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第五十七話
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嫌な予感は、していた。何か悪い夢を見たわけでもない。ただ、目覚めたのだ。半身を起こし、しばらくの間ぼうっと空虚を見つめる。熱が下がってから、はじめてまともに起き上がったという気がする。疲れきっていた。体が、とてつもなく重い。
「紅成」
鄭義の、声。緊迫した空気とともに、部屋に入ってくる。鬼のような形相をして、手に短剣を握っていた。思わず、それを見て後ずさる。
「龍翠が、白藍と施安を殺して逃げた。紅隆もいない」
「──は」
言葉が、出なかった。内容が理解できずに、ただうろたえる。
「扈珀を捕らえて、地下に閉じ込めた。扈珀によれば、紅隆は玉陽という山へ、三刻ほど前に向かったらしい。おそらくその一刻後に、龍翠が白藍を殺している。そして、行方不明だ」
「なんで」
頭の中が、ぐるぐると回った。計画では、三日後の夜に呪いを使って、父を殺害しようと決めていたはずだ。それが、何故、今。
「……扈珀が言っていた。目的を果たしたいのならば、玉陽という山へ行け、と」
「わけがわかんねえよ」
「それはこっちだって同じだ」
鄭義が、厳しい声音で言う。それからしゃがみこんで、自分の肩を強く叩いた。
「いいか、よく聞け。龍翠が、暴走したのかもしれんのだ。様子が、おかしかっただろう。龍翠が、どこへ行ったかはわからん。ただ、今俺たちがしなければならないことを考えろ」
震えながら、頷く。そうだ。鄭義を、信じればいい。鄭義の言うことだけを、聞いていればいい。
「まず、俺がここの一座にいる人間、全員を逃がす。騒ぎになる前に、だ。ここにいる人間は、皆不穏な雰囲気が漂っていたのに薄ら気づいている。お前らが盗んできた銀を与えて、一人一人を黙って逃がしてくる」
「みんな?」
「ああ。俺一人でな」
俯く。こんなふうにして、突然崩れるのだ。使用人、仲間の芸人の顔をひとりひとり思い浮かべる。昔から、顔を知っている者たち。
「……師匠だけは」
拳を、握りしめる。
「師匠だけは、俺にやらせてくれ」
「だが、時間が」
「頼む」
鄭義の目を、見つめた。少しの、間のあと。鄭義がため息をついた。肩を掴まれていた手が、離される。
「張引に別れを告げたら、すぐに龍翠を探しにいけよ。二刻探して見つからなければ、戻ってこい」
「わかった」
鄭義が、頷く。それから、素早く立ち上がって、部屋を出ていった。
震える足で、ゆっくりと歩く。一度、深呼吸をした。今は、師匠のことだけを考える。今、だけだ。しまってあった銀の小袋を、俺はそっと取り出した。
*
生まれた時から、母がいた。母は、心優しくて、美しいひとだった。父と過ごした記憶はなにもないが、母がいるだけで、自分には十分だった。ともに鞠を転がして遊んだり、桃を食べたり、朝焼けを見に外に連れて行ってくれたこともある。鄭義も時々面倒を見てくれて、師匠もその時からいたが、本当に好きなのは母だけだった。
母は、自分以外の大人にはなるべく近づいてはいけない、と言うのが口癖だった。特に、扈珀という男には。忌み嫌うべき男なのだとも、教わった。理由は、何故か話してはくれなかった。
鄭義に、なんとなく父のことを聞いてみた。鄭義は、お前は呪いの力を継いでいないから、父に愛されないのだと言った。呪いの、力。わけがわからなかったが、その力についてものちのち母から教えてもらい、知ることになった。母が、呪い師であること。母の呪いの力を利用するために、父は母と結婚したということ。そして、自分を産んだということ。
