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5.Next day. -翌日-
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「なんだこれ。あいつの忘れものか?」
1度口にしてから考え直す。
「いや、まだ帰ったって決まったわけじゃないから置きっぱにしたとか」
表にしてみたり裏にしたりして、隅々まで見てみる。
今の俺はさぞダサい姿をしているだろうなと思いながらも、何故か胸を急かすような気分になって仕方がない。
細くて革製の……
「……ブレスレット?」
にしてはさすがに小さすぎるだろう。
いくら女子の手首だからといってこれは細すぎる。
だけど見覚えがある。俺は確かに、これを知っている。
キリ、っと頭のどこかが痛んだ。
……何かが変だ。
あいつが———莉依子が現れた前日に見た夢を思い出す。過去の記憶を客観的に見ていたあの夢。
長方形のぺらぺらした紙を、幼かった俺は誰に見せるために全力で駆けて行ったのか。
息を切らして、流れる汗を拭おうともしないで、背中から呼びかける母親の制止すら振りきって、俺は誰の元へ———
———ピピピピピピピピピピピピ
「うおっ!?」
突然の電子音に肩が跳ねた。ジャージのポケットに入っているスマホだ。
ひとまず持っていたソレをテーブルに戻し、ソファへと腰を沈めてポケットから携帯を取り出す。
確認のために画面を見るまでもない。固定着信音にしている。そしてここ連日ホラーばりに着歴を残していた相手。
「今日は朝っぱらからか……よ……」
『龍ちゃんが当たり前にあると思ってるものはずっとは続かないってことだけは、絶対に忘れないで』
ため息をつきかけた俺の脳裏に真剣な顔をしていた莉依子が浮かぶ。
少しの間画面を見つめてから、俺は「通話」の文字をタップした。
「……母さん?」
『龍?起きてたのね、よかった』
「……ああ」
『夏バテしてない?食べられてる?』
「…………ああ」
『そう。ならいいの』
電話越しに、心からの安堵の声がする。
しばらくの間電話に応対しなかった文句を言われると思っていた俺は拍子抜けすると同時に、母親の事をわかっていなかったことを痛感した。
違う。わかっていなかったんじゃない。
忘れていたんだ。
この人は俺がある程度の年齢になってから部屋のものに手をつけたこともなかった。
クラスメイト達が「勝手に引きだしを漁られた」「エロ本が見つかった」などと騒いでいる中で、俺には何ひとつ経験がなくて同感したことがなかった。
汚いし面倒くさいじゃない、なんて言っていたけれど、年頃の息子に気を遣っていたのだと今ならわかる。
そんな人が、理由もなく沢山の着歴を残すはずがない。
この人の息子として過ごしてきた時間をちゃんと覚えていたら簡単な事なのに、忘れていた。全然気付かなかった。
きっとどうしても俺に言いたい事があったはずだったのに。
恥と後悔と色々な感情を飲み込んで、俺はようやく枯れた声を出す。
「………何か、用?」
『あのね、りいこちゃんが』
「莉依子?どうした?」
母親の口から莉依子の名が出てきた事で、嫌な予感がした。
まさかあいつ、俺のとこに来ると言わずに家を出てきたんじゃねえだろうな。
1度口にしてから考え直す。
「いや、まだ帰ったって決まったわけじゃないから置きっぱにしたとか」
表にしてみたり裏にしたりして、隅々まで見てみる。
今の俺はさぞダサい姿をしているだろうなと思いながらも、何故か胸を急かすような気分になって仕方がない。
細くて革製の……
「……ブレスレット?」
にしてはさすがに小さすぎるだろう。
いくら女子の手首だからといってこれは細すぎる。
だけど見覚えがある。俺は確かに、これを知っている。
キリ、っと頭のどこかが痛んだ。
……何かが変だ。
あいつが———莉依子が現れた前日に見た夢を思い出す。過去の記憶を客観的に見ていたあの夢。
長方形のぺらぺらした紙を、幼かった俺は誰に見せるために全力で駆けて行ったのか。
息を切らして、流れる汗を拭おうともしないで、背中から呼びかける母親の制止すら振りきって、俺は誰の元へ———
———ピピピピピピピピピピピピ
「うおっ!?」
突然の電子音に肩が跳ねた。ジャージのポケットに入っているスマホだ。
ひとまず持っていたソレをテーブルに戻し、ソファへと腰を沈めてポケットから携帯を取り出す。
確認のために画面を見るまでもない。固定着信音にしている。そしてここ連日ホラーばりに着歴を残していた相手。
「今日は朝っぱらからか……よ……」
『龍ちゃんが当たり前にあると思ってるものはずっとは続かないってことだけは、絶対に忘れないで』
ため息をつきかけた俺の脳裏に真剣な顔をしていた莉依子が浮かぶ。
少しの間画面を見つめてから、俺は「通話」の文字をタップした。
「……母さん?」
『龍?起きてたのね、よかった』
「……ああ」
『夏バテしてない?食べられてる?』
「…………ああ」
『そう。ならいいの』
電話越しに、心からの安堵の声がする。
しばらくの間電話に応対しなかった文句を言われると思っていた俺は拍子抜けすると同時に、母親の事をわかっていなかったことを痛感した。
違う。わかっていなかったんじゃない。
忘れていたんだ。
この人は俺がある程度の年齢になってから部屋のものに手をつけたこともなかった。
クラスメイト達が「勝手に引きだしを漁られた」「エロ本が見つかった」などと騒いでいる中で、俺には何ひとつ経験がなくて同感したことがなかった。
汚いし面倒くさいじゃない、なんて言っていたけれど、年頃の息子に気を遣っていたのだと今ならわかる。
そんな人が、理由もなく沢山の着歴を残すはずがない。
この人の息子として過ごしてきた時間をちゃんと覚えていたら簡単な事なのに、忘れていた。全然気付かなかった。
きっとどうしても俺に言いたい事があったはずだったのに。
恥と後悔と色々な感情を飲み込んで、俺はようやく枯れた声を出す。
「………何か、用?」
『あのね、りいこちゃんが』
「莉依子?どうした?」
母親の口から莉依子の名が出てきた事で、嫌な予感がした。
まさかあいつ、俺のとこに来ると言わずに家を出てきたんじゃねえだろうな。
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