見つけた、いこう

かないみのる

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 三月の寒河江川はまだ冷たく、川面を撫でる風は冷たい水気を帯びて肌に触れた。


 川辺の雑草は雪に押し潰されたのか、雪があらかた解けた今でも力無く倒れている。


 自然の力の前にはどんな生物も抗えないという寂寥感が生じた。



 この何もない田舎の川辺に一人の女性の遺体が見つかったのが一週間前。


 このニュースは静かな田舎に騒めきをもたらした。


 遺体の女性はY大学理学部数理科三年の藤谷奈菜ふじやなな


 四月には四年生に進むはずだったが、それは叶わなかった。



 彼女はこの川辺に横たわった状態で亡くなっているのを発見された。


 遺体には幾つかの痣が残っており、警察は傷害致死からの死体遺棄と見て捜査しているらしいが、犯人は未だ見つかっておらず、事件は謎に包まれている。



 容疑者として名前が挙がっているのは、彼女と同じ大学の同級生、橘可那人たちばなかなと。彼女の交際相手だ。


 藤谷奈菜が発見された時には行方不明になっており、足取りはまだ掴めていない。



 現場付近の道の駅の駐車場に橘可那人の車があったこと、監視カメラの映像などから犯行時二人が一緒にいた事は確実だと思われた。



 ニュースのインタビューでは藤谷奈菜の死を悼む声や橘可那人を非難する意見が放映された。



「あんな男と付き合うからこんなことに」


 藤谷奈菜の知り合いだという男、どうやら元交際相手との噂があるが、そいつが可那人を罵る映像がよく流された。


 涙ながらに語る様子に同情の声も出ている。



 また、橘可那人を誘拐犯だと言う人間もいた。


 人の噂が大好物そうな中年の女性は鼻息を荒くしながら容疑者についてこう語った。


「よく、公園に小さい子が一人でいたんだけど、その子とよく遊んでたの! いつだったか分からないけど、その子を抱いて走ってたところを見たんだから! 後ろ姿しか見てないけど、確実に橘容疑者よ!」



 容疑者のこうした狂人じみた様子が報道されて、橘可那人の存在は世間の好奇の目に晒された。


 可那人の両親は外を歩く事もままならない状況となった。



 事件の発端は交際トラブルから容疑者が激昂、犯行に及んだとの見解だが、オレはそうとは思わない。


 なぜなら殺人だとすると現場に不審な点があるから。


 そして何よりオレの知る可那人はそんな非道なことをする人間じゃないからだ。



 まず、可那人が藤谷さんとの交際トラブルで暴行を加え、遺体を川に遺棄したということが世間の見解だが、ここに違和感がある。


 なぜ川辺に遺棄したのか。


 遺棄するなら見つかりづらい川に投げ込んだ方がいいだろうに。


 それとも川に投げ込んだ後に引き上げられたのだろうか。


 もし仮に川に投げ捨てて引き上げられたのだとしたら、引き上げた人間はどうして目立つ場所に遺体を引き上げてそのまま放置したのか。


 遺体を発見したら通常なら警察に通報するはずだ。


 それをしなかった、あるいはできなかったという事は、そこに何か事情がある。


 だからこの事件にはまだ調査すべき点が残っているはず。



 そしてオレが可那人犯人説に疑問を持っている理由が、可那人の人柄だ。


 オレは可那人とは保育園の頃から知り合いだが、昔から臆病なやつで身体も弱く殺人を起こすような奴ではない。


 藤谷さんとの関係で悩んでいたというのは事実だが、こんな事件を起こせるような人間じゃない。


 確かに大人しそうに見せて、恋愛になると凶暴化する男は一定数いるが、昔からの可那人の人柄を考えると、今回の事件を起こすとは到底思えない。


 だからおれは可那人の無実を信じている。



 可那人、犯人はお前じゃないよな?無実だというなら、どうして出てこない?
 


 可那人、お前達に何があったんだ?
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