それでも、母はつらそうではなかった。呪いの力が目的であろうがなんだろうが、父は母を愛しているのだと言った。絶対に、愛しているはず。母は、いつもそうやって自分に言い聞かせるように、語るのだった。
ある日から、母の体調が悪くなった。病気がちで、いつも寝床に伏せってしまうようになったのだ。母は、紅隆は自分を愛していなかった、とうわ言のように言っていた。そして、扈珀の名を呼んでいた。自分に、紅隆を憎め、と言うようにもなった。母が、変わってしまったのは父のせいなのだ、と。言われた通りに、憎んだ。自分のすべては、母だったから。
母が死んだ時、自分の胸に何かが重くのしかかってくるような気がした。自分の中に、母がいる。すぐに、悲しみは母の憎しみに塗り替えられた。人が、憎くてたまらなかった。だから、誰にも会いたくなかった。
死ぬ間際、母が自分に、『紅隆を殺せ』と言った。常に、その言葉を胸に生きてきた。それなのに、いつまでも部屋に引きこもって、何もできない自分を嫌悪した。張引──師匠との厳しい稽古が、それをいつも忘れさせてくれた。
師匠は、自分の前で笑うことはけしてなかった。厳しい目をして、自分の手を容赦なく打つだけだ。褒められたこともなければ、自分の芸の出来を許してくれたこともない。師匠の前では良い顔をしながら、内心それを憎んでいたりもした。いつか、絶対に師を超えてやる。それだけを、思っていた。
自分を叱っている師匠の目には、いつもどこか、悲しみの色が浮かんでいた。憎しみに燃える自分の目を、そのまま映していたのかもしれない。誰もかもが、嫌だった。鄭義は、自分が成長していくにつれ、自分にかかわらなくなった。父と近しい人間なのだ。何か秘密を抱えているのだろうが、それなら自分の方からもかかわりたくない。父を、殺せ、と。いつになったら、その目的が果たせるのか。待つばかりで、行動を起こせない自分をまた嫌悪して、結局引きこもる。自暴自棄になって、師匠からの稽古に耐える。その、繰り返しだった。
*
ある日、龍翠という女が一座のもとにやってきた。一緒に来た四人とは、どこか違う雰囲気を放つ女。正直、下に見ていた。芸をしたこともないのだという。日頃の憂さ晴らしのように、俺は龍翠にちょっかいを出した。動じないのが更に腹立たしかったが、ある日蹴り返された上、翻弄までされた。所詮紅隆の、息子だということ。言われて、悔しかった。その日から、はっきりと龍翠が嫌いになった。
鄭義に、「父が憎いか」と聞かれた。不意に、だ。何故鄭義がと、信じられないような気持ちで、俺は恐る恐る頷いた。隠すこともないのだ。鄭義が、「俺もだ」と答えた。わけがわからなかった。鄭義は、昔から父の傍にいる。父に忠誠を尽くす、犬のような男だと思っていたのに、その父を憎いと言ったのである。しかも、龍翠もまた同じだと鄭義が言った。ますます、わけがわからなくなった。ふと、龍翠の頬の刺青を思い出す。母の遺した呪いの書を、毎日眺めていた。龍翠は、呪い師なのかと。鄭義が、黙って頷いた。
自分の世界に、光が差してきたかのようだった。龍翠が、紅隆を殺すためにここに来たということ。それなら、自分はその手助けをしてやればいいのではないか。龍翠が、何故そんな目的を抱えているのか。理由は、さておいて。胸が、高鳴った。龍翠の話を聞いて、ますます興奮した。自分と同じ、黒い影を身に巣食わせているのだ。自分と、同じ。
