師弟の旅

火吹き石

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第一章

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「ようし。」

 そう愉快そうに言って、カザンは弟子の体を愛撫しはじめた。片手で腹を撫でながら、片手で胸を揉みしだく。汗を手で掬い上げては、それを塗り伸ばすように撫でつける。ぬるぬるとした感触に、ダイチは軽く背を反らせた。

「いい体だ。うまそうだ。よく鍛えたな。」

 言いながら、師の舌が、ダイチの首筋を這った。びくっと震え、ダイチは小さく声を上げた。

「き、汚いだろ。」

「人の汚れもんを嗅いでよがってるやつが、よく言ったもんだな。」

 笑い混じりになじられては、ダイチからはぐうの音も出なかった。

「ほれ、お前も味わえ。」

 カザンは弟子の口元に指をあてがった。師弟の汗に濡れた無骨な指を、ダイチは躊躇しつつも、口に含んだ。石のようにごつごつした指は固く、舌に塩気を感じさせた。

「うまいだろう。」

 笑い含みに囁きつつ、太い指を二本も三本も口にねじ込み、弟子の舌を摘んで弄ぶ。その一方で、もうひとつの手は胸を揉みしだき、突起を指先でくりくりと撫で回す。

「んっ、ふっ、うっ……。」

 ダイチは半開きの口から喘ぎ声を漏らした。口の端からは唾液が垂れた。胸を弄られてくすぐったく感じ、口と舌を弄ばれて被虐的な快感を覚え、背には師の逞しい体を感じて熱い喜びを覚えた。

「ああ、たまんねえ。」

 カザンは口から手を離すと、また弟子の体を手を這わせた。逞しく鍛えられた筋肉を、味わうように撫でたり揉んだりする。そうしながら、若者の肩や首に唇を落とし、あるいは舌を這わせる。

「ほんとうによく鍛えたもんだ。痩せっぽちだったちびが、よくもこんなに立派になったな。」

 師の言葉に、ダイチは胸に熱いものが込み上げてきた。

「師匠のっ――あっ、あっ――おかげだっ……。」

「そりゃあそうだ。もちろんな。」

 カザンはふざけた調子で笑う。

「だが、おれについてきて、厳しい扱きに耐えたのはお前だ。よく鍛えて、いい体になったもんだ。」

 師の声には、舌なめずりをしているような、何かいやらしい響きがあった。師が自分に欲情しているのだということが、ダイチにはうれしかった。そのために鍛えてきたわけではないものの、師のような立派な戦士に性的な目で見られることは、自分もまた一人前と認められたような気がした。

 突然、カザンは弟子を抱き上げたまま、立ち上がった。ダイチは、いきなり体が浮き上がって驚くやら、子ども扱いされているようで気恥ずかやら、少しばかり面食らっていた。だが、弟子が何か言う前に、カザンはさっさと昨夜に設えた寝床のところに来ると、弟子を乱暴に転がした。

 ダイチが師を仰ぎ見ると、その顔にはぎらぎらと獰猛そうな笑みが浮かんでいた。その視線に晒されると、肌を触れられてもいないのに、若者の体に甘い痺れが走った。

 仰向けになった弟子の横に手足をつき、カザンは覆いかぶさって、顔と顔とを近づけた。間近に師の顔を見て、ダイチは一瞬、息を止めた。

 ふたりの顔はすぐに距離を縮め、唇が触れ合った。

「んっ……。」

 ダイチは小さく声を漏らした。師の唇は、少し汗の塩気を感じさせた。師の唇は少し開くと、ダイチのそれを甘く喰んだ。

「ふっ、んっ……。」

 カザンは繰り返し喰んだ。ダイチは口を薄っすらと開き、喰むに任せた。口づけは、くすぐったくて甘い感触だった。

 それから、師の舌がダイチの唇を割って、口内へと入ってきた。ダイチはそれを、口を大きく開いて招き入れた。

「はっ、んっ……。」

 師の舌が、自分の舌と触れ合った。まるで淫靡な踊りを舞っているかのように、師の舌はゆっくりと絡みつくように動いた。師に弄んでもらおうと、ダイチは自分から舌を伸ばした。

