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身体が戻るまで小一時間ほど車で待機し、その後すぐに奈菜の家に向かった。
家の前の駐車場に車を停め、駆け足で玄関に行く。
呼び鈴を押すと「ピンポン」と軽快な音が鳴った。
家の中から階段を下りるような足音が聞こえる。
慌てているのか、足音は子供が打楽器をたたくように乱暴だ。
玄関の磨りガラスに影が映り、ガチャリと玄関のドアが開く。
「可那人くん!」
奈菜は不安そうな顔をしていたが、俺を見て顔を崩した。
笑っているようにも泣いているようにも見える。
「よかったー! 可那人くんだー」
奈菜の目から涙がこぼれる。どうやら泣き顔の方らしい。
俺と恭平が肉体的にも精神的にも寒いバトルを繰り広げている間、奈菜は不安でいっぱいだったのだろう。
俺は奈菜を抱きしめた。
奈菜も俺の背中に手を回し、抱きしめてくれた。
「ごめん、心配かけて」
「可那人くんに見放されるかと不安になった」
「なんでだよー」
「わたしと付き合ってるから、恭平君みたいな人に突っかかられるんだよね。可那人くんはきっと、わたしと付き合ってから嫌な思いもいっぱいしてるんじゃないかって急に心配になって、それに耐えられなくて別れられるんじゃないかって」
奈菜の意外な発言に俺は驚いた。
奈菜と別れることなど微塵も思っていなかったから、奈菜がそれほど不安になっているなんて思いもしなかった。
俺以上に悩んでいたなんて、そしてそれに気づけなかったなんて、情けない。
「大丈夫だよ。恭平とは平和的交渉で決着をつけてきたから。奈菜はこれからも俺の彼女だよ」
平和的かどうかは定かではないが、少なくともお互い暴力はふるっていない。
乱暴ではあったが、話だけで決着がついたのは嘘ではない。
俺は何も言わず、奈菜の頭をなでた。
柔らかい黒髪が手のひらを滑る。
奈菜はそれに応えるように俺の頬に触れる。
奈菜の手は暖かくて柔らかい、春のような感触だ。
「可那人くん、すごく冷たくなってる!」
「雨の中話してたからかな。すぐに元に戻るよ」
「無理しないで」
奈菜の涙が勢いを増して流れる。
俺は奈菜の頬をなでて涙をぬぐった。
悪いことをしたわけではないが、奈菜を泣かせてしまったことに罪悪感はある。
しかし、奈菜のうるんだ瞳が可愛らしくて、この表情をずっと見ていたい気持ちになっていた。
彼女が泣いているというのに、なんて男だ。
しばらくして泣き止んだ奈菜が、自分の首の後ろをいじり始めた。
何をしているのかと思ったら、以前クラフトフェスで買ったトパーズのネックレスを外した。
外したネックレスをそのまま俺の首に付けた。
「ちょっと、奈菜、何してるの?」
「お守りだよ」
そういって奈菜はいつもの笑顔を見せた。
「俺がつけてていいの?気持ち悪くない?」
「服の中に隠しておけば、ばれないよ。肌に密着しているほうが効果がありそうだし」
「そうかなあ?」
「トパーズは大切な人と会わせてくれる効果があるんだよー」
「そんな効果だっけ?」
「ずっと着けていてね。可那人くんがどこにいても会わせてくれるように呪いをかけておくの」
「呪い?怖すぎるんだけど」
「ネックレスをプレゼントするのって、束縛の表れなんだよ」
「さっきからいうことが怖いって!」
顔は笑っているが、目の奥は真剣だ。
奈菜の綺麗な瞳はまっすぐに俺を見つめている。
俺は奈菜を相当不安にさせてしまったらしい。
「奈菜、大丈夫。俺、臆病だからうまく立ち回れないかもしれないけど、奈菜のそばには絶対にいるから。離れたとしても必ずそばに帰ってくるから。約束する」
奈菜は黙ってうなずいた。
そして俺のことを大きな瞳で見つめた。
俺も少し顔を近づけて見つめた返した。
お互いの距離がゼロに収束する。
俺と奈菜は初めて唇を重ねた。
雨は未だ止まない。
この騒がしさが、俺と奈菜を祝福する拍手のように聞こえた。
家の前の駐車場に車を停め、駆け足で玄関に行く。
呼び鈴を押すと「ピンポン」と軽快な音が鳴った。
家の中から階段を下りるような足音が聞こえる。
慌てているのか、足音は子供が打楽器をたたくように乱暴だ。
玄関の磨りガラスに影が映り、ガチャリと玄関のドアが開く。
「可那人くん!」
奈菜は不安そうな顔をしていたが、俺を見て顔を崩した。
笑っているようにも泣いているようにも見える。
「よかったー! 可那人くんだー」
奈菜の目から涙がこぼれる。どうやら泣き顔の方らしい。
俺と恭平が肉体的にも精神的にも寒いバトルを繰り広げている間、奈菜は不安でいっぱいだったのだろう。
俺は奈菜を抱きしめた。
奈菜も俺の背中に手を回し、抱きしめてくれた。
「ごめん、心配かけて」
「可那人くんに見放されるかと不安になった」
「なんでだよー」
「わたしと付き合ってるから、恭平君みたいな人に突っかかられるんだよね。可那人くんはきっと、わたしと付き合ってから嫌な思いもいっぱいしてるんじゃないかって急に心配になって、それに耐えられなくて別れられるんじゃないかって」
奈菜の意外な発言に俺は驚いた。
奈菜と別れることなど微塵も思っていなかったから、奈菜がそれほど不安になっているなんて思いもしなかった。
俺以上に悩んでいたなんて、そしてそれに気づけなかったなんて、情けない。
「大丈夫だよ。恭平とは平和的交渉で決着をつけてきたから。奈菜はこれからも俺の彼女だよ」
平和的かどうかは定かではないが、少なくともお互い暴力はふるっていない。
乱暴ではあったが、話だけで決着がついたのは嘘ではない。
俺は何も言わず、奈菜の頭をなでた。
柔らかい黒髪が手のひらを滑る。
奈菜はそれに応えるように俺の頬に触れる。
奈菜の手は暖かくて柔らかい、春のような感触だ。
「可那人くん、すごく冷たくなってる!」
「雨の中話してたからかな。すぐに元に戻るよ」
「無理しないで」
奈菜の涙が勢いを増して流れる。
俺は奈菜の頬をなでて涙をぬぐった。
悪いことをしたわけではないが、奈菜を泣かせてしまったことに罪悪感はある。
しかし、奈菜のうるんだ瞳が可愛らしくて、この表情をずっと見ていたい気持ちになっていた。
彼女が泣いているというのに、なんて男だ。
しばらくして泣き止んだ奈菜が、自分の首の後ろをいじり始めた。
何をしているのかと思ったら、以前クラフトフェスで買ったトパーズのネックレスを外した。
外したネックレスをそのまま俺の首に付けた。
「ちょっと、奈菜、何してるの?」
「お守りだよ」
そういって奈菜はいつもの笑顔を見せた。
「俺がつけてていいの?気持ち悪くない?」
「服の中に隠しておけば、ばれないよ。肌に密着しているほうが効果がありそうだし」
「そうかなあ?」
「トパーズは大切な人と会わせてくれる効果があるんだよー」
「そんな効果だっけ?」
「ずっと着けていてね。可那人くんがどこにいても会わせてくれるように呪いをかけておくの」
「呪い?怖すぎるんだけど」
「ネックレスをプレゼントするのって、束縛の表れなんだよ」
「さっきからいうことが怖いって!」
顔は笑っているが、目の奥は真剣だ。
奈菜の綺麗な瞳はまっすぐに俺を見つめている。
俺は奈菜を相当不安にさせてしまったらしい。
「奈菜、大丈夫。俺、臆病だからうまく立ち回れないかもしれないけど、奈菜のそばには絶対にいるから。離れたとしても必ずそばに帰ってくるから。約束する」
奈菜は黙ってうなずいた。
そして俺のことを大きな瞳で見つめた。
俺も少し顔を近づけて見つめた返した。
お互いの距離がゼロに収束する。
俺と奈菜は初めて唇を重ねた。
雨は未だ止まない。
この騒がしさが、俺と奈菜を祝福する拍手のように聞こえた。
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