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第一部『ベッティオル皇国編』
不穏な皇家、一方なにも知らず変態ぷっぴぃに説教するリタ(1)
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精霊殿から出てきたアドルフォ。その表情は入る時と変わらない。
いったいどちらだ。失敗か、成功か。
誰も動かない中、アデライデがアドルフォに近づいた。
「ア、アドルフォ。どうだったの? どんな精霊と契約をしてきたのかしら。私に聞かせてちょうだい」
固い笑顔を浮かべるアデライデに、アドルフォはほほ笑みかけた。
「母上」
「な、なにかしら?」
「期待に応えられず申し訳ありません。やはり精霊は私の呼びかけに応えてはくれませんでした」
さらっと答えたアドルフォにアデライデは、いやその場にいる全員が固まった。いち早く我に返ったのは、そうなるだろうと予測していたダニエーレとステファニアだ。
「父上、お返しします」
「あ、ああ」
受け取った宝石箱。ダニエーレは中身が全てそろっていることを確認して頷き返した。
「あ、ありえないわ。皇帝陛下!」
「……なんだ?」
「もう一度、もう一度アドルフォに機会を与えてくださいませ」
「ならん」
「なぜですか?! このままではアドルフォが皇帝になれないではないですか! それとも、他にふさわしい者がいるとでもっ」
「母上、落ち着いてください」
アデライデを諫めたのは他でもないアドルフォ。アデライデは信じられないという表情でアドルフォを見やり、そして息を吞んだ。アドルフォの顔に浮かんでいるのはいつもと変わらない笑顔。そのはずなのに妙な迫力がある。
「この場には身内しかいないとはいえ、母上は皇后なのですからそのように取り乱してはいけませんよ」
どこかで聞いた言い回し。アデライデの頬に朱が差す。
「なっ。わ、私はあなたのためを思って」
「その気持ちはありがたいですが、私はそんな母上を見たくはありません。なにより、する必要がない。そうですよね。父上?」
アドルフォの視線がダニエーレに向けられた。穏やかな声色に反して、その視線は鋭い。ダニエーレの脳内で警鐘が鳴る。ダニエーレは態度には出さないように気をつけ、頷き返した。
「ああ。精霊に選ばれようが、選ばれまいが皇太子はアドルフォで決定だ。そのようにすでに議会でも話を進めている」
ダニエーレとアドルフォ以外の皆が驚く。
「そんなのありかよ」
納得いかない表情でクラウディオが呟いた。精霊に選ばれなかったのはクラウディオも同じだ。皇太子になりたいとは思っていないが、自分と同じく精霊に選ばれなかったアドルフォがなぜ皇太子に選ばれるのか。納得できなかった。
「おかしいじゃねえか!」
声を張り上げたクラウディオに皆の視線が向く。
「どうして、俺やマルコはダメでアドルフォはいいんだ?! それに、ステファニアはまだ『精霊の儀』を受けてもいないんだぞ? せめてステファニアの番を待ってからだって」
「お兄様」
ステファニアが一歩前に進む。いつもは皆の後ろでにこにことほほ笑んでいるだけのステファニア。だが、今日は少し雰囲気が違った。その違いを本能的に感じ取ったのか、クラウディオが口をつぐむ。
「私はすでに皇位継承権を放棄しています」
「なっ」
「ですから、私が『精霊の儀』をすることも皇太女になることもありません。そして、お兄様方の条件は皆同じ……であった場合、皇太子の座にふさわしいのは……」
あとは濁したが、言いたいことは伝わったらしい。クラウディオは眉間に皺を寄せ、今度はマルコを見る。
「おまえはそれでいいのか?」
コクコクと必死に頷くマルコ。この場にいる全員はすでにアドルフォが皇太子になることに納得しているのだと気付き、クラウディオは舌打ちをして視線を逸らした。
「兄上も納得してくれたようですし、この話はこれで終わり……でいいですよね父上?」
「ああ」
「ではいきましょう母上」
「え、ええ」
アドルフォが次期皇太子だと聞いてアデライデも冷静さを取り戻したようだ。ただ、それでも不安が完全に消え去ったわけではない。
「大丈夫ですよ。精霊と契約できなかったのは残念ですが、他国では精霊の力に頼らずに国を治めるのが普通。私に、ソレができないと思いますか?」
「そんなことは……」
「母上、私を信じてください。最初は反発もあるかもしれませんが……それも次第に収まりますから」
そうしてみせるという意思が透けて見える。揺らぎない態度のアドルフォを見てアデライデも完全にいつも通りに戻った。
「そうね。あなたならやれるわ」
「はい」
仲良く城へと戻って行く親子。前回と同じような展開だが、各々のまとう雰囲気は違う。クラウディオは王城とは別の方向に向かって歩いて行った。残された三人。
ステファニアは顔色が悪いものの、どこかホッとした様子のマルコに声をかけた。
「マルコお兄様」
「ステファニア……」
「大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫」
「でしたら、私たちも戻りましょう。……お父様も。お父様?」
ステファニアの二度目の声がけでダニエーレは我に返った。すぐにほほ笑みを浮かべ「私たちも戻るか」と呟く。歩きだすダニエーレとマルコ。ステファニアはその数歩後ろを歩いた。じっとダニエーレの背中を見つめながら。
――これでいいはずなのに、嫌な予感がするのはなぜかしら?
