会えば喧嘩ばかりの婚約者と腹黒王子の中身が入れ替わったら、なぜか二人からアプローチされるようになりました

黒木メイ

文字の大きさ
15 / 19

薬の効果が切れるまで後二日(2)

しおりを挟む
 レオンクリスティアーノのピンク色の瞳に射抜かれ、ソフィアの心臓はバクバク鳴り始めていた。まるで頭の中に心臓が移ったかと思うほど、激しい鼓動が鼓膜を直接叩いているようだ。沈黙がさらに意識を促してくる。
 そのうち彼の瞳の色が、本来のレオンの青が混じったような紫色に見えてきた。
(レオンが、私のことを……私は……)

 ソフィアはゆっくりと口を開こうとした。その時、二人の空間を壊すかのように、「はい続きはまた今度ね~」と声が響いた。
「「クリス!」」
 突然のクリスティアーノレオンの登場に、慌てて離れる二人。

「お、おまえなんでここにっ。仕事してたんじゃねえのかよ?!」
「うん? 仕事なら終わらせてきたよ。僕にしかできない分だけ、ね。なんていったって、今僕は休暇中だから。っていうかレオンこそ、なにサボってるのさ?」
「べ、別にサボってなんか……つーか、もう入れ替わりはバレてんだから、お互い本来の役目を果たすべきだろ。おまえは仕事。俺はソフィーとの交流を図るってことで……」
「やだなー、レオンってばもう僕が言ったこと忘れたの? 僕が魔女の秘薬を使った理由は、レオンとソフィーが城内で騒ぎを起こしたから。そして、激務に疲れた僕が立太子前に羽を伸ばしたかったから。だよ?」
 見事なアルカイック・スマイルにレオンクリスティアーノは硬直する。その隙をついて彼は話を続ける。
「なのに、休暇中にもかかわらず仕事するはめになるなんて……」
 やれやれと首を横に振り、「その分、休みを追加しようかな」と呟いた。

「いや、それはやめてやれ」「それは無理でしょ」
 レオンクリスティアーノとソフィアの声が重なった。二人の視線の先にいるのは、少し空いた扉の隙間から見える護衛騎士たち。フィンが必死な形相でバツ印を作っている。その光景はクリスティアーノレオンにも見えたわけで。
「はあ……」
 と大げさなため息を吐くクリスティアーノレオン。その姿にレオンクリスティアーノは意外そうな表情を浮かべた。
「そんなにきつかったのか? てっきり俺はなんだかんだクリスは仕事人間だと思っていたんだが。だから、王弟派の件を知った時も、『ああ、なるほど』と思ったんだが。……もしや、本当は立太子するのも嫌だったのか?」
 その言葉に、クリスティアーノレオンの目が剣呑に光る。
「まさか。だとしたら、僕は裏方に回って、その地位にふさわしい者に叔父上を追い詰める役目を譲っていたよ。立太子はする。……けどさあ、この仕事量はどうにかしたいんだよね。ソフィーならわかるでしょ?」

 急に話を振られたソフィアだが、苦い笑みを浮かべるだけで否定はしなかった。
(たしかに仕事量が異様に多いと思ったのよね。王太子に内定しているからか、と思っていたけど。今思えば、単に信用できる者がいなかったから……クリスが一人で抱え込むしかなかったのだわ)
 なら、とソフィアは提案を口にする。
「これを機に人員を増やしたら? 今までは環境的にそんな余裕なかったでしょうけど、今なら大丈夫でしょ。もちろん、万が一のことを考え、きちんと調べる必要はあると思うけど」
(王弟派の残党がやってくる可能性は十分にあるからね)
「うーん。そうだねえ。いずれはそうすることになるとは思うけど今はまだ……ねえソフィー。やっぱり、このまま城に残って僕の手伝いしない? 時給上げるからさ」
「これ以上は無・理。私にも次期当主としての仕事があるもの」
「だよねー」

 がっくりと肩を落とすクリスティアーノレオン
 それを見ていたソフィアの中で、おせっかい癖がむくむくと膨れ上がる。
「クリス。どうしてもっていうなら……」
「ダメだ」と口を挟んだのはレオンクリスティアーノ。その鋭い視線にソフィアは思わず口を閉ざした。
「クリス。別にソフィーでなくてもいいだろ」
「そうなんだけどさー。色々調べたり、教え込んだりする手間暇を考えるとさ、やっぱりソフィーが適任なんだよね。それに、レオンにとってもいい話だと思うけど?」
「は?」
「だって、その分ソフィーと会うことができるわけじゃん」
「たしかに」と思案し始めるレオンクリスティアーノ
「……通いにするとか?」
「遠すぎるよ。ソフィーに負担をかけすぎるのは僕の本意ではないし」
「なら、忙しい時期だけに限定?」
「まあ、それならいいんじゃないかな」
 勝手に話を進める男二人。

 ソフィアは呆れながらも、『まあそれもありね』と思い、黙って聞いていた。
「それに……私としてもかかわった以上、それなりの成果を上げておきたいし」
 今回の件、国王からの評価は主にクリスティアーノとレオンへと向いているだろう。それではソフィアも面白くない。それなりに危険を覚悟して動いていたのだ。ならば、目に見える形で成果を残したい。
 そんなソフィアの気持ちを知ってか知らずか、クリスティアーノレオンはたずねてきた。
「ん? ソフィーは、叔父上に引導を渡す瞬間に立ち会いたかったの?」
「当然。けど、それはできないこともわかってたからね」
 とため息を吐く。

 第一王子とその最側近である二人ならまだしも、ソフィアにとってはフェルディナンドの捕縛に直接関わるのはリスキーだった。万が一失敗した時のことを考えると特に。それをクリスティアーノもわかっていたからこそ、あえてソフィアを計画から外した。そして、そのことを本人も理解していた。ただ、心は別だ。頭でわかっていても、もやもやはする。
 しかし、レオンクリスティアーノはそんなソフィアの気持ちに共感できなかったらしい。
「けどよーそれを言うなら、途中まで除け者にされていた俺の方が可哀そうじゃね?」
 と対抗してきたのだ。ソフィアの説明に納得はしたものの、クリスティアーノに文句の一つくらいは言わないと気が済まなかったのだろう。
 ジト目を向けられたクリスティアーノレオンは苦笑している。だが、便乗したソフィアにも同じような目を向けられ動揺する。

 二人からの非難を向けられ、彼は拗ねたように顔をそらした。
「はあ。僕だって頑張ったのになー。たくさん頭使って。休暇中だというのに仕事して。それなのに……二人はのんきにいちゃいちゃしてるし。しまいには、僕の体で不埒な真似までしようとしてた。ああ! 僕が止めなかったらどうなっていたことか!」
 と大げさに嘆き始める。ぎょっとするレオンクリスティアーノとソフィア。
「な! べ、別にそんなことしてねえよ!」
「そ、そうよ!」
 真っ赤な顔の二人を横目に悪態をつき続けるクリスティアーノレオン
「あーあ。むしろ途中で止めなければよかったなー。あのまま放っておいたら、きっとレオンは何も考えずに僕の体でキスの一つや二つソフィーにしてたんだ。そして噂が広まって、二人の婚約はなくなって、僕はめでたく優秀な婚約者を得ることができた……かもしれないのにー」
 その理路整然とした脅迫に近い言葉に、ようやく自分の行動がどのような未来を招こうとしていたのかを理解したレオンクリスティアーノ。口元を押さえ、青ざめる。
「あっぶねえ……」
 クリスティアーノの言う通り、事情を知らない者がそんなシーンを見たら、間違いなく噂するだろう。レオンはまだいい。ソフィアなんて二人の男を手玉に取る魔性の女として、一躍有名人になってしまう。ここ数日クリスティアーノレオンと仲良くしていたのだからなおさら。なんならマルゲリータを追い落としたのもソフィアの作戦だなんて邪推までされそうだ。

 ソフィアも青ざめ、感謝を告げる。
「あ、ありがとうね。クリス」
「どういたしまして。……ってことで、僕のおかげだと思っているなら、残りの仕事がんばってね」
 とクリスティアーノレオンレオンクリスティアーノの肩をたたいた。
「へ?」
「元に戻るまで、僕はまだ休暇中だから。ああ、心配しないで。レオンに任せる仕事はいつもどおり、簡単なものだけだからね」
「~~~~!!!! わかった! やってやるよ!」
 勢いよく立ち上がったレオンクリスティアーノ。そして、ビシッとクリスティアーノレオンを指さした。
「ただし! その代わり、絶対ソフィーに手を出すんじゃねえぞ!」
「わかってるわかってる」
「ソフィー!」
 いきなり名前を呼ばれ、ビクッと体を硬張らせるソフィア。
「な、なに?」
「頑張ってくる。から励ましの言葉をくれ!」
 思いがけないお願いにソフィアは固まった。が、彼の顔が赤く染まっていることに気づいて、目元をやわらげる。手を伸ばし、頭をくしゃくしゃと撫でた。
「頑張ってね」
「っ。お、おう!」
 そう言って、ぎくしゃくとした挙動で部屋を出ていくレオンクリスティアーノ

 二人きりになったクリスティアーノレオンとソフィア。
「……クリス。なにか言いたいことでも?」
「あるよ。ねえ、レオンだけずるくない? 僕だって頑張ってきたんだけど?」
 面白くないと拗ねた表情を浮かべるクリスティアーノレオン。それに対し、ソフィアは呆れて言葉を返そうとして、外からの大きな声に遮られた。
「おいフィン! おまえはここに残ってあいつを見張ってろ。なにかあればすぐ俺に報告だ! わかったな?!」
「はい! 隊長の大切な婚約者様のことは自分にまかせてください!」
「おう! 任せたぞ!」
『大切な婚約者』という言葉にソフィアの頬はバラのように赤く染まる。
「な、なに大きな声で言ってるのよ」
 と言いつつもその声色にいら立ちは含まれていない。
 あっという間にソフィアの意識を奪われてしまったクリスティアーノレオンは、そっと目を伏せると視線を逸らしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【旦那様は魔王様 外伝】魔界でいちばん大嫌い~絶対に好きになんて、ならないんだから!~

狭山ひびき
恋愛
「あんたなんか、大嫌いよ!」ミリアムは大きく息を吸い込んで、宣言した。はじめてアスヴィルと出会ったとき、彼は意地悪だった。二度と会いたくないと思うほど嫌っていたのに、ある日を境に、アスヴィルのミリアムに対する態度が激変する。突然アスヴィルは、ミリアムを愛していると言い出したのだ。しかしミリアムは昔のまま、彼のことが大嫌い。そんなミリアムを振り向かせようと、手紙やお菓子、果ては大声で愛を叫んで、気持ちを伝えようとするアスヴィル。果たして、アスヴィルの気持ちはミリアムに届くのか―― ※本作品は、【旦那様は魔王様!】の外伝ですが、本編からは独立したお話です。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」 「……は?」 そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!? 精霊が作りし国ローザニア王国。 セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。 【寝言の強制実行】。 彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。 精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。 そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。 セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。 それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。 自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!! 大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。 すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!

白い結婚のはずでしたが、冷血辺境伯の溺愛は想定外です

鍛高譚
恋愛
――私の結婚は、愛も干渉もない『白い結婚』のはずでした。 侯爵令嬢クレスタは王太子アレクシオンから一方的に婚約破棄を告げられ、冷徹と名高い辺境伯ジークフリートと政略結婚をすることに。 しかしその結婚には、『互いに干渉しない』『身体の関係を持たない』という特別な契約があった。 形だけの夫婦を続けながらも、ジークフリートの優しさや温もりに触れるうち、クレスタの傷ついた心は少しずつ癒されていく。 一方で、クレスタを捨てた王太子と平民の少女ミーナは『真実の愛』を声高に叫ぶが、次第にその実態が暴かれ、彼らの運命は思わぬ方向へと転落していく。 やがて訪れるざまぁな展開の先にあるのは、真実の愛によって結ばれる二人の未来――。

悪魔が泣いて逃げ出すほど不幸な私ですが、孤独な公爵様の花嫁になりました

ぜんだ 夕里
恋愛
「伴侶の記憶を食べる悪魔」に取り憑かれた公爵の元に嫁いできた男爵令嬢ビータ。婚約者は皆、記憶を奪われ逃げ出すという噂だが、彼女は平然としていた。なぜなら悪魔が彼女の記憶を食べようとした途端「まずい!ドブの味がする!」と逃げ出したから。 壮絶な過去を持つ令嬢と孤独な公爵の、少し変わった結婚生活が始まる。

ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―

冬野月子
恋愛
侯爵令嬢クリスティナは、ここが前世で遊んだ学園ゲームの世界だと気づいた。そして自分がヒロインのライバルで悪役となる立場だと。 のんびり暮らしたいクリスティナはゲームとは関わらないことに決めた。設定通りに王太子の婚約者にはなってしまったけれど、ゲームを回避して婚約も解消。平穏な生活を手に入れたと思っていた。 けれど何故か義弟から求婚され、元婚約者もアプローチしてきて、さらに……。 ※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

結婚5年目の仮面夫婦ですが、そろそろ限界のようです!?

宮永レン
恋愛
 没落したアルブレヒト伯爵家を援助すると声をかけてきたのは、成り上がり貴族と呼ばれるヴィルジール・シリングス子爵。援助の条件とは一人娘のミネットを妻にすること。  ミネットは形だけの結婚を申し出るが、ヴィルジールからは仕事に支障が出ると困るので外では仲の良い夫婦を演じてほしいと告げられる。  仮面夫婦としての生活を続けるうちに二人の心には変化が生まれるが……

処理中です...