世界が、ぐるりと変わったようだった。ようやく、母の願いを自分で叶えられる。そう、思った。父について知るために、情報を集めようとした。はじめて見る、呪い。龍翠が、少しだけ羨ましく思った。それでも、黙って首を振った。
龍翠に、母の着物を見せた。李玲玉という女が、仕立てたものらしい、と。龍翠は静かな目で、大きな燕尾蝶が刺繍された着物に手を触れ、じっと眺めていた。
*
龍翠と鄭義との計画とともに、少しずつ進んでいく時の流れ。大きなことをやろうとしているというのは、かつてないことで、緊張した。それでも、考えに考え、きちんと実行した。その表で、手妻の腕もきちんと磨く。紅隆と扈珀の前で、はじめて芸をして見せた時。複雑な感情だった。目の前にいるのは、敵なのに。二人に自分を認めて欲しいという、欲望を抱いている。吐き気がするような気持ち悪さを抑えながら、俺はなんとかやりきった。やりきっても、誰も自分を褒めなかった。明後日から興行に出す、と言われただけで。ああ、こんなものなのか、と思った。
しかし、顔見世のときにいろんな人間に褒められた。慣れなくて、俺はただ戸惑った。龍翠まで、自分を褒めた。胸の中があつくなって、溢れそうだった。輝く客の目を見ながら芸をする、心地良さ。格別だった。自分はまた変った、と思った。
身の回りにいた人間が、変化を遂げている。龍翠と、彪林の間柄。何も教えてくれない、鄭義。地下に漂う、緊迫した空気。すべてが、自分を揺らそうとしていた。恐れながら、どこか面白がっていた部分があったのだと思う。平凡な日々が、明らかに変わっているのだ。人間とは、ほんの些細なことに揺らぎ、落ち込んだりもする。龍翠を見て、思った。誰かを好きになることが、どうということはよくわからない。それでも、龍翠が苦しんでいるというのはわかった。今は、そんなことに揺らがされている暇はない。その分、自分は安心だという気がした。何も、心に残る人間などいないのだ。自分を揺るがす、人間などいないのだから。
そう、思っていたのに。
日記を、手に入れた。扈珀の日記だ。少しずつ、少しずつ読み進めた。その間に、いろいろな事があった。高延亮の死。鄭義の疑い。読み進めていくうちに、ふと、死にたくなった。扈珀が、母の兄であったということ。白藍のこと。鄭義が、愛していた女のこと。そして──。
自分の知っている母が、そこにはいなかったのだ。
嘘だ、と思った。しかし、鄭義は「本当だ」と言った。信じたくなかった。心優しくて、いつも微笑んでいた、母がいない。そこにいたのは、執着心と狂気に塗れた、女だった。夜、寝台の上でひっそりと泣いた。自分は、こんな母を胸の内に抱えていたのか、と。
──扈珀。母とともに過ごしていたはずの思い出が、すべて扈珀としてそこに記されている。扈珀が、自分を愛していたのだ。それなのに、何故。母が、扈珀に愛を、自分を与えたくないがために、自分の記憶を上書きしたのか。ふるえた。つらかった。どうしようも、なくなった。
どう足掻いたって、紅隆を殺さなければ、この身は自由にならない。
心配そうな顔をしている龍翠に、俺ははっきりと言った。紅隆を殺す、と。それだけを、考えていればよかった。父にどんな目的があれども、結局は殺さなければならないのだ。龍翠が、俯いた。
「……復讐を果たしたら、私は」
静かな声で、龍翠が言う。
「自害します。生きている意味など、私にはないから」
何も、返せなかった。自分も、もういっそのこと死んでしまおうか。そう思うと、何もかもどうでもよくなってきた。どうせ死ぬ。殺せば、自分は死ねる。
もう、十分苦しんだから。これ以上、苦しむ人間を増やさない、その為にも。
父の言動に、僅かに動かされながら、自分はなんとかして立っていた。
