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第二話
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お見合い当日。私の王子様は本当に現れた。
王子様の名は、ダヴィデ・ファルコ。身分的には王子様ではなく、ファルコ公爵家の嫡男で、王国軍第三騎士団の団長なんだとか。よくわからないけれど、すごい人だというのは間違いないみたい。金髪の髪に吸い込まれそうな赤い瞳。私の理想像にぴったりな見た目だわ。そして、なにより彼の私を見る目。
――お姉様ではなく、私をずっと見ているわ!
彼の視線にあてられ、頬が熱くなる。
ちらっとお姉様を見た。あら、お姉様ったら面白くなさそうな顔をしているわ。それもそうよね。だって、本来のお見合い相手であるはずのお姉様を無視して、私だけを見ているんですもの!
心が弾む。興奮しすぎたせいか眩暈がした。
「あっ」
「大丈夫ですか?」
ふらつく体を彼が抱き留めてくれた。ああ、匂いまで完璧だわ。
「申し訳ありません。体が弱いせいで……せっかくお庭を案内してくださるのに」
「可哀想に。もし、よろしければ私が抱き上げて庭を案内しても?」
「! ええ、ええ。よろしくお願いいたします」
――このシーン、あの本にも載っていたわ!
病弱なお姫様を王子様が横抱きしたまま、散歩をするシーン。今、私がされているのと同じだ。公爵家の立派な庭園をダヴィデ様に、お姫様だっこされて見て回る。騎士というだけあって、安定感は抜群だ。安心して至福の時間を楽しむことができた。すっかり、お姉様たちの存在を忘れるくらいに。
あら、お姉様ったら私の見合い相手にあんなに接近して……まあ、いいわ。私の本命はダヴィデ様だから、お姉様がそちらの方をもらってくれるなら都合がいいもの。
私はダヴィデ様の顔をじっと見つめた。父におねだりする時と同じように。
「私またダヴィデ様に、会いたい」
「ミルカ嬢……私も同じ気持ちです」
「本当ですか? 嬉しい。私、次はピクニックに行ってみたいです。今まで行ったことがなくて。お姉様がダメだと」
少しくらいなら大丈夫なのに、お姉様は意地悪だわ。お父様もお母様もうまい具合に言い含められちゃうし。
「それは可哀相に。わかりました。次はピクニックに行きましょう。ご両親は私が説得します。そうだ。せっかくだから狩りも一緒にしましょうか」
「え? 狩りですか?」
狩りってあの動物を狩るやつよね。お父様が好きなやつ。お母様は野蛮な遊びだと言って行きたがらないから、代わりにいつも姉が同行していると聞いた。正直、私も興味ない。
「でも……」
「狩りは私の趣味の一つなんです。ミルカ嬢にいいところをみせたかったのですが……ミルカ嬢がどうしても嫌だというなら仕方ないですね」
残念そうに眉を下げる彼に、断れなかった。
「ちょっとだけなら」
「ええ、もちろんです。ミルカ嬢に無理はさせません。実際に狩るのは私とエミリオだけですから、ミルカ嬢はイラリア嬢と二人でピクニックを楽しんでいてください。期待していてくださいね。ミルカ嬢のために立派な獲物を狩ってきますから」
「は、はい!」
狩りに興味はないけれど、私のためにという言葉が気に入った。
庭園の散歩が終わった頃、ようやく私は姉と私の見合い相手のエミリオ様に視線を向けた。
――うーん。エミリオ様は……なしね。
体が大きくて怖いし、無愛想。どう見ても王子様からはかけ離れている見た目だ。その点、ダヴィデ様は私の理想そのもの。
――やっぱり、結婚するなら絶対ダヴィデ様だわ!
帰ってからさっそく両親に伝えた。けれど、両親の反応はイマイチ。どうして? いつもなら二つ返事で頷いてくれるのに。
「ダメなの?」
涙目で訴えかければ、お母様は慌ててお父様を見る。
「あなた、どうにかならないかしら? ミルカがこう言っているんです。それに、あちらもミルカを気に入っている様でしたわ」
「……そうだな。あちらもその気なら可能性はある。話してみよう」
「絶対よお父様」
「ああ」
嬉しくてお父様に抱き着けば、お父様も抱きしめ返してくれる。
お父様に頼めば大丈夫。今までもそうだったから。
王子様の名は、ダヴィデ・ファルコ。身分的には王子様ではなく、ファルコ公爵家の嫡男で、王国軍第三騎士団の団長なんだとか。よくわからないけれど、すごい人だというのは間違いないみたい。金髪の髪に吸い込まれそうな赤い瞳。私の理想像にぴったりな見た目だわ。そして、なにより彼の私を見る目。
――お姉様ではなく、私をずっと見ているわ!
