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第五十二話
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目の前にあるのは、ただの"もの"だった。化け物の死骸としか思えないそれは、確実に人間の死の匂いを放っていた。複雑な表情をした芸人や使用人たちが、水晶の顔を覗き込み、すぐに目を逸らす。部屋の中に響いていたのは、紅成の泣き声だけだった。
ようやく終わった、と思った。自分の中の蟠りが消えて、少し気分が軽くなったような気がした。だが、心の内はまだ晴れない。ぼんやりと、曇ったままでいる。もしかすると、永遠に晴れないものなのかもしれなかった。
紅隆が、簡単な弔いの言葉を述べ、皆を散らせる。それほど悲しんでいるふうには、見えなかった。なんだ、愛しているのではなかったのかと思ったが、すぐにどうでもよくなった。
鄭義と張引が、ずっと紅成の傍についている。鄭義が、無表情で紅成の体を抱いていた。どうしてか、自分はそこには近づけなかった。近づいては、いけない。自分の中の何かが、わけもなくそう言っていた。
*
紅成が、自分を避けるようになっていた。目の色が前よりもずっと暗くなり、それはまるで死ぬ間際の水晶の目を、私に思い出させた。ああ、そういうことなのか、と絶望に似た諦めを抱いた。水晶は、まだいるのだ。紅成の心の中に。自分への憎しみを、抱え込んだまま。
自分が近づこうとすると、紅成は私を睨んですぐにどこかへ去っていってしまう。もはや、目を合わせることもなくなった。もしかすると、自分のことを忘れているのかもしれない。得体の知れない胸苦しさを、私は覚えはじめていた。
「紅成様は、すっかり変られたな」
張引が、珍しく一緒に飲もうと言ってきた。相変わらず、紅成には手妻の稽古を付けているらしい。盃に酒を注ぎ、そっと口をつける。
「誰とも、滅多に喋らなくなってしまった。それほど、母の存在が大きかったのだろうか」
「仕方の無いこと、なのかもしれん」
「時が経てば、傷は癒えるのかな」
「時だけではない。お前たちが、癒してやれ」
「扈珀は」
言いかけて、張引が黙った。口元に薄ら笑みを浮かべて、私は呟く。
「私のことは、もういいのだ」
「……しかし」
「お前と鄭義がいてやれば、紅成には十分だろう」
どっちにしても、自分のような穢れた者が、紅成の傍にいてはいけなかった。これで、いい。紅成を、傷つけなくて済む。言葉にできないような感情が、溢れてきそうになった。しかし、ぐっと堪えた。
「紅成様を、お前はよく可愛がっていたではないか。俺は、紅成様に聞いたのだ。お前のことを」
迷ったような表情で、張引が目を動かしている。黙って、私は張引の次の言葉を待った。
「……扈珀との思い出も、すべて忘れているらしい。綺麗にな」
胸が、ちくりと痛む。しかし、それは一瞬で、すぐにぼんやりとしたあやふやなものになった。
「そう、か」
「だから、そのせいなのだ。思い出したら、紅成様はきっとお前に、元のように……」
「いい。一度失ったものは、取り戻せん」
「取り戻せる。思い出は、消えない」
酒を、ぐっと飲み干した。綺麗に、忘れている。逆に、記憶がある方がつらいのだ。おそらく、きっと。……綺麗に、か。どうせ水晶の仕業だ、と思った。やはりあの女は、死んでも尚、自分を苦しめようとしている。
「悲しむものか」
笑った。張引が、驚いたように顔を上げる。なんでもないと言うように、私は首を振った。
それからは、黙って飲んだ。自分も忘れればいい、と思った。
忘れなければならないことが、自分の人生には多すぎた。もしかすると、すべて無理に押し潰しているだけなのかもしれない。もう、それはそれでいいような気もした。
