見つけた、いこう

かないみのる

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 林の中に入り、人がいないことを確認し、着替えようと濡れた服を脱いだ。

こういう時のために着替えはいつも持ち歩いている。

だから俺は荷物が多いのだ。



「センセイ、どこお?」



優実ちゃんの不安そうな声が聞こえてきた。

どうやら追いかけてきたようだ。



「俺は大丈夫。ここは暗くて危ないから、明るいところで待ってて」


「いや!センセイのそばにいる!」



木の陰から来た道を覗くと、優実ちゃんが足元を確認しながら恐る恐る近づいてきていた。

見られたら厄介だ。

俺は優実ちゃんに来ないよう叫ぶが、優実ちゃんは俺の声を頼りに近づいてきている。

側に来るのも時間の問題だ。

俺は優実ちゃんに対して苛立ちを覚えた。

頼むから来ないでくれ。



 すると今度は別の声が聞こえてきた。



「お嬢ちゃん、こんな暗いところで何してるのー?」


「こんな暗いところで物騒でないか。お兄さん達と、一緒にあっちで遊ぼうよ」



絵に描いたような不良の二人組が優実ちゃんに絡み始めた。

こんな時に新たなトラブルは勘弁してくれと泣きたくなった。



「ちょっと、やめてよ!アタシ、人を探してるの。あっち行って!」


「そんな冷たいこと言うなよー、ノリわりいな」


「ほら、こんな暗いところに人なんかいないじゃん?」



不良その①が優実ちゃんの手を掴む。



「離してよ、離せ!」


「ずいぶん口の悪い女だな」


「センセイ、どこー!?」



優実ちゃんが俺に助けを求めた。

今にも泣きだしそうな声だ。

俺だって泣きたいが、そんな事を言っている場合ではない。



助けなければ。



俺は下着を含め服を全部脱いだ。

もうやけっぱちだ。

この暗闇なら完全に溶け込めるだろう。


 俺は走って、そのまま不良その②にタックルした。

裸足で走ったため、木の枝などを踏んづけて痛かった。

不良その②は勢いよく飛ばされ、尻餅をついた。

突き飛ばされた本人も、横で見ていたその①も優実ちゃんも、何が起きたかわからず唖然としていた。

それはそうだ。

なにも無いところで人間が吹き飛ばされたのだから驚かないはずがない。


次に俺は優実ちゃんとその①の間に立ち、チョップをするようにして酔っ払いの手を優実ちゃんの腕から払った。



「誰かいるのか!?」



 その①が手をさすりながら叫び、周囲を見渡した。

足が震えている。

俺はその①の後ろに立ち、後頭部を小突いた。

その①は慌てて振り向いたが、周囲に誰もいない。

完全に気が動転したようで、小突いた犯人を探すように身体を忙しなく動かしながら周囲をキョロキョロと見た。



「何が起こってるんだ!?」



地面に倒れていたその②は立ち上がると、懲りずに優実ちゃんの手を掴もうとした。

優実ちゃんは「嫌!」と言ってその手を振り払った。

俺はその②にラリアートをお見舞いした。

その②は足をもつれさせて再度転倒した。



「やべえぞ、この女!」



その②が叫んだ。



 二人の不良達は這うようにして慌てて元来た道を戻っていった。

何か誤解をしていたような気がしたがあまり深く考えなかった。



 優実ちゃんは突然の事態に腰を抜かし地面にへたり込んでいた。

混乱しているようだったが、しばらく自分の両手を眺めていた。

俺は優実ちゃんを見て、せっかくオシャレして来たのに服が汚れて可哀想だな、なんて事を考えていた。

でも、無事でよかった。



「アタシがやったのかな」



 あれ?もしかして優実ちゃんも勘違いをしているのか?

とりあえず無事なことが確認できたので、俺は急いで木の陰に戻って服を着た。そろそろ身体が元に戻るころだ。

 

 身体が元に戻ってから、俺は優実ちゃんの元へ走った。優実ちゃんは興奮冷めやらずで、自分の手を見て震えている。



「ごめん。遅くなって」



俺は両手を合わせて謝罪する。



「今までどこ行ってたのよ!」


優実ちゃんは俺を見るなり、鬼の形相になって怒鳴った。



「今さら出てきて、アタシがどういう状況だったか分かってんの?」


「いや、その、ごめん」


「腰抜け!意気地ナシ!」



 俺は優実ちゃんのあまりの豹変ぶりに怖気づいた。

そりゃあ、自分が危険な目に合っていたのに行方をくらませた人間に対して怒りを感じるのは当たり前だ。

俺はただただ謝る事しかできなかった。

本当は俺が助けたんだよと言っても信じてもらえないし、自分の正体をバラすわけにはいかない。



「アタシが超能力を持ってたからなんとかなったけど、もし何かあったらどう責任とってくれるの!?何とか言ったらどう!?」



 優実ちゃんは止まらない。

ん?超能力?

やっぱり変な勘違いをしているようだ。

しかしそんなことに気を取られている場合ではない。



「えーと、あー」



口から出るのは母音だけだ。情けない、なんと情けない。



「もういい!この間言ったことも忘れて。アンタなんて大っ嫌い!」



優実ちゃんは俺を置いて歩いていく。



「えっと、帰るの?」



せめて誤解だけは解かなければ。

君に超能力なんてないんだよ!

しかし言葉が見つからない。



「一人で帰れるからついてこないで!」



優実ちゃんは林を出て、人混みの中に消えていった。

優実ちゃんとのやりとりは数分のものだったが、俺を打ちのめすには十分な時間だった。


ああ、結局こうなるのか。

昔とちっとも変わらない。

自分を守ることで精いっぱいで、誰かを気にかける余裕がない。

俺は一生このままなのか。

この特異な性質があるかぎりは、何もうまくいかないのではないか。



 確かに俺は、自分が優実ちゃんに好きという感情を抱いていなかったということは理解していた。

優実ちゃんに嫌われるのが怖かったから、塾で気まずくなることが怖かったから、教え子を振ったことで塾で自分の評判が落ちるかもしれないと怖かったから。

そんな理由で、自分の気持ちを誤魔化し、優実ちゃんに自分の気持ちを伝えるのを拒み続けた結果、優実ちゃんと二人で会うことになっただけである。



 だから、好きでもない人間から嫌われるのは人生において障害がないはずだ。

しかしそうは言っても嫌われるというのは、精神的に、刃物で一突きされたような大きなダメージを与えるものだ。

優実ちゃんから振られたことで、俺は胸を切りつけられたような気分になっていた。

ジクジクと心が痛む。



 俺は祭りに戻る気にもなれず、優実ちゃんと鉢合わせるのも嫌だから林を抜けて、祭りに来た時とは別の道から帰ることにした。


 林を出ると、月が夜道照らしていて明るかった。

空を見上げると十三夜の月。

少しだけ欠けた不完全な姿が自分と重なった。

月はまもなく満月になるが、俺の欠けた部分はずっとそのままなのか。



 遠くから祭りの音が聞こえてくる。

それは情けない俺を追い出すかのようだった。
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