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5.Next day. -翌日-
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「まずさ。なんで安達が謝んの」
「え? だって私完全に八つ当たりだったから、この前の。久住くんは全然悪くないのに」
「でもそれは俺が無神経なこと言ったからだろ?」
「え?」
「あ」
不思議そうな顔の安達を見て気が付いた。
安達が親を亡くしたって話は、俺が勝手にツルから聞き出したことだ。下手したら安達のツルへの信頼度が変わってしまう。いくらツルでも俺のせいで友達に失望されたら気の毒だ。
どう誤魔化そうか答えあぐねていると、安達は柔らかく笑った。
「もしかして、ツルから聞いたの?」
……女の子ってみんな第六感が発達してるんだろうか。
母親もやけにカンが鋭い。何も言わなくても表情か何かから感情を察知する能力が………いや、母親と安達を一緒にしちゃいけない。いけないけど、性別は同じだ。性別だけは。
「あ、いや……」
「あははは。誤魔化すの下手だねえ久住くんは」
「で、でもツルから進んで話したわけじゃないから、安達怒らせたのなんでだ?ってわかんなかった俺にツルは親切心で」
「あはは、ちゃんとフォローしてる。仲良いもんね」
「まさか」
「でもいいよ別に、隠すことでもないし」
安達は膝を抱えていた両手を後ろの草地へ下ろした。
胸を張って前を真っ直ぐ向く横顔がどこか清々して見えたのは、気のせいじゃないかもしれない。
「去年の夏前にね。事故だったんだ」
俺には何も言えなかった。
安達が話してくれるなら黙って聞いていたいと思ったし、何より俺に掛けられる言葉なんて何ひとつない。
「この前久住くんに偉そうなこと言ったけど……。私もね、全然わかってなかったよ」
オレンジ色が安達を染めていく。
「うざいなーほっといてくんないかなーいちいち電話とかメールとかめんどいし他にやることないの? 暇なの? とか思ってた。だってせっかくのひとり暮らしで、楽しくて。
……あの時もそう。夏休みずっとじゃなくてもいいからせめてお盆には帰ってきなさいよとか何とか、とにかくしつっこくて。前の日に電話来てたのにシカトしちゃった」
ふふ、と落ちた笑い声は自嘲に満ちている。
「今は何も来ない。心配の電話も帰ってこいってうるさいメールも。何も」
キィンと澄んだ音がして白いものが打ちあがる。
安達は球の行方を追った。
「バカだよね。メールとか電話とかまだ来る気がしちゃうんだ」
俺に振り向いた安達の表情が眩しくてよく見えない。口元が笑っているのはわかった。
「あんなにウザかったのに……今はずっと、すごく寂しい」
何かが光っている気がしたけれど、目を眇めている俺からは判別できなかった。
「だから八つ当たりしちゃった。ウゼーって思ってたのは私も同じなのに、そう言える久住くんが羨ましかったみたい」
安達は続けてあーあかっこわる、と大きく空を仰ぐ。
俺も倣って空を見上げた。
「え? だって私完全に八つ当たりだったから、この前の。久住くんは全然悪くないのに」
「でもそれは俺が無神経なこと言ったからだろ?」
「え?」
「あ」
不思議そうな顔の安達を見て気が付いた。
安達が親を亡くしたって話は、俺が勝手にツルから聞き出したことだ。下手したら安達のツルへの信頼度が変わってしまう。いくらツルでも俺のせいで友達に失望されたら気の毒だ。
どう誤魔化そうか答えあぐねていると、安達は柔らかく笑った。
「もしかして、ツルから聞いたの?」
……女の子ってみんな第六感が発達してるんだろうか。
母親もやけにカンが鋭い。何も言わなくても表情か何かから感情を察知する能力が………いや、母親と安達を一緒にしちゃいけない。いけないけど、性別は同じだ。性別だけは。
「あ、いや……」
「あははは。誤魔化すの下手だねえ久住くんは」
「で、でもツルから進んで話したわけじゃないから、安達怒らせたのなんでだ?ってわかんなかった俺にツルは親切心で」
「あはは、ちゃんとフォローしてる。仲良いもんね」
「まさか」
「でもいいよ別に、隠すことでもないし」
安達は膝を抱えていた両手を後ろの草地へ下ろした。
胸を張って前を真っ直ぐ向く横顔がどこか清々して見えたのは、気のせいじゃないかもしれない。
「去年の夏前にね。事故だったんだ」
俺には何も言えなかった。
安達が話してくれるなら黙って聞いていたいと思ったし、何より俺に掛けられる言葉なんて何ひとつない。
「この前久住くんに偉そうなこと言ったけど……。私もね、全然わかってなかったよ」
オレンジ色が安達を染めていく。
「うざいなーほっといてくんないかなーいちいち電話とかメールとかめんどいし他にやることないの? 暇なの? とか思ってた。だってせっかくのひとり暮らしで、楽しくて。
……あの時もそう。夏休みずっとじゃなくてもいいからせめてお盆には帰ってきなさいよとか何とか、とにかくしつっこくて。前の日に電話来てたのにシカトしちゃった」
ふふ、と落ちた笑い声は自嘲に満ちている。
「今は何も来ない。心配の電話も帰ってこいってうるさいメールも。何も」
キィンと澄んだ音がして白いものが打ちあがる。
安達は球の行方を追った。
「バカだよね。メールとか電話とかまだ来る気がしちゃうんだ」
俺に振り向いた安達の表情が眩しくてよく見えない。口元が笑っているのはわかった。
「あんなにウザかったのに……今はずっと、すごく寂しい」
何かが光っている気がしたけれど、目を眇めている俺からは判別できなかった。
「だから八つ当たりしちゃった。ウゼーって思ってたのは私も同じなのに、そう言える久住くんが羨ましかったみたい」
安達は続けてあーあかっこわる、と大きく空を仰ぐ。
俺も倣って空を見上げた。
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