「扈珀。無理をするなよ」
「何を、だ」
「……」
思い出は、消えない。張引の言葉が、頭の中で何度か繰り返された。
*
更に、二年が経つ。新たに、彪林という少年が入座してきた。身なりは田舎者のようだったが、顔は綺麗な方だと思った。少々自信家すぎる雰囲気は見てとったが、ここではむしろそういう者の方が成功しやすい。同じ芸人に妬まれ、争いごとを起こさなければ、の話だ。
元から居た犬芸人が弟子を欲しがっていたので、紅隆が仔犬を三匹買ってきて、彪林に与えた。あとは、すべて犬芸人に任せた。開封での、出来事だった。
龍庸の娘は、もう八つになるのだという。まだ、母は生きているらしい。保護するのは、母が死に、娘の身寄りがなくなってからにしようという話をしていた。それまでは、未だ残っている借金を返し続けてもらう、と。娘の顔を、ちらりと見てみたくなったが、やめた。今は、子どもの顔を見ても、いいことは何もないような気がした。
「まだ、呪いに強い関心を持っておられるのでしょうか?」
素っ気ない素振りで、紅隆に聞いてみる。開封の、料亭だった。前にもこうして、二人で食事をしたような気がする。
「まあな」
同じくらいに素っ気なく、紅隆が答えた。冗談かもしれない、と私は半分疑った。
「もう、調べることはないでしょう。何も」
「ないことはない。龍庸の娘を使って、試そうと考えていることは山のようにある」
「一体、何を?」
「教えん」
やはり冗談だ、と思うことにした。試したいことがあるのなら、水晶で試せばよかったのだ。今更、という話だが。
「長い、時が経ったな」
肴をつまみながら、紅隆が言った。いつからのことを、言っているのだろう。どの出来事を取っても、そう感じられなくもない。
「まったく」
「龍庸が、李玲玉が死んだ。それから、水晶も」
「……」
「皆、哀れに死んだよな」
誰の、せいで。そこまで、紅隆は言わなかった。自嘲ぎみに、少し笑ったくらいである。当時は何も気にしていなかったが、今考えれば多少後ろめたいという気もする。何かに夢中になっていた時は、驚くほど冷酷でいられるのだ。
「過去のことが、不思議に思えて仕方がありません」
「それほど、今は穏やかだというのかな」
「それは、そうでしょう。もう、永遠にこれでいい、という気さえしています」
「いや」
紅隆が、首を振る。その動作の意味を、少しの間考えた。
「これからなのだよ」
「……何がです?」
「なにごとも」
紅隆のことについて、考えるのをやめた。こういう物言いばかりされても、どうせ自分に理解はできないのだ。理解できなくとも、あまり問題はない。気にする必要もなかった。
なにごとも、これから。あのような地獄は、もうこりごりである。──地獄だと思っているのは、もしかすると自分だけで、紅隆は何とも思っていない。そう考えると、薄ら恐怖を感じた。
*
龍庸のことも、水晶のことも、呪いのことさえ思い出さない日が、驚く程に増えている。至って普通の旅芸人の一座として、中華を巡り歩いているのだ。それだけ、だった。過去の醜かった自分は、更に思い出の奥へ、奥へと遠ざかっている。それでも、視界の隅にはいつも紅成がいた。水晶が、いた。忘れるな。そう、言っている。小さな針で、少しずつ軽く刺されているような、そんな日々が重なって、もう何年経ったのだろうか。平凡の中で、自分はどうすることもできないのだ。水晶が私に死ねと言っているのなら、私は喜んで死に逃げるのに。生きて苦しめ、と言っているのなら──。私は、水晶の顔をした紅成を、殺めだってするかもしれない。こわかった。水晶の目を、どうして今でも気にしなければならないのか。
私は、一体何を、気にしているのだろう?