終始ほほ笑みを浮かべていたアドルフォの瞳に宿る狂気の色を見たからか。それとも、ダニエーレがアドルフォへ向ける視線に気づいてしまったからか。ざわつく心臓をドレスの上から押さえ、ステファニアは歩き出した。
いったいどちらだ。失敗か、成功か。
誰も動かない中、アデライデがアドルフォに近づいた。
「ア、アドルフォ。どうだったの? どんな精霊と契約をしてきたのかしら。私に聞かせてちょうだい」
固い笑顔を浮かべるアデライデに、アドルフォはほほ笑みかけた。
「母上」
「な、なにかしら?」
「期待に応えられず申し訳ありません。やはり精霊は私の呼びかけに応えてはくれませんでした」
さらっと答えたアドルフォにアデライデは、いやその場にいる全員が固まった。いち早く我に返ったのは、そうなるだろうと予測していたダニエーレとステファニアだ。
「父上、お返しします」
「あ、ああ」
受け取った宝石箱。ダニエーレは中身が全てそろっていることを確認して頷き返した。
「あ、ありえないわ。皇帝陛下!」
「……なんだ?」
「もう一度、もう一度アドルフォに機会を与えてくださいませ」
「ならん」
「なぜですか?! このままではアドルフォが皇帝になれないではないですか! それとも、他にふさわしい者がいるとでもっ」
「母上、落ち着いてください」
アデライデを諫めたのは他でもないアドルフォ。アデライデは信じられないという表情でアドルフォを見やり、そして息を吞んだ。アドルフォの顔に浮かんでいるのはいつもと変わらない笑顔。そのはずなのに妙な迫力がある。
「この場には身内しかいないとはいえ、母上は皇后なのですからそのように取り乱してはいけませんよ」
どこかで聞いた言い回し。アデライデの頬に朱が差す。
「なっ。わ、私はあなたのためを思って」
「その気持ちはありがたいですが、私はそんな母上を見たくはありません。なにより、する必要がない。そうですよね。父上?」
アドルフォの視線がダニエーレに向けられた。穏やかな声色に反して、その視線は鋭い。ダニエーレの脳内で警鐘が鳴る。ダニエーレは態度には出さないように気をつけ、頷き返した。
「ああ。精霊に選ばれようが、選ばれまいが皇太子はアドルフォで決定だ。そのようにすでに議会でも話を進めている」
ダニエーレとアドルフォ以外の皆が驚く。
「そんなのありかよ」
納得いかない表情でクラウディオが呟いた。精霊に選ばれなかったのはクラウディオも同じだ。皇太子になりたいとは思っていないが、自分と同じく精霊に選ばれなかったアドルフォがなぜ皇太子に選ばれるのか。納得できなかった。
「おかしいじゃねえか!」
声を張り上げたクラウディオに皆の視線が向く。
「どうして、俺やマルコはダメでアドルフォはいいんだ?! それに、ステファニアはまだ『精霊の儀』を受けてもいないんだぞ? せめてステファニアの番を待ってからだって」
「お兄様」
ステファニアが一歩前に進む。いつもは皆の後ろでにこにことほほ笑んでいるだけのステファニア。だが、今日は少し雰囲気が違った。その違いを本能的に感じ取ったのか、クラウディオが口をつぐむ。
「私はすでに皇位継承権を放棄しています」
「なっ」
「ですから、私が『精霊の儀』をすることも皇太女になることもありません。そして、お兄様方の条件は皆同じ……であった場合、皇太子の座にふさわしいのは……」
あとは濁したが、言いたいことは伝わったらしい。クラウディオは眉間に皺を寄せ、今度はマルコを見る。
「おまえはそれでいいのか?」
コクコクと必死に頷くマルコ。この場にいる全員はすでにアドルフォが皇太子になることに納得しているのだと気付き、クラウディオは舌打ちをして視線を逸らした。
「兄上も納得してくれたようですし、この話はこれで終わり……でいいですよね父上?」
「ああ」
「ではいきましょう母上」
「え、ええ」
アドルフォが次期皇太子だと聞いてアデライデも冷静さを取り戻したようだ。ただ、それでも不安が完全に消え去ったわけではない。
「大丈夫ですよ。精霊と契約できなかったのは残念ですが、他国では精霊の力に頼らずに国を治めるのが普通。私に、ソレができないと思いますか?」
「そんなことは……」
「母上、私を信じてください。最初は反発もあるかもしれませんが……それも次第に収まりますから」
そうしてみせるという意思が透けて見える。揺らぎない態度のアドルフォを見てアデライデも完全にいつも通りに戻った。
「そうね。あなたならやれるわ」
「はい」
仲良く城へと戻って行く親子。前回と同じような展開だが、各々のまとう雰囲気は違う。クラウディオは王城とは別の方向に向かって歩いて行った。残された三人。
ステファニアは顔色が悪いものの、どこかホッとした様子のマルコに声をかけた。
「マルコお兄様」
「ステファニア……」
「大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫」
「でしたら、私たちも戻りましょう。……お父様も。お父様?」
ステファニアの二度目の声がけでダニエーレは我に返った。すぐにほほ笑みを浮かべ「私たちも戻るか」と呟く。歩きだすダニエーレとマルコ。ステファニアはその数歩後ろを歩いた。じっとダニエーレの背中を見つめながら。
――これでいいはずなのに、嫌な予感がするのはなぜかしら?
終始ほほ笑みを浮かべていたアドルフォの瞳に宿る狂気の色を見たからか。それとも、ダニエーレがアドルフォへ向ける視線に気づいてしまったからか。ざわつく心臓をドレスの上から押さえ、ステファニアは歩き出した。
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