彼の視線にあてられ、頬が熱くなる。
ちらっとお姉様を見た。あら、お姉様ったら面白くなさそうな顔をしているわ。それもそうよね。だって、本来のお見合い相手であるはずのお姉様を無視して、私だけを見ているんですもの!
心が弾む。興奮しすぎたせいか眩暈がした。
「あっ」
「大丈夫ですか?」
ふらつく体を彼が抱き留めてくれた。ああ、匂いまで完璧だわ。
「申し訳ありません。体が弱いせいで……せっかくお庭を案内してくださるのに」
「可哀想に。もし、よろしければ私が抱き上げて庭を案内しても?」
「! ええ、ええ。よろしくお願いいたします」
――このシーン、あの本にも載っていたわ!
病弱なお姫様を王子様が横抱きしたまま、散歩をするシーン。今、私がされているのと同じだ。公爵家の立派な庭園をダヴィデ様に、お姫様だっこされて見て回る。騎士というだけあって、安定感は抜群だ。安心して至福の時間を楽しむことができた。すっかり、お姉様たちの存在を忘れるくらいに。
あら、お姉様ったら私の見合い相手にあんなに接近して……まあ、いいわ。私の本命はダヴィデ様だから、お姉様がそちらの方をもらってくれるなら都合がいいもの。
私はダヴィデ様の顔をじっと見つめた。父におねだりする時と同じように。
「私またダヴィデ様に、会いたい」
「ミルカ嬢……私も同じ気持ちです」
「本当ですか? 嬉しい。私、次はピクニックに行ってみたいです。今まで行ったことがなくて。お姉様がダメだと」
少しくらいなら大丈夫なのに、お姉様は意地悪だわ。お父様もお母様もうまい具合に言い含められちゃうし。
「それは可哀相に。わかりました。次はピクニックに行きましょう。ご両親は私が説得します。そうだ。せっかくだから狩りも一緒にしましょうか」
「え? 狩りですか?」
狩りってあの動物を狩るやつよね。お父様が好きなやつ。お母様は野蛮な遊びだと言って行きたがらないから、代わりにいつも姉が同行していると聞いた。正直、私も興味ない。
「でも……」
「狩りは私の趣味の一つなんです。ミルカ嬢にいいところをみせたかったのですが……ミルカ嬢がどうしても嫌だというなら仕方ないですね」
残念そうに眉を下げる彼に、断れなかった。
「ちょっとだけなら」
「ええ、もちろんです。ミルカ嬢に無理はさせません。実際に狩るのは私とエミリオだけですから、ミルカ嬢はイラリア嬢と二人でピクニックを楽しんでいてください。期待していてくださいね。ミルカ嬢のために立派な獲物を狩ってきますから」
「は、はい!」
狩りに興味はないけれど、私のためにという言葉が気に入った。
庭園の散歩が終わった頃、ようやく私は姉と私の見合い相手のエミリオ様に視線を向けた。
――うーん。エミリオ様は……なしね。
体が大きくて怖いし、無愛想。どう見ても王子様からはかけ離れている見た目だ。その点、ダヴィデ様は私の理想そのもの。
――やっぱり、結婚するなら絶対ダヴィデ様だわ!
帰ってからさっそく両親に伝えた。けれど、両親の反応はイマイチ。どうして? いつもなら二つ返事で頷いてくれるのに。
「ダメなの?」
涙目で訴えかければ、お母様は慌ててお父様を見る。
「あなた、どうにかならないかしら? ミルカがこう言っているんです。それに、あちらもミルカを気に入っている様でしたわ」
「……そうだな。あちらもその気なら可能性はある。話してみよう」
「絶対よお父様」
「ああ」
嬉しくてお父様に抱き着けば、お父様も抱きしめ返してくれる。
お父様に頼めば大丈夫。今までもそうだったから。
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