どうして、今更。水晶だけではない。何か暗いものが、自分にのしかかってくる気さえするのだ。何か。犯した、罪だろうか。こんな生活になったからこそ、違う苦しみが自分を襲おうとしている。正体がはっきりしていないから、ますますこわい。誰にも、言えることではなかった。また、ひとりで抱え込んだ。日記に、すべて記した。昼は、芸人の華やかな芸と、それを見て目を輝かせる客だけが、自分の視界に映る。寝る前になると、あの黒い影が、いつも私を虐《さいな》める。苦しい。死に、逃げたい。そう思った日が、何度もあった。紅隆に縋った。本当に、自分には紅隆しかいないのだ。まさか、水晶はもう紅隆まで奪えやしないだろう。駄目だ。紅隆がいなくなれば、私にはなにも残らない。
紅隆が、近ごろお前の方からよく、晩酌に誘うようになったなと笑う。自分が、何かから逃げていること。知れば、紅隆は助けてくれるのだろうか。耐えられるまで耐えて、飲み込めるようになったら飲み下す。そして消してしまえばいい、のみだ。あと何年続くかは、自分にはわからなかった。
龍庸の、祖母が死んだという知らせが入る。同時に、娘が行方不明になった、という話を聞いた。
紅隆は、それを聞いても、そうか、とただ言っただけだった。
「……どうして」
何故、動揺しない?
唯一の、残された呪い師だ。龍庸の、娘が。その娘が、行方不明になったと言うのに。まるで関心がないかのように、振舞っているではないか。
「まあ、いずれ現れるだろう」
どこに、そんな根拠が。信じられなかった。紅隆は、何かを隠している。自分に、何か大きなことを。それを疑いはじめると、今までの意味深長な言動のすべてに、納得がいってしまう。いや、駄目だ。怖くなってくる。自分には、紅隆しかいないのだ。その紅隆が、何か大きなことを隠している、など。
「あなたは、一体、何を」
それ以上、聞けなかった。得体の知れない恐怖が、紅隆の体から滲み出ている。魅力であるはずだった偉大なる雰囲気が、明らかに負の方へと変っているのだ。紅隆が、不敵そうに笑った。手が、震える。
「申し訳ありません。何も、ないです」
誓ってしまおう、と思った。
自分は何があろうとも、紅隆を信じる。信じきってしまうのだ。そうすれば、自分の心は楽になる。楽になる、はずだ。
どう足掻いたって、結局自分には、紅隆しかいないのだから。
ようやく終わった、と思った。自分の中の蟠りが消えて、少し気分が軽くなったような気がした。だが、心の内はまだ晴れない。ぼんやりと、曇ったままでいる。もしかすると、永遠に晴れないものなのかもしれなかった。
紅隆が、簡単な弔いの言葉を述べ、皆を散らせる。それほど悲しんでいるふうには、見えなかった。なんだ、愛しているのではなかったのかと思ったが、すぐにどうでもよくなった。
鄭義と張引が、ずっと紅成の傍についている。鄭義が、無表情で紅成の体を抱いていた。どうしてか、自分はそこには近づけなかった。近づいては、いけない。自分の中の何かが、わけもなくそう言っていた。
*
紅成が、自分を避けるようになっていた。目の色が前よりもずっと暗くなり、それはまるで死ぬ間際の水晶の目を、私に思い出させた。ああ、そういうことなのか、と絶望に似た諦めを抱いた。水晶は、まだいるのだ。紅成の心の中に。自分への憎しみを、抱え込んだまま。
自分が近づこうとすると、紅成は私を睨んですぐにどこかへ去っていってしまう。もはや、目を合わせることもなくなった。もしかすると、自分のことを忘れているのかもしれない。得体の知れない胸苦しさを、私は覚えはじめていた。
「紅成様は、すっかり変られたな」
張引が、珍しく一緒に飲もうと言ってきた。相変わらず、紅成には手妻の稽古を付けているらしい。盃に酒を注ぎ、そっと口をつける。
「誰とも、滅多に喋らなくなってしまった。それほど、母の存在が大きかったのだろうか」
「仕方の無いこと、なのかもしれん」
