背中の翼が以前より少し大きくなっているように見える。
「でも、なぜ俺たちなんだろう?」
「きっと、悠真さんとウィンドちゃんには特別な力があるんですよ!」
ミリアムは確信に満ちた顔で言った。
「水の精霊が選んだんです。それに…」
彼女は少し声を落として続けた。
「翼を持つ馬は、伝説では『風の使い』と呼ばれているんです。空の道を知り、最も遠くまで行ける存在だって」
悠真は考え込んだ。夢の中で見た成長したウィンドの姿、そして空を飛ぶ感覚が鮮明に蘇る。
「でも、ウィンドはまだ仔馬だし…」
「大丈夫です!水晶を食べたってことは、きっと成長が早まるんですよ!」
ミリアムの言葉に、ウィンドが元気よく鼻を鳴らして同意するかのように首を振った。
「そうか…じゃあ、しばらくはウィンドの成長を見守りながら準備をするか」
悠真は空を見上げた。どこかの山々の向こうで、湖が彼らの助けを待っている。新たな冒険の予感に、胸が高鳴るのを感じた。
「よし、今日から特別な訓練を始めよう!ウィンド、よろしく頼むぞ」
悠真が手を差し出すと、ウィンドは嬉しそうに鼻先でその手に触れた。そこには確かな絆が生まれていた。
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