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Ⅶ
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「なあ、恭平の話、信じられるか?」
可那人の家に行く道を歩いていると、健吾が尋ねてきた。
これから可那人の両親に調査報告に行くところだ。
石畳を蹴る足取りは非常に重い。
恭平から作り話のような話を聞かされて、オレと健吾は非常に混乱した。
普通だったら「馬鹿にしているのか」と怒るところだろうが、あの時の恭平は真剣だった。
憎まれ口を叩きながらも、アイツなりにオレ達に協力してくれていたらしい。
そんな恭平からの情報を無碍にはできない。
「信じられねえけど、信じるしかないよな」
オレは自分に言い聞かせるように答えた。
「本当に特殊能力を持っている人間なんているのか?」
「おれはそれ以上に可那人が雨の中で決闘するなんて、考えられないんだよな」
可那人は水に濡れる事を何よりも嫌がった。
小さい頃から一緒にいるが、水に濡れているところなど見たことがない。
プールの授業は見学していたし、修学旅行などではいつも一人だけ別にお風呂に入っていた。
雨の日には引くほどの防備をしていた。
そんな姿を見ているから、ずぶ濡れになった可那人など想像もつかない。
だから、素直に恭平の話を信じる気になれなかった。
「そういえば優実ちゃんとのトラブルでも可那人、水をかけられてたな」
オレはふと塾での聞き込みを思い出した。
「忠士君の言っていた『トイレが水でびしゃびしゃだった』っていうのも関係している?」
健吾が続けた。
オレ達は同時に顔を見合わせた。
何か新しいことが分かるのではないかと急に緊張し始めた。
張り詰めた空気がオレ達の間を流れる。
もしかしたら可那人には、オレ達に言えない秘密を持っていたのかもしれない。一度そう考えたらそうとしか思えなくなった。
「可那人の両親にダメ元で聞いてみるか」
健吾は、それにしてもなー、と顎に手を当てた。
「透明人間なんて、本当にいるのか?」
「ボク、透明人間、見た事あるよ」
後ろからあどけない声が聞こえた。
振り返ると、四歳くらいの男の子と気の弱そうなお父さんと思しき男性が立っていた。
男性はスーツを着ている。
「こら、透、いきなり話しかけたら失礼だろう?」
お父さんが小さな声で子どもに注意する。
手には菓子折りが入っているであろう紙袋を持っていた。
「すみませんが、この辺りに橘可那人さんのお宅はありませんか?」
俺はこの男性の口から可那人の名前が出てきたことに驚いた。
何者だろうか?
野次馬だったら勘弁してほしい。
しかしこの男性の腰の低さや身だしなみを見ると、悪い人ではなさそうだ。
「どちら様でしょうか?」
健吾が男性に質問した。
「すみません。実は息子が橘さんにお世話になりまして……私と息子の恩人なんです。私自身は会ったことないんですが、息子がすごく懐いていたようで。お礼に行かなければと思いながら、なかなか行けなくて、遅くなりましたがこれからお伺いしようと思っていたんです」
男性は息子の肩を抱き、頭を下げた。
息子は少し痩せていて、不健康そうだったが、愛想のいい子だった。
顔には治りかけのかさぶたがあった。
二人とも面白半分で可那人のことに首を突っ込もうとしているわけではなさそうだ。
「今回のニュースで橘さんの名前を聞き、息子が騒いだんです。可那人お兄ちゃん可那人お兄ちゃんって。息子の話を聞くとどうもニュースで報道されているようなそんな悪い人だなんて思えなくて。何か力になりたいと思いまして」
おれと健吾は目配せをし、とりあえずこの人達は信用に値すると判断した。
「君、さっきの話の続き、聞いてもいい?」
健吾はしゃがんで男の子と同じ目線で話し始めた。
「うん! 可那人お兄ちゃん、透明人間だよ!」
可那人の家に行く道を歩いていると、健吾が尋ねてきた。
これから可那人の両親に調査報告に行くところだ。
石畳を蹴る足取りは非常に重い。
恭平から作り話のような話を聞かされて、オレと健吾は非常に混乱した。
普通だったら「馬鹿にしているのか」と怒るところだろうが、あの時の恭平は真剣だった。
憎まれ口を叩きながらも、アイツなりにオレ達に協力してくれていたらしい。
そんな恭平からの情報を無碍にはできない。
「信じられねえけど、信じるしかないよな」
オレは自分に言い聞かせるように答えた。
「本当に特殊能力を持っている人間なんているのか?」
「おれはそれ以上に可那人が雨の中で決闘するなんて、考えられないんだよな」
可那人は水に濡れる事を何よりも嫌がった。
小さい頃から一緒にいるが、水に濡れているところなど見たことがない。
プールの授業は見学していたし、修学旅行などではいつも一人だけ別にお風呂に入っていた。
雨の日には引くほどの防備をしていた。
そんな姿を見ているから、ずぶ濡れになった可那人など想像もつかない。
だから、素直に恭平の話を信じる気になれなかった。
「そういえば優実ちゃんとのトラブルでも可那人、水をかけられてたな」
オレはふと塾での聞き込みを思い出した。
「忠士君の言っていた『トイレが水でびしゃびしゃだった』っていうのも関係している?」
健吾が続けた。
オレ達は同時に顔を見合わせた。
何か新しいことが分かるのではないかと急に緊張し始めた。
張り詰めた空気がオレ達の間を流れる。
もしかしたら可那人には、オレ達に言えない秘密を持っていたのかもしれない。一度そう考えたらそうとしか思えなくなった。
「可那人の両親にダメ元で聞いてみるか」
健吾は、それにしてもなー、と顎に手を当てた。
「透明人間なんて、本当にいるのか?」
「ボク、透明人間、見た事あるよ」
後ろからあどけない声が聞こえた。
振り返ると、四歳くらいの男の子と気の弱そうなお父さんと思しき男性が立っていた。
男性はスーツを着ている。
「こら、透、いきなり話しかけたら失礼だろう?」
お父さんが小さな声で子どもに注意する。
手には菓子折りが入っているであろう紙袋を持っていた。
「すみませんが、この辺りに橘可那人さんのお宅はありませんか?」
俺はこの男性の口から可那人の名前が出てきたことに驚いた。
何者だろうか?
野次馬だったら勘弁してほしい。
しかしこの男性の腰の低さや身だしなみを見ると、悪い人ではなさそうだ。
「どちら様でしょうか?」
健吾が男性に質問した。
「すみません。実は息子が橘さんにお世話になりまして……私と息子の恩人なんです。私自身は会ったことないんですが、息子がすごく懐いていたようで。お礼に行かなければと思いながら、なかなか行けなくて、遅くなりましたがこれからお伺いしようと思っていたんです」
男性は息子の肩を抱き、頭を下げた。
息子は少し痩せていて、不健康そうだったが、愛想のいい子だった。
顔には治りかけのかさぶたがあった。
二人とも面白半分で可那人のことに首を突っ込もうとしているわけではなさそうだ。
「今回のニュースで橘さんの名前を聞き、息子が騒いだんです。可那人お兄ちゃん可那人お兄ちゃんって。息子の話を聞くとどうもニュースで報道されているようなそんな悪い人だなんて思えなくて。何か力になりたいと思いまして」
おれと健吾は目配せをし、とりあえずこの人達は信用に値すると判断した。
「君、さっきの話の続き、聞いてもいい?」
健吾はしゃがんで男の子と同じ目線で話し始めた。
「うん! 可那人お兄ちゃん、透明人間だよ!」
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