4 / 4
第1話 桜技附属高演劇同好会、発足!
1-4 ご都合主義万歳
しおりを挟む
「部? 同好会のことか?」
「はい。まあ、どっちでも」
「それならこの紙に、設立する同好会の名前と目的、責任者の名前、会員の名前を書いて、顧問の先生に渡せばいい」
そう言いながら担任の先生は、職員室の引き出しから『同好会設立届』と題字されたA4の半分くらいの大きさの紙を取り出し、都古に渡した。
「顧問? 同好会をつくるには、顧問の先生が必要なんですか?」
「当たり前だろ。生徒だけで課外活動をさせたら、何かあった時に責任を取れる人間がいなくなる」
「……はあ」
都古は設立届を受け取りながら、職員室をざっと見渡した。
乱雑に書類が積まれた机、忙しなく仕事をしている先生達、電話対応をしている教頭……、同好会の顧問を引き受けてくれそうな先生は一人もいなさそうだ。
「それで、何の同好会をつくるつもりなんだ?」
担任の先生は尋ねた。
「演劇同好会です」
「ああ、なるほど。そういえば、うちの学校はなかったな、演劇部」
ふむ、と担任の先生は口のあたりに指を当てて考える。
「……だったら、英語科の松木花絵先生に頼むといい。松木先生、シェイクスピアとか、ブロードウェイのミュージカルとかが好きだったはずだったから、もしかしたら引き受けてくれるかもしれないぞ」
「……はあ」
そう教えてくれた後、先生は自分の役目は終えたと言わんばかりに、パソコンに向かって自分の仕事を始めた。
英語科の松木花絵先生。
彼女は都古達のクラスの教科担任だ。
三十二歳独身。帰国子女らしく英語の発音が非常に上手い――のだけれど、アメリカナイズされた彼女の授業は、独特のノリで進んでいくことで非常に有名で、教師の物真似を得意とする男子の中には、彼女の真似がレパートリーに入っていない男子はいないというほどである。
そして、都古はそんな松木先生が非常に苦手だった。
……という時点で、物語の展開としてはフラグが立ちまくっていたわけなのだけれど、担任に紹介されてしまった以上、声をかけないわけにはいかない。
その日の放課後、都古は英語科準備室を尋ねてみることにした。
英語科準備室に入ってみると、そこに居たのは松木先生一人だった。
「オゥ、ミヤコ! ワッツアップ?」
都古の姿に気づくなり、英語で陽気に話しかけてきた松木先生。
「すみません。松木先生。今、お時間よろしいですか?」
「オッケーイ! どうしたの?」
松木先生が笑顔で答えた。都古は続ける。
「あのー……、私は今、演劇同好会をつくろうかと考えているんですけど、もしつくるとしたら、松木先生に顧問になっていただくことは出来ますか?」
その時、気のせいかもしれないけれど、一瞬、松木先生の目が、キラン、と光ったように見えた。
「そういえばミヤコ、中学まで演劇部にスリーイヤーズ居たって、クラスレッスンでイントロデュース・ユア・セルフしてたよね。……演劇ってもしかして、ミュージカル?」
「え、いや……あの、ミュージカルはさすがにちょっと……」
都古は言った。
すると、松木先生は都古が手に持っていた同好会設立届の紙に目を向け、「レット・ミー・シー・ザット」と言って都古からそれを取りあげると、机の上に置いて眺め始める。
「ミヤコ。クラブメンバーは、他には?」
「えっと、会員はこれから募集をしようと思って……」
「オッケー。じゃ、会長はミヤコだね」
「はい?」
都古が視線を向けると、彼女は設立届に、同好会の名前や都古の名前、顧問の名前を書き込み始めていた。
戸惑う都古を無視して、松木先生は次々に項目を埋めていく。
そして、そうこうしているうちに、一番下にあった顧問の欄に自分の名前をアルファベットで書き終えた。
「ザッツ・イット! じゃあ、これは私から生徒会の子たちに提出しておくわね」
おもむろに都古に向かって親指を突き立てて見せ、微笑む松木先生。
「じゃあ頑張ってね、ミヤコ! グッドラック!」
「……」
――この人、絶対にいつかミュージカルやらせようと思ってるな。
都古は不意に確信した。
とはいえ、そんな彼女の様子を見て、一人で抵抗しても無駄だと悟った都古は、仕方なく英語科準備室から出ていこうとした。
その時。
準備室の扉が、がらっと音を立てて開いて、一人の男子が現れた。
『あ』
都古はその男子と目が合い、おもわず声をあげてしまった。
それは彼も同じだった。
なぜなら、準備室に入ってきたその彼は、先週の日曜日に一人で市民劇場にキャッツを観に来ていた、あの黒髪のイケメンだった。
私服と制服という違いはあったけれど、すらりと伸びた長身、少しパーマのかかった黒髪、クールに見えるけれど、どこか柔和な印象も感じさせる奥二重の目……間違いなく彼だった。
ふと彼の手を見ると、都古が松木先生に奪われたものと同じ、同好会設立届の用紙があった。
「もしかして――」
黒髪の男子が設立届を見た都古を指差し、微笑みながら口を開いた。
都古は言葉を続ける。
「……演劇同好会?」
すると黒髪の男子はうなずき、そっと自分の手を都古に差し出した。
「二年の黒澤侑真だ。よろしくな」