「時が経てば、傷は癒えるのかな」
「時だけではない。お前たちが、癒してやれ」
「扈珀は」
言いかけて、張引が黙った。口元に薄ら笑みを浮かべて、私は呟く。
「私のことは、もういいのだ」
「……しかし」
「お前と鄭義がいてやれば、紅成には十分だろう」
どっちにしても、自分のような穢れた者が、紅成の傍にいてはいけなかった。これで、いい。紅成を、傷つけなくて済む。言葉にできないような感情が、溢れてきそうになった。しかし、ぐっと堪えた。
「紅成様を、お前はよく可愛がっていたではないか。俺は、紅成様に聞いたのだ。お前のことを」
迷ったような表情で、張引が目を動かしている。黙って、私は張引の次の言葉を待った。
「……扈珀との思い出も、すべて忘れているらしい。綺麗にな」
胸が、ちくりと痛む。しかし、それは一瞬で、すぐにぼんやりとしたあやふやなものになった。
「そう、か」
「だから、そのせいなのだ。思い出したら、紅成様はきっとお前に、元のように……」
「いい。一度失ったものは、取り戻せん」
「取り戻せる。思い出は、消えない」
酒を、ぐっと飲み干した。綺麗に、忘れている。逆に、記憶がある方がつらいのだ。おそらく、きっと。……綺麗に、か。どうせ水晶の仕業だ、と思った。やはりあの女は、死んでも尚、自分を苦しめようとしている。
「悲しむものか」
笑った。張引が、驚いたように顔を上げる。なんでもないと言うように、私は首を振った。
それからは、黙って飲んだ。自分も忘れればいい、と思った。
忘れなければならないことが、自分の人生には多すぎた。もしかすると、すべて無理に押し潰しているだけなのかもしれない。もう、それはそれでいいような気もした。
「扈珀。無理をするなよ」
「何を、だ」
「……」
思い出は、消えない。張引の言葉が、頭の中で何度か繰り返された。
*
更に、二年が経つ。新たに、彪林という少年が入座してきた。身なりは田舎者のようだったが、顔は綺麗な方だと思った。少々自信家すぎる雰囲気は見てとったが、ここではむしろそういう者の方が成功しやすい。同じ芸人に妬まれ、争いごとを起こさなければ、の話だ。
元から居た犬芸人が弟子を欲しがっていたので、紅隆が仔犬を三匹買ってきて、彪林に与えた。あとは、すべて犬芸人に任せた。開封での、出来事だった。
龍庸の娘は、もう八つになるのだという。まだ、母は生きているらしい。保護するのは、母が死に、娘の身寄りがなくなってからにしようという話をしていた。それまでは、未だ残っている借金を返し続けてもらう、と。娘の顔を、ちらりと見てみたくなったが、やめた。今は、子どもの顔を見ても、いいことは何もないような気がした。
「まだ、呪いに強い関心を持っておられるのでしょうか?」
素っ気ない素振りで、紅隆に聞いてみる。開封の、料亭だった。前にもこうして、二人で食事をしたような気がする。
「まあな」
同じくらいに素っ気なく、紅隆が答えた。冗談かもしれない、と私は半分疑った。
「もう、調べることはないでしょう。何も」
「ないことはない。龍庸の娘を使って、試そうと考えていることは山のようにある」
「一体、何を?」
「教えん」
やはり冗談だ、と思うことにした。試したいことがあるのなら、水晶で試せばよかったのだ。今更、という話だが。
「長い、時が経ったな」
肴をつまみながら、紅隆が言った。いつからのことを、言っているのだろう。どの出来事を取っても、そう感じられなくもない。
「まったく」
「龍庸が、李玲玉が死んだ。それから、水晶も」
「……」
「皆、哀れに死んだよな」
誰の、せいで。そこまで、紅隆は言わなかった。自嘲ぎみに、少し笑ったくらいである。当時は何も気にしていなかったが、今考えれば多少後ろめたいという気もする。何かに夢中になっていた時は、驚くほど冷酷でいられるのだ。
「過去のことが、不思議に思えて仕方がありません」
「それほど、今は穏やかだというのかな」