 カザンは舌を絡ませ、あるいは弟子の舌を口で吸った。カザンの唾液が弟子の口に注がれるとともに、弟子の唾液を絡め取っていく。ちゅぷ、ちゅぱと水音を立てながら、ゆっくりと貪っていた。

 ダイチの鼻から色っぽい声が上がるとともに、口の端からは唾液が溢れた。初めての口づけは、不思議な感覚だった。くすぐったくはあるが、それ自体が快感というわけではない。だが、師によって喰われているという感覚が、たまらなく甘美で幸せで、興奮を高めた。

 やがて、カザンは唇を離した。ダイチは空気を求めて、息を荒らげた。口づけをする間、息をできていなかったのだ。

「平気か?」

 師の手が、ダイチの頬に触れた。大きくて無骨な手にうっとりしつつ、若者は頷いた。カザンは微笑んだ。

「疲れたときは言うんだぞ。放っておくと、おれは遠慮しねえからな。」

 そううそぶいて、今度は頬に口づけした。

 くすぐったさに微笑みつつ、ダイチは師を信頼していた。遠慮しないなどと口では言い、事実、弟子をいつも手荒に扱ってはいた。だが、ダイチが耐えられないようなことはひとつとしてしなかったし、無理を隠そうとしても見破られた。どうして、カザンは粗暴な振る舞いに反して、わりあい優しかった。

 カザンは何度か頬と唇とに口づけしてから、首へ肩へと下りていった。ついばむような口づけを繰り返し、そのたびに、ダイチは小さく甘い声を零した。

 やがて、カザンの口が胸元に至った。逞しく膨らんだ胸をひとつ舐めて、一言零す。

「うまそうだ。」

 そう言って大きく口を開き、胸にしゃぶりついた。唇で喰み、舌をねっとりと這わせ、強く吸い付く。水音を立てながら、うまそうに汗まみれの肌を味わっていった。

「あっ、あっ、あー……。」

 ダイチはぴくぴくと震えながら、小さく喘いだ。汗だくの体を舐める師を、半ば信じられぬ思いで、半ば興奮して見つめた。師は、さっきまでの優しい口づけとは違って、貪るようにねぶっていた。ほんとうにうまそうに味わっているので、ダイチとしてもうれしかった。

 カザンは片方の胸をしゃぶると、もう一方の胸にかぶりついた。肉を舌で捏ねるように舐め、それから突起をちゅっ、ちゅっと音を立てて吸う。すぐに、突起は芯を持ち、豆のように固くなった。胸を弄られるのが気持ちいいということを、ダイチは初めて知った。

 ゆっくりじっくりと貪るところを見れば、カザンが胸をこのんでいるのは明らかだった。ダイチは師の頭に手を置いた。

「おいっ――しいっ……?」

 問われると、カザンは顔を上げた。いやらしく、悪そうな笑みを浮かべている。

「ああ、うまい。たまんねえ。」

 そう言ってから、ふたたび貪りはじめる。ダイチは師に喰われるまま、小さく甘い声を上げ続けた。

 やがて、師は腹に移った。腹に浮かぶ筋肉の隆起をなぞるように、舌をゆっくりとねっとりと這わせていく。甘くくすぐったい感覚に、ダイチはぴくぴく震えながら、草地に敷いた外套を掴んだ。

 師は腹筋を味わいながら、上から下へと徐々に移動していった。その行き先を思って、ダイチは期待に胸を高鳴らせた。

 そして、これから股へと至ろうというところで、カザンは顔を起こした。

「うまそうなもんだ。」

 そう言って、若者の熱り立った陰茎に、唇を撫でるように押しつけた。

「汁でびちゃびちゃだなあ、ダイチ。たまんねえ匂いだ。」

 師の言うとおり、ダイチの陰茎は期待と興奮に猛り、汁をたっぷりと滲ませていた。鍛錬の汗と相まって、その匂いは濃厚であろう。そのことを指摘され、ダイチは恥ずかしいやら、うれしいやら、昂ぶるやら、熱に浮かされたようにふわふわとして考えもまとまらなかった。