*
体が、熱い。頭が、くらくらする。とうとう、立っていられなくなった。寝台に寝転がると、もうなにもみえなくなった。息が、苦しい。目を閉じた闇の中で、何かひとつの影が浮かぶ。
「母上」
声を、あげた。母が、両手を広げて微笑んでいた。一歩足を踏み出し、やがて留まる。行けない。そこに、行ってはいけない。
『成』
母が、顔を歪めた。何故、来ないのか。問いかけられた。答えられなかった。
「……母上」
『どうしたの、成』
また、母がわらった。こんどは、恐ろしいくらいに歪な笑みだった。口角が、ぐいとつり上がっただけの。
「何か用があるんだろ。さっさと話せよ」
叫ぶ。目を、つぶろうとしているのに、嫌でも目の前に母の姿が浮かぶ。笑みを顔に貼り付けたまま、母が言った。
『──成、駄目よ。あんな男の日記など、信じてはいけないわ』
「何を」
『ぜんぶ、扈珀の妄想なの。騙されないで、鄭義という男にも。あなたは利用されているだけなの』
「利用してるのは、どっちだよ」
喚いた。頭を、抱える。母の、からだ。声。温もり。胸に、飛び込みたい。もう、何もかも忘れて。駄目だ。駄目なのだ。
『みんなみんな、悪者よ。私以外、悪者。紅隆も、扈珀も、鄭義も、皆。皆、私を苛めて、殺したのだわ』
「うるさい」
『ねえ、成。言ってごらんなさい、私に自分の、すべてを委ねるって』
母が、わらう。どういう、意味だ。どういう、……。
『あなたは、私になるの。私の言うがままに、罪人に罰を与えるのよ。紅隆を殺し、そして扈珀を虐げ、苦しめる。永遠に。奴が、力果てて死ぬまで』
「どうして」
『私の願いを、叶えられないの? あなたは、いい子でしょう』
黙れ。言おうとしたのに、声が、出なくなる。息が、苦しい。
『おいで。うんと頷けば、力いっぱい抱きしめてあげるわ』
『さあ』
『早く』
「……ぁ、あぁ」
涙が、溢れだしてくる。扈珀。扈珀。扈珀は、本当に憎むべき男なのか。思い出。確実に、甦ろうとしている。それでも、母に、抱きしめられたい。
『成』
頭が、ぐらりと歪む。闇の、深い底へ、底へと体が沈んだ。母の声だけが、意識の中にこだましている。また、遠くなった。
*
「紅成様」
龍翠が、いた。ぼんやりと、視界にその影がうつるだけだ。これが現実かもわからないまま、俺は呟いた。
「俺、母上の夢を見た」
「……え」
「母上の」
それ以上、喋れそうになかった。熱い。頭が、痛い。もう、このまま死んでしまえそうだった。それは、いけない。俺はまだ、生きていなくちゃならない。
「紅成様。どうか」
龍翠の、手。頬に触れてくる。冷たかった。しかし、すぐにその手は温くなった。
「どうか」
「龍翠」
「死なないで、ください」
「俺は、大丈夫だよ」
たぶん。いや、きっと。絶対に。ここで、くたばってなるものか。俺は、ようやく俺の力で動けるのだ。じっと、何も出来ずに蹲っていた日々から。俺は、ようやく、……。
また、視界が歪む。けして眠るものか、と思った。
*
同じ夢を、続けて四度、五度と見た。いつも、ぎりぎりの所で耐えるしかなかった。母の戯言など、聞き入れてはいけない。まるで、立合いのようだった。眠るのがこわいのに、意識はいつもふらりと飛んでいく。そして、母が目の前に浮かぶのだ。次に、こう語りかけてくる。
『成、私にすべてを委ねなさい』
俺、は。俺は、何を信じるべきなのか。わかっているはずだ。本当の記憶を、思い出さなければならない。ちゃんと。はっきりと。思い出せ、俺には誰がいた? 俺の傍に、いてくれた人。あの日、本当に一緒に朝焼けを見たのは。──抱きしめてくれたのは、誰だった?
思い出せ。あの人が、言ったことばを。
『痛くないんだろう。なら、泣きやめ』
声が、聞える。ああ。確かに、聞える。
『桃だ。不老長寿の果実と呼ばれている。縁起のいいものだぞ』
誰の、声だ。一体、誰の。
『おい、……やめろ。成』
母が、声をあげる。やめてはいけない。思い出せ。ほら、あの顔だ。走っていくと、いつも笑って、自分を抱き上げて……。
『紅成』
応えた。扈珀、と。見えた。鮮明な、思い出が、はっきりと。
──扈珀だ。そうだ。扈珀を、ひとりにしてはいけない。母の思うがままに、させてはいけないのだ。
「俺は、母上の思うがままにはならない。紅隆は、自分の意思で殺す。紅隆を殺したら、貴様はさっさと消えろ」
叫んだ。母の顔が、ぐにゃりと歪んだ。母が、うめき声をあげて、蹲る。目を、かたく瞑った。俺は、目覚めなければならない。目的を、果たすために。握りしめた拳に、力を込めた。
闇が、晴れていく。一度、深く深呼吸をした。喉の突っかかりが、綺麗に消えていた。
「紅成」
鄭義の、声。緊迫した空気とともに、部屋に入ってくる。鬼のような形相をして、手に短剣を握っていた。思わず、それを見て後ずさる。
「龍翠が、白藍と施安を殺して逃げた。紅隆もいない」
「──は」
言葉が、出なかった。内容が理解できずに、ただうろたえる。
「扈珀を捕らえて、地下に閉じ込めた。扈珀によれば、紅隆は玉陽という山へ、三刻ほど前に向かったらしい。おそらくその一刻後に、龍翠が白藍を殺している。そして、行方不明だ」
「なんで」
頭の中が、ぐるぐると回った。計画では、三日後の夜に呪いを使って、父を殺害しようと決めていたはずだ。それが、何故、今。
「……扈珀が言っていた。目的を果たしたいのならば、玉陽という山へ行け、と」
「わけがわかんねえよ」
「それはこっちだって同じだ」
鄭義が、厳しい声音で言う。それからしゃがみこんで、自分の肩を強く叩いた。
「いいか、よく聞け。龍翠が、暴走したのかもしれんのだ。様子が、おかしかっただろう。龍翠が、どこへ行ったかはわからん。ただ、今俺たちがしなければならないことを考えろ」
震えながら、頷く。そうだ。鄭義を、信じればいい。鄭義の言うことだけを、聞いていればいい。
「まず、俺がここの一座にいる人間、全員を逃がす。騒ぎになる前に、だ。ここにいる人間は、皆不穏な雰囲気が漂っていたのに薄ら気づいている。お前らが盗んできた銀を与えて、一人一人を黙って逃がしてくる」
「みんな?」
「ああ。俺一人でな」
俯く。こんなふうにして、突然崩れるのだ。使用人、仲間の芸人の顔をひとりひとり思い浮かべる。昔から、顔を知っている者たち。
「……師匠だけは」
拳を、握りしめる。
「師匠だけは、俺にやらせてくれ」
「だが、時間が」
「頼む」
鄭義の目を、見つめた。少しの、間のあと。鄭義がため息をついた。肩を掴まれていた手が、離される。
「張引に別れを告げたら、すぐに龍翠を探しにいけよ。二刻探して見つからなければ、戻ってこい」
「わかった」
鄭義が、頷く。それから、素早く立ち上がって、部屋を出ていった。
震える足で、ゆっくりと歩く。一度、深呼吸をした。今は、師匠のことだけを考える。今、だけだ。しまってあった銀の小袋を、俺はそっと取り出した。
*
生まれた時から、母がいた。母は、心優しくて、美しいひとだった。父と過ごした記憶はなにもないが、母がいるだけで、自分には十分だった。ともに鞠を転がして遊んだり、桃を食べたり、朝焼けを見に外に連れて行ってくれたこともある。鄭義も時々面倒を見てくれて、師匠もその時からいたが、本当に好きなのは母だけだった。
母は、自分以外の大人にはなるべく近づいてはいけない、と言うのが口癖だった。特に、扈珀という男には。忌み嫌うべき男なのだとも、教わった。理由は、何故か話してはくれなかった。
鄭義に、なんとなく父のことを聞いてみた。鄭義は、お前は呪いの力を継いでいないから、父に愛されないのだと言った。呪いの、力。わけがわからなかったが、その力についてものちのち母から教えてもらい、知ることになった。母が、呪い師であること。母の呪いの力を利用するために、父は母と結婚したということ。そして、自分を産んだということ。
それでも、母はつらそうではなかった。呪いの力が目的であろうがなんだろうが、父は母を愛しているのだと言った。絶対に、愛しているはず。母は、いつもそうやって自分に言い聞かせるように、語るのだった。
ある日から、母の体調が悪くなった。病気がちで、いつも寝床に伏せってしまうようになったのだ。母は、紅隆は自分を愛していなかった、とうわ言のように言っていた。そして、扈珀の名を呼んでいた。自分に、紅隆を憎め、と言うようにもなった。母が、変わってしまったのは父のせいなのだ、と。言われた通りに、憎んだ。自分のすべては、母だったから。
母が死んだ時、自分の胸に何かが重くのしかかってくるような気がした。自分の中に、母がいる。すぐに、悲しみは母の憎しみに塗り替えられた。人が、憎くてたまらなかった。だから、誰にも会いたくなかった。
死ぬ間際、母が自分に、『紅隆を殺せ』と言った。常に、その言葉を胸に生きてきた。それなのに、いつまでも部屋に引きこもって、何もできない自分を嫌悪した。張引──師匠との厳しい稽古が、それをいつも忘れさせてくれた。
師匠は、自分の前で笑うことはけしてなかった。厳しい目をして、自分の手を容赦なく打つだけだ。褒められたこともなければ、自分の芸の出来を許してくれたこともない。師匠の前では良い顔をしながら、内心それを憎んでいたりもした。いつか、絶対に師を超えてやる。それだけを、思っていた。
自分を叱っている師匠の目には、いつもどこか、悲しみの色が浮かんでいた。憎しみに燃える自分の目を、そのまま映していたのかもしれない。誰もかもが、嫌だった。鄭義は、自分が成長していくにつれ、自分にかかわらなくなった。父と近しい人間なのだ。何か秘密を抱えているのだろうが、それなら自分の方からもかかわりたくない。父を、殺せ、と。いつになったら、その目的が果たせるのか。待つばかりで、行動を起こせない自分をまた嫌悪して、結局引きこもる。自暴自棄になって、師匠からの稽古に耐える。その、繰り返しだった。
*
ある日、龍翠という女が一座のもとにやってきた。一緒に来た四人とは、どこか違う雰囲気を放つ女。正直、下に見ていた。芸をしたこともないのだという。日頃の憂さ晴らしのように、俺は龍翠にちょっかいを出した。動じないのが更に腹立たしかったが、ある日蹴り返された上、翻弄までされた。所詮紅隆の、息子だということ。言われて、悔しかった。その日から、はっきりと龍翠が嫌いになった。
鄭義に、「父が憎いか」と聞かれた。不意に、だ。何故鄭義がと、信じられないような気持ちで、俺は恐る恐る頷いた。隠すこともないのだ。鄭義が、「俺もだ」と答えた。わけがわからなかった。鄭義は、昔から父の傍にいる。父に忠誠を尽くす、犬のような男だと思っていたのに、その父を憎いと言ったのである。しかも、龍翠もまた同じだと鄭義が言った。ますます、わけがわからなくなった。ふと、龍翠の頬の刺青を思い出す。母の遺した呪いの書を、毎日眺めていた。龍翠は、呪い師なのかと。鄭義が、黙って頷いた。
自分の世界に、光が差してきたかのようだった。龍翠が、紅隆を殺すためにここに来たということ。それなら、自分はその手助けをしてやればいいのではないか。龍翠が、何故そんな目的を抱えているのか。理由は、さておいて。胸が、高鳴った。龍翠の話を聞いて、ますます興奮した。自分と同じ、黒い影を身に巣食わせているのだ。自分と、同じ。
世界が、ぐるりと変わったようだった。ようやく、母の願いを自分で叶えられる。そう、思った。父について知るために、情報を集めようとした。はじめて見る、呪い。龍翠が、少しだけ羨ましく思った。それでも、黙って首を振った。
龍翠に、母の着物を見せた。李玲玉という女が、仕立てたものらしい、と。龍翠は静かな目で、大きな燕尾蝶が刺繍された着物に手を触れ、じっと眺めていた。
*