「それは、そうでしょう。もう、永遠にこれでいい、という気さえしています」
「いや」
紅隆が、首を振る。その動作の意味を、少しの間考えた。
「これからなのだよ」
「……何がです?」
「なにごとも」
紅隆のことについて、考えるのをやめた。こういう物言いばかりされても、どうせ自分に理解はできないのだ。理解できなくとも、あまり問題はない。気にする必要もなかった。
なにごとも、これから。あのような地獄は、もうこりごりである。──地獄だと思っているのは、もしかすると自分だけで、紅隆は何とも思っていない。そう考えると、薄ら恐怖を感じた。
*
龍庸のことも、水晶のことも、呪いのことさえ思い出さない日が、驚く程に増えている。至って普通の旅芸人の一座として、中華を巡り歩いているのだ。それだけ、だった。過去の醜かった自分は、更に思い出の奥へ、奥へと遠ざかっている。それでも、視界の隅にはいつも紅成がいた。水晶が、いた。忘れるな。そう、言っている。小さな針で、少しずつ軽く刺されているような、そんな日々が重なって、もう何年経ったのだろうか。平凡の中で、自分はどうすることもできないのだ。水晶が私に死ねと言っているのなら、私は喜んで死に逃げるのに。生きて苦しめ、と言っているのなら──。私は、水晶の顔をした紅成を、殺めだってするかもしれない。こわかった。水晶の目を、どうして今でも気にしなければならないのか。
私は、一体何を、気にしているのだろう?
どうして、今更。水晶だけではない。何か暗いものが、自分にのしかかってくる気さえするのだ。何か。犯した、罪だろうか。こんな生活になったからこそ、違う苦しみが自分を襲おうとしている。正体がはっきりしていないから、ますますこわい。誰にも、言えることではなかった。また、ひとりで抱え込んだ。日記に、すべて記した。昼は、芸人の華やかな芸と、それを見て目を輝かせる客だけが、自分の視界に映る。寝る前になると、あの黒い影が、いつも私を虐《さいな》める。苦しい。死に、逃げたい。そう思った日が、何度もあった。紅隆に縋った。本当に、自分には紅隆しかいないのだ。まさか、水晶はもう紅隆まで奪えやしないだろう。駄目だ。紅隆がいなくなれば、私にはなにも残らない。
紅隆が、近ごろお前の方からよく、晩酌に誘うようになったなと笑う。自分が、何かから逃げていること。知れば、紅隆は助けてくれるのだろうか。耐えられるまで耐えて、飲み込めるようになったら飲み下す。そして消してしまえばいい、のみだ。あと何年続くかは、自分にはわからなかった。
龍庸の、祖母が死んだという知らせが入る。同時に、娘が行方不明になった、という話を聞いた。
紅隆は、それを聞いても、そうか、とただ言っただけだった。
「……どうして」
何故、動揺しない?
唯一の、残された呪い師だ。龍庸の、娘が。その娘が、行方不明になったと言うのに。まるで関心がないかのように、振舞っているではないか。
「まあ、いずれ現れるだろう」
どこに、そんな根拠が。信じられなかった。紅隆は、何かを隠している。自分に、何か大きなことを。それを疑いはじめると、今までの意味深長な言動のすべてに、納得がいってしまう。いや、駄目だ。怖くなってくる。自分には、紅隆しかいないのだ。その紅隆が、何か大きなことを隠している、など。
「あなたは、一体、何を」
それ以上、聞けなかった。得体の知れない恐怖が、紅隆の体から滲み出ている。魅力であるはずだった偉大なる雰囲気が、明らかに負の方へと変っているのだ。紅隆が、不敵そうに笑った。手が、震える。
「申し訳ありません。何も、ないです」
誓ってしまおう、と思った。
自分は何があろうとも、紅隆を信じる。信じきってしまうのだ。そうすれば、自分の心は楽になる。楽になる、はずだ。
どう足掻いたって、結局自分には、紅隆しかいないのだから。
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