 師の舌が、陰茎を舐め上げた。

「あっ――!」

 ダイチはぴくっと体を跳ねさせて、声を上げた。軽く舐められただけで、興奮の極みにあったダイチの体は、激しく反応してしまった。まして、いまだ他人に触れられたことのない場所であるから、なおさらだった。

「気持ちいいか、ダイチ。」

 笑い混じりに言って、カザンはさらに続けて舐めた。陰嚢ふぐりに口づけし、竿を下から上へと舐め上げ、包皮から覗く先端をちろちろと舌先でなぶる。滲み出てくる透明な粘液を、うまそうに舐め取っていく。

「あっ、はっ、うっ、んっ――!」

 ダイチは答えることもできず、敷いた外套を握り締め、体を震わせていた。もっとも敏感なところへの刺激に、体中が痺れるようだった。

 師の指が茎を摘み、包皮を引き下げた。これまで何度も、ダイチ自身でも剥いて洗っていたから、痛みはなかった。だが、露出した部分に舌が触れると、ダイチはびくっと背を反らせた。そこは、自分で弄ってはいないところだった。

 カザンは小さく笑いを零した。それから、突然、露出した先端を口に含んだ。

「あっ――!」

 ダイチは喘いだ。

 師は乱暴に吸いつき、舌を絡ませた。荒っぽい愛撫は、快感とともに痛みをも感じさせた。ダイチは身をよじり、思わず師の頭を掴んで、爪を立てた。

 すると、カザンは顔を上げ、笑い含みに言った。

「耐えろ。鍛えてやる。」

 師による、挑発的な冗談だった。ダイチはおとなしく、自らの手を頭の下にやった。いつも腹を責められているときにするような体勢だった。防御を捨てて、師の責めに肉体を晒すのだ。これまで肉体を鍛えてもらったように、秘部も鍛えてもらうのだと、恐れと期待の入り混じった気分だった。

 カザンはにやりと笑うと、ふたたび陰茎をしゃぶった。膨らんだ先端に舌を絡ませつつ、口全体で絞っていく。絡みつく舌が敏感な粘膜を撫で回し、痛みと快感の混じった激しい感覚の波を、若者の全身に送った。

「うっ、ふっ、んっ――うっ、くぅっ、ううっ――!」

 ダイチはびくんびくんと体を震わせながらも、甘い責め苦に耐えていた。手はしっかりと頭の下に押さえつけ、口を閉ざしてできるだけ声を殺した。それでも、あまりに荒い刺激に、経験の少ない若者は、声を漏らしてしまっていた。

 師は上目遣いにこちらを見ていた。その目には、いたずらっぽくもあるが、同時に残忍そうでもある光が宿っていた。ダイチは、これが遊びなのだと理解していた。師が追い立て、攻め立て、自分はそれをさばき、抵抗し、逃げようとする。

 けっきょくのところ、これは繰り返された遊びだった。稽古のときと同じで、ダイチは最後まで抵抗を続けるが、やがて、師の前に折れるのだ。

「ふっ、うっ――ぐっ、うっ――んーっ、うーっ――!」

 ダイチは顔を真っ赤に染め、責め苦に耐えていた。師が手加減しているようには見えなかった。じゅぶじゅぶと音を立てて陰茎に喰らいつき、敏感な部分を攻め立てている。若者の体は強い刺激に責められ、小さく跳ねまわった。肌は滝のような汗に濡れ、興奮に赤く染まっていた。

「あぅっ――!」

 やがて、声が押さえられなくなった。

「あっ、はっ、あーっ、あーっ、ああーっ――!」

 若者の忍耐は打ち砕かれ、痛みによがる甘ったるい悲鳴が上がった。それでも手は頭の下に束ねて押さえつけているのは、やはり我慢強いからだった。脂汗を流し、苦悶しながらも、師の責めに自らをゆだねていた。

 しばらくなぶった後、カザンは上体を起こすと、満足そうに弟子を見下ろした。

「声を漏らしちまったなあ。我慢できなかったか。」

 あやすような声が降り、無骨な手が頬を撫でた。ダイチはそれを喜びとともに受け取った。若者の息は荒く乱れ、まどろむような目には涙が浮かんでいた。
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