龍翠と鄭義との計画とともに、少しずつ進んでいく時の流れ。大きなことをやろうとしているというのは、かつてないことで、緊張した。それでも、考えに考え、きちんと実行した。その表で、手妻の腕もきちんと磨く。紅隆と扈珀の前で、はじめて芸をして見せた時。複雑な感情だった。目の前にいるのは、敵なのに。二人に自分を認めて欲しいという、欲望を抱いている。吐き気がするような気持ち悪さを抑えながら、俺はなんとかやりきった。やりきっても、誰も自分を褒めなかった。明後日から興行に出す、と言われただけで。ああ、こんなものなのか、と思った。
しかし、顔見世のときにいろんな人間に褒められた。慣れなくて、俺はただ戸惑った。龍翠まで、自分を褒めた。胸の中があつくなって、溢れそうだった。輝く客の目を見ながら芸をする、心地良さ。格別だった。自分はまた変った、と思った。
身の回りにいた人間が、変化を遂げている。龍翠と、彪林の間柄。何も教えてくれない、鄭義。地下に漂う、緊迫した空気。すべてが、自分を揺らそうとしていた。恐れながら、どこか面白がっていた部分があったのだと思う。平凡な日々が、明らかに変わっているのだ。人間とは、ほんの些細なことに揺らぎ、落ち込んだりもする。龍翠を見て、思った。誰かを好きになることが、どうということはよくわからない。それでも、龍翠が苦しんでいるというのはわかった。今は、そんなことに揺らがされている暇はない。その分、自分は安心だという気がした。何も、心に残る人間などいないのだ。自分を揺るがす、人間などいないのだから。
そう、思っていたのに。
日記を、手に入れた。扈珀の日記だ。少しずつ、少しずつ読み進めた。その間に、いろいろな事があった。高延亮の死。鄭義の疑い。読み進めていくうちに、ふと、死にたくなった。扈珀が、母の兄であったということ。白藍のこと。鄭義が、愛していた女のこと。そして──。
自分の知っている母が、そこにはいなかったのだ。
嘘だ、と思った。しかし、鄭義は「本当だ」と言った。信じたくなかった。心優しくて、いつも微笑んでいた、母がいない。そこにいたのは、執着心と狂気に塗れた、女だった。夜、寝台の上でひっそりと泣いた。自分は、こんな母を胸の内に抱えていたのか、と。
──扈珀。母とともに過ごしていたはずの思い出が、すべて扈珀としてそこに記されている。扈珀が、自分を愛していたのだ。それなのに、何故。母が、扈珀に愛を、自分を与えたくないがために、自分の記憶を上書きしたのか。ふるえた。つらかった。どうしようも、なくなった。
どう足掻いたって、紅隆を殺さなければ、この身は自由にならない。
心配そうな顔をしている龍翠に、俺ははっきりと言った。紅隆を殺す、と。それだけを、考えていればよかった。父にどんな目的があれども、結局は殺さなければならないのだ。龍翠が、俯いた。
「……復讐を果たしたら、私は」
静かな声で、龍翠が言う。
「自害します。生きている意味など、私にはないから」
何も、返せなかった。自分も、もういっそのこと死んでしまおうか。そう思うと、何もかもどうでもよくなってきた。どうせ死ぬ。殺せば、自分は死ねる。
もう、十分苦しんだから。これ以上、苦しむ人間を増やさない、その為にも。
父の言動に、僅かに動かされながら、自分はなんとかして立っていた。
*
体が、熱い。頭が、くらくらする。とうとう、立っていられなくなった。寝台に寝転がると、もうなにもみえなくなった。息が、苦しい。目を閉じた闇の中で、何かひとつの影が浮かぶ。
「母上」
声を、あげた。母が、両手を広げて微笑んでいた。一歩足を踏み出し、やがて留まる。行けない。そこに、行ってはいけない。
『成』
母が、顔を歪めた。何故、来ないのか。問いかけられた。答えられなかった。
「……母上」
『どうしたの、成』
また、母がわらった。こんどは、恐ろしいくらいに歪な笑みだった。口角が、ぐいとつり上がっただけの。
「何か用があるんだろ。さっさと話せよ」
叫ぶ。目を、つぶろうとしているのに、嫌でも目の前に母の姿が浮かぶ。笑みを顔に貼り付けたまま、母が言った。
『──成、駄目よ。あんな男の日記など、信じてはいけないわ』
「何を」
『ぜんぶ、扈珀の妄想なの。騙されないで、鄭義という男にも。あなたは利用されているだけなの』
「利用してるのは、どっちだよ」
喚いた。頭を、抱える。母の、からだ。声。温もり。胸に、飛び込みたい。もう、何もかも忘れて。駄目だ。駄目なのだ。
『みんなみんな、悪者よ。私以外、悪者。紅隆も、扈珀も、鄭義も、皆。皆、私を苛めて、殺したのだわ』
「うるさい」
『ねえ、成。言ってごらんなさい、私に自分の、すべてを委ねるって』
母が、わらう。どういう、意味だ。どういう、……。
『あなたは、私になるの。私の言うがままに、罪人に罰を与えるのよ。紅隆を殺し、そして扈珀を虐げ、苦しめる。永遠に。奴が、力果てて死ぬまで』
「どうして」
『私の願いを、叶えられないの? あなたは、いい子でしょう』
黙れ。言おうとしたのに、声が、出なくなる。息が、苦しい。
『おいで。うんと頷けば、力いっぱい抱きしめてあげるわ』
『さあ』
『早く』
「……ぁ、あぁ」
涙が、溢れだしてくる。扈珀。扈珀。扈珀は、本当に憎むべき男なのか。思い出。確実に、甦ろうとしている。それでも、母に、抱きしめられたい。
『成』
頭が、ぐらりと歪む。闇の、深い底へ、底へと体が沈んだ。母の声だけが、意識の中にこだましている。また、遠くなった。
*
「紅成様」
龍翠が、いた。ぼんやりと、視界にその影がうつるだけだ。これが現実かもわからないまま、俺は呟いた。
「俺、母上の夢を見た」
「……え」
「母上の」
それ以上、喋れそうになかった。熱い。頭が、痛い。もう、このまま死んでしまえそうだった。それは、いけない。俺はまだ、生きていなくちゃならない。
「紅成様。どうか」
龍翠の、手。頬に触れてくる。冷たかった。しかし、すぐにその手は温くなった。
「どうか」
「龍翠」
「死なないで、ください」
「俺は、大丈夫だよ」
たぶん。いや、きっと。絶対に。ここで、くたばってなるものか。俺は、ようやく俺の力で動けるのだ。じっと、何も出来ずに蹲っていた日々から。俺は、ようやく、……。
また、視界が歪む。けして眠るものか、と思った。
*
同じ夢を、続けて四度、五度と見た。いつも、ぎりぎりの所で耐えるしかなかった。母の戯言など、聞き入れてはいけない。まるで、立合いのようだった。眠るのがこわいのに、意識はいつもふらりと飛んでいく。そして、母が目の前に浮かぶのだ。次に、こう語りかけてくる。
『成、私にすべてを委ねなさい』
俺、は。俺は、何を信じるべきなのか。わかっているはずだ。本当の記憶を、思い出さなければならない。ちゃんと。はっきりと。思い出せ、俺には誰がいた? 俺の傍に、いてくれた人。あの日、本当に一緒に朝焼けを見たのは。──抱きしめてくれたのは、誰だった?
思い出せ。あの人が、言ったことばを。
『痛くないんだろう。なら、泣きやめ』
声が、聞える。ああ。確かに、聞える。
『桃だ。不老長寿の果実と呼ばれている。縁起のいいものだぞ』
誰の、声だ。一体、誰の。
『おい、……やめろ。成』
母が、声をあげる。やめてはいけない。思い出せ。ほら、あの顔だ。走っていくと、いつも笑って、自分を抱き上げて……。
『紅成』
応えた。扈珀、と。見えた。鮮明な、思い出が、はっきりと。
──扈珀だ。そうだ。扈珀を、ひとりにしてはいけない。母の思うがままに、させてはいけないのだ。
「俺は、母上の思うがままにはならない。紅隆は、自分の意思で殺す。紅隆を殺したら、貴様はさっさと消えろ」
叫んだ。母の顔が、ぐにゃりと歪んだ。母が、うめき声をあげて、蹲る。目を、かたく瞑った。俺は、目覚めなければならない。目的を、果たすために。握りしめた拳に、力を込めた。
闇が、晴れていく。一度、深く深呼吸をした。喉の突っかかりが、綺麗に消えていた。
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