「はい。まあ、どっちでも」
「それならこの紙に、設立する同好会の名前と目的、責任者の名前、会員の名前を書いて、顧問の先生に渡せばいい」
そう言いながら担任の先生は、職員室の引き出しから『同好会設立届』と題字されたA4の半分くらいの大きさの紙を取り出し、都古に渡した。
「顧問? 同好会をつくるには、顧問の先生が必要なんですか?」
「当たり前だろ。生徒だけで課外活動をさせたら、何かあった時に責任を取れる人間がいなくなる」
「……はあ」
都古は設立届を受け取りながら、職員室をざっと見渡した。
乱雑に書類が積まれた机、忙しなく仕事をしている先生達、電話対応をしている教頭……、同好会の顧問を引き受けてくれそうな先生は一人もいなさそうだ。
「それで、何の同好会をつくるつもりなんだ?」
担任の先生は尋ねた。
「演劇同好会です」
「ああ、なるほど。そういえば、うちの学校はなかったな、演劇部」
ふむ、と担任の先生は口のあたりに指を当てて考える。
「……だったら、英語科の松木花絵先生に頼むといい。松木先生、シェイクスピアとか、ブロードウェイのミュージカルとかが好きだったはずだったから、もしかしたら引き受けてくれるかもしれないぞ」
「……はあ」
そう教えてくれた後、先生は自分の役目は終えたと言わんばかりに、パソコンに向かって自分の仕事を始めた。
英語科の松木花絵先生。
彼女は都古達のクラスの教科担任だ。
三十二歳独身。帰国子女らしく英語の発音が非常に上手い――のだけれど、アメリカナイズされた彼女の授業は、独特のノリで進んでいくことで非常に有名で、教師の物真似を得意とする男子の中には、彼女の真似がレパートリーに入っていない男子はいないというほどである。
そして、都古はそんな松木先生が非常に苦手だった。
……という時点で、物語の展開としてはフラグが立ちまくっていたわけなのだけれど、担任に紹介されてしまった以上、声をかけないわけにはいかない。
その日の放課後、都古は英語科準備室を尋ねてみることにした。
英語科準備室に入ってみると、そこに居たのは松木先生一人だった。
「オゥ、ミヤコ! ワッツアップ?」
都古の姿に気づくなり、英語で陽気に話しかけてきた松木先生。
「すみません。松木先生。今、お時間よろしいですか?」
「オッケーイ! どうしたの?」
松木先生が笑顔で答えた。都古は続ける。
「あのー……、私は今、演劇同好会をつくろうかと考えているんですけど、もしつくるとしたら、松木先生に顧問になっていただくことは出来ますか?」
その時、気のせいかもしれないけれど、一瞬、松木先生の目が、キラン、と光ったように見えた。
「そういえばミヤコ、中学まで演劇部にスリーイヤーズ居たって、クラスレッスンでイントロデュース・ユア・セルフしてたよね。……演劇ってもしかして、ミュージカル?」
「え、いや……あの、ミュージカルはさすがにちょっと……」
都古は言った。
すると、松木先生は都古が手に持っていた同好会設立届の紙に目を向け、「レット・ミー・シー・ザット」と言って都古からそれを取りあげると、机の上に置いて眺め始める。
「ミヤコ。クラブメンバーは、他には?」
「えっと、会員はこれから募集をしようと思って……」
「オッケー。じゃ、会長はミヤコだね」
「はい?」
都古が視線を向けると、彼女は設立届に、同好会の名前や都古の名前、顧問の名前を書き込み始めていた。
戸惑う都古を無視して、松木先生は次々に項目を埋めていく。
そして、そうこうしているうちに、一番下にあった顧問の欄に自分の名前をアルファベットで書き終えた。
「ザッツ・イット! じゃあ、これは私から生徒会の子たちに提出しておくわね」
おもむろに都古に向かって親指を突き立てて見せ、微笑む松木先生。
「じゃあ頑張ってね、ミヤコ! グッドラック!」
「……」
――この人、絶対にいつかミュージカルやらせようと思ってるな。
都古は不意に確信した。
とはいえ、そんな彼女の様子を見て、一人で抵抗しても無駄だと悟った都古は、仕方なく英語科準備室から出ていこうとした。
その時。
準備室の扉が、がらっと音を立てて開いて、一人の男子が現れた。
『あ』
都古はその男子と目が合い、おもわず声をあげてしまった。
それは彼も同じだった。
なぜなら、準備室に入ってきたその彼は、先週の日曜日に一人で市民劇場にキャッツを観に来ていた、あの黒髪のイケメンだった。
私服と制服という違いはあったけれど、すらりと伸びた長身、少しパーマのかかった黒髪、クールに見えるけれど、どこか柔和な印象も感じさせる奥二重の目……間違いなく彼だった。
ふと彼の手を見ると、都古が松木先生に奪われたものと同じ、同好会設立届の用紙があった。
「もしかして――」
黒髪の男子が設立届を見た都古を指差し、微笑みながら口を開いた。
都古は言葉を続ける。
「……演劇同好会?」
すると黒髪の男子はうなずき、そっと自分の手を都古に差し出した。
「二年の黒澤侑真だ。よろしくな」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる