こんな私がヒロインなんて!!

葉霧 星

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第1話 桜技附属高演劇同好会、発足!

1-2 にゃーん

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『冒頭シーンの後に、いったん話を過去に戻す』

 演劇のみならず創作シナリオでは、古典の時代から散々使い古されているあるあると言った感じの導入だ。
 なぜ、あえてこのような時系列を入れ替える導入が採用されるかというと、その次に続く物語の導入シーンがたいてい盛り上がりにくい……率直に言うとつまらないシーンだからに他ならない。

 そして、なぜ語り手である私が、あえてこんなことを包み隠さず読者に明かしてしまうかというと、読者の期待とハードルをあえて下げることで、これから始まる女子二人のつまらない会話シーンを乗り切ってもらおうという新しい試みなのである。

 なんて、くだらない言い訳を述べてみたところで、話は都古の高校入学時までさかのぼる。

 ――暗転。



 前の席には男。
 横を見れば男。
 振り返ってみても男。
 男。男。男。

 おいおい、ここは男子高かい? あたしゃあ、共学だって聞いて進学したつもりだったんだけどね、もう男子ばっかりで驚愕きょうがくしちまったよ。

 ……観客失笑。

 
「――都古。ノートに何書いてるの?」

 ふふっ、と笑った葛之葉くずのは都古みやこに気づき、後ろの席から小笠原おがさわら千歌ちかがぐいっと身を乗り出して都古の机に置かれたノートをのぞきこむ。

「……ダジャレ?」

 千歌が尋ねた。都古は彼女から少し視線を外して言葉を返す。

「まあ、そんなもん。ただの習作だよ」

「習作? 何の? 小説とか?」

「……なんというか、その……、脚本の」

「脚本!?」

 千歌は教室中に聞こえるくらいの大声で言った。
 すると、教室の中を埋めつくしている男子たちが、いっせいに手を止めて都古と千歌の方を向いた。
 見られた二人は晴れ渡る青い空を眺めてやり過ごした。

「……脚本って、ドラマの?」

「違う違う、演劇の。私、中学時代は演劇部で脚本書いてたから」

 都古は苦笑いをして言った。

「へぇ……、意外。まあ、文化系っぽい顔はしてるけど」

 小動物みたいなくりんとした目を都古に向けて、きょとんとした顔をする千歌。

 黒髪長髪黒縁眼鏡、
 たった八文字で容姿が描写できてしまう都古と違い、千歌はどこかフェミニンな感じのする、サイドテールがとても似合っている可愛らしい女の子だ。

「それじゃあさ、部活も演劇部に入んの?」

 千歌は尋ねた。

「いや、ねぇだろ。うちの学校に。演劇部」

「なければつくればいいじゃん。――私、元裁縫部だから衣装つくれるよ」

「千歌。お前、他人事だから適当なこと言ってるでしょ」

「あ、ばれた?」

 千歌は笑って言った。

「そう、演劇……、演劇……、演劇……ねぇ」

「なぜ三回言った?」

「――そういえば、隣のクラスに高ヶ坂こがさか中堂なかどうっているじゃん?」

「おい、演劇どこいった?」

 都古はつっこんだ。

「……すまん。何も思い浮かばなかった」

 千歌は謝った。
 都古は苦笑いを返して続ける。

「で、隣のクラスの高ヶ坂と中堂がどうした?」

「なんていうか、あの二人良くない?」

「……ああ。一年女子のLINEでもよく話題にのぼるね。かっこいいって」

 都古が言うと、なぜか千歌はにへらと笑った。

「イケメンコンビで中学からニコイチって、はかどるよね。……妄想が」

 遠い目をして自分の世界に入り始める千歌。
 都古は危険なにおいを感じ取り、あえてそれ以上深入りをしないことに決めた。

 ふと教室の中を眺めると、楽しそうに談笑をしている男子達の姿。

 クラスの中で女子は都古達二人だけ。あとの全員は男子である。
 一学年八クラスあるが、ほとんどのクラスが同じような男女配分で、一学年248人のうち、女子はたった22人しかいない。

 入学前は、女子が少ないからチヤホヤされるんじゃないかと甘い幻想を抱いていたけれど、現実はそう甘くはない。
 チヤホヤされるのは、一握りの美人と一握りのノリの良い女子だけで、残る一握りではない女子達は自分から積極的に男子達に絡んでいかないと、同じクラスの友達をつくることすら難しい。

 そして、積極的に絡みにいけない女子は、こう・・なる。

「……あー、この学校に進学さえすりゃ彼氏なんて簡単に出来ると思っていた、入学前の自分を全力で殴ってやりたい」

 都古はふとつぶやいた。

「それな」

 千歌は深くうなずいて同意した。

 それから、都古はスマホを取り出してLINEを開く。
 すると、中学時代の友達から新着メッセージが届いていた。
 送ってきたのは中学時代の元相棒、香山こうやま夏海なつみ

<都古ちゃん、今週日曜の昼、空いてませんか?>
<大学生のミュージカル見に行かない?>
<キャッツ>
<にゃーん(スタンプ)>

 都古はLINEの画面から目をはなし、スマホをいじっている千歌を見た。

「千歌、今週の日曜空いてる?」

「土曜までに彼氏が出来なければ空いてる」

「ミュージカル見に行かない? 私の中学の友達も一緒なんだけど」

 都古が尋ねると、千歌はうなずく。

<にゃーん(スタンプ)>
<にゃーん(スタンプ)>
<にゃーん(スタンプ)>

 都古は夏海と同じスタンプを三連投で送り返した。
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