初陣

火吹き石

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25.旅立ち

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 早朝の光に照らされて、あたりは白んでいた。町の門はすでに開いており、近隣の農場へ行く人がぱらぱらと歩いていた。

 タイヨウはカワラと並んで、門の脇で足を止め、振り返った。その場にいるのはミナモだけだった。他の者とはすでに別れを告げていた。それから、たまたま今日が当番だったこともあって、タイヨウの先輩であるクモも門のそばでこちらを見守っていた。

 タイヨウはカワラと二人で、ミナモをじっと見つめた。いまさらになって、去りがたい気持ちを少なからず感じていた。

 大柄な壮年は、にっこりと微笑んだ。

「まだおれが必要かね、二人とも。あいにくとおれは付いてはいけないぞ。」

「いいよ。おれたち、もう子どもじゃないんだ。」

 タイヨウは苦笑を零した。寂しくないわけではない。だが、行くのだと決めたのだ。

 カワラは悲しげな顔をしていた。タイヨウは軽くその肩に触れ、目つきで問うた。カワラは首を振った。この友人の決意もまた、変わらないようだった。

 二人とも外套を身に着け、杖を手にし、背に荷を負っていた。タイヨウは鎧を着て、兜を被り、肩から剣を下げていた。

「さあ、ずっと立っていたら昼になってしまうぞ。それとも昼飯をうちで食っていくかね。」

 ミナモが冗談めかして言う。若い二人は首を振って、ぎこちない笑みを浮かべた。ミナモは微笑んで二人に近づくと、両腕に肩を抱いた。

「達者でな。」そう囁いてから、腕を離す。「なんと呼ぶかな。〈火の輪〉と〈家の兜〉とでも呼ぼうか。」

 ミナモの言葉に、タイヨウは内心で小首を傾げた。だがすぐに、その意味するところが分かった。

 死者の名を呼ぶことは、死者の平穏と眠りをさまたげると考えられる。そして、二人はこれから旅立つ。旅に出た者は、いつ死んでもわからない。だからこれから、太陽タイヨウカワラの名は忌まれる。そして二人の側からも、ミナモの名を呼ぶことはできなくなるのだ。

 それに気づくと、切なさが込み上げてきた。

 タイヨウはいま一度、ミナモの肩を抱いた。カワラも同じように、かつての親方に抱きついた。それから身を離すと、タイヨウは言った。

「それじゃあ。いろいろ、ありがとう。ずっと――これまで――ありがとう――。」

「いままで、ありがとうございます。」

 タイヨウもカワラも、声を震わせて言った。ミナモは二人に大様に頷くと、肩を叩いた。行け、という言葉が聞こえた気がした。

 タイヨウは名付けの親であり恩師である人に背を向け、門へ向けて歩き出した。カワラもそれに続く。門のそばで、クモが軽く頷き、手を上げる。それに視線で応え、門をくぐった。
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