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好きなのは彼女じゃない
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日差しが強くなり始めた放課後の高校。廊下を歩いていた山田太郎は、ふと窓の外に目をやった。グラウンドでは野球部が練習をしている。その中に見覚えのある姿があった。
「相変わらず佐藤は元気だな」
野球部のマネージャーとして活躍する佐藤美優。彼女は太郎の幼馴染であり、小学校から中学校、そして今の高校まで同じ学校に通っていた。
ただ、最近の太郎には秘密があった。それは、美優に恋心を抱いているということ。しかし、長年の友情を壊したくないという思いから、その気持ちを打ち明けられずにいた。
「太郎くん、まだ帰らないの?」
突然、後ろから声をかけられて振り返ると、クラスメイトの中島花が立っていた。彼女は明るく活発な性格で、クラスの人気者だった。ただ、最近になって太郎に近づいてくることが多くなっていた。
「あ、中島さん。いや、これから帰るところだよ」
「じゃあ、一緒に帰らない? 私もこれから帰るところなんだ」
中島はそう言って、にっこりと笑った。その笑顔は、太陽のように眩しかった。
「えっと…そうだね、一緒に帰ろうか」
太郎は少し戸惑いながらも、中島の誘いに乗ることにした。
「やった!」
中島は小さくガッツポーズをして喜んだ。太郎は少し照れくさそうに頭をかいた。
二人は肩を並べて学校を出た。春の陽気が二人を包み込む。
「ねぇ、太郎くん。今度の日曜日、予定ある?」
中島が少し恥ずかしそうに尋ねてきた。
「えっと、特にないけど…」
「じゃあ、よかったら遊びに行かない? 新しくオープンした水族館があるんだ。すごく綺麗なんだって」
太郎は一瞬躊躇したが、断る理由も思いつかず、「いいよ」と答えた。それを聞いた中島の顔が一層輝いた。
「約束だよ! 楽しみにしてるね!」
中島は嬉しそうに手を振り、分かれ道で別れていった。彼女の背中を見送りながら、太郎は複雑な気持ちになった。
「デートか…」
つぶやいた言葉が、風に乗って消えていった。
――――――――――――――――――――――――
翌日、学校の昼休み。太郎は屋上で一人弁当を食べていた。
「やっぱり、ここにいたか」
後ろから聞こえた声に振り返ると、美優が立っていた。彼女は太郎の隣に座り、自分の弁当を開けた。
「最近、どうしたの? なんだか元気ないよ」
美優は心配そうに太郎を見つめた。
「別に…何でもないよ」
「嘘つき。私たち幼馴染でしょ? 太郎が何を考えているかなんて、だいたい分かるよ」
美優はそう言って、太郎の肩を軽く叩いた。
「それよりさ、聞いたよ。中島さんと日曜日にデートするんでしょ?」
「デートじゃなくて、ただの…」
「太郎が彼女できるなんて、なんだか不思議な感じ」
美優は少し寂しそうな表情を見せたが、すぐに明るく笑った。
「でも、応援してるよ! 中島さんはクラスでも人気者だし、太郎もきっと幸せになれるよ」
太郎は何も言えなかった。心の中では「違う、僕が好きなのは君なんだ」と叫びたかったが、美優の明るい笑顔を見ていると、その言葉を口にすることができなかった。
「そうだ、そろそろ野球部の練習が始まるから、私行かなきゃ」
美優は弁当箱を片付けると、立ち上がった。
「頑張ってね、デート」
そう言い残して、美優は屋上を後にした。彼女が去った後、太郎はため息をついた。
「なんで言えないんだろう…」
青空を見上げながら、太郎は自分の気持ちと向き合っていた。
――――――――――――――――――――――――
日曜日、太郎は約束通り中島と水族館デートに出かけた。華やかな水槽の前で、中島は目を輝かせていた。
「わぁ、綺麗…!」
中島の横顔を見つめながら、太郎は考えていた。彼女は確かに可愛いし、明るくて優しい。付き合えば、きっと楽しい日々が待っているだろう。でも、心のどこかで引っかかるものがあった。
「太郎くん、見て! クラゲすごく綺麗だよ!」
中島は太郎の腕を引っ張り、大きなクラゲの水槽の前に連れて行った。淡い光に照らされたクラゲたちが、まるで宇宙を漂うように優雅に泳いでいた。
「ねぇ、太郎くん…」
中島が真剣な表情で太郎を見つめた。
「私ね、太郎くんのこと、ずっと前から好きだったんだ」
突然の告白に、太郎は言葉を失った。
「あの…」
「答えはすぐじゃなくていいよ。ただ、気持ちを伝えたかっただけ」
中島は優しく微笑んだ。その笑顔は、太郎の心を温かくした。
「実は…僕には好きな人がいるんだ」
思い切って太郎は本当のことを言った。中島の表情が少し曇った。
「佐藤さん…だよね?」
太郎は驚いて中島を見つめた。
「どうして分かったの?」
「だって、太郎くんが佐藤さんを見る目が特別だもん。いつも追いかけるように見てるよ」
中島はちょっと寂しそうに笑った。
「でも、太郎くんはなぜ佐藤さんに告白しないの?」
「幼馴染だからさ。もし告白して振られたら、今の関係も壊れてしまうかもしれないから…」
中島は深く考え込んだ後、決意に満ちた表情で言った。
「じゃあ、私が手伝うよ!」
「え?」
「私が太郎くんの恋のキューピッドになる! 佐藤さんに太郎くんの気持ちが伝わるように、サポートするよ!」
太郎は驚きを隠せなかった。自分に告白した女の子が、自分の恋をサポートしてくれるなんて。
「でも、それじゃあ中島さんが…」
「大丈夫! 私は太郎くんが幸せになれば、それでいいんだ」
中島は明るく笑った。その笑顔には、少し悲しさが混じっていた。
「ありがとう…」
太郎はただそれだけしか言えなかった。
――――――――――――――――――――――――
翌日の放課後、太郎は中島と作戦を練っていた。図書室の片隅で、二人は頭を寄せ合っていた。
「よし、まずは太郎くんと佐藤さんがもっと二人きりで過ごせる時間を作らないとね」
中島はメモを取りながら言った。
「でも、どうやって?」
「それが、実は…」
中島が話し終える前に、図書室のドアが開き、美優が入ってきた。彼女は太郎と中島を見つけると、少し驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔になった。
「あれ、二人とも何してるの?」
「い、いや、何でもないよ!」
太郎は慌てて言った。中島は冷静に対応した。
「実は、太郎くんに数学を教えてもらってたんだ。来週テストだから」
「そうなんだ。太郎って意外と勉強できるよね」
美優は笑いながら言った。
「ねぇ、美優さん。今度の週末、私たちと一緒に遊びに行かない?」
中島が突然提案した。太郎は驚いて中島を見たが、彼女はウインクをして見せた。
「え? いいの? でも、二人のデートの邪魔になっちゃうかも…」
「ううん、全然! 太郎くんも賛成だよね?」
中島が太郎を見た。太郎は頷くしかなかった。
「じゃあ、ありがとう。行くよ!」
美優は嬉しそうに答えた。中島はニッコリと笑った。
「それじゃあ、土曜日に遊園地に行こう!」
――――――――――――――――――――――――
土曜日、三人は遊園地に来ていた。中島は計画通り、途中で「急用ができた」と言って帰ってしまった。太郎と美優は二人きりになった。
「中島さん、急に何があったんだろう…」
美優は心配そうに言った。
「大丈夫だよ。後でメールしておくから」
太郎は中島との作戦通りに言った。
「じゃあ、せっかく来たんだし、二人で楽しもう!」
美優は元気に言って、太郎の手を引いた。その温かい感触に、太郎の心臓が大きく鼓動した。
二人はジェットコースターに乗り、お化け屋敷に入り、様々なアトラクションを楽しんだ。日が暮れ始め、空が茜色に染まる頃、二人は大観覧車に乗った。
「なんか、デートみたいだね」
美優はふと呟いた。
「気にしないで。私たち幼馴染だし」
その言葉を聞いて、太郎は少し胸が痛んだ。
「太郎、最近変わったね」
美優が窓の外を見ながら言った。
「どう変わった?」
「なんだか、大人っぽくなった気がする。中島さんと付き合うようになってから」
「付き合ってないよ…」
「え? でも、二人でデートしてたじゃん」
「あれは…ただの友達だよ」
美優は少し驚いた表情で太郎を見た。
「じゃあ、太郎には好きな人がいるの?」
質問に太郎は黙ってしまった。観覧車はゆっくりと頂点に近づいていた。
「いるの?」
美優はもう一度尋ねた。太郎は大きく深呼吸をした。
「うん、いるよ」
「誰?」
観覧車が頂点に達した瞬間、太郎は勇気を出して言った。
「美優、それは…君だよ」
時間が止まったように感じた。美優の表情が驚きに変わり、そして…涙が彼女の頬を伝い落ちた。
「どうして…どうして今まで言ってくれなかったの?」
彼女の声は震えていた。
「友達関係が壊れるのが怖かったんだ」
「バカ…」
美優は太郎に近づき、彼の胸に顔を埋めた。
「私も…ずっと前から太郎のことが好きだったよ」
その言葉を聞いて、太郎の心は喜びで満たされた。彼は恐る恐る美優を抱きしめた。観覧車は下へと向かい始めていた。
「これからは、ちゃんと言葉にしようね。お互いの気持ちを」
美優はそう言って、照れくさそうに笑った。太郎も笑顔で頷いた。
観覧車を降りた二人は、手をつないで歩き始めた。遊園地の明かりが、二人を優しく照らしていた。
――――――――――――――――――――――――
月曜日の朝、太郎は学校の門の前で中島を待っていた。彼女が来るのを見つけると、深々と頭を下げた。
「ありがとう、中島さん。おかげで美優に気持ちを伝えることができたよ」
中島は微笑んだ。その笑顔には少し寂しさがあったが、確かな温かさもあった。
「よかった。私、太郎くんの笑顔が見たかったから」
「でも、中島さんは…」
「大丈夫だよ。私にはまだまだチャンスがあるから」
彼女はウインクをして見せた。
「次は自分の恋を見つけるよ」
中島はそう言って、明るく笑った。太郎も笑顔で頷いた。
そして遠くから、美優が走ってくるのが見えた。彼女は太郎を見つけると、大きく手を振った。
「おはよう、太郎!」
太郎は美優に向かって手を振り返した。中島は二人を見て、小さくガッツポーズをした。
これから始まる新しい日々を、三人はそれぞれの形で迎えようとしていた。
「相変わらず佐藤は元気だな」
野球部のマネージャーとして活躍する佐藤美優。彼女は太郎の幼馴染であり、小学校から中学校、そして今の高校まで同じ学校に通っていた。
ただ、最近の太郎には秘密があった。それは、美優に恋心を抱いているということ。しかし、長年の友情を壊したくないという思いから、その気持ちを打ち明けられずにいた。
「太郎くん、まだ帰らないの?」
突然、後ろから声をかけられて振り返ると、クラスメイトの中島花が立っていた。彼女は明るく活発な性格で、クラスの人気者だった。ただ、最近になって太郎に近づいてくることが多くなっていた。
「あ、中島さん。いや、これから帰るところだよ」
「じゃあ、一緒に帰らない? 私もこれから帰るところなんだ」
中島はそう言って、にっこりと笑った。その笑顔は、太陽のように眩しかった。
「えっと…そうだね、一緒に帰ろうか」
太郎は少し戸惑いながらも、中島の誘いに乗ることにした。
「やった!」
中島は小さくガッツポーズをして喜んだ。太郎は少し照れくさそうに頭をかいた。
二人は肩を並べて学校を出た。春の陽気が二人を包み込む。
「ねぇ、太郎くん。今度の日曜日、予定ある?」
中島が少し恥ずかしそうに尋ねてきた。
「えっと、特にないけど…」
「じゃあ、よかったら遊びに行かない? 新しくオープンした水族館があるんだ。すごく綺麗なんだって」
太郎は一瞬躊躇したが、断る理由も思いつかず、「いいよ」と答えた。それを聞いた中島の顔が一層輝いた。
「約束だよ! 楽しみにしてるね!」
中島は嬉しそうに手を振り、分かれ道で別れていった。彼女の背中を見送りながら、太郎は複雑な気持ちになった。
「デートか…」
つぶやいた言葉が、風に乗って消えていった。
――――――――――――――――――――――――
翌日、学校の昼休み。太郎は屋上で一人弁当を食べていた。
「やっぱり、ここにいたか」
後ろから聞こえた声に振り返ると、美優が立っていた。彼女は太郎の隣に座り、自分の弁当を開けた。
「最近、どうしたの? なんだか元気ないよ」
美優は心配そうに太郎を見つめた。
「別に…何でもないよ」
「嘘つき。私たち幼馴染でしょ? 太郎が何を考えているかなんて、だいたい分かるよ」
美優はそう言って、太郎の肩を軽く叩いた。
「それよりさ、聞いたよ。中島さんと日曜日にデートするんでしょ?」
「デートじゃなくて、ただの…」
「太郎が彼女できるなんて、なんだか不思議な感じ」
美優は少し寂しそうな表情を見せたが、すぐに明るく笑った。
「でも、応援してるよ! 中島さんはクラスでも人気者だし、太郎もきっと幸せになれるよ」
太郎は何も言えなかった。心の中では「違う、僕が好きなのは君なんだ」と叫びたかったが、美優の明るい笑顔を見ていると、その言葉を口にすることができなかった。
「そうだ、そろそろ野球部の練習が始まるから、私行かなきゃ」
美優は弁当箱を片付けると、立ち上がった。
「頑張ってね、デート」
そう言い残して、美優は屋上を後にした。彼女が去った後、太郎はため息をついた。
「なんで言えないんだろう…」
青空を見上げながら、太郎は自分の気持ちと向き合っていた。
――――――――――――――――――――――――
日曜日、太郎は約束通り中島と水族館デートに出かけた。華やかな水槽の前で、中島は目を輝かせていた。
「わぁ、綺麗…!」
中島の横顔を見つめながら、太郎は考えていた。彼女は確かに可愛いし、明るくて優しい。付き合えば、きっと楽しい日々が待っているだろう。でも、心のどこかで引っかかるものがあった。
「太郎くん、見て! クラゲすごく綺麗だよ!」
中島は太郎の腕を引っ張り、大きなクラゲの水槽の前に連れて行った。淡い光に照らされたクラゲたちが、まるで宇宙を漂うように優雅に泳いでいた。
「ねぇ、太郎くん…」
中島が真剣な表情で太郎を見つめた。
「私ね、太郎くんのこと、ずっと前から好きだったんだ」
突然の告白に、太郎は言葉を失った。
「あの…」
「答えはすぐじゃなくていいよ。ただ、気持ちを伝えたかっただけ」
中島は優しく微笑んだ。その笑顔は、太郎の心を温かくした。
「実は…僕には好きな人がいるんだ」
思い切って太郎は本当のことを言った。中島の表情が少し曇った。
「佐藤さん…だよね?」
太郎は驚いて中島を見つめた。
「どうして分かったの?」
「だって、太郎くんが佐藤さんを見る目が特別だもん。いつも追いかけるように見てるよ」
中島はちょっと寂しそうに笑った。
「でも、太郎くんはなぜ佐藤さんに告白しないの?」
「幼馴染だからさ。もし告白して振られたら、今の関係も壊れてしまうかもしれないから…」
中島は深く考え込んだ後、決意に満ちた表情で言った。
「じゃあ、私が手伝うよ!」
「え?」
「私が太郎くんの恋のキューピッドになる! 佐藤さんに太郎くんの気持ちが伝わるように、サポートするよ!」
太郎は驚きを隠せなかった。自分に告白した女の子が、自分の恋をサポートしてくれるなんて。
「でも、それじゃあ中島さんが…」
「大丈夫! 私は太郎くんが幸せになれば、それでいいんだ」
中島は明るく笑った。その笑顔には、少し悲しさが混じっていた。
「ありがとう…」
太郎はただそれだけしか言えなかった。
――――――――――――――――――――――――
翌日の放課後、太郎は中島と作戦を練っていた。図書室の片隅で、二人は頭を寄せ合っていた。
「よし、まずは太郎くんと佐藤さんがもっと二人きりで過ごせる時間を作らないとね」
中島はメモを取りながら言った。
「でも、どうやって?」
「それが、実は…」
中島が話し終える前に、図書室のドアが開き、美優が入ってきた。彼女は太郎と中島を見つけると、少し驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔になった。
「あれ、二人とも何してるの?」
「い、いや、何でもないよ!」
太郎は慌てて言った。中島は冷静に対応した。
「実は、太郎くんに数学を教えてもらってたんだ。来週テストだから」
「そうなんだ。太郎って意外と勉強できるよね」
美優は笑いながら言った。
「ねぇ、美優さん。今度の週末、私たちと一緒に遊びに行かない?」
中島が突然提案した。太郎は驚いて中島を見たが、彼女はウインクをして見せた。
「え? いいの? でも、二人のデートの邪魔になっちゃうかも…」
「ううん、全然! 太郎くんも賛成だよね?」
中島が太郎を見た。太郎は頷くしかなかった。
「じゃあ、ありがとう。行くよ!」
美優は嬉しそうに答えた。中島はニッコリと笑った。
「それじゃあ、土曜日に遊園地に行こう!」
――――――――――――――――――――――――
土曜日、三人は遊園地に来ていた。中島は計画通り、途中で「急用ができた」と言って帰ってしまった。太郎と美優は二人きりになった。
「中島さん、急に何があったんだろう…」
美優は心配そうに言った。
「大丈夫だよ。後でメールしておくから」
太郎は中島との作戦通りに言った。
「じゃあ、せっかく来たんだし、二人で楽しもう!」
美優は元気に言って、太郎の手を引いた。その温かい感触に、太郎の心臓が大きく鼓動した。
二人はジェットコースターに乗り、お化け屋敷に入り、様々なアトラクションを楽しんだ。日が暮れ始め、空が茜色に染まる頃、二人は大観覧車に乗った。
「なんか、デートみたいだね」
美優はふと呟いた。
「気にしないで。私たち幼馴染だし」
その言葉を聞いて、太郎は少し胸が痛んだ。
「太郎、最近変わったね」
美優が窓の外を見ながら言った。
「どう変わった?」
「なんだか、大人っぽくなった気がする。中島さんと付き合うようになってから」
「付き合ってないよ…」
「え? でも、二人でデートしてたじゃん」
「あれは…ただの友達だよ」
美優は少し驚いた表情で太郎を見た。
「じゃあ、太郎には好きな人がいるの?」
質問に太郎は黙ってしまった。観覧車はゆっくりと頂点に近づいていた。
「いるの?」
美優はもう一度尋ねた。太郎は大きく深呼吸をした。
「うん、いるよ」
「誰?」
観覧車が頂点に達した瞬間、太郎は勇気を出して言った。
「美優、それは…君だよ」
時間が止まったように感じた。美優の表情が驚きに変わり、そして…涙が彼女の頬を伝い落ちた。
「どうして…どうして今まで言ってくれなかったの?」
彼女の声は震えていた。
「友達関係が壊れるのが怖かったんだ」
「バカ…」
美優は太郎に近づき、彼の胸に顔を埋めた。
「私も…ずっと前から太郎のことが好きだったよ」
その言葉を聞いて、太郎の心は喜びで満たされた。彼は恐る恐る美優を抱きしめた。観覧車は下へと向かい始めていた。
「これからは、ちゃんと言葉にしようね。お互いの気持ちを」
美優はそう言って、照れくさそうに笑った。太郎も笑顔で頷いた。
観覧車を降りた二人は、手をつないで歩き始めた。遊園地の明かりが、二人を優しく照らしていた。
――――――――――――――――――――――――
月曜日の朝、太郎は学校の門の前で中島を待っていた。彼女が来るのを見つけると、深々と頭を下げた。
「ありがとう、中島さん。おかげで美優に気持ちを伝えることができたよ」
中島は微笑んだ。その笑顔には少し寂しさがあったが、確かな温かさもあった。
「よかった。私、太郎くんの笑顔が見たかったから」
「でも、中島さんは…」
「大丈夫だよ。私にはまだまだチャンスがあるから」
彼女はウインクをして見せた。
「次は自分の恋を見つけるよ」
中島はそう言って、明るく笑った。太郎も笑顔で頷いた。
そして遠くから、美優が走ってくるのが見えた。彼女は太郎を見つけると、大きく手を振った。
「おはよう